魔法の杖ってドロップアイテムだけじゃないの? 作:星火 悠瑠璃
前後編、で終わる自信がなかったのでこの表記です。特に予定は決まってないのでやっぱり前後編でよかったじゃん、とかにもなりかねませんが。
ということで、ようやくあらすじの一部回収です。
つまり、杖に関しては次回に続くんじゃぁ(度々すみません)
が、多分ここで切る方が自然だという流れに身を任せました。結果、次回がチュートリアルです。それに関しては間違いございません。
では、ごゆるりと。
「…私この後じゃなくて、明日っつったよな?」
どうもすみません。
明日、という約束の日時を大幅に早めての再会となったことに戸惑いを隠せないご様子。私もですが、止めきれなかったのはこちらの過失にあたるので文句は言えません。
都から来た女性はクリスと名乗りました。都で研究者として引きこもり生活をしていたところを人手不足を理由にこの町に飛ばされてきたと付け加えました。
私が学校に通ってた頃の顔なじみの先生による案内の下、私たち3人は応接室に通され、そこで明日話す予定だった内容を話すことになりました。
新校舎は未だ建築中の模様でどこか建材の匂いが漂っています。応接間はその臭いを誤魔化すためか春先だというのに雨戸を開け放ちっぱなしで、寒い。クリスさんだけはさっきまで活発に動いていたのか外套を羽織っていないのに、身体中の筋肉が自然体で微塵も凍えていません。
クリスさんに勧められるがままに席に着いた私は、もう一度突然押しかけたことについてお詫びしましたが、別に今日中に片づけなければならない物は無いからと言って下さいました。あの、ネリ姉さん? お茶菓子を漁らないでください。
因みに突然今日学校に来ることになった事について、縷縷に説明すると一言、お前も押しの強いのに囲まれてるなぁ、と突然素に戻ったかのように遠い目で呟いたものですから、私もネリ姉が勝手に3人分注いだお茶に目線を落とすしかありませんでした。
「ところで、クリスさんは何で私に?」
「昔の知り合いからの推薦でな。お前さんが適任だろうと言われた。無碍にするのも何な相手でな。取り合えずどんな人間なのか、確かめてみたってとこだな。」
クリスさんは時折、思い出したかのように硬い男性的な口調になります。ですが、どうやら砕けた男性的口調と言うべきでしょうか? 姉御肌という方が正しいのかもわかりませんが、とにかくフランクな姉貴分的な素が見受けられます。
私を推薦した人間というのも気になりますが、名前を出さないということは相手の方も知られたくないということなのでしょう。私自身名前だけ知られているということがないわけではありませんから、少しだけ気になる程度、といったところでしょうか。
「定期的にお願いしたい仕事内容の説明をしてもいいか?」
「あっ、はい。構いません。ですが、私も家が農家なので繁忙期などは全くこちらに顔を出せない期間もあり、普段も農作業がひと段落してからとなると時間も限られたものとなってしまいますが。」
「そちらについては私も承知しているよ。」
クリスさんは足を組み替えながら、ティーカップをテーブルに置きました。ちなみにネリ姉は追加のお湯を沸かしながらお茶菓子を食んでいます。さっきからパリポリと聞こえてきます。なんで私より年上なのに成長期なのですか?
正直必死にシリアスな雰囲気を演出しようとしているようにしか思えませんが、静かにクリスさんは話を進めます。
「これから数か月後、この学校の建築にひと段落が付いたら、ここが魔法使いの養成所の拠点となることは知っているか?」
「いえ、新しい学校ができると聞いた程度です。」
ふむ、と私の答えに数舜考えるそぶりを見せた彼女は、再び口を開きました。
「私個人としては研究助手と指導助手を頼みたいところなのだが、後者ともなると君自身も都での授業の数倍の速度で学ぶことが求められるだろうな。どうだろう、報酬としては週5の場合、これぐらいを提示してもいいのだが。」
クリスさんが懐から取り出した二の腕ほどの長さの杖、それの一端を掴む手の内が淡く光ったかと思うと、廊下の方から一枚の紙が飛んできて、私の目の前のテーブルの上にひらりと止まりました。
そこにはやけに0の多い数字。
「えっと、これは、年収ですよね? 先ほども言った通り繁忙期などは」
「いや、月収だが?」
「へっ!?」
私の鉄面皮が音を立ててすっ飛んでいった気がします。驚いたような顔で私を見るネリ姉が、私の持つ紙に目を向けて一言。
「確かに農家の次女じゃ、そう見ない額よね。」
「それもそうか。だが、魔法に携わる人間としては少ない方なのだがな。」
「いや、貴女のような研究漬けや、魔導師と比べられても可哀そうよ。」
ネリ姉とクリスさんが何やら話していますが、耳に入ってきません。
見かねたネリ姉が声をかけてくれました。
「大体この額だとまぁまぁ儲かっているとき、ソラちゃんのところのお店の数か月分くらいかしら。」
「しかも、それ繁忙期の事じゃないですか。えっと、具体的な仕事内容をお伺いしても?」
ここまで都合の良い話だと一周回って心配です。とてもブラックな業務内容なのでしょうか?
