ここに来るのも二回目か。
まったく、比企谷も雪ノ下さんも、さらに由比ヶ浜さんもここまで拗らせてるとは…。
ノックをして、返事を確認してから中に入る。平塚先生はノックをしないのがデフォらしいけどな。
「やっはろー!なおぼう」
相変わらず、元気だなぁ由比ヶ浜さん。
「こんにちは、神谷さん。選挙公約をまとめないといけないから、手短にお願い出来るかしら?」
おう、これが比企谷の言う『冷気』か。そっちがそうくるなら私だって。
「わかった。じゃあ簡潔に…」
よし、言うぞ。
「お前ら全員、刀の錆びにしてやるぜ」
あれ?雪ノ下さんと由比ヶ浜さんがポカンとしてる。
「物騒だなおい。お前はどこのソロキャンパーだ」
「いや~、由比ヶ浜さんの声を聞いたら、言ってみたくなってな。テヘペロッ♪」
「あざとい」
「あざといのは仕方ない。心さん直伝だからな」
「漫才はいいから、早くしてくれないなしら」
おおう。さらに冷気が強くなった。
「冗談は置いといて。お前ら全員めんどくさい」
またポカンとしてるよ。
「雪ノ下さん!」
「な、なにかしら…」
「なんで、生徒会長になるなんて言ったの?」
「そ、それは、一番効率的だし、私なら生徒会長も勤まるだろうし…」
「それから?」
「生徒会長をやってみてもいいかと…」
「嘘はないと思うけど、言ってないこともあるよね?」
ビクッてなったな。
「ねぇ、雪ノ下さん」
「なにかしら?」
「雪ノ下さんは、比企谷に無茶をやらせたくなかったんじゃないかな?」
下向いちゃった。当たりだな。
「由比ヶ浜さんもほぼ同じ」
「ふぇっ!わ、私は…」
「比企谷と雪ノ下さんに背負わせたくなかった。って、ところかな」
「う、うん…。生徒会長になれたら、ゆきのんとヒッキーに役員になってもらおうと思ってた…」
「由比ヶ浜さん…」
「由比ヶ浜…」
そこまで考えてたんだ。
「んで、比企谷は一色さんをノセるところまでは良かったんだけどな」
「い、言わないでくださいお願いします」
謝るの早いよ。
「その話は後でやるとして…」
「やるのかよ…」
「比企谷は奉仕部を壊したくなかった。ここまで言えばわかるでしょ?」
三人が顔を見合わせてる。
「言葉にしないでわかりあえたら最高だと思う。でもさ、ニュータイプじゃないんだから無理だよ 」
「にゅーたいぷ?」
「神谷さん、何を言ってあるのかしら?」
あれ?伝わらない?
「神谷、平塚先生しかわからねぇよ」
あうっ!
「と、とにかく!三人がこの奉仕部を壊したくない、三人の関係を終わらせたくないんだろ?それを相手がわかってくれると思い込んで、言葉にしないで拗らせて」
「そうね、神谷さんの言う通りだわ。二人の意見も聞かずに先走ってごめんなさい、相談するべきだったわね」
雪ノ下さん、わかってくれたみたい。
「うん、私もごめんなさい。ゆきのんとヒッキーと離れ離れになりたくなかったんだ…」
由比ヶ浜さんも大丈夫そうだ。
「俺も、その、すまなかったな」
まったくだよ。
「では、今回の依頼は一色さんが生徒会長になるということでいいのかしら?」
「その前にひとついいか?」
まだ何かあったか?
「雪ノ下、お前は生徒会長になりたかったんじゃないのか?」
え?そうなの?
「そうね。姉さんもやってない生徒会長をやってみたいと思ったわ」
じゃあ、私は余計なことを…。
「神谷さんは気にしなくていいわ」
「でも…」
「それは私のくだらないエゴだったのよ、母に認めてもらいたいという…」
雪ノ下さん…。
「でもね、比企谷君と由比ヶ浜さんとやっている奉仕部と天秤に賭けた時、二人を失ってまで貫き通すほどのものではなかったのよ」
「雪ノ下…」
「ゆきのん…」
「神谷さん、ありがとう。気づかせてくれて」
「そ、そんな、私は別に…」
「ありがとう、なおぼう」
「だから、私は…」
「ありがとな、神谷」
「べ、別にアンタたちのためにやったんじゃないんだからね」
「雪ノ下、由比ヶ浜、今のがツンデレのテンプレだ」
あうぅ…。恥ずかしい。逃げよう。
「じゃ、じゃあ、私はそろそろ帰る…」
「神谷さん、少し時間あるかしら?」
「ん?今日はレッスンもないから、あるけど」
「この前の話できるかな?」
由比ヶ浜さんがモジモジしながら聞いてきたけど、この前の話って?
「その、修学旅行の後にここで話したことの続きをしたいのだけど、ダメかしら?」
「なおぼう、忘れてた?」
「そ、そんなことないぞ」
ナオチャンウソツカナイ。