ガンダムビルドダイバーズ ちゃれんじゃーず   作:tbrh

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戦闘シーンはすぐに浮かんでくるのだけど……。






第三話 早速の再スタート

突風が、熱風に変わる。スラスターの熱が感じられる所まで、声の主が降りてきたのだ。

『中々やるじゃない? ちょっと時間かかったけどねぇ』

再びの声に二人が顔を上げると、目に映ったのは一機のガンプラ。

白を基調に赤と青で塗り分けられた、一見するとヒロイックな機体である。しかし、その顔には血の涙を思わせる赤いラインが走り、黒の装甲で覆われた赤き二対四枚の翼と合わせ、慟哭する堕天使を思わせる。

軽い金属音と共にアクチュエーターがしなり、そのガンプラは至極ゆっくりとした動作で着地した。

 

「……か……」

 

どちらともなく、自然に口が開く。そして、熱に浮かされたように呟いた。

 

 

「「かっこいい……!」」

 

 

 

 

 

Episode 3 早速の再スタート

 

 

 

 

 

「いやぁ、そんなに褒められると照れるねぇ。あ、俺はこの辺りで君らみたいなダイバーのお手伝いをしてる通りすがりさぁ。チーフって呼んでくれて良いよぉ」

 

ガンプラが姿を消し、搭乗していたダイバーが姿を現わす。ボサボサになった焦げ茶色の髪を適当に伸ばし、同じ色の顎髭を蓄え、厳つい顔に似合わないニヤニヤ笑いを浮かべた男である。

 

「あ、どうも。自分クサカって言います。こっちはミ……0030さん」

 

「……ミオでいい。さっきの、見てたの?」

 

律儀に数字で名前を呼ぼうとするクサカを遮り、ミオはチーフの言葉に反応した。最初にかけてきた言葉を考えれば、どうやらこの男は先の戦闘を見た上でこちらに声をかけてきたと言うことらしい。

 

「ああ、そうだよぉ。珍しい機体の上に良い動きしてたからねぇ。声をかけてみたくなったってとこさぁ」

 

一々粘っこい喋り方が今一癪に障るミオだが、クサカは気にした様子もなく笑顔で会話を続ける。

 

「あ、そっちから見てもそう思います? ミオさん凄いじゃん」

 

「ん、当然」

 

ふふん、と胸を張るミオ。ミオが機嫌を直したことに、クサカは内心少しホっとした。

 

「結構NPD倒すのも慣れてそうだし、対人戦もやってみたくなってきた頃じゃないかなぁ? よかったらかる~く、レクチャーしてあげるよぉ」

 

親指で自分を指しながら、チーフはニヤリと笑った。

 

「「……対人戦?」」

 

首を傾げる二人に、チーフは操作パネルを表示させて見せた。

 

「GBNは元々対戦ゲームのGPDから発展したゲームだからねぇ。当然、ダイバー同士の対戦要素もあるわけさぁ。やり方は色々。多数のダイバーが参戦しての乱戦、フォース同士でのチーム戦、そして個人戦。で、対戦可能なエリアでの野良バトル。ここは初心者エリアだから、設定でフリーバトルモードにしてるダイバーのみ対戦可能ってとこだねぇ」

 

「おー」

 

「なるほどぉ」

 

表示を回しながら行われる説明に、二人はフムフムと頷いた。

 

「そんなわけだけどぉ、どうする? お二人さん」

 

「どうする……って言うと?」

 

「今から俺とかる~く対戦やってみない? NPDとはまた違った面白さがあるよぉ?」

 

グイッと顔を近づけながらの提案に、ミオとクサカは顔を見合わせた。

初めての対人戦をこれ程早く経験する機会が訪れるとは予想外である。しかも目の前のダイバーは初心者である自分達に懇切丁寧に仕様を説明してくれた親切な人間。何より自分達は先程の快勝によってとても気分が良い。とくれば、二人の答えは当然。

 

「折角の提案ですし、断るのも悪いですし……」

 

「やる。提案したことを後悔させる」

 

「威勢が良いねぇ! それじゃ、そんな君達にプレゼントだぁ」

 

チーフは再び操作パネルを回し、表示された画面をクサカの方に投げ渡した。

 

「これって……さっきの機体ですか?」

 