そう問いかけると、クリスさんはチッと舌打ちしてコイン(銀色に光りませんでした?)をポケットから取り出し、ネリ姉に向けて親指で弾いて一声かけました。
「私の負けだ。これで屋台で好きなもん買ってこい。」
「わぁい、ありがとうございます。 じゃっ、りゅーちゃん? 親御さんに相談しても、まぁ、多分就職確定だけど、ちゃんと相談して決めるのよ?」
そう早口でまくし立てると、もう修道服の姿は部屋には見えませんでした。
取り合えず、クリスさんの方に向き直ると、彼女は力ない様子ながらもにかッと笑いながら、一転して和やかな雰囲気のままに言葉を紡ぎ始めました。
「わりぃな、そも都と地方じゃ物価も違うからあっちの雇用感覚で話せば、当然金額は高くなる。私は話も聞かずに働くのを決めるに賭けた。んで、アイツは警戒して詳細を聞くに賭けたんだよ。」
ポケットに残ってた数少ない金なんだがなぁ、とポツリと呟いたクリスさんの姿はどこか哀愁が漂っていました。本当に都ではお金があったのか心配になります。
「都でしか扱わない貨幣をここで両替すれば金になるんだがな。即金で払わなきゃならないもんは御免だな。」
そう言って私に見せたのはクリスタルで出来た5円玉のような物体でした。
「これがこっちの金貨5枚分だと思ってくれて構わない。」
「もうインフレにいくら驚いても足りない気がしてきました。」
「都から派遣された魔導師は地方じゃ圧倒的な財力を持ってるからなぁ。但し武功とか優秀な生徒引き抜き合戦を真面目に取り組んだ奴等な。私はそこらへん真面目にやってなかったから、良くてさっきの嬢ちゃん所と同等。」
「それでも街でトップクラスの財力なのですね...」
そんな貴重なお金を懐にしまい込んだ彼女は笑いながら、そこらへんの価値観の知識も仕事する場合は覚えなきゃな、と言いました。
そういえば、彼女に私のことを紹介したのはやはり、ネリ姉さんであったのでしょう。二人がいつ示し合わせたのかもわかりませんが、以前から知り合いであったのなら二人が賭け事なんてやってた理由も合点が付きます。それにアポとずれても問題なくお話しできたことにも。
「まっ、今のはこれからそういう金に物を言わせる奴らがじゃんじゃかやってくるって話な。」
「商人の方ならば、そういった事情には詳しいかもしれませんが、とても私には縁のない世界ですね。」
「そっ、つまりは基準自体が違うから給与は増えるって話さ。」
外貨が大量に流入することによる弊害など、政治家や商人さんからすれば頭の痛い状況なのかもしれませんが、確かに一介の村娘の私などからすればこれ以上ない仕事の一つと言っても過言ではないでしょう。
「まっ、私の異端研究が実用化されなければ、君にゃ無関係な話だがな。」
「はい?」
突然、犬歯を剝き出すような笑みと共に冷たさを帯びた声で告げました。
「さっき見せた都の硬貨、あれが使えるのは魔力の使い方を知っている奴だけ。」
君は10、いや、100年に一人と言っても良い『微塵も魔力を持ちえない』人間だからな。
その言葉に、私の思考は今度こそ完全に停止しました。
正直、何度クリスさんにキセルを吹かせないように苦心したことか。
・言葉遣いと魔女というワードのおかげで、『魔女の旅々』のシーラさんが頭から抜けませんでした。シーラ先生とフラン先生のバディが過去現在どちらも微笑ましかったので、多分私の中の魔女像の一つとして留まり続けるんだろうな、とも思ってます。
なので私の中でシーラさんとのダブりが消えたら容姿の描写を加筆します。ご迷惑をおかけします。
・破戒シスターは正直何でこうなった、としか思えません。暴食シスターは多くの作品で覚えがあります。ですが、執筆直前に某映画祭の雑誌で、修道院を舞台としたある有名な映画のあらすじを読まなければ、多分ここまで破天荒にはならんかった。
来月観に行きたい(見に行く暇がなかったよ…by1年後の私)。
ということで、こうしてキャラの裏事情で考えないようにしてますが、魔力云々の説明なども含めて「RPGにおける設定の説明」のノリですので、続きます。
察しの良い方は「RPGにおける●●」がまだいくつかあるとお分かりになっていると思います。
つまり、ここまでRPGにおいてはプロローグの「旅に出る動機」が入る、前の描写です。我ながらどれだけかかってるのでしょう。
ということで、次回「魔女の誘い2nd」何で彼女は選ばれたのか? です。
では、また。