ダンまちに黒龍ミラボレアスがいるのは間違っているだろうか? 作:リーグロード
我が名はミラボレアス。伝説の厄災と呼ばれるおとぎ話でしか語られない存在だ。
そんな我だが、元はただの人間だった。数人の不良を纏めて悪さするただの悪ガキの親玉だった。
ある夜、バイクで法定速度を超えて走っていたらトラックに撥ねられて死んだ。
そこから先の記憶は朧気で、気が付いた時には辺りが黒焦げで木々が燃えていた。
なんでこんな場所にいるのか? どうしてこんなことになっているのかも分からない。
そんな分からないことだらけの状況だったが、自分のことだけは分かった。
首が無駄に長いだけあって体全体を見ることが出来た。黒い鱗に覆われて、立派な翼と首同様に長い尻尾を持つドラゴンの体。
俺はこの体を持つドラゴンを知っている。
ゲームの中だけの存在で、そのゲームの中でも特にヤバい強さと設定を持つモンスター。
それがこの我ミラボレアスだ。この我という一人称も元は俺だったのだが、この体になってから偉そうな喋り方じゃないと何故か違和感や落ち着きのなさが出てきてしまう。
何故こうなっているのかは分からないが、別段この口調に困ったことはない為どうでもいいことだと無視している。
この体になって早数年以上の月日が経つ。当初はここはモンハンの世界かとも思ったが、我以外に知っているモンスターは一匹もおらず、西洋なんかで語られるゴブリンや恐竜モドキなどといったモンハンではおよそ登場しそうにないモンスターが地上に生息していた。
試しに近づいても我が少し近づくだけで脱兎のごとく逃げ回る様子からしてただの雑魚だろうな。
最初は人でも探そうかとも思ったが、この体で人に出会ったらどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。
大人しくどこか秘境にでも身を隠すかと思って空を飛んでいると、突如として身の毛もよだつような感覚に襲われる。
今にして思えば、あれが強者の放つ本物の殺気というものだったのだろう。
感覚を頼りに反射的にその殺気向かって来る方向に振り返った瞬間に、物凄い威力のブレスが我が身を貫いた。
突然の出来事でもあった為、慣れない飛行状態を維持できずに、そのまま地上まで真っ逆さまに墜落していった。
雲よりも高い位置を飛んでいたため、地面に到達するまでかなりの時間があったが、そのお陰で墜落の途中で態勢を立て直すことができ、無様に不時着する結果にはならなかった。
だが、ブレスが当たった部位はかなり痛かったし、地面に着地した際に手足が折れたかと思えるほどの衝撃が駆け巡った。
体の痛みに比例して頭に血が集まっていくような異常なまでの怒りが湧き上がる。
それこそ、今のふざけた真似をしくさったヤローを殺しても仕方ないくらいの殺意が溢れかえってくる。
それが声となり、咆哮となって辺りに轟いた。辺りの木々は吹き飛び、周囲の生き物は怯えて遠くに逃げていった。
ただの一匹を除いて──
「グルオオオオオオオオォォォォ!!!!!!」
大空から滑り落ちるように我の前に立ちふさがったのは、我と似たような姿をした隻眼の黒龍だった。
人間だった頃は、喧嘩の一つや二つはやってきた。それこそ骨を折るような激しい喧嘩を一度は体験はした。
だが、今からするのはそんな生易しいレベルのモノじゃない。まさに、命と命を賭けた死闘と呼ぶにふさわしい闘いだ。
「グルルルル!!!」
「グオオオオ!!!」
唸り声をあげて牽制を仕掛けあう。お互いに分かっているのだ。一つ間違えばすぐに殺されてしまうほどの実力の相手だということを。
睨み合いを続けながら少しでも相手よりも優位な場所に立とうと少しづつ移動を繰り返す。
そうこうしているうちに、先に痺れを切らしたのは隻眼の龍の方だった。
「グルオオオオ!!!」
我に向かって無謀にも突進を仕掛けてきた。何の捻りもないただの巨体を生かしただけの突進なんぞ避けてくれと言っているようなもんだ。
我は翼を羽ばたかせ飛び上がる。その下を潜り抜けるように過ぎていく。その際に、無防備な背中に向かって渾身の火炎のブレスを叩きつける。
「ゴオオオオオオ!!!」
我がブレスをまともに喰らったのだ。苦悶の雄たけびを上げるのも無理はなかろう。最初に不意打ちで喰らわしたブレスの礼はキッチリと利子をつけて返してやったわ。
そこからは激戦につぐ激戦だった。突進や尻尾による薙ぎ払い、噛みつきとブレスの集中攻撃で機動力となる翼を破壊した。
そこからは、空中戦へと移行し、一方的な攻撃を仕掛けまくる。しかし、敵もさることながら、こちらのブレスや急降下落下を利用した攻撃を巧みに避けながら、カウンターのブレスで対応してくる。
その後も闘いは続き、太陽が西の山に姿を隠そうとした時には、周囲は焦土の海と化していた。我は頭部の一部破壊に加えて腹部がブレスの喰らい過ぎによって大火傷を負ってしまった。
それに対して、敵は翼の完全部位破壊に背中の致命傷で息も絶え絶えなのだが、その隻眼からは闘志も殺意も微塵も消えておらず、油断すれば一気に形勢逆転されそうな雰囲気だ。
既に我は頭に上った血も完全に引いており、冷静になってこの状況を判断できるようになった。
そもそも、何故奴は我に襲い掛かってきたのか? 縄張りに我が不用意に入ってしまったのか? それとも、強大な力を持つ我を恐れて始末しようとしたのか?
