ガンチャンで配信されていたリライズを見てだだハマりしたので、衝動的に書いてみることにしました。
機動戦士ガンダム。
今世間で最も熱いサブカルチャーである。
特に、版権元の販売するプラモデル、通称ガンプラの出来映えは素晴らしく、その技術は世界的に見ても完全なオーパーツと言われる。
ガンプラを作るビルダー達がその黎明期より抱き続けてきた永遠の夢、自分のガンプラで戦いたい。
それをかなえる夢の世界が実現した世界。
ガンプラバトル・ネクサス・オンラインと言う名の、仮想現実を利用したオンラインゲーム。地上、宇宙、コロニーを網羅する広大なフィールドで、自分の作ったガンプラを操縦し、世界中の皆とその楽しさを共有できる、夢のような世界。
世界中の皆が熱狂するこの世界に魅せられた者がまた一人、ガンダムベースのガンプラコーナーに足を踏み入れた。
その存在がGBNに何を巻き起こすのか。
今また、一つの冒険が幕を開ける。
Episode 1 0030さん、GBNに立つ
日下白川(クサカ・ハクセン)以降:クサカは普通の高校一年である。極めて画数の少ない得な名前をネタにされる意外特徴の少ない、割と大人しい温厚で善良な人間であり、あまり目立つことのない人生を送ってきた。
その日も彼は、平穏無事な学校生活を終え、何事もなく帰宅する予定であった。期末試験も終わって夏休みも秒読みという希望に満ちた時期でもある。
「よ」
そんな彼の家の前で、待ち構えていた人間がいた。
「ん? ミオちゃん?」
何かしら箱の入ったビニール袋を片手に、玄関前で少女が手を挙げている。竜波ミオ(タツナミ・ミオ)以降ミオ、彼のお隣さんである。黒のロング、三白眼気味のジト目が特徴的な小柄な少女だ。
中学までは通う学校が同じだったこともあり、登下校などで会うことも多かったのだが、中学卒業後は違う高校に進学してしまったこともあり会うことは少なくなっていた。
そんな彼女が態々待ち構えているとはどういう事か。
(いきなり一体どうしたんだろ。連絡も無かったし。もしかして久しぶりに金貸せとかそういうのかな。いやいや、流石にもう良識ある高校生だしそんな。それとも新しく出来た喫茶店でお菓子奢れとか? あーいや、ゲーム貸して、かも。小学生の時に貸した奴、まだちゃんと壊さず持っててくれてるのかなぁ)
急にムムムと唸り始めるクサカ青年。それを目撃したご近所さんは「ああ、また虐められとるんか」と溜息を吐いた。
しかしミオはあまり気に留めた様子もなく、手に持った袋を掲げて見せた。
「これ、手伝って」
「これ?」
意識を現実に戻したクサカはビニール袋を透かして中の箱を覗き込んだ。
パッケージに描かれていたのは、劇画調で描かれた巨大な大砲を担いだロボット。その特徴的な面構えから、彼は瞬時にそれがガンプラであるとわかった。
「ええっと、ふるあーまーZZがんだむ?」
彼もガンプラを見たことはある。素組みではあるが、幾つか小学生から中学生辺りにかけて製作したこともある。しかし、このパッケージはそれらに比べると、随分と時代がかった雰囲気を放っていた。
「別に良いけど、ミオさんガンダムなんて好きだっけ?」
「んん。知らない」
軽く首を振って否定するミオの表情はムスっとしているようにも見えるが、これが彼女の標準である。
「じゃあなんでいきなりガンプラなんて?」
「ガンダムは知らないけど、GBN、やってみたい」
なるほど。
クサカはポン、と手を打って納得した。
彼はあまりアクション系のゲームが得意ではない上ガンプラに関してもやりこみ勢ではないので、GBNは見る専である。しかし、最近GBNで特大イベントが開催されたことは知っている。世界中のプレイヤーが有名フォースのネストに集まり、異世界からの侵略者を撃退するという奴である。名だたるトッププレイヤー勢の活躍はめざましく、彼も配信動画を見ながら熱くなったものだ。
