私は貴女の妹です   作:ilru

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母とお父様の死から早くも数年が過ぎた。

私も世間一般では嫁入りだのなんだのを考える年頃になったわけだが、世間離れした吸血鬼の館─紅魔館ではそんなもの関係無い。今日も今日とて、私は変わらずレミリアお嬢様の身の回りの世話をしていた。当の本人は私を相変わらず妹として扱うが。

単純に心の線引きという意味でもあるが、家族だからというだけで優しくしてくれる彼女に少しでも恩返しする為というのもあるので従者である事はやめるつもりは無い。そのため昼夜逆転が常となってしまったが、まぁまともな生活なんか生まれてから一度もしたことが無いので気にすることもないだろう。

 

変わっていないのは何も生活習慣だけではない。私の心は未だフランドール・スカーレットへの復讐心で燃え盛っている。レミリアお嬢様や他の妖精メイドに悟られないように、普段は母と同じような笑みを常に浮かべるようにしているが、この気持ちが薄れた事は一度もない。私は絶対に彼女を同じ目に合わせると、あの日、無垢な狂気を持つ彼女を前に誓ったのだ。

そのために魔法をもっと勉強した。最近では無詠唱で魔法を発動できるようになった。同時に進めていた自作作業も中々順調に進んでいる。ただ吸血鬼の魔力と血が体に馴染んでしまったのか、身体能力が上がったり、怪我の治りが異常に速くなったり、太陽の光を浴びると肌がひり付くようになってしまった。これ以上吸血鬼化が進むとは思わないが、母の形見でもある人間としての姿が無くなりかけているのは少し寂しい。目も紅くなっているし。

魔法を学ぶ道程で使えそうな雑学は何でも覚えた。そういえば自殺しても本来の寿命を迎えるまで魂は死なず、何度も死を繰り返すらしい。そして今度は人に取り憑くんだとか。

自殺しても母の元へいけないのかと落胆したが、逆に魔法で自殺させれば長い間苦しめ続けられるんじゃ無いかと喜んだものだ。最も、後で結局それが私が殺していることになるから無意味だと気付いたが。

 

外は冬だった。夜空から星屑のような雪がしんしんと降り、辺りに積もっている。

 

「レミリアお嬢様、朝食?でございます」

「ありがとう、プティ」

 

日が沈むと共に吸血鬼は目を覚ます。寝起きのレミリアお嬢様に朝?晩食として人間の血をワイングラスに並々と注いで、人肉の料理と共に彼女の前に差し出す。見た目10歳の少女がワイングラスで赤い液体を嗜むというのはかなり背伸びして見える。レミリアお嬢様は体裁とか威厳とかを気にしてやっているらしいのだが、これでは可愛らしさが増すばかりである。

寝ぼけ眼でワイングラスを呷るレミリアお嬢様の後ろに立ち、櫛を取り出して乱れた髪を整える。ボサボサになっていた青い身を帯びた銀髪に櫛を通すと、たちまちに絹のような滑らかさを取り戻す。彼女の顔を覗き見ると、とても機嫌が良さそうだった。やはりうちの御主人は世界一可愛い。異論は認めない、言ってくれる相手すらいないが。

 

食べ終わったら食器を取り下げて、流しへ放り込んで、彼女の着替えを手伝う。これが終わったら昼(深夜?)食までは自由時間だ。レミリアお嬢様は近辺の吸血鬼の勢力図なんかと睨めっこしてたりするが、そこに私が手伝える事は無いので、その間館の掃除をしたり、昼食の準備や皿洗い、魔法の勉強なんかをして時間を潰している。

 

「フクロウさんこんばんは。今日も手伝ってくれるの?」

「手伝ってほしいかい?」

「うん。とっても」

「なら手伝ってあげようじゃないか」

「ありがとう。好きなだけミミズを家からとってくれて構わないわ」

「報酬と抜かして私を更にこき使うな」

 

私には昔から動物と話せる不思議な力があった。そうえば母も話せたからもしかしたら遺伝かもしれない。ともあれそのお蔭で動物たちが私の仕事を手伝ってくれるので、掃除なんかは比較的速く、楽に終わる。皿洗いは衛生的にアウトだ。

 

