D.T 童貞はリアルロボゲーの世界に転生しても魔法使い 作:装甲大義相州吾郎入道正宗
クレナイ さんから 5件 メッセージが届いています。
白上マコトはメールボックスに僅かに溜まったメッセージ全てに対して返信すると、チェイサー内のコンソールを操って筑摩内の監視カメラにアクセスする。
映し出されるのは船員のプライベートを阻害しない共通エリアに限定した映像だが、広範囲に渡って配置されたお陰で不審な物を見落とす心配は無い。その中でマコトがカメラのチャンネルを合わせたのは、数日前に筑摩へ流れ着いた二人の女性が寝かされる医務室だった。
自身の部下ともいえる船員の福利厚生に気を使うマコトはこの辺りの整備もキチンと配慮しており、医療品や設備は一般水準以上に整えてある。
怪我による失血症状で気を失っていた女性に対して医療員が適切な輸血と治療を施し、もう一人の少女は心身の激しい衰弱と助かった安堵から気絶するように寝てしまったので、点滴を打って様子を見ていた。
そうして、ようやく目を覚ました両人に対して簡単な事情説明を行った後、治療を担当した医療員と聴取の為に立ち会う船長、部屋の外には万が一の鎮圧用に警備員が4名待機してこの場を迎えている。
ちなみにドクターは少女が乗っていた黄金のDTに興味津々らしくこの場どころかガレージに篭りっぱなしだ。
「…んじゃまずは自己紹介でもして貰おうか、お二人さん」
乱暴な質問を浴びせる船長だが、その態度は明らかに不機嫌である。
何故ならここ数日、彼女達の目立ちすぎるDTを内部ガレージに格納した関係でチェイサーが甲板上に追い出されてしまい、修理が一向に進んでいないからだ。そして今も機体と共に風に吹かれながら待機しているマコトを思うと当たらずにはいられなかった。
筑摩のガレージ容量は輸送機の瑞雲を格納する仕様とチェイサー用の各種外装を収めるラックがスペースを取ってしまい、同系の重巡洋艦と比べてかなり小振りな間取りになっている。なので致し方ないとはいえ闖入者の為に雨晒しで外に出て、割りを食っているのは気にくわないらしい。
目覚めた二人の内、怪我を負っていた方は助けられた身でありながら周囲を囲むのが男性しかいないのを確認すると悪態を返した。
「礼儀がなっていませんね。せめて同格の女性を出しなさい」
「お生憎と、この船にゃあ女様は一人しかいねえよ。んでうちの大将はそこから見てるぜ」
くいっと指で指す先には天井四隅に設置された監視カメラ。小さな駆動音を立てて女性側に向きを変えると内蔵されたスピーカーから合成音声が流れる。
[…体調は…問題ない…ようだな]
「えぇおかげさまで。貴方が白上マコト様で間違いありませんね?」
[…あぁ]
まずは探るような挨拶。
事前に説明を受けていたが、本当に姿を現わす気が無いと知り、戸惑いよりも警戒心が強くなる。
外販ホッパー、白上マコト。その名前はチェイサーという旧式のDTに乗っている事から一部界隈では二つ名のように知られているが、人前に姿を現さない事も含めた話はそれほど広がっていない。
しかし、借金を負うのが常である外販の身でありながら単身で重巡洋艦クラスのガレージを保有するという、多大な債務リスクを背負うだけの実力と自信はあるのだろうとアンネは推察する。
僅かに気に入らないのは、見ず知らずの相手に無償で治療を施すお人好しさに加えて拘束すらしていないこの始末。外から数名の気配がするが、曲がりなりにもボディガードの役目を仰せつかっていたアンネが本気を出せば簡単に制圧出来る人数だ。
表向きは人類平等女性平和の世界で、裏側の泥を啜って這いずり回った経験がある身からすれば、チャイカのように甘い人種による指示だと眠り込む前は思っていただろう。しかし。
「まずは最大限の感謝を。チャイカ様共々、治療を施して下さり誠にありがとうございます」
「あ、ありがとうございます!」
