283プロ短編集   作:Garbage

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放クラ最大の危機!?

 

 

 

「果穂、テスト勉強は大丈夫か? 最近ドラマの仕事が入って忙しいみたいだけど……」

 

 雛鳥がいつまでも雛鳥なんてことはない。親鳥から餌をもらい、成長して飛べるだけの翼ができあがるとやがて巣から飛び立って独り立ちする。鳥ですらそうなんだから、アタシたち人間だってそうだ。子どもはいつまで経っても子どもじゃないし、永遠に12歳のままなんて日曜夕方にやってるあの御長寿アニメくらいでしかあり得ない話だ。そんなことは学校で先生から教わらなくたってわかってる。わかってるからこそ、いつか来るとわかっていた現実が受け入れられないんだ。

 

「樹里ちゃんに言われなくたってわかってます! あたしのことはあたしでやりますから!」

 

 アタシの顔を見るたびに「樹里ちゃーん!」と飛びついてきた子犬は、もうそこにはいなかった。アタシにも経験があるから何も言えないけど、アタシが反抗期を迎えたと知った時の両親はこんな気持ちだったんだろうな、と思ってしまう。まだ人の親ですらないのに。

 

「お、おう……」

「そもそも樹里ちゃんにあたしの成績のことで口出しされたくないです! 失礼します!」

「なっ……おい待てよ果穂!」

 

 なんか物凄く失礼なことを言われた気がする。でも、アタシの中には怒りよりも心にぽっかりと穴が空いたような気持ちが残った。そんな切ない気持ちが消えないのはなんでなんだろうな。アタシにはよくわかんねえや。

 

 

 

 

 

 

「これはあたしの宿題です! いつまでも夏葉さんに助けられると成長できないんで口出ししないでください!」

 

 私は言葉を失った。そこに私の知っている果穂はいなかったからだ。これが所謂反抗期というものなのだろう。私にだって経験があるし、そもそも有栖川家に生まれながらもアイドルという相反する世界に飛び込んだ私のこの行動もまた両親や家族からしてみれば反抗と見られてもおかしくないからだ。

 

「か、果穂? どうしたの? 何か嫌なことでもあったの??」

「夏葉さんには関係ありません! 身体だけじゃなくて頭も鍛えてください! 想像力に欠けてますよ!」

 

 口調こそいつも果穂みたく敬語なだけに、よりグサリと言葉の端々が刺さる。そもそも同じユニットで、年齢や経験を無視して対等な関係にあるとはいえ、この果穂の物言いは年長者として注意しなければならない。それなのに、私は口を開き、言葉を紡ぐことができなかった。

 

「邪魔です、どいてください!」

「か、果穂!? どこへ行くの!?」

「勉強に集中できるところに行きます! レッスンまでには戻るってプロデューサーさんに伝えておいてください!!」

「っ!?」

 

 私の双眸からポロリ、ポロリと零れ落ちる涙。私はスマートフォンを取り出すと、その勢いのまま樹里に、凛世に、智代子に泣きついていた。

 

 

 

 

 

 

「……果穂さん、何か悩み事でもあるのではありませんか? 凛世は非才の身ですが、悩んでいる果穂さんの力になりたいと……」

 

 誰もいない事務所に一人、難しい顔をした果穂さんがいました。いつも元気で、真夏の太陽のように明るい果穂さんからは想像もできない様子に、凛世は事の重大さを思い知らされました。いつも冷静で常に私たちを導いてくれる夏葉さんがあそこまで取り乱すのも頷けます。

 

「凛世さん……り、凛世さんには関係ありません!」

 

一瞬何かを言いかけた様子の果穂さんでしたが、すぐに険しい顔に戻ってしまいました。

 

「果穂さん……ですが……」

「しつこいです! うっとうしいから、もうあたしに構わないでください! あたしはプロデューサーさんじゃないんです! プロデューサーさんがいないと何もできない凛世さんとは違うんです!」