「ミオさんもあの動画見てたんだねぇ」
「ん。だから、早く」
しみじみとしたクサカの言葉に頷きながら、待ちきれないと言うようにミオはクサカの手を取り、ガンダムベースに向かって歩き始めた。
「わ、わかったから。荷物置いてくるまでちょっと待ってて」
彼らの住む街は、東北のとある田舎県に存在している。田舎と言っても県庁所在地はそれなりに大きく、彼らの家もそこにある。
そしてガンダムベースとは、その名の通りメーカーの運営するガンダム関連商品専門の総合施設である。当初は都市部にしかなかったそれだが、GPDに始まるガンプラの人気急上昇を受け、今や全国に展開されている。各種販売コーナーだけでなく、飲食店やガンプラの製作スペースもあり、購入したガンプラをその場で組み立てることも出来る。GBNの筐体も大量に設置されており、ここに限ればゲーム内で入手したBCをプレイ料金に充てることが出来る等、お金に余裕のない未成年者にも優しい。
そんなガンダムベースの製作スペースに、ミオとクサカは腰を落ち着けた。
「うーむ、これは……」
「ムムム」
そして早速ミオが持ってきたフルアーマーZZ(先日購入したものの一人で作るのが不安だったのでクサカを巻き込むことにしたということを、わかりづらい会話からクサカは察した)の箱を空けて見たのだが、クサカは難しい顔で唸り、ミオは頭に?マークを浮かべた。
なぜか、パッケージに書いてある機体と、中に入っている部品の色が違う。未塗装なのかと思ったが、そもそもからして違うような雰囲気である。一体成形の多用されたパーツとやたら細かいパーツの二種類が混在しているのも、彼が作ったことのあるガンプラとは異なる。説明書も見やすいとは言えず、彼が作ったことのあるガンプラに比べると、とても事務的だ。
「これは……面倒なことに……なった……」
「とりあえず、やってみる」
どこから手をつけた物かと考えあぐねるクサカを横目に、フンスと気合いを入れたミオがランナーを手に取るが、その目は説明書を見ておらず、ニッパーの類いも持っていない。
「んん? こうすれば取れる?」
「ヤメ、ヤメロォ!! 手順がわからなくなるぅ!」
グリグリとパーツを回し、ランナーからパーツをねじ切ったミオを慌てて制しながら、クサカは思ったより大変なことを引き受けてしまったと、心の中で溜息を吐いた。
それから二人は、慣れないプラモ作りに悪戦苦闘した。その苦闘振りたるや、途中店員が自主的にアドバイスを送ろうと思う程である。単純な素組みにも関わらず、既に日が傾き始めるほどの時間が経っていた。アドバイスに来た店員の曰く、このキットは所謂旧キットというモノであり、現在の仕様とは大分異なるガンプラである事も、彼らの苦労の原因であった。一部には接着剤が必要な箇所もあり、じゃんけんで負けたクサカがその場で購入する羽目になった。
そしてこれはフルアーマーZZと言う商品名であるが、実質的にはFAZZと言う別機体のキットとなっている。その所為で両方の要素が混在してしまっており、頭部やバックパックの形はフルアーマーZZの形でありながら、色はFAZZが元になっている等中途半端な商品になっている。
「あー……だから設定と色が……」
「いやぁ、何か隅っこに残ってた旧キットを躊躇無く買ってくもんだから、実は腕利きのビルダーなのかと思ってたんだけどねぇ」
「むぅ。言ってくれれば良いのに」
人当たりの良い笑顔でへらへら笑う店員を恨みがましく見やり、ミオはどうにかこうにか組み上がったFAZZモドキを手に取った。
ZZガンダムと言うらしい素体に外装を組み合わせた構成である故、全体的にかなりふとましく、マッシブである。白、青、薄緑で構成された機体色はいかにも塗装必須の旧キットと言った趣で、素組みしたばかりでは合わせ目も目立つ。