「俺のそのままって訳じゃないけどねぇ。改造元の奴さぁ。ビーム砲以外の武装は殆ど一緒だから、参考にすると良いよぉ」

 

表示されていたのは、ZGMF-X42Mデスティニー。通称デスティニーガンダムのデータである。

 

「ありがと。いいの?」

 

「ま、いいんじゃないどうでもぉ。少しくらい知識があった方が面白いよぉ? じゃ、俺は機体で待ってるから、準備が出来たら自分らの機体に乗ってきな」

 

背を向けたチーフはヒラヒラと手を振り、デスティニーガンダムを元にしたという自分の機体に乗り込んだ。

デスティニーガンダム。ガンダムSEED DESTINYの主役機の一つ。あらゆる距離、状況に対応できるよう装備を施したオールラウンダー機。高攻撃力を誇る大型の武装が目立つが、フラッシュエッジや高エネルギービームライフル等小回りのきく武装もあり、正に主人公機と言った性能である。

 

「で、背中の翼は展開して光の翼になる……」

 

「ますます格好いい」

 

ヴォワチュール・リュミエール。光圧推進により爆発的な加速を得る、特殊推進装置。チーフの機体を見ると、幾分小振りになってはいるが通常二枚の翼が四枚となっている。恐らくは原型を上回る機動性を持つのだろう。彼らの機体はあまり機動力に秀でているとは言えない為、使われれば少々厄介であろうとクサカは考えた。

 

「う~ん、とりあえず、性能的には不利っぽい相手……かな?」

 

その他としては、アロンダイトと名付けられた巨大な対艦刀がチーフの機体では二本になっていた。両肩のフラッシュエッジはポールジョイントを介したシールドに置き換わっている。その表面には六角形のブロックが浮き出ており、何らかの機能を思わせる。翼と言い剣と言い盾と言い、色々と二倍である。

しかしそれらの改造は元の原型の良さや整合性を崩さないよう細心の注意を払った上で行われており、二人に取ってはこんな形の後継機が存在していると言われても何ら違和感を覚えない仕上がりであった。

 

「見終わった。そっちは?」

 

「こっちも大丈夫。あんまり待たせるのもあれだし、そろそろ自分達も行こうか」

 

操作パネルを操作し、ずっと後ろに立たせていたFAZZに乗り込む。用意が整ったのを確認すると、ミオは通信を入れた。

 

「準備できた」

 

『いいねぇ。それじゃ設定画面でバトルモードをフリーバトルに変えて、今すぐ』

 

「? 分かった」

 

自分の操作パネルを開き、設定画面を操作する。フリーバトルモードにすることにより発生するであろう問題などに関して注意する文言が浮かび上がってくるが、ミオは構わずOKを押した。

 

「終わった。これで開始?」

 

ミオが確認すると、先程までもニヤニヤ笑っていたチーフはクツクツと含み笑いを浮かべていた。

 

『ああ、開始さぁ。それと大事なことを教え忘れてたから、今から特別授業を開始するよぉ?』

 

デスティニーが、腰からビームライフルを抜き放ち、FAZZへと突きつけた。

 

『内容はズバリ、負ける悔しさって奴さぁ!!』

 

 

 

 

「っ!」

 

「うわ!?」

 

咄嗟に操縦桿を引き、両脚の膝関節を後ろに向かって稼働させる。

FAZZは後ろに向かって体勢を崩し、倒れ込んだ直後、ビームが胸部装甲を掠めた。

間髪入れずバックパックと脚部のスラスターを出力全開で起動し、バックパックで地面を抉りながら後退。追いかけるように着弾するビームを振り切るように、体制を立て直しながら空中に飛び上がる。

 

『良い反応だぁ! じゃ遊ぼうかぁ』

 

嘲笑するようなチーフの言葉と共に、四枚の翼が開く。更にバックパックのスラスターと膝の屈伸を連動させ、デスティニーも跳ねるように空中へと飛び上がった。

 

「ちょ、ちょっと! いきなりですか!?」

 

『ランクが上がれば割とどこでも不意打ち上等さぁ。ま、練習だとでも思いな?』

 