「うう……」

 

 プロデューサー様、夏葉さん、樹里さん……申し訳ありません。やはり、凛世では力不足でした。ただ、果穂さんを見て思うのです。故郷の両親および歳の離れた妹である凛世を甲斐甲斐しく見てくれていた姉たちの愛の深さというものを。

 

 

 

 

 

 

「果穂、みんなから話は聞いたよ。何があったか知らないけれど、みんなに八つ当たりみたいなことをするのはよくないんじゃないかな?」

 

 事務所のソファに気怠そうに座っている果穂を見つけた私はここ数日の果穂の態度を問い詰める。樹里ちゃんも夏葉ちゃんも凛世ちゃんも果穂の変化に動揺して果穂を注意することができなかった。そこで白羽の矢が立ったのが私、園田智代子なのです。

 

「ちょこ先輩には関係ないじゃないですか!」

「関係なくなんかないよ! 果穂は私たち放クラのリーダーでセンターなんだから!」

「っ……」

「ジャスティスVも一緒だよ! レッドがしっかりしてみんなをまとめないと悪の組織から地球を守れないでしょ?」

 

 ここで果穂の大好きなジャスティスVを引き合いに出すあたり私は自分のクレバーさに自分で驚いちゃう。しかし、それを聞いた果穂の取った行動は私の想像の斜め上をいくものでした。果穂は立ち上がると、私の制服の裾を捲り上げて私の脇腹をぎゅむっ、と掴んできたのです!

 

「ひゃっ!?」

「……ちょこ先輩、またおなかがぷにっとしてます! 夏葉さんにあれだけ言われてるのにどうしてまたこうなっちゃうんですか!」

「そ、そ、それとこれとは話は別……」

「別じゃありません! 自分で自分のことを管理できないちょこ先輩にあたしのことをとやかく言われる筋合いはありません!」

「はうっ!?」

 

 樹里ちゃん風にいえば、逆転サヨナラ満塁ホームランを打たれたような、そんな衝撃が走りました。みんなごめん、ここで言い返せなくなった園田智代子はやっぱり不肖のアイドルです。

 

 

 

 

 

 

 

 重苦しい空気が事務所を包む。アタシも、夏葉も、凛世も、チョコも誰も果穂に寄り添ってやることができなかった。果穂はアタシたちの中で一番しっかりしてると思いきや、年相応の子供っぽさも備え持っている。アタシたちは自分たちが思っているよりも果穂に重荷を背負わせちまってたのかもしれないな。

 

「果穂さん……」

「これからはもっと果穂のことを考えて接する必要がありそうね……」

「考えて接するって?」

「例えば……もう少し距離を取るとか」

「距離を取るって……それしかないのか?」

「難しい年頃だもん、しょうがないよ……」

 

 夏葉の言葉にアタシたちは頷くことしかできなかった、そんな時だ。事務所のドアが勢いよく開いたのは。そこには果穂が立っていた。アタシたちの話を聞いていたのか……ただ、それにしては様子がおかしかった。

 

「果穂……みんなに言いたいことがあるんだ」

 

 すると後からプロデューサーが入ってきた。俯く果穂の背中をプロデューサーが押したのを皮切りに、果穂が顔を上げた。果穂の目は涙で真っ赤に染まっていた。

 

「みなさん……ごめんなさあああい!!」

 

 大泣きしながらアタシたちに謝ってきた果穂の手には今度果穂が出るドラマの台本が握られていた。ホームドラマの大御所脚本家が手がけるそのドラマにおいて果穂は思春期で主人公の父親と激しくぶつかり合う娘を演じることになっていた。

 

「や、役作り!?」

「はい……あたし、反抗期っていうのがまだよくわからなくて……」

「まあそうだよね。果穂はまだ小学生だし」

「それで、プロデューサーさんに相談したんです。そうしたらみなさんにあえてひどい態度を取って練習したらってことになって……」

「そうだったのね……」

「んだよ、慌てて損した気分だぜ」

「ですが、演技の練習で良かったです……果穂さんのためにもなりましたし」

 