「……ふむ」
しかしその、何とも無骨な雰囲気が、彼女には妙にしっくりきた。
「ん」
色分けなど全くないノッペリとした頭部パーツに頷いてみる。自分と、幼馴染みで作った、自身初のガンプラ。上手くやっていける。何となく、そんな気がした。
「ミオさーん。ちょっとこっち来てくれる-?」
クサカの声に顔を上げると、先程の店員と一緒に何やらパソコン画面を覗き込んでいる。ミオも作業台にFAZZを戻すと、そちらに向かった。クサカの隣から画面を覗き込むと、どうやら彼がGBNのアカウント登録を済ませている所だった。
「よし、これで彼氏君の登録は終わり。後は、彼女さんの方もやっちゃおうか」
「いやぁ、そんなわけj」
「違う。画面見せて」
やんわり否定しようとしたクサカを遮る、ミオの有無を言わさぬ断言。同じ内容を発現しようとしていたにも関わらず、クサカはなぜか心の底から湧き上がってくる涙を密かに堪えた。店員もまた憐れみの感情を抑えきれず、笑顔を凍り付かせたクサカに心の中で涙した。
ミオも設定を終えると、店員がデータの入力されたダイバーギアを取り出した。
「これには君達のアカウント情報が入力されていて、同時にガンプラをスキャンするシステムも付いてる。壊さないようにね」
「ん」
「わかりました」
角を落とした三角形のプレートを手渡されながら、二人は頷きを返した。
「……人居ない」
シミュレーター室に入ってすぐ、ミオが漏らした感想がこれである。某超有名G-Tuberの、某大規模戦の動画でのみGBNの事を知っていた彼女からすれば、人の入っていない筐体の立ち並ぶこの場所は異質に見えた。
「まぁ、家庭用の筐体も売ってるみたいだし、そっちの方が主流なのかもね」
クサカはそう言ってみたものの、部屋の入り口辺りに売っていた家庭用GBN筐体のお値段は中々のモノである。少なくとも尋常の家庭用ゲーム機類よりは高い。彼としても、本当に人が居るのか少し不安になってきた。
「とりあえず接続してみようか。自分はガンプラ持ってないからそのまま入るけど、ミオさんは忘れないでね」
「わかってる」
クサカの注意にぶっきらぼうに答え、ミオはモビルスーツの操縦席を模した筐体に座り、ヘッドセットを被った。GBNはフルダイブ型のゲームであり、ゲームを起動すれば意識は完全にゲーム内のアバターへと移る事になる。その為ガンプラを直接動かすGPDとは異なり、自身のガンプラに搭乗することが出来る。それが最大の魅力なのだ。
ダイバーギアをセットすると筐体が起動し、灯りが落ちる。
『ID date confirmed. Please scan your Gunpla』
アカウントの認証が終わり、いよいよガンプラをスキャンする準備が整った。
「……行こう」
ダイバーギアの上に、FAZZをセットする。システムが機体をくまなくスキャンし、データ化がなされ、ゲームに参加する手続きが全て終了した。
『Log in date confirmed. Dive ready?』
表示に従い、GOを選択する。
瞬間、意識は彼らの肉体を離れ、電脳世界へとダイブした。
「おー」
目の前に広がるのは、データの海を可視化した世界。初めてそれを目にするミオは感嘆の溜息を漏らした。そして彼女の前に現れる、世界の入り口。
「うぃるゆーさばいぶ? ……物騒」
表示された英文に少々眉を顰めるミオだが、ガンダム関連のコンテンツではおなじみの文言である。ともあれ、彼女の意識は無事、GBNの世界へと到達したのであった。
眩い視界に包まれた視界が開ける。
軽いモーター音と共に開いたドアの先は、沢山のアバター達の屯する近未来的な空間となっていた。中央のカウンター上に配置されたモニターの表示から、ここがロビーと呼ばれる場所である事を、クサカは認識する。