釣られるように幼い少女も返事を返して、寝ながらではあるが一礼の所作を欠かさない。そこには純粋な謝意しかなかった。
[…構わない…人助けも…世の常だ]
(………も、で御座いますか)
まさか本当に親切心だけで助け舟を出した訳ではあるまいと、言葉の節々に気を使うアンネ。先の悪魔による襲撃で文字通り無一文のすっからかんとなった現在では、せっかく心から仕えようと思える相手になったチャイカを守る手段が乏しい。どうにか機嫌を取って援助を引き出すか、それとも以前のように時間を掛けた内側から……。
「あの! チャイカはえっと、名前がチャイカ・オブ・ヨー…じゃなくて! わ、妾の名前はチャイカ・グレートブリテン・テムジン! 偉大なる祖先を持つ王族の末裔じゃ!」
「「……」」
「…チャイカ様。ここは身分を繕う場面ではありませんよ」
「うぇっ!? だって初対面の挨拶が大事ってサーヤが…」
「あのアマ……いえ、失礼致しました。…改めまして、わたくしの名前はアンネリース。こちらのチャイカ様に仕えるメイドで御座います」
「メイドだぁ?」
確かにアンネが最初に着ていた服装はフリルやエプロンドレスが付いた衣装だったが、給仕係といえば男性となったこの世では非常に珍しい職業で船長が不思議がるのも無理は無い。
そんなリアクションにピクリと眉を顰めるも、マコトの音声が割って入るように場の雰囲気を堰き止めた。
[…旧トウキョウを…根城に…している…き…組織の…トップと…側近…だな]
「ご存知でしたか」
[…何かと…目立つ存在…だからな]
「目立つ……なるほど」
やはり前々からマークされていた。そう解釈するアンネ。
「それで大将? この女性様が自然に目を覚ますまで事情は聞かない話だったが、もういいな」
「事情って…何の事?」
「お嬢様方が何でモンスターに追われて、スタンピードから這々の体で逃げてたかだ」
「あぅ…それは…」
そこは単なる自分のミスだと言い出せず、口籠るチャイカに対して詰め寄るような口調を浴びる船長。しかしそこは問題では無いとマコトから止めが入って、アンネに本題に促す。
「わたくし達が何故単独で逃げていた理由ですか…。そうで御座いますね、お話致しましょう」
アンネから語られた内容は一言で言えば、天災としか形容が出来ない被害と理不尽さだった。
自分達は旧トウキョウを拠点とした正規非正規問わないホッパーの集まりであり、組織立って動く事はあっても正式に契約や賃金の受け渡しを行うなどは管理していない、悪く言えばならず者の集まりだという。
本来ならば、そんな寄せ集めの集団はいつ瓦解してもおかしくない筈だが、チャイカという愛くるしくも人を魅了する少女を信奉するという目的を共通させ、異様な結束を生んで組織としての体を保っていたらしい。
チャイカの為に(山賊紛いの)稼ぎを行い、チャイカは皆のために愛想を振る舞う。
前時代のニホン文化に存在したアイドルという概念を、期せず復活させた彼女の人気は留まる事を知らず、当初はトウキョウ区内の電波施設一つを占拠して歌や踊りを配信するだけだったのに半し、今では23区全てを傘下に収めて広域放送を行う迄に成長した。
配下のホッパーは200人を超え、所有DTも同数以上。側近2人にはカスタムDTを配備するだけの資金的余裕もあり、更には本拠点にしていた歩行型双胴戦艦【扶桑・山城】は長距離砲撃特化した艦船で、旧トウキョウ全てを射程範囲に収める恐るべき性能だった。
故に同地域に引き篭もってしまえば例え本店のDT部隊であろうとモンスターの大群であろうと押し返せるだけの戦力を誇り、正面からの力押しで負けるとは思いもしなかった。
「おいおい…するってぇと何だ。それだけの戦力を潰せるようなデカい組織に襲われたって事か」
「違いますよ髭」
「髭だぁ!?」
「わたくし達の組織を潰したのは《一機の空飛ぶDT》です」
苦虫を潰したような顔のアンネ。ポカンとする船長。悔しそうに俯くチャイカと話が盛大すぎて付いていけない医療員。一様に言葉を失うがただ1人だけは淡々と言葉を発した。