なので基本的に地下の倉庫から魔導書を引っ張ってきてはレミリアお嬢様の知覚で読んで時間を潰している。

 

「んー……」

「どうしたんですか。珍しくそんなに唸って」

 

いつものように椅子に腰掛けて読書に耽っていると、可愛らしい唸り声が集中を掻き乱した。音源に目を向けると、レミリアお嬢様が吸血鬼の勢力図を書かれた地図と睨めっこしていた。

 

「いやね、最近ある吸血鬼の動きが全くないのよ」

「良いことなのでは?」

「情報が無いって事はなにか暗躍してる可能性もあるって事よ。誰かと手を組んで攻めてくるとかじゃないと良いけど」

「レミリアお嬢様ならやり返せるでしょうに」

「面倒な事は起こらないに限るわ」

 

スカーレット家はここら辺一帯の広大な地域を支配していたので、他の吸血鬼達と仲が頗る悪い。今まで反乱の一つも無かったのは、それだけお父様とレミリアお嬢様が強かったということ。しかしお父様が死んでしまい既に数年、この情報が相手に渡っていないと考えるのは楽観が過ぎる。恐らく確実に勝てるようにじっと機会を窺っているのだろう。勿論そんな入念な準備をされたところでレミリアお嬢様が負けるとは露にも思っていないが。

雪が降っていた。しんしんと、それは静かに深い森に積もっていく。これが嵐の前の静けさじゃないと良いのだが。

 

 

 

もうすぐ夜明けだ。外はもう既に青く染まっていて、もう少しでも太陽の光が処女雪を照らすだろう。

レミリアお嬢様が寝室へ向かう。それを確認してから、私は外に出る準備を始めた。今から人の住む村へ買い出しへ向かわねばならない。冬は夜が長く昼間が短いのでどうしても寝不足になりがちだ。早めに行ってとっとこ寝てしまいたい。

重苦しい両開きのドアを開ける。寒々とした空気がマフラーの隙間から首元に入り込み、マフラーを更に強く巻きつける。

 

「おはよう、プティ」

「おはよう、小鳥さん」

「今日は何処まで?」

「村の方までよ」

「いつもより早いね。まだお日様は出てないよ」

「冬は夜明けが遅いのよ。早く行って帰って寝たいから」

「そう、道中には気をつけなよ」

「?ええ、分かったわ」

 

青々とした雪の上を歩いていると、木々の上から小鳥たちが声を掛けてくる。やはり人外であれ会話というのは心を豊かにする素晴らしいものだと思う。それにしても道中に気を付けろとはいったいどういう意味なのだろうか。熊でも出るのだろうか。魔法で身体能力を上げているので、景色が滲んだインクのように曖昧に流れていく。移動速度が速くなっても頭の回転は速くなってくれないのがもどかしい。

それともまさか吸血鬼が私を攫いにでもくるのだろうか。だとすればなんと無意味……いや、無意味なのだろうか。今現在、紅魔館には私とレミリアお嬢様とフランドールしか住んでいない。フランドールは地下室に閉じこもっているので関係ないとしておこう。自意識自過剰でなければレミリアお嬢様は私のことを気に入ってくれている。もし私が誘拐でもされたら、レミリアお嬢様は私を探すのではないだろうか。だとしたら不味い。態々罠に引っかかりに行くような真似を彼女にさせるわけにはいかない。今からでも遅くはない、日の出まで紅魔館で待ってそれから村へ行こう。

急いで踵を返す。でもどうやら気付くのが遅かったようだ。振り替えると、見知らぬ男がすぐそこにいた。背中から蝙蝠のような羽が見える。考えるのに集中し過ぎたせいで近づいていたのに気づかなかったらしい。なんたる不覚。手が目の前に翳されたと思うと、不意に眠気が襲ってきた。催眠術でも使われたのだろうか。ああ、やってしまった。なんとか抵抗しようと試みるが、それも虚しく意識が消えていく。閉じゆく視界の中で、最後に見たのは光り輝く雪化粧だった。

 

 

頭上から声が聞こえる。野太いのが複数。恐らく数人の男性が話しているんだ。動こうとすると、手首と足首に冷たい感触がした。とても固い。金属の拘束具が私の四肢を捕えている。少し動けばcがちゃがちゃと金属同士がぶつかる甲高い音が寝起きの耳を劈く。