「ミオさーん、いるー?」
「……クサカ?」
呟くような声に反応して振り返るが、視線の先に彼女の姿はない。
「あれ?」
「下」
声に従い下を向くと、長い金髪を靡かせた白いワンピース姿の少女が目に入った。一見この場に似つかわしくない清楚な雰囲気だが、その顔立ちは紛れもなく。
「女……の子……」
「何、その言い方」
彼の反応に、ミオと思しき少女は露骨に眉を顰めた。
「いやいや、何でもないない! ミオさんで間違いないみたいだね」
「クサカで合ってそう。良かった」
クサカの方は、リアルと殆ど変わらない姿のアバターである。違いと言えば丸い伊達眼鏡をかけているくらいだが、その所為で余計に温厚な印象を受ける。
「さて、無事合流できたし、どうしようか」
周りを見渡してみると、様々なアバターがいる。ガンダムシリーズのコスプレが多いが、独自のアレンジでキャラクターを作ってきた者も多い。中には獣人やエルフのようなファンタジーな格好の者や、明らかに無機物な丸いマスコットキャラクターに扮する者もいる。もしや過疎っているのではないかという予想が外れたことに、ひとまずクサカとミオは胸をなで下ろした。
彼らの流れを観察していると、どうやら中央のカウンターで処理を行った後どこかに転移していくプレイヤーが多い。
「あそこ、行ってみる」
気づいたミオがカウンターに向かい、クサカも後に続いた。どうやらそこはミッションカウンターとなっており、ここで各種ミッションを受注し、出撃していくと言うのが一連の流れらしい。個人用操作パネルの操作説明等もここで受けることが出来るようで、ひとまずフレンド登録を済ませることが出来た。
「ミオさんの名前は……0030で読みはミオか~」
「クサカの名前は、何の捻りもなくクサカ?」
なるほどと感心したクサカに対し、ミオは面白くなさげにジト目を返した。
「あー……なんか思いつかなくて。まぁ、クサカなんて苗字、どうせ沢山居るから大丈夫かなーって」
それがいかんのではないかとミオは思ったが、彼にこの手のセンスを求めることが酷である事は承知しているので、ツッコミはなしとした。
「で、ミッション?」
ミッションカウンターの表示をスクロールさせると、夥しい数のフリーミッションが現れた。単純なバトルの他にも、スポーツやレースなど変わり種の内容も豊富である。
「とりあえずチュートリアル、やってみよう。まさかシュトルヒ教官と二対一なんて鬼畜な内容じゃないだろうし」
「反動責めは、拙い」
その中からクサカは、お勧めと表示されていたチュートリアルバトル『ガンプラ、大地に立つ』を選んだ。内容は単純な殲滅戦であり、目標はプレイヤー数+一体のNPDリーオーの撃破。来たばかりの初心者には手頃な内容であろう。
「で、次は出撃のために格納庫へ……と」
操作説明を見ながら自分の操作パネルを動かすと、場所移動用の画面が表示された。
「ここが、広場。ここが、商店街? で、ここが」
「……格納庫」
クサカの操作によって次々と情景が入れ替わり、最後に巨大なハンガーの並んだ広大な空間に出た。周囲に他のアバターの姿はない。どうやら、格納庫は共有エリアには含まれないらしい。
「これが……私達のガンプラ」
ミオが見上げた先には、全高22メートルを誇る大型MS。FA-010A FAZZ。白い増加装甲を纏った巨人が、城壁のような存在感を放っていた。
しかし……
「……ボロい」
「ああ! 言わないでいてくれれば自分も黙ってたのに!」
そう、ボロい。
1/144でも目立っていた部品の合わせ目やランナーの切り損じ等が、巨大化されたことで、余計に目に付く。各種センサー等も塗装していないため、装甲とほぼ一体化してしまっており、機能しているのかすら見た目からはわからない。旧キット故モナカ割りのパーツが多いことも相まって、その姿は今にも崩れそうな様相を呈していた。