[…おね]
「…おね?」
マコトから飛び出た謎の単語。しかもその一言から妙に間が空いて不審がる皆だったが数分の後に、何事も無かったように話は続いた。
[………西海陣営の魔女だな]
「え、えぇ…。空戦型のDTとなればあの【雷霆】以外にありえません」
「ねぇアンネ、その事なんだけど…本当に間違い無いの? 空を飛ぶだけなら輸送機を使えば良いし、その人にチャイカ悪い事してないような…」
「わたくし共の悪評は幅広いので、いつ襲われてもおかしくありませんでしたよ」
「え」
「それにしたって都市を壊滅させたのが一機だけとは思えねえな…。本店の空挺部隊って言われた方がまだ納得出来るぜ」
「はっ! あの悪魔を目にしてないからそんな事が言えるのです。あれは…あれはもはやDTの範疇を超えて異常ですらありました。戦艦に備え付けた対空防御兵装による弾幕すら全弾回避など…化け物以外なんだというのです」
突然現れてからの無警告爆撃。チャイカの取り巻き以外にも、人が集まれば様々な商売を行う人間もまた集う場所には、一般人や問屋などの企業勤めも複数紛れ込んでいた場所だ。そこを一瞬にして地獄と化した凶行による被害規模は甚大すぎて検討も付かないらしい。
少なくとも双胴戦艦は完膚無きまでに破壊し尽くされ、取り巻きのホッパーはほぼ全滅。理由はどうあれ彼女達が住む関係で復興しつつあった廃棄都市が再び沈黙したのは間違い無かった。
「…逃げるDT一機を匿う筈が、とんだ大事じゃねえか。こんなもん…世界戦争の火種もあり得る話だろ」
「えぇ今度は明察で御座いますよ髭。ここ旧ニホン列島は今や世界のど真ん中。旧ユーラシア大陸と、旧アメリカ大陸に挟まれた橋頭堡。そこでの無差別攻撃がどれだけの意味を秘めているのか。…西海の魔女は本気で戦争を起こすつもりなのでしょう」
例外として、インド洋を中心としたモンスターの魔窟【アジア諸島】は未だ人類による再踏破を拒み続けて様々な種類が跋扈する危険地帯に指定されていた。一説にはモンスター同士が苛烈な縄張り争いと日々繰り広げて危険なガラパコス進化を促すのではという懸念もあるが、実際問題として上陸は不可能。
辛うじて人が住める島は旧ニホンと、僻地となってしまったオーストラリア大陸のみである。
一時期はかつての人民大国が、旧チョウセン半島の国境線沿いを核弾頭の爆撃によって吹き飛ばし、陸続きの地形を無理やり海にして自国の島にしようとしたが、結果は中途半端に終わり、余波の放射能汚染と河川が干上がった事で死の大地と化しているので近づく事は出来ない。
それらの関係から元より旧ニホン列島は、冷戦の最前線。現代のバルカン半島。など火種には事欠かない状況だった。
そこへこの事件である。
「世界大戦の前座にお二人様の組織が選ばれたって話か…。話が急すぎて付いていけねえな」
「あ、あのぉ…マコトさんに指示されて最近のニュースを調べていたんですが、そのトウキョウの件。どこにも情報が流れていないみたいなんです」
「なんだと?」
沈黙していた医療員が持っていた資料を掴み取ると情報を精査する船長。
確かに都市一つが半日も経たずに壊滅するという大ニュースにも関わらず、どの情報媒体からも不自然に関連記事が見当たらなかった。
いったい何が起ころうとしているのか。
漠然とした不安感に包まれる医務室内でマコトだけが再び話を進める。
[…その話は…置いておく…として]
「大将…置いとける訳ねえだろ。下手すら匿った俺らまで巻き込まれる可能性が」
[それはない]
いつもより早いレスポンス。そしてその言葉は断定に満ちていた。
[…悪いが…命令だ…詳細は抜きで…とにかく…2人の処遇に…ついて…話をしよう]
押し黙る船長。あくまで自分は雇われの身。個人的な感情と感傷で贔屓目にマコトと接しているがそれが雇い主からの命令であれば従う他は無い。
