その後、ラジオの曲が終わるまで、ジョッキを掲げたり、近くにあった棒を上げたり下ろしたりして行進を続けた。
私は先頭で肩を組み、疲れたら腕を組んだりして歌い、そして歩き続けた。
そして、終わると皆が乾杯!と言いながら持っている物を掲げた。ガラスとガラスがぶつかり合う音が、そこら中から聞こえる。そんな中で、私は椅子に座り、ふぅ……と一息ついた。
「あはははは! いや、楽しかったね!」
「そうね。たまにはこういうのも」
「悪くない、かしら?」
「……ふふっ正解」
そう言って、飲みかけだったワインを呑む。グラスに入っている全てを飲み干し、静かにテーブルの上に置いた。
「そういや、お酒に弱いんだっけ?」
「えぇ、そうよ?」
「大丈夫なの?」
フェリシア自身が飲み過ぎて赤くなっているのに、私の心配をするの?と少し疑問に思いつつ、私は答えた。
「らい……大丈夫。問題はないわ」
「……一杯しか飲んでないのに……本当に弱いのね」
呆れてるような顔でそう言うが、私は本当にまだ大丈夫である。ただ、少しフワッとしているだけなのだ。
そうして、フェリシアに心配されつつ、私は店を出た。外はすっかり夕暮れであった。少し話をしながら歩いていると、前方からジョギングしながら手を振る人影が見えた。
「ロッティー!」
「シャロン?」
そう、シャロンである。私達に合流すると、シャロンはこちらを見てむっとした顔になった。
「フェリシアさん、ロッティー、飲んだでしょ」
「まぁ、少しだけよ」
「そうそう、少しだけー少しだけー」
「にしては二人共、顔赤いけど?」
「ほんろ……本当に、少しだけしか飲んでないわよ?」
「私もそうよ!」
「……」
呆れた顔でシャロンはこちらを見た。何か、デジャヴを感じるわね……。そう思いつつ、私はしっかり説明をする。
「……もぅ、呼んでくれたらいいのに! すっごく楽しそうじゃない……むー」
「まぁまぁ、もう大夫暗くなってきたし、そろそろ兵舎に戻りましょう?」
誤魔化す私。フェリシアもそうそう!と相槌を打つ。シャロンはため息をつき、そうねと言って私の手を握る。
「それじゃあ、私達はあっちだから」
「うん。それじゃあねー! シャロンとロッティー! また会いましょう!」
「……そのつもりよ。ふふっ」
私の手を引き、シャロンは歩きはじめた。勿論、フェリシアと手を振り合いながらだ。私もつられて手を振る。フェリシアは笑顔のまま、こちらに手を振り、去ろうとしていた。が、急に振り返ると、フェリシアはこう言った。
「私の部隊、一人空いてるからー!」
「……諦めないわ!」
そう言うと、フェリシアは満足気な顔をして、背を向けた。私も微笑みながら、シャロンについていき、去るのであった。
☆
「保険、加入し忘れていませんかー?」
近くを通った兵士の声で、現実に戻る。私の乗る輸送機の隊員に、シャロンがいない。その為、少し暇である。あ、勿論だけど、保険等の手続きも済ませている。だが、まだ物資が来ないものがいたりするので、時間が余る。
そうして、退屈なまま居ると、隣から声をかけられた。
「クローディア中尉」
「ん? 何かしら?」
話しかけてきたのは、ベックマン軍曹だった。その顔は苦笑いを浮かべており、すっと何かを差し出した。
「あの、頼む分量を間違えて……良かったらどうぞ」
「……チョコレート?」
そう、渡してきたのは板型のチョコレートである。彼女のバックパックを見ると、少しだけチョコレートがはみ出していた。
私は、はぁ……と溜息を漏らす。
「あのねぇ……遠足に行く訳じゃないのよ?」
「は、はい、それは理解しています。ただ、レーションの一つとして持って行こうとしたら……」
「……ふふふ」
「わ、笑わないでください……ぅぅ」
必死に何か言おうとする姿から、大体理由は分かる。だが、その姿があまりにも分かりやすいため、つい笑ってしまうのだった。
「じゃあ、貰うわね?」
「ああ、どうぞ」
そして、私はチョコレートを貰うと、バックパックに仕舞う。と、同時に乗り込む合図が出た。全員が輸送機に乗り込む。私も階段を登り、入り口から2番目に座った。
そして、最後の一人が乗り込み、扉を閉める瞬間、私達はエンジンの始動音を聴くこととなる。
それは間違いなく、私達、片翼の兵士達の羽ばたく音である。そう、私は思った。