ハンガー直下の機械を操作すると、機体の状態が表示された。どうやら動けないと言うことはないらしいが、各種パラメータはほぼ最低値を指しており、設定通りの性能は望めないであろう事がわかる。
「まぁ……ガンプラ初心者のガンプラが参戦することを想定していないわけが無いと思うし……大丈夫……大丈夫……」
クサカの自分に言い聞かせるような台詞に、ミオは反応を返すことが出来なかったが、最終的にはガンプラに搭乗する興味が勝った。
自身の操作パネルを表示させ、ガンプラへの搭乗を選択する。ミオが先に乗り込み、目の前からミオが消えたことに気づいたクサカが慌てて後に続いた。ゼロシステムの様な全周レーダーの中に直立するような形であり、二人はモニターと共に現れた操縦桿を握った。
「え~っと、操作は……デフォルトだと後ろが火器管制担当で、前が操縦担当みたいだね」
「ん、了解」
準備完了の操作をミオが行うと、ハンガーに吊された機体が移動を始めた。立ち並ぶハンガーの間を抜け、通路を進み、そして、外へと通じる細長い部屋へと辿り着く。更に、足場に脚部が固定され、発進準備が整ったことが、ミオ達の画面に表示された。しかし、そこから先の操作を行う為のボタンが表示されない。
「……バグ?」
「いや、違うみたいだ」
暫くすると、発進準備を示す表示が消え、『Shout now!!』の文字がデカデカと表示された。
「あれかな? 発進のかけ声みたいな奴」
「……そっちでやって」
「え? 大丈夫かな」
オホン、と咳払いを一つ。アバターにそんなものは必要ないが、気分の問題なのだろう。まんざらでもなさそうな顔で、クサカは大きく息を吸い込んだ。
「クサカ、FAZZ、いっきまーす!」
二秒、三秒。
何も起きない。
痛々しい沈黙が、十秒ほど続いた。
「……ごめん」
「やめて! 謝らないで! 無かったことにして!!」
頭を抱えて悶絶するクサカのモニターには、実は指示が表示されていなかった。メインパイロットが言わなければならないらしい。
「仕方ない」
少々気が進まなそうにしているミオだが、クサカに無駄な恥をかかせてしまった以上、もう押しつけることも出来ない。気を取り直し、モニター越しに外の景色を見つめる。
「ミオ、クサカ、ふぁっつ、出撃」
叫ぶと言うには足りない声量だが、赤の待機状態を示していたランプが緑に変わる。一瞬後、カタパルトが作動し、少し身を屈めた状態のFAZZはリニアカタパルトによって勢いよくステージに向かって射出された。
「おお……」
凄まじい勢いで流れる景色を見送りながら、クサカは感嘆の溜息を漏らした。先程の無駄な恥を忘れるためでもある。
「……」
ミオもまた、想像していたより遙かに美しい空と森の情景に感動した。何より、自分はこの景色を自分達の作ったガンプラの中から眺めているという事に、感動したのだ。
しかし、さらに速度を上げるため操縦桿を操作しようとしたその時、彼女は異変に気づいた。
「ん、アラート?」
見れば、ブーストゲージと思しき表示が猛烈な勢いで減少している。
「ミオさん! 大変だ! 高度が下がってる!」
後ろからはクサカの悲鳴。画面表示を見れば、確かに高度計は緩やかに下降状態にある事を示していた。
「拙い」
ゲージのことは気になるが、とにかく落下は止めねばならない。前傾姿勢になっていた機体を立て直し、全推力を下方に向けて最大出力で噴射する。
「……あれ?」
にも関わらず、落下は止まりきらない。更にはブーストゲージが遂に0を示し、全てのスラスターが機能を停止した。地面まではまだそれなりの高度がある。しかし、この程度なら、動画で見ていたガンプラ達の事を考えれば問題ないのではないかとミオは考えた。事実、彼女の搭乗するFAZZモドキであっても、着地に成功すれば特に問題の無い高度ではある。