なるほどぉ、と感心しながら、クサカとミオはハイパー・メガ・カノンの照準をデスティニーに向けた。

不意打ちを受けた時点で、クサカは既にハイパー・メガ・カノンのチャージを開始していた。先の戦闘で、チャージ時間の必要なこの武装が、向かい合っての戦闘に不向きなことは分かっていた。故に、効果的に使うためには即座に発射できる態勢になくてはならないと思っていたのである。そしてチャージは、会話の最中に完了した。

 

「発射!!」

 

クサカが引き金を引く。機体のエネルギーと、ハイパー・メガ・カノンそれ自体が有するサブジェネレーターのエネルギーが合わさり、怒濤のようなエネルギーが光の濁流となって砲身より放たれる。

 

『おっとぉ?』

 

チーフは先の戦いを観察していたが為に、このチャージ無しでの砲撃に即座に反応することが出来なかった。

デスティニーの機体が、光の中に飲み込まれる。

 

「やった」

 

ハイパー・メガ・カノンのカメラ映像越しに(このキットはハイパー・メガ・カノンを持つと頭部を正面に向けることが出来ないのである)その光景を見たミオが喝采を上げる。

 

『ま、そんなわけないよねぇ』

 

しかし直後、デスティニーを飲み込んだはずのビームが、水飛沫を散らすように四方に弾け飛んだ。姿を現わしたデスティニーは左肩を前に出すような体勢で肩の盾を構え、その盾から発せられた光の壁が、眩い光を放っている。

 

「うっそ!? 全然効いてないの!?」

 

焦りながら、クサカは対戦前にもらったデータを表示させる。その中で可能性がありそうなのはソリドゥス・フルゴールビームシールドだが、本来の搭載位置と目の前の機体の防御方法は合致しない。

 

『ビームキャリーシールド、元機のより一個上位の防御兵器ってとこさぁ。ま、丁度良い威力かな? このレベルのガンプラならさ』

 

実際の所このシールドはデスティニー本来の装備ではなく、こちらに合わせるために多少形は薄く流線型になっているが、この機体のライバル機が用いる装備である。

展開していたビームシールドを停止させ、再びデスティニーはビームライフルでミオ達を攻撃し始める。

 

「む」

 

FAZZはスラスターを切って高度を下げることで初弾を回避し、再びスラスターを点火してズーム機動を行うような動きでビームを回避しながら再び高度を上げていく。回避行動の中で何とか右手側をデスティニーに向け、今度はダブル・ビームライフルで攻撃を加えるが、デスティニーは空中に静止した状態から軽く身を逸らすだけでビームを避けてしまい、攻撃の手を緩めない。

 

(クサカの射撃はずれてない……可動部の数か)

 

見れば、デスティニーは各関節のみならず、胴体や胸部にも多数の可動部を備えている。肩周りの可動範囲もこちらとは桁違いであり、これが柔軟な動きの正体であるとミオは考えた。

 

「なら、ミサイルを使う」

 

「分かった! バックパックのを使うよ!」

 

機体が前傾姿勢を取り、バックパック上部のミサイルランチャーを展開。マイクロミサイルを一斉に発射する。更にダブル・キャノンも同時に射撃を開始し、デスティニーの眼前をミサイルとビームが覆い尽くす。

 

『良いじゃん。盛り上がってきたねぇ!』

 

デスティニーの脚部、腰部のスラスターが噴射炎を吹き上げ、機体を瞬時に上昇させる。ミサイルの大半が振り切られ、ダブル・キャノンから放たれるビームも機体を旋回させながら踊るような動きで回避していく。スラスターだけでなく、翼や四肢の稼働による有機的なベクトルの変化が可能にする複雑な動きに、ミサイルもビームも全く追随することが出来ない。

 

(凄い……これが熟練者の動きなのかぁ)

 

照準を睨み付けながら、クサカはカメラの向こうで縦横に空を舞う赤い翼のガンプラに、畏敬の念を抱いた。追撃のために機体を振り回すミオも、華麗に攻撃を避けるデスティニーに半ば見とれていた。だから、こちらに銃口か向けられた時、即座に反応することが出来なかった。

 

「っ!?」

 

振り向きざまに放たれたビームライフルの一撃が、ハイパー・メガ・カノンの後部を撃ち抜く。サブジェネレーターそのものが破壊され、パージする暇も無く、巨大な砲身が爆発を起こした。

 

「や、やば! エネルギーが!」

 