だが何かを庇うような、意図的に真意を隠している雰囲気が気に入らないと勝手に退室してしまう。そしてそんな場所で1人で居られるかと医療員も部屋を出て、残されたのはチャイカとアンネだけになった。
「……なるほど。ここから先は内密なお話という訳で御座いますね」
[え]
「? 白上マコト様?」
[…いや…何でもない]
まさか立会人が居なければ話も出来ないという訳ではないだろう。むしろ女性水入らずの方が話しやすい筈だとアンネは思う。
「それでお話というのは」
[……あぁ…その…何だ………匿う代わりに…条件が…ある]
「でしょうね。見ての通りの素寒貧で御座いますが、何をお求めになられるのでしょう」
[……まずは…チャイカ]
名指しで呼ばれてゴクリと息を飲むチャイカ。助けて貰った相手のためなら何でも出来ると内心決意している彼女だが、次の一言に頭の処理が追いつかなかった。
[…君には…俺の…《妹》に…なって貰う]
「ーーーはえ?」
[…それと…アンネリースは…もう1人の…姉役だ]
「謹んで拝命致します、御主人様」
「アンネ!?」
予想外すぎる提案に混乱の極みにあるチャイカと、とてもスムーズに了承するアンネという正反対の態度。
この取り決めが一体何になるのか。
少なくとも悪い目には合わないと安心する両人とは更に正反対にマコトは苦渋の決断を強いられていた。
「はぁ……ハードモードの黄組ルートを避けるためとはいえ、こうするしか…いや本当に良かったのか…?」
自然と視線が渦中のトウキョウ方面へと向かう。
何でこんな所にチャイカとアンネがいる上に都市が滅んだとか言い出すんだ…。ルート未確定の状態とはいえ、原作に無い展開はチャートが壊れるのでやめて欲しい。
しかもその犯人が お姉ちゃんだなんて、ありえないに決まっている
これではいけないと、咄嗟に黄組ルートの恋愛テーマである《初心な恋心》とはかけ離れた、家族として接するよう要求してしまったが失敗した感が物凄い。下手に好感度を上げると覚醒イベントのフラグになるから注意しないとだ。既に拠点壊滅で一つ分のフラグが解放されてるしな。
万全を期すなら今はまだ誰にも存在を知られていない十二機神の【ソンテ】を破壊しておきたいが、マトモな方法じゃ傷も付かないし、解体するにしてもブルーマスター級の研究者がいないと出来ないから無理だな。
もし可能なら色々と装備バグを利用して悪さを考えたが今はそのまま放置するしかない。
そういやゲームだと確か、アイドル活動をするチャイカのスキャンダルを防ぐ為にボディーガード兼女同士の恋人役を任されてシナリオが進むんだよな。最初は妾口調で高飛車だけど、本心は幼気な少女で尽くす系。前半とのギャップで、ここだけはD.T:Ⅱの評価ポイントとして名高い。
ただまぁRTA的にはイベント数が多い上に東西の陣営を相手にしなくちゃいけない難易度ハードなルートだからマトモにプレイした記憶が無いんだよな。比較的簡単な赤組と安定すれば一気に安泰な青組と比べるとどうにも走る気がしなかったので知識が浅い。
「でもお姉ちゃんの邪魔になるなら…」
とてもとても頭が痛むが、きっと気のせいなので、ちゃんと今だけの家族として接しないとな。
「そうしないと……そうしないと、なんだ…? 何が悪いんだ…?」
どうにも油蝮討伐前後から体調が優れない。
余りに寒気がするのでビアガーデンでは外に出て気晴らしをしてしまったが、あまり効果は無かったようだ。
「とりあえず、原因究明じゃないがこのままトウキョウに向かうか…ついでに隠し金庫を開けて貰って資金の足しにしないとな」
最近はどうにもゲームのようにはいかないが、この世界でもアイテムやドロップ情報は変わらないはずだ。溜め込んだ黄組の資産を頂いておこう。
食い扶持が一気に3人も増えてソンテというDTまで付いてきたら流石に資金稼ぎをしないと破産してしまう。
トウキョウで仕事を受けて何とか安全圏まで金を確保しないとな…!