「着地する。備えて」
「りょ、りょうか……いいいいいいい!?」
地面に足が付いた瞬間、瞬時に世界が反転した。
「っ!?」
彼女達の機体は、通常のガンプラであれば着陸成功で間違いないコースを取り、地面に落下した。しかし、足の第一関節がミオの予想に反し全く稼働しなかったため、盛大に前方に向けてつんのめって行ったのである。巨大なハイパー・メガ・カノンを所持していたことも悪かった。つんのめった機体はハイパー・メガ・カノンの砲身が地面に突き刺さる反動で一回転し、バックパックから地面に落下して十数メートルの距離を滑走して停止した。
「……無事?」
「いやまぁ、大丈夫だよ。コックピットの中はひっくり返ったりしないみたいだしね……いやぁそれにしても、ビックリした」
ほっと一息吐き、ミオは機体を立て直しにかかった。機体は仰向けになっている。スラスターを使って上半身を持ち上げれば後は何とかなると思ったのだが、やはり足関節が動かない。
「故障?」
クサカが機体の状態をチェックしてみるが、即座に差し支えるようなダメージはなさそうである。ハイパー・メガ・カノンの砲身が半壊しているが、精度や威力が元と大して変わらないのは喜ぶべきか悲しむべきか、クサカは判断しかねた。
「あ、もしかして……」
足回りの状態をサブモニターで確認したクサカは、原因に気がついた。
「ああ……そういえばこいつの腰アーマーって胴体と一体化してたっけ……」
そう、腰アーマーが完全に固定されているのである。お陰で足が殆ど前に動かないのだ。
「むぅ。一旦降りる」
ミオが操作パネルをタッチすると仰向けに倒れていたFAZZが消滅し、二人はアバターの状態で地面に降り立つ。もう一度ミオが搭乗を選択すると直立状態でFAZZが再び呼び出され、また二人揃ってコックピットの中に収まった。
「つまり、歩くのは」
「難しいだろうねぇ……」
歩行による前進を行おうとするミオだが、予想通り足が殆ど前に動かないため僅かずつしか前進できない。当然後退も同じである。
「飛行も無理」
「出力全開なら一応少し浮かぶくらいは出来そうだけど」
「ブースト移動」
「それはかろうじて出来そう。て言っても、三十秒くらいしか連続で吹かすのは無理そうだけど」
「ムムム」
不満げに頬を膨らませて目を細めるミオを可愛いなぁとか思いつつ、クサカはブーストゲージの回復度合いからインターバルを計算してみた。どうやら現状ではゲージ切れまでブーストを使用した場合十秒程の強制冷却が必要となるらしい。
「歩くよりはこっちの方が速そうだし、とりあえずこのままミッションエリアまで行こう」
三十秒地面を滑り、十秒待つ。この移動を繰り返し、何とか二人はチュートリアルバトルのエリアに到達した。移動だけで既に十分ほどが経過しているが、まともな機体ならば本来一分程度の距離である。
「着いた」
ミッションエリアを示す半透明のドームを通り過ぎると、ミッションスタートのアナウンスが流れる。同時に、敵機の反応が二人のレーダー画面に現れた。モニターに目を移した二人はしかし、同時に驚愕した。
「「飛んでる!?」」
そう、本来背中にスラスターすらない、高機動オプションもついていないリーオーが、事も無げに空を飛んでいるのだ。僅かな時間浮かぶのがやっとの自分達の機体とは桁違いの性能である事が、この時点で確定したのである。
驚きのあまり硬直していた二人のモニターに、被ロックオンを示す警告が点る。
「っ」
反射的にミオはスラスターを吹かして機体を急速後退(と言っても高速機の歩行速度程度だが)させた。間一髪で足下の地面が爆発する。確認すると、肩に長砲身の大砲を構えたリーオーがこちらに砲口を向けていた。
「反撃」
「わ、わかった!」