ハイパー・メガ・カノンとFAZZの本体はエネルギーチューブで繋がれている。本体から流出するエネルギーを止めるのが遅れ、ジェネレーターに無駄な負荷がかかった。

 

『こいつももらっときなぁ』

 

デスティニーの両肩に装備されたシールドが先端からビームの刃を伸ばし、更に盾を横に広げんがら機体を高速で旋回させる。するとビームを発していたシールドの先端が分離し、高速回転しながらFAZZに向かって飛翔してきた。その様子は正にビームブーメランと言った所である。

 

「くそ」

 

少々汚い言葉を吐きながら、ミオは爆発に吹き飛ばされるような形で墜落する機体を、各部のスラスターとアポジモーターを駆使して何とか安定させた。直後に右側から迫ってきたビームブーメランを、スラスターの噴射による落下の減速で旋回の内側に入ることで回避する。続いて左から迫るビームブーメランに対しては逆に左肩のスラスターのみを起動することで体勢を崩し、側転を打つような機動で何とか直撃を避けるが、その左肩のスラスターが半ばから切断された。

 

「ミオさん! スラスター切って! 早く!」

 

「え?」

 

クサカの悲鳴のような忠告の直後、コックピットにアラートが鳴り響く。エネルギーの流出に加え急激な回避機動によって、機体がオーバーロードを起こしたのである。スラスターが一斉に停止し、重力に捕まったFAZZは落下を始めた。

 

『あらら。もう終わりかなぁ?』

 

戻ってきたビームブーメランをシールドに収めると、デスティニーはビームライフルの照準をFAZZの胸部装甲に向ける。

 

「こうなったら……!」

 

ビームが放たれる。同時にFAZZは左腕を正面に向け、マイクロミサイルを発射した。左肩のスプレーミサイルも加わり、ミサイルは不規則な機動で壁のようにFAZZとデスティニーの間に立ち塞がり、ビームライフルの直撃を受けて一斉に誘爆した。それでもビームはFAZZに命中するが、爆炎と煙に威力を削られたことで増加装甲を突き抜ける事無く表面で爆発した。

直後に派手な衝突音が轟き渡るもののミサイルの爆炎が視界を塞ぎ、追撃に放ったビームライフルの攻撃も手応えがない。

 

 

 

『しぶといねぇ』

 

その言葉とは裏腹に、楽しげにクツクツと喉を鳴らしながら、チーフは落下地点に向け機体を降下させていく。落下地点は衝撃で地面がめくれ上がっており、周囲の木々もなぎ倒されている。しかし、素組みに毛が生えたようなあのFAZZもどきのフルアーマーZZの姿はない。恐らくビーム着弾の衝撃を利用して一回転し、足から着地することで損壊を免れたのだろう。

 

『まだやるんだろぉ?』

 

デスティニーのコックピットに、被ロックオンを知らせるアラームが点る。直後、木の葉を吹き飛ばしながら、FAZZが上空に飛び上がった。

位置は背後。即座に機体を転回させ、連射されるダブル・ビームライフルの攻撃を、バク転を打つように回避する。FAZZはそのまま上昇を続けて頭上を取り、更にビームを撃ち下ろす。

チーフも機体を上昇させながら回避し、反撃にビームライフルを撃ち込む。

FAZZは最初と同じようにスラスターを切って高度を下げることで反撃を躱し、しかし今度はその速度を生かしたまま、むしろ地面に向かって加速する。

 

『へぇ?』

 

追いかけようとするが、FAZZは機体が重い分落下の加速も速い。距離が縮まらず、そのままFAZZは再び森の中に紛れた。

 

『なるほどねぇ』

 

チーフはまたクツクツと喉を鳴らして笑った。

 

 

 

「よし、上手くいった!」

 

「ん」

 

縦方向の一撃離脱を終えた二人は、満足げに頷き合った。

単純に考えて機動力も運動性能もデスティニーの側に部がある。操作技術でも今は遠く及ばない。しかしこちらもハイパー・メガ・カノンを失った分機動力は上がっており、あちらより二回りも大きい機体の重量はそのまま急降下時の速度に繋がる。今上回る部分を生かすとしたら、ここしかない。

