『アイドルになる』とは言っても、いきなりデビュー出来る訳ではない。しばらくは、レッスンの毎日が待っている。
学年が上がる少し前に、私・両親・新しい担任・進路指導の先生・生徒指導の先生で面談をした。
前代未聞のことなので、先生達は狼狽していた。すぐにデビューして学校を休みがちになるとかはないこと、成績を落とさないようにすること、公にしないことなどを話し合った。
「まぁ、いきなり『アイドルになりました』って言われたら混乱するわな」
モシャモシャと菓子パンを頬張りながら、比企谷が答えた。2年になってから最初の昼飯時。
「それもだけどさ、比企谷と同じクラスになれなかったのが残念だよ」
「ふっ、俺は神谷と同じクラスにならなくて良かったと思ってる」
え?私のこと嫌いなの?
「安眠を邪魔されないからな」
「そっちかよ!!」
「まぁ、あれだ、アイドル候補が同じクラスに居たら、ドキドキして眠れん」
「そ、そっか」
「放課後とか休みはレッスンなのか?」
「まぁ、そうだな。比企谷と本屋から行ったり出来ないなぁ」
「…そっか」
ちょっとからかってみよう。
「私とデート出来なくて、残念なのかな?」
「ち、違ぇよ」
ちょっと慌てた?少しは残念に思ってくれてるのかな?
「そういえば、神谷は国語の課題やったか?」
「『高校生活を振り返って』だっけ?半分ぐらい書いてある。締めはアイドルにスカウトされたことかな」
「すげえな。俺、書くことねぇんだけど」
「いやいや、入学式の日に事故にあったなんて、盛りだくさんだろ!」
「それ以外はなんもねぇからな」
「じゃあ、私とデートしたこと書けば?」
「ばっ、あ、あれは…」
そんなことを言っていると予鈴が鳴った。
「ヤバッ!戻らないと」
「またな、神谷!」
「比企谷!間違っても『リア充爆発しろ』とか書くなよ」
「わかってるよ」
と、話をした数日後。
「神谷、お前のせいだ」
「何がだよ」
昼休み、ぐったりしながら比企谷が言ってきた。
「お前がフラグ立てるから…」
「まさか、本当に書いたのか?」
「若干アレンジはしたが…」
なんで書くかなぁ。
「んで、国語は平塚先生だよな?呼び出されたとか?」
「それだけじゃない。変な部活に強制入部させられた」
何その少年漫画みたいな展開。
「んで、何部なんだ?隣人部?」
「違ぇよ。奉仕部だよ」
なんか、エロい。
「いかがわしい部活なのか?」
「そんな部活、先生が強制入部させるかよ。簡単に言うと人助けだよ。なんてったかな『飢えた人に魚を与えるのではなく釣り方を教える』だっけな?」
「面倒くさそうだな」
「出来れば行きたくない。でも行かないと、平塚先生のファーストブリットが…」
え?平塚先生も『こちら側』なの?
「でも、依頼さえなければ読書出来るしな」
「じゃあ、がんばんなよ」
「いや、がんばりたくない。働きたくない。夢は専業主夫」
「なんだよ、それ。機会があったら遊びに行くからさ」
「来なくていいよ」
そのうち行ってやる!