年末のライブに向けて、レッスンもハードになってきた。ソロはだいぶ仕上がってきたな。
「な~お~」
「おう、凛か。お疲れ」
「『彩加君』って誰?」
「あ、卯月から聞いたのか?比企谷の友達で…」
「私の卯月がぁ~」
は?
「スマホ見てニヤニヤしてると思ったら…」
あ~、そういうことね。
「卯月は凛のモノじゃないだろ」
「でも、凄い良い顔して笑ってるから」
まぁ、あの感じだと付き合い始めるのも時間の問題だな。
「私にもいい人現れないかなぁ。奈緒はいいよね、比企谷がいるから」
「なっ!べ、別に比企谷とは…」
「へ~」
「に、ニヤニヤすなぁ!!」
「私の八幡がどうかした?」
加蓮まで来たよ。
「加蓮のモンじゃないだろ!」
「そうだよ。八幡は私のだよ」
「違う!比企谷は私のだ!!…はっ!」
「へ~」
「ふ~ん」
やってしまった…。
はぁ。凛と加蓮に散々からかわれた。
疲れた。ドーナツ屋でも寄ろうかな。
ドーナツを2つとカフェオレ。
…うん、美味しい。疲れた時は甘いモノだよね。
「ひゃっはろ~。貴女が神谷奈緒ちゃんかな?」
誰?
「そうですけど、どちら様ですか?」
「私は雪乃ちゃんの姉で、雪ノ下陽乃。よろしくね」
「は、はぁ、どうも…」
この人が比企谷が言ってた、厄介な雪ノ下姉か。
「何かご用意ですか?」
「うん、単刀直入に言うね。比企谷君から離れて」
は?何を言ってるんだ、この人は?
「言ってる意味がよくわからないんですけど…」
「そのままの意味だよ」
「お断りします。比企谷は私の友達だし、私は比企谷の味方でいるって約束したんで」
「そういうところが嫌だし邪魔なのよ。比企谷君には雪乃ちゃんの彼氏になってもらうから」
「そんなの比企谷が了承する訳ないじゃないですか」
「普通ならそうだね。神谷ちゃんも千葉県民だから知ってるよね?私は『雪ノ下』なんだよ」
そうか、この人が圧力をかければ…。
「何やってるんですか、貴女は」
後ろから声がした。
「比企谷!」
「あ、比企谷君、ひゃっはろ~」
これは、タイミング的にどうなんだ?良いのか?悪いのか?
「高校生脅して、どうしようっていうんですか?」
「脅してないよ、お願いしただけ」
いや、脅しです。
「俺の友達を…、大事な人を俺から引き剥がそうとして、何が目的なんですか」
だ、大事な人…。私が比企谷の…。
「大丈夫だよ。比企谷君には雪乃ちゃんが居るじゃない」
「確かに雪ノ下も大事な仲間です」
「じゃあ、神谷ちゃんはいらないよね」
「そうじゃないですよ。神谷と雪ノ下は全然違うじゃないですか」
「大丈夫。雪乃ちゃんには、素直になるように言っておくからさ」
「そういう問題じゃないです」
「それとも、私に逆らうのかな?」
その場の空気が固まった。何、この人…。
「くっ…」
比企谷でも論破出来ないの?どうしたら…。
「弱いものイジメしか出来ないの?雪ノ下陽乃」
こ、この声は…。
「時子様!どうしてここに」
超ドSアイドル、財前時子様降臨!!
「ロケの帰りよ。たまたま覗いたら、奈緒が困ってそうだったからよ」
「あ、えっと、お疲れです」
「お疲れ。それより…」
時子様が雪ノ下姉を睨む。
「あの時、コテンパンにしてあげたのに、まだ懲りていないようね。この豚には本当に調教が必要なのかしら?」
「くっ!あ、あの時は調子が悪かったのよ」
「では、今から再戦する?受けてたつわよ立つわよ」
「くっ!今日は帰るわ」
雪ノ下姉が席を立った。
「覚えておきなさい、財前時子」
「『様』をつけなさい。それと、ウチの事務所の娘に手を出したらどうなるか、覚悟しておきなさい」
背中がゾクッとした。身内ながら怖い。
足早に雪ノ下姉は店を出ていった。
「ありがとうございます、時子様。時子様は雪ノ下さんのことを知ってるんですか?」
「大学の交流の一環でディベートをやった時にね。あの時は半べそになっていて可笑しかったわ」
笑顔が怖いですよ、時子様。
「時子様、お待たせ」
「お待たせでごぜーます」
「じゃあね、奈緒。法子、仁奈、遅いわよ」
「だって時子様、奈緒ちゃん見つけたら急に早足に…」
「黙りなさい。座るわよ」
「は~い。奈緒ちゃん、またね」
「奈緒お姉さん、またねでごぜーます」
「法子、仁奈ちゃん、またね」
た、助かった…。
「すげぇな、常勝無敗だと思ってた雪ノ下さんを半べそにするなんて」
「さすが、時子様だな」
「少し信者の気持ちがわかった気がする」
「ドM?」
「違ぇよ」
「あはは…」
「俺もコーヒー買ってる」
比企谷がカフェオレを買って戻ってきた。
「比企谷、ありがとな」
「あ?俺は何もしてねぇし、出来てねぇよ」
「それでも、ありがとう。嬉しかった。それに『大事な人』って…」
「それは、なんていうか…言葉のアヤだ」
「…うん」
それでもいいや…。
「違うな、神谷はやっぱ大事な人だわ」
えっ?
「クリスマスイベントが終わるまで待っててくれないか。ちゃんと話す」
「うん、わかった。私も年末ライブが終わったら比企谷と話をしたかったんだ」
「そうか。じゃあ、その時だな」
「そうだな」
よし!ライブ成功させて、もう一回告白するぞ!
「それにしても、仁奈ちゃん可愛いかったなぁ。ナデナデしたいまである」
「ロリコン?」
「違ぇよ」