今度は下から、ダブル・キャノンで射撃を加える。直後にスラスターを全開にして飛び上がり、更にダブル・ビームライフルを連射する。

当然のようにデスティニーは悉くを回避するが、その間にこちらは更に上昇して上を取る。そこからダブル・ビームライフルを連射して攻撃し、あちらが接近する素振りを見せたら即座に反転降下して森の中に逃げ込む。常に最大出力でスラスターを酷使しているが、これならば回復の時間を稼ぐことも出来る。性能差による戦力差を最小限にとどめることが出来るのだ。

 

「もう一回行く」

 

側面まで移動し、また上空に飛び出す。相変わらず攻撃が命中する様子はないが、まぐれ当たりが一発でも出れば御の字である。実力差を考えれば、そこまで出来れば上出来と言って良いだろう。

 

『ホントは好きじゃないんだ。こういうマジな勝負ってのは』

 

不意に、これまでノラリクラリと攻撃を避けていたデスティニーが立ち止まった。FAZZの攻撃はシールドで受け止め、右手に持ったビームライフルを無造作に投げ捨てる。そして、背中から伸びた二本の柄を、その両の手が掴んだ。

 

『ま、たまには本気でやろうかぁ!? その方が楽しいだろぉ!!』

 

たたまれていた翼が、一斉に開く。抜き放たれた大剣は、更に展開して倍の長さを持つ長大な刀身を形成し、ビームの刃を纏う。アロンダイト、ある騎士の持つ聖剣であり魔剣でもある剣の名を冠する大剣。そして、開かれた翼は……。

 

「光の、翼……」

 

「綺麗」

 

眩いばかりの光の粒子を放つ、四枚の光の翼が現出した。その様はまるで、赤く輝くアゲハチョウのよう。

 

『それじゃ、行くよぉ?』

 

デスティニーが翼をはためかせる。そう認識した時には、手にしたビームの刃はFAZZの眼前にまで迫っていた。

 

「っ!?」

 

咄嗟に、機体を後退させる。しかし間に合わず、振り下ろされた大剣の一撃は増加装甲ごと本体の胸部装甲を斜めに切り裂いた。

 

「うわあ!?」

 

コックピットを照らす光が、ブルーからイエローに変わる。胸部のダメージは深刻だが、まだ戦闘不能なほどではない。後退が一瞬でも遅ければ、斬られた軌跡そのままに機体は真っ二つになっていただろう。

あまりの速度に焦りながらも、クサカは何とかダブル・ビームライフルの照準を合わせ、射撃を行う。しかし、放たれたビームは全く照準が安定せず、あさっての方向に発射されてしまう。

 

「え!? なんで!?」

 

「分身……!」

 

見れば、凄まじい速度で飛翔するデスティニーはその背後に出ては消える多数の分身を引き連れていた。これが照準を狂わせ、射撃を逸らしているのである。

再び、デスティニーがこちらに向かって加速する。半ば直感で、ミオはバックパックと脚部のスラスターを停止させながら右肩のスラスターを噴射させ、左に体勢を崩させる。直後、右のダブル・キャノンと右肩のスラスターが切断され、爆発を起こした。

 

『見せてみな。お前らの力をさぁ!』

 

デスティニーが反転し、正面から突っ込んでくる。

クサカは最後に残った胸部のミサイルを一斉に発射させた。分身は後ろに引き連れる形なのだから、今ならば照準を狂わせることは出来ないと踏んだのである。ダブル・ビームライフルは発射せず、必殺の間合いに入るのを待つ。ミオは下手に動かず、デスティニーの動きに全神経を集中させる。

間違いなく、今彼らが取れる最善の手を打ったはずであった。

しかし、デスティニーの性能とチーフの操縦技術はそれを遙かに上回った。

光の翼を広げたデスティニーは、両手のアロンダイトを翼の如く真横に構える。そして翼をはためかせると、機体は凄まじい勢いできりもみ回転を始めた。

 

『ギャハハハハ! ハーッハッハッハ!!』

 

更にその機動はきりもみ回転を加えたバレルロールという途轍もないものになっていく。その様は正に光の竜巻。全周囲に撒き散らされたミラージュコロイドが通常を遙かに上回る範囲に、大量の分身を発生させる。

さながら大空を埋め尽くす、光の妖精の群が如く。

 

「!!?」

 