どちらにせよ、迷惑な話だ。ここで奴を始末することはできるが、窮鼠猫を嚙むという言葉もある。
手負いの獣ほど恐ろしいものはないとは誰の言葉だったか……。
そも、始末したとして我には何のメリットもない。まあ、今後奴に襲われる可能性が無くなるというのはメリットだが、その為には我も更なる傷を覚悟せねば目の前の龍を殺すことはできぬだろう。
メリットとデメリットを計算した上で我が取った行動は──、
「グオオオオ!!!」
視界に映るもの全てを燃やす広範囲のブレスを目の前の龍に叩きつける。
「ゴオオオオオオ!!!」
そのブレスをものともせず、奴はブレスの中に突っ込んできた。
「ゴオオオオオオ!!! ッッゴオ!?」
ブレスを抜けた先にはいる筈だった我がいないことに奴は困惑する。その肝心の我はというと、既に雲の上に飛んでこの場から去っていた。
我はこのまま奴と死ぬまで闘い続けるよりも、さっさと逃げることを選んだ。
どこか誰にも見つからない場所でこの傷を癒さなければ……。
瀕死というわけではないが、かなりの傷を負っている。
もし、あの龍と同じ強さのモンスターや人間がまだ他にいるというのならば、この傷はかなりマズイ!
そのまま飛び続けること数時間、この体になったおかげか、大地に流れる力、仮にこれを龍脈と名付けるとしよう。
我はこの力を使うことでブレスやこの巨体を浮かび上がらせるほどの浮力を得ることができる。
そんなファンタジーな力が集まる場所で休めば、この傷も早く治せるだろう。それに、先の闘いでブレスや飛行を使用し過ぎた。
そのため、今の我には龍脈のエネルギーが枯渇しかかっている。早急に龍脈の集まっている場所を探さなければ、今のこの飛行状態も維持できずに墜落するかもしれん。
時々龍脈が集まる場所を見つけもするが、そのすぐ近くには街が栄えてあり、不用意に降り立てば討伐対象になりえるため断念した。
ここまで見つからないとなると、あの時奴にとどめを刺さずに逃げたのは正解だったやもしれん。
「ハァ、ハァ、ハァ、グルルルッ……」
ついには自然とよだれも垂れだしてきた。これはゲームでもモンスターが疲労状態になった証だ。
かなりマズいな。多少のリスクを背負っても街の近くの龍脈に居を構えるか、人目についていないあまり龍脈が集まっていない場所を拠点にするか。
安全策で言えば後者だが、あの龍レベルを今後も相手にする可能性を考えれば前者だ。
これは言い換えれば腹を斬って死ぬか、頭を割って死ぬかの2択を迫られているようなものだ。
くっ、まさかこの異世界に転生して数年は経つが、こんな選択肢を迫られるとは……。
こんな事になるのならば、人目に触れない龍脈を早々に見つければ良かった。そんな後悔を抱きかかえたまま飛行を続けていると、遂に龍脈のエネルギーが切れかけた時に、遂に理想的とはいえないが、そこそこの龍脈が集まっており、人が集まっているとはいえ街ではない村程度の集まりだ。
森の中には我が巨体が収まるほどの洞穴もあり、そこに住んでいた先住民の熊には悪いが出て行ってもらった。
それから数日、生き物は一匹も近づいて来ず、あの隻眼の龍から受けた傷も表面上は治ってきたが、枯渇しかけた龍脈のエネルギーは未だ満タンには程遠い。
そんなある日、我が仮の住処に足を踏み入れた者がいる。
「ひえぇっ!??」
「グルアアア?」
これは厄災と呼ばれる黒龍とやがて英雄と謳われる少年の出会いだった。