 どこか釈然としないところはあったけど、凛世の言葉がそれを吹き飛ばしてくれた。アタシたちからしてみれば、果穂はかけがえのない仲間であり、大切な妹のような存在だからだ。妹の成長を喜ばない姉なんていないもんな。

 

「それにしても果穂の演技すごかったよ! 私たち全員の心を抉る言葉だったし!」

「はい……果穂さんはきっと素晴らしい女優さんになれると思います」

「えっ、あたしが女優さんですか……? で、でもあたしは何もしてないですよ? 演技のアドバイスをしてくれたのはプロデューサーさんですし……」

 

 ん? プロデューサーがアドバイスを???

 

「はい、みなさんに対するひどい言葉は全部プロデューサーさんが考えてくれて……」

「あっ、待て果穂!」

 

 アタシは果穂にこう言われた。「樹里ちゃんに成績のことで言われたくない」と。冷静になって考えると、この言葉ってアタシの頭のことを言われてるってことだよな……

 

「私は果穂に身体だけではなくて頭も鍛えろって言われたわ」

「凛世は……プロデューサー様がいないと何もできないと言われました……」

「私は太ったって言われた……これ、プロデューサーさんが果穂に吹き込んだんですか!?」

「さーて、俺は書類作業に……」

 

 アタシはバスケをやってた頃以上に機敏な動きでプロデューサーの前に回り込む。指の骨を鳴らすと指が太くなる、って言うけどそんなの構うもんかとポキポキ腕を鳴らす。

 

「待ちなさい、樹里」

「止めてくれんな夏葉。コイツ一発殴らねえと気が済まねえ」

「夏葉……ありが」

「人の身体は思っているより硬いものよ、変に殴れば樹里の指の骨が折れてしまうわ。これを付けなさい、私のメリケンサックよ」

「なんでそんなん持ち歩いてるんだ!?」

「さあ、思い切り行きなさい! 私の分まで!」

「サンキュー、夏葉……アンタはやっぱりアタシの仲間だ!!」

 

 夏葉が羽交い締めして動きが封じられたプロデューサーの腹に渾身のボディーブロー一閃。あの時のスケバン役の経験が活きる機会がこんなところで来るとはな。

 

「ぐぼぇっ!?」

「プロデューサー様……」

「り、凛世……助け……」

「凛世は……凛世は……ブチ切れてございます……」

 

 河原で氷鬼をした時も思ったけど、凛世って動くのめっちゃ早いよな。夏葉が押さえつけて動けないでいるプロデューサーの靴を脱がすと、目にも止まらない早さでプロデューサーの足をくすぐり始めた。

 

「あっひゃっひゃっひゃっ!……や、やめ、凛世……俺はくすぐりに弱い……」

「凛世は……今日この時まで……ずっと悲しく……奥歯を砕くほど……」

「いや、それ中の人ネタ……じゃなくて! 今回ばかりはプロデューサーさんの味方はいませんよ! 園田智代子、行きまーす!」

 

 チョコはチョコでそそくさとプロデューサーの脇腹を人差し指でツンツン。凛世のくすぐりもそうだけど、アレはアレでやられるの嫌だよな。でも、アタシはプロデューサーに容赦する気はない。

 

「さあ行くぞもう一発!」

「樹里、顔はダメよボディになさい!」

「そのネタ、古くない? なんで夏葉ちゃん知ってるの??」

「プロデューサー様……無駄な抵抗はおやめください……凛世たち4人に勝てるはずもなく……」

「何言ってんだ勝つぞ俺は……」

 

 数ヶ月後、果穂の出たドラマは視聴率20%超えの大ヒットドラマになり、果穂が女優として注目を浴びたのはまた別の話。そしてチョコが夏葉にみっちりしごかれたのも、また別の話だ。

 

 

 

 

 

 

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