目を開けた。知らない天井だ。あたりは暗い。蝋燭が部屋の角にそれぞれ一本ずつと、真ん中に小さなシャンデリアがぶら下がっているだけだ。部屋の大きさに対して光源が余りにも足りていない。

首を上げて、周りを見渡す。レンガのような荒々しい壁面がほの暗い部屋の中で橙に染まっている。自分はどうやらベッドのようなものに横たわっているらしい。

足元を見れば、二人の男性がこちらを見ていた。無遠慮に部屋を観察していたのがバレたらしい。

 

「やあ、やっと起きたかい」

「…貴方は誰?」

 

男性はにやりと笑って私に近づいてくる。開いた口から人間ではあり得ないほどに鋭く尖った歯が灯に照らされる。耳も少し尖っていて、何より背中から蝙蝠のような翼が生えている。隣にいたもう一人の男性にも同じく特徴的な翼と耳が闇に見え隠れしている。どうやら私は吸血鬼に捕まってしまったらしい。

 

「おお、怖い怖い。流石はスカーレット家の従者といったところか」

 

男性はわざとらしく肩を竦める。

 

「こんなことしてレミリアお嬢様が許すとでも」

「許さないだろうね。というか、そこはどうでもいいんだよ」

「…とういうことはやっぱり…」

「ん?なんだ、人間のくせに察しがいいね。もうちょっと恐怖心を煽れると思ったのに」

心底落胆した様子で肩を下す。上げたり下げたり忙しい奴だ。

 

「私は人質ですね。レミリアお嬢様を誘き出す」

「そうだよ。よく分かったね。人間だからもっと怖がって泣き出すくらいはすると思ったのに。これじゃ攫い損だよ。別にいいけど」

「それで、私をどうするつもり?レミリアお嬢様は夕方まで目を覚まさないけど」

「そうだね、あいつがここを見つけるまで少なく見積もって二日だから、それまで君をここで監禁出来たらそれで充分だけど」

 

唸りながら吸血鬼は楽しそうに考え始めた。恐らくその二日の間にレミリアお嬢様を殺すための罠を張ったり、仲間を呼ぶのだろう。

残念ながら人間の私に彼の策略を阻む術を持っていない。不甲斐なさや公開がとめどなく自分を襲った。無意識に唇を強く噛み締める。血の味が口中に広がった。

 

「ああ!そうだ!うん、そうしよう!そうすればあいつはきっと怒り狂うに違いない。なんせ大切な従者で妹だ。彼女で遊べばきっと僕を殺そうとするだろう。動きも単調になるはずだ。そうすればもと殺しやすくなる」

 

どうやら私は彼に遊ばれるらしい。きっと言葉ほど生易しいじゃないだろう。拷問でもされるのだろうか。私がここにいればいいわけだから、なにも生かしておく必要も無いはずなのに。私の反応を楽しみたいのか。何をされるんだろう。灼熱のヒールで踊らされたりするのだろうか。

 

「よし、それじゃああいつが来るまで、僕は色々と忙しいから、僕の分身と遊んでおいてくれ。何、彼が()()でもてなしてくれるさ」

「…え、待って、それって…」

「ああ、でも彼は少々乱暴だから、意識が飛ばないようにしっかりしていてね。じゃあ、楽しい2日間を」

 

彼は自らの姿を霧散させたかと思うと、2人に分散する。吸血鬼にできるのは身体を霧と蝙蝠に変化させるだけだから、彼の能力だろうか、それとも極めれば出来るようになるのか。

分身した彼が近づいてくる彼をぼんやりと視界に収めながら、つい思考に耽ってしまう。彼が私の腕を掴み、乱暴に服を引き裂いていく。

 

「嫌…やめて…」

 

ふと漏れたその呟きは、次に響いた悲鳴とも喘鳴とも言える叫にかき消されたのだった。

 

 

ブチ犯される描写

レミリアが助けに来る

孕む。どうしてこんな目に。そうだフランがお父様を殺したからだ。全部フランのせいだ。でも生きるの疲れた。でも復讐は絶対にしてやる

産む

自殺

魂はこの世に残って、生まれた娘に取り憑く


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