対して、クサカはハイパー・メガ・カノンの砲身を上空に向けた。リーオーの速度はそれほど速くはなく、ロックオンは滞りなく終わる。
ハイパー・メガ・カノンのサブジェネレーターが唸りを上げ、更にバックパックとエネルギーケーブルを介して本体のエネルギーをも使用し、エネルギー充填が開始される。
「……おっそい」
チャージ開始から五秒ほど。その間ミオは動きの鈍い機体で必死に攻撃を避け続けていた。
「よし、発射!」
そして遂に、その巨大な砲口が光の奔流を解き放つ。筈であったが、発射されたビームはお世辞にも派手なエフェクトを伴っているとは言い難いものだった。
しかしながら十分な時間をかけて照準補正を繰り返した砲撃はこちらに長距離攻撃を行うリーオーの左腕に命中、その表面を融解させた。左腕は機能に支障をきたしただろうが、致命傷とは言い難い。
「……硬!?」
これだけのチャージ時間をかけて放った攻撃が、碌なダメージにならない。その事実は彼が初代アー○ードコアを初めてプレイし、チュートリアルに臨んだ時の悪夢を想起させた。
攻撃を受けてバランスを崩した砲撃型に変わり、突撃銃を構えたリーオーが降下、接近を仕掛ける。ばらまかれるライフル弾を躱せるほどの機動力があるはずもなく、銃弾が次々と装甲に着弾する。しかし、増加アーマーを纏ったFAZZの装甲がこの程度で破壊される事は……通常なら無かっただろう。
「くっ」
必死の回避行動を取るミオのコンソールには次々とダメージ表示が点灯する。何とか無くならないように気を遣っていたブーストゲージも激しい回避運動を強いられたことで底をついてしまい、強制冷却に入ってしまった。
動きの鈍ったFAZZに対し、体勢を立て直した砲撃型のリーオーが再び長砲身砲の狙撃を行う。ミオは思い通りに動かない機体を何とか逸らして直撃を避けたものの、砲弾はハイパー・メガ・カノンの中央に命中。風穴を穿った。
「拙い! 投棄する!」
ケーブル及びバックパックとの接続部を切り離し、ハイパー・メガ・カノンを放り捨てる。同時にサブジェネレーターが暴走し、ハイパー・メガ・カノンは爆発を起こした。出力の貧弱さからかその爆発の規模は小さく、何とか戦闘能力は維持された。
「なんとか、時間、稼いで」
なおも降り注ぐ攻撃を何とか誤魔化しながら、焦りの隠せないミオの声が響く。
「時間、時間……そうだ、ミサイル!」
バックパック、肩部、上腕のミサイルハッチが一斉に展開され、ライフルを連射しているリーオーに向けてマイクロミサイルを撒き散らす。精度もへったくれもない、正に撒き散らすという表現が正しい攻撃だったが、NPDのリーオーは攻撃に反応し、回避行動を取り始めた。
その間にクサカはバックパックに搭載されたダブル・キャノンを、砲撃型のリーオーに向ける。たかがミサイルの白煙にも妨害される強度の照準装置だが、ロックオンしていると言うだけでも相手の動きは変わる。上空に静止して正確にこちらを照準していたリーオーが動き出し、その後放たれた攻撃は僅かにこちらを外れて地面に突き刺さった。
「……よし」
時間稼ぎの間にブーストゲージが回復する。機体のダメージが増加しているからか、更に持続時間が短縮されているが、それでも機動力は大きく改善した。ブーストによるホバー移動を行いつつ、ミオはライフルを持ったリーオーに接近した。ミサイルは結局一発も当たらなかったようだが、何とかダブル・ビームライフルの有効射程に入る。
「これで倒せなかったら……いやいや! 倒さないと!」
クサカの照準に従い、FAZZは肉抜き後が何とも不安なダブル・ビームライフルの装着された右腕を構える。ライフルによる反撃はあるが、もう四の五の言っていられない二人は接近を止めない。申し訳程度に胸部を守っていた左腕の増加装甲が次々弾け飛び、内部の装甲が露出し、そこにも弾丸が突き刺さる。その時、不意に攻撃が止んだ。装填された弾薬を使い切り、弾倉交換に入ったのである。この好機を逃さず、クサカはダブル・ビームライフルを連射させた。