筑摩付近・揚陸偵察艦【あきつ丸】
「駄目アルね…チェイサーの奴、数日前からずっと甲板で見張って隙が無いね」
「しかも見慣れない射撃仕様ッスか。的を絞らせない為に外套も羽織って準備万端って感じスね」
「アイヤー。油蝮であれだけ損傷しながらもう復帰出来るとか、予想外も良いところヨ」
「ふふん、マコトを甘く見てはいけないッスよ!」
「いや誰の味方アルかお前」
真っ黒なステルス塗料と流線型のボディに覆われた一隻の艦船が、海岸線を歩く筑摩の姿を捉えていた。
その中には怪しげな日本語を話す女性と、本店に所属するホッパー、クリムゾンことクリムが操縦室の望遠カメラで肩を並べながら目標を捉えていた。
「さしずめあれは【弓兵形態(アーチャー・スタイル)】っスね。見えてるクロスボウ型の武器だけでもヤバそうな雰囲気ッス」
「頭の方アルか?」
「はぁ!? マコトの事だったらぶっ殺すッスよ【鴨撃ち】!」
「じょ、冗談! 冗談アルから! 拳銃を仕舞うヨ!」
いきなり血走った目で銃口を突きつけられて
焦る、鴨撃ちという二つ名持ちのホッパーは必死で無害をアピールして後退る。
(ひえぇ…小遣い稼ぎで問屋サンの紹介を受けたアルが…とんだストーカーね…)
問屋専属のホッパー【鴨撃ち】。
危険な陸地に赴き、商談を成立させる事が多い問屋の業務において護衛を務める役目はホッパーに一任されている。その中でも多大な戦果を挙げ、多くの外敵を特殊なスナイパーライフルで仕留めてきたのが専属契約を結ぶ彼女である。
ちなみに特に中華系の出自という訳ではない。
基本的に問屋からの指示でしか動かないのだが、拝金主義者で隙あらば金稼ぎを欠かさない性格も相まって、折角の休暇であろうと割りの良い仕事にはすぐに食い付いてしまう。今回も問屋からの紹介で本店に勤務する社員から僚機としての指名を受けたが、まさか《ストーキング》に付き合わされるとは思ってもみなかった。
「ちっ…次に失礼な口を聞いたら、どうなるか分からないッスよ」
「承知仕ったヨ!」
「だったら監視に戻るッス。…あぁ…マコトに悪い虫が付く前に早く排除しないと…」
彼女らが乗るあきつ丸は偵察目的で新造された艦船であり、陸上への強襲揚陸機能を合わせ持つ為、内部にDTを二機搭載している。
スペースが限られている為、出撃しなければ身動きが取れないが各種センサーが船体と連動しているので索敵範囲はとても広い。
「急に東へ移動したと思ったら、甲板で警戒する謎の厳戒態勢…。何か…何かあったんスねマコト…アタシには分かるッスよ…!」
「それだけの理由でワタシは呼ばれたアルか…」
「女の勘って奴ッスよ鴨撃ち。マコトは完璧で完成されたホッパーッスけど、周りが足を引っ張って才能を活かせない可哀想な子なんス…アタシがちゃんと管理してあげないと…」
今度はウットリと虚空を見上げて悦に入るクリム。
岩殻亀戦でも見せた神業的技量と作戦。
ベクトルは違うがマコトへの執着を見せるアザレア課長に取り入って間近で観察したが、やはり素晴らしい人材だと心から想う。
マコトは覚えていないかもしれないが、新人研修でその課長を打ち破る瞬間に立ち会ったのが全ての始まりだった。
一刻も早く監禁…手元に置きたい彼女はあの手この手でニホンに出向し、スケープゴートにスカーレットを仮初めの班長に据え置いて捕獲の機会を伺っているが、今のところその気配すら感知されているのか、一向に隙を見せてくれない。
前回で基地に誘った時はでかしたと思ったが結局マコトが来る事は無かったので、クリムからスカーレットへの評価は右肩下がりのままである。
「それでこれからどうするヨ? あと2日で契約は終わりアル。いくらお給料良くても本職は外せないネ」
「分かってるッスよ。万が一の場合に備えて、正体を隠して狙撃する目的で雇ったんスから何事も無ければ帰っていいッス」
「だったら監視のお仕事はお任せしたいアル…」
「アタシは一日、五時間はマコト部屋に籠らないと体調が崩れるんス。その間くらい仕事するッス」