二人は、思わず目を見開いた。

踊り狂う光の妖精達を捉える術など、あろう筈もない。ミサイルは分身に惑わされるように機動を乱して道を空け、ダブル・ビームライフルの照準は四方八方に乱れて定まらない。

光が止む。眼前には、二振りの大剣を掲げた赤き翼持つ機械の騎士。

ダブル・ビームライフルを持った右腕が振り上げられ、振り下ろされた刃の内側、デスティニーの両腕と激突する。操作ミスに等しいミオの偶然の操作と、分身に攪乱され偶然銃身が上を向いた。ただそれだけであったが、それでも、刃が止まる。

チーフ笑みが、嘲笑から歓喜のそれに変わった。

 

 

『最高だ貴様らああぁぁぁぁ!!』

 

 

雄叫びと共に、光の翼が、一層大きくなる。

一瞬拮抗したかに見えた両者だが、その力には雲泥の差がある。受け止めた腕ごと強引に振り回す。最後に縦に一回転しながら振り抜いた渾身の一撃がFAZZの機体を投げ飛ばし、途轍もない地響きを上げながら、ミオ達を乗せたFAZZは地面に叩き付けられた。

 

 

 

「衝撃は、緩和されるはずなのに……」

 

「目が、回る」

 

赤い警告色に染まったコックピットの中で、ミオとクサカは折り重なるようにして操縦席の床に倒れ込んでいた。クサカの上に、操縦席から吹っ飛んだミオが降ってきたのである。

 

『あーあー。聞こえてるかなぁ~?』

 

チーフから通信が入る。機体はもうピクリとも動かせない状態だが、通信音声は明瞭だった。

 

「あ、はーい。大丈夫でーす」

 

「聞こ、える」

 

まだフラフラしているミオに肩を貸しながら、クサカはモニターを開いた。

 

『あらら、羨ましい光景だねぇ。で、どうだったかなぁ? 初めての対戦って奴は』

 

「えーっと、その~」

 

「楽しかった」

 

フラフラから立ち直ったミオは無表情ながら目を輝かせ、ハッキリとそう答えた。

 

「けど」

 

その目つきが、鋭さを帯びる。

 

「次合ったら、勝つ」

 

あまりと言えばあまりの動揺のなさに、チーフは一瞬呆気にとられた。

 

「どっちも先に言われちゃいましたけど……自分も楽しかったです」

 

同じように一瞬ポカンとしたクサカだが、次の瞬間にはこうして苦笑を浮かべながらこんな事を言い始める。

言うまでも無く彼は初心者狩りである。初心者を騙して勝負を仕掛け、散々いたぶった挙げ句にむごたらしく撃墜する。ポイント狙いと言うよりは、単純に抵抗する相手を圧倒的な力でひねり潰すことにこそ愉悦を覚える類いのダイバーなのである。無論、その為にはあっさり諦めてしまうような相手では物足りない。最後まで抵抗を続ける相手をひねり潰してこそ、やりがいがあるという物である。

 

「また合ったら、その時もまたよろしくお願いしますね」

 

二人の言葉を聞き、チーフは笑いを堪えるように喉を鳴らす。しかし結局堪えきれず、腹の底から笑い声を上げた。

その意味では、負けた後ですら全く屈しようとしないこの二人は最高の相手であった。

 

『ギャハハハハ! ハーッハッハッハ!! そうだ! それでいい!!』

 

一頻り笑うと、チーフは急にクールダウンして上空に浮いていた機体を降下させた。足下のFAZZは全ての武装が損壊し、バックパックは落下の衝撃で砕け散り、アロンダイトを受け止めた右腕は肩から先がちぎれ飛んでなくなり、両脚とも増加装甲部分が剥がれ落ち、その内部すらベコベコに凹んでいると言う、もはや残骸同然の状態である。

 

『お前らの機体は装甲も弱く速度も遅い。関節可動域もクソだ。火力はまぁまぁだが数が多いだけで決定打もない。格闘戦用の武器もないんだろう』

 

傍らに降り立ったデスティニーが、両手の剣を掲げる。

 

『全部を両立するなんてのは無理だ。ならどうすりゃいい? 方向性を定めりゃいい。どこを伸ばし、どこを犠牲にするかってな』

 

掲げられた二振りのアロンダイトは峰同士を合体させることで巨大な両刃剣を形成し、デスティニーは肩越しに背中に届きそうなほどに、それを振りかぶった。

 