一発ではやはり貫通できない。二発目でも致命傷にはならない。三発目は外れ。四発目は右腕に命中するが、やはり一撃で破壊出来ない。五発目は片方が膝に命中、体勢を崩す。六発目以降は胴体に命中し、十発目が命中したことで遂にリーオーは動きを止めた。
「やった」
「IYATTAAAAAAAA!!(盟主王の声で)」
喜びも束の間、再びフリーになっていた上空のリーオーの攻撃が降り注ぐ。その攻撃はバックパックを捉え、ダブル・キャノンとメインスラスターが同時に機能を停止した。ショックで過燃焼を起こしたスラスターが火を噴き、直撃の衝撃も合わせて機体は前のめりに転倒した。
「ちょ、マジで!?」
コンソールで機体の状態を確認したクサカは信じられないと言うように悲鳴を上げる。バックパック機能はこの直撃によって完全に機能を停止。脱落こそしていないが、もはや復旧は望めない。正面装甲もほぼ蜂の巣であり、動いているのが不思議なくらいである。ジェネレーターを内蔵するバックパックを破壊されたことで機体出力自体も低下してしまった。
今の攻撃で弾薬を撃ち尽くしたのか、リーオーは長砲身砲を捨て、ビームサーベルを抜いた。
地面に降り立ち、逆手に持ったビームサーベルを振り上げる。これが振り下ろされればコックピットが破壊され、ゲームオーバーとなってしまう事は確実だろう。
「これが……チュートリアルバトルの……難易度……」
しかし、諦めかけたクサカと違い、ミオはビームサーベルが振り下ろされるその瞬間を待っていた。
「……今」
リーオーの右腕が振り下ろされたその時、ミオの操縦桿が動いた。
腰が回せない為、両脚のスラスターを全開にして俯せになった機体を横に転がす。ビームサーベルは左腕を貫通したが、同時に突き出された右腕が、リーオーの右腕を掴んだ。
「ミサイル、撃って」
「! りょ、了解!」
左胸の増加装甲が内側から吹き飛び、そこに収められた八発のマイクロミサイルが発射される。その軌道の先にあったのは、リーオーの右上腕。最低限の威力しか無いマイクロミサイルとはいえ、八発も集中して撃ち込まれれば破損は免れない。肘関節から先、ビームサーベルを持った上腕が爆圧によって引きちぎられる。
「っ!!」
更に操縦桿を操り、引きちぎった腕をそのまま振り回す。ビームサーベルを持ったままの腕が慣性によってしなり、ビームの刃はリーオーの胸部装甲を斜めに引き裂いた。
束の間動こうとしたリーオーだったが、メインカメラの灯りが消え、膝を着いて擱座した。
「……これで、どう」
荒く息を吐き、モニターを睨み付けるミオの前に、緑色の表示が現れた。『Mission Complete』、ミッション達成の証である。
軽いモーター音と共に、シミュレーター室の扉が開く。出てきたのは、今日新たにGBNデビューを果たした新人ダイバー二人。
「お、出てきたね。どうだった? 初GBNは……って、何かあった?」
明るく声をかけようとした店員はしかし、やつれた顔で肩を落としながらやってきた二人に気遣わしげな声をかけた。
「いやぁ、その……あれですね」
若干引きつった笑みを浮かべながら、クサカが曖昧な言葉を発する。何か言おうと思っているのだが、頭が上手く回らないらしい。
「ん……そう、あれ」
ミオも同じように言葉を濁し、二人で顔を見合わせると、思い出したように店員に向き直った。
「「GBN、超むずい(ですね!)」」
こうして新たなダイバーが二人、GBNの世界に足を踏み入れたのだった。
多分、これまで書かれたチュートリアルバトル中最も激戦だったのではなかろうか。
余談ですが、ダイバーズ第一話のリーオー三機が異様に強かったのが印象に残っています。