「30秒毎にチェイサー越しの撮影も仕事か?」
「当たり前ッス」
鴨撃ちは偶然見てしまった彼女の自室。ーーー 部屋全面に貼付された1枚の隠し撮り写真を見て心底恐ろしい相手だと思っている。
引き伸ばしたり、拡大したりで画像は荒いがチェイサーから姿を現わす白上マコトが収められた貴重な画像との事だ。
…といっても、それは手首だけ。人相などは全く分からない。それでもクリムはその画像を大切に保管し、自分を配置したコラージュ加工や、予想イラストを絵師に依頼したりと1人で二次創作に走って妄想を掻き立てている。
本当は筑摩が定期的に排出するゴミ類からマコトの私物や、それに類するアレやコレも収集したいらしいが、《何故かマコトに関する私物は一切外に出てこない》ので、困っているらしい。
(サッサと帰りたいネ…)
絶対に気が合わない今だけの雇い主に引きながら、ここ数日代わり映えのしない監視カメラからの映像を見るが、ふと変化を感じ取った。
「ん?」
「どうしたッスか」
「あ、いや…気のせいアルよ」
「………(ガチャ)」
「拳銃は駄目ヨ!? えっとその、変な方向を見てる気がしてね、きっと偶然だヨ」
「…具体的には」
「その……トウキョウ方面…アル」
「……今、情報規制がされてる地方ッスか」
つい先日、本店からの指示で詮索しないようお触れが出た曰く付きの廃棄都市。
マスコミはおろか本店、魔女会ですら対処にこまねくという異常事態の場所へ何故注視するのか。白上マコトという人間を過剰に評価するクリムは気になって…気になりすぎて、本店のデータベースに躊躇なく不正アクセスする。
「……物凄く嫌な予感がするヨー…」
血眼になって操作する内、どうやら気になる資料を手に入れたらしく爪を噛みながら呟く。
「やっぱり本店側で情報が堰き止められているッスね……それと本社からニホンへ直通便…? 積荷は不明…いや総重量から逆算すればこいつはDTッスね。…担当者はたぶん偽物…」
映し出される資料データには隠蔽工作を示すような回りくどい認証項目がいくつも用いられており、正規の手順で輸送されている訳では無いと推察出来る。
「【超重駆動兵器(メチル)】の【アルバコア】まで居るッスか…。しかもDTは輸出仕様のモンキーモデルじゃない正規品の【バドワイザー】。それをカスタムした特殊機体…ピッチフォーク? 何かの隠語ッスかね…。ん、作戦名?」
次々と出てくる不穏な単語や情報に何かが起ころうとしているのを肌で感じる。
そしてそれを代弁するするように一連の本店の動きを纏めた資料の作戦名及びタイトルがそこには記載されていた。
《魔女狩り》
本来ならば、ゲーム終盤のイベントが形を変えて始まろうとしていた。
D.T:Ⅱ Q&Aコーナー
Q.オンライン対戦でインド洋がマップに表示されなかったり、参加出来ないミッションがあるのは何故? バグ?
A.インド洋は所謂ラスボスの城で、侵入するにはストーリーモードクリアで解除される実績【夜明けの引き金】が必要です。それにより世界各地に【神話級モンスター】が解禁されるので参加出来ないミッションはそのためです。
余談ですが、オンラインモードはストーリーモード終了後の世界線なのでネタバレが嫌いな人はまずそちらを先にクリアしましょう。
今作でもっと必要な物は何でしょうか。
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主人公の明け透けな一人称
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第三者からの視点
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ヤンデレ要素
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バトル描写
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