『それじゃ、頑張ってねぇ! ギャハハハハ! ハーッハッハッハ!!』

 

馬鹿笑いと共に振り下ろされた大剣の一撃は地面ごとFAZZの機体を両断し、衝撃波で粉々に爆砕した。光の翼を広げて飛び去るその姿は、極めて満足げであった。

 

 

 

 

軽いモーター音と共に、シミュレーター室の扉が開く。出てきたのは、今日本格的なビルダーデビューを飾った新人ダイバー二人。

 

「お、出てきたね。どうだった? 苦労して作ったガンプラの性能は……って、何かあった?」

 

気づいたトオノ店員が明るく声をかけるが、二人の表情は極度の疲労にやつれて見えた。その姿にトオノ店員はデジャビュを感じずには居られなかった。

 

「いやぁ、その……あれですね」

 

しかし、今回は少し違った。最初こそ引きつった笑みを浮かべたクサカだが、次第にその表情は明るくなり、最後には満面の笑顔になる。

 

「ん……そう、あれ」

 

ミオも同じように口ごもり、しかしその顔に疲労はあれど悲壮感はない。

そして二人で顔を見合わせ頷き合うと、トオノ店員に向き直った。

 

 

 

「「対戦、超楽しい(ですね!)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

オリジナル機体説明

 

機体名 ZGMF X42C デスティニー チーフ

ベース機体 デスティニー

 

初心者狩りの常習犯、チーフと名乗るダイバーが使用するデスティニーガンダムの改造ガンプラ。

元となったキットの可動域が広く、またチーフ自身の工作技術の高さも合わさり、まるで人間のような身のこなしで回避運動や格闘戦を行う事が出来る。

長射程ビーム砲を取り払い、ソードストライカー付属のシュベルトゲベールに近くなるよう形状に多少の変更を加えたアロンダイトを二本背中に装備している(ちゃんと中折れは残されている)。これは展開した二本を合体することで巨大な両刃剣を形成するための改造を施したためであり、元々強力なアロンダイトを更に上回る重量と強度を併せ持つことで必殺の一撃とすることが出来る。

背中には一番長い外側の羽を短縮、内側も一枚分ほど小型化した翼を二対四枚装備している。この設置を可能とするためバックパックは少し上下に延長されている。ヴォワチュール・リュミエール展開時にはそれぞれが光の翼を展開し、アゲハチョウのようなフォルムを形作る。単純に翼が四枚に増えたことで推力が増しており、ベース機を上回る加速性能、運動性能を誇るが、その分エネルギー消費は激しく、あまりの速力に操作そのものが困難を極める。また、ベース機と同じくミラージュコロイド・ステルスによる分身を可能としており、チーフはこれを用いた特殊な機動戦術で相手を翻弄する戦いを得意とする。

両肩のフラッシュエッジは取り払われ、インフィニットジャスティスのビームキャリーシールドを装備している。パテを盛り付け削り込むことでデスティニーが元々装備するシールドに形状を似せてあるが、機能はそのまま残されている。アロンダイトを装備したままでもシールドでの防御が可能である上、大抵の攻撃を寄せ付けない鉄壁の頑強さを誇る。

接近戦向けの調整が施されているが、ビームライフルはそのまま残されている上ビームブーメランも使用可能であるため、そのずば抜けた機動力を考えれば射撃戦でも後れを取ることはそうそうない。

 

総じて、高い機動性と攻撃力、更には鉄壁の防御までも備えた極めて強力な機体に仕上がっており、ダイバーの技量も鑑みれば恐らく世界ランクで見ても中堅上位ほどの実力を有していると思われる。しかし彼はあまりランキングには興味が無いらしく、ふらりと色々な場所に現れては初心者や低ランクのダイバーを狙って襲撃を仕掛け、高笑いを残して去って行く。迷惑千万なその振る舞い故、某キャプテンジオンに粛正される日も近いであろう。

 





ちなみに今回の敵キャラが今後登場する予定は特にありませんので、もし気に入ってもらえたのなら他の作品で使って頂けると筆者は泣いて喜びます。
容姿は故、焼け野原氏のつもり。

それにしても、なんでほぼタイマンだけのお話で一万字も使ってんだろ……。
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