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カリーナ=ヨークシュバルトの試験。
始めはただの興味本位だったのが、とんでもない話になってしまった……。
私、レイカ=ダイドウジの基本行動は好奇心をくすぐられるか否かだ。
自分の興味をそそられない物事に関しては、一切を無駄と切り捨てる事がしばしばある。
勿論、最低限のものはする。
将来的には私が公爵家を継ぐのだ。私の代で没落させる気は毛頭ないし、お母様の期待を裏切るつもりもない。
ただ、もう成人したのだし、そろそろ真面目にした方が良いのだろうな、と。その程度の認識しかしていなかった。
簡単に言えば、私は甘やかされていたのだ。
公爵家の長女で成績も優秀、容姿も端麗。威厳と風格を持ち合わせた人の上に立つべき存在として生を受け、その通りのスペックを持っていた。
その事が余計に私の性格を苛烈にさせた原因だと何となくは分かるのだが、生来の性分というものもあるだろうし、こればかりはすぐにどうこうできる問題でもない。
どちらかと言えば、私のやる気を左右する要素が”興味が沸く”にしか存在していない事の方が問題であった。
それでも今までなんとかやってこれたのも、家格と求められた実績を出してこれたからだろう。
つまり、私は努力や気配りというものが壊滅的に苦手であった。
そんな中、私は『カオル=リヒテンバウアー』に出会った。
いつものように後先考えない行為で痛い目を見たのは、実は初めてである。
男子に勿論興味はあったし、「そろそろ許婚を」とお母様からも言われていたので、余計に気にしていた節も今思えばあったのかもしれない。
ただ、やらかした事は最低のクズであった。
今でも後悔しているのだ、これでも。
そして、次の日になって判明した”生き別れの姉”の存在。
本当ならば、次女である彼女はもっと平穏な生活を送れたのではないだろうか。
彼女について調べても”一人娘”という情報しか出てこなかったので、カオルさん自身も「自分は一人っ子だ」という認識があったのだとは思う。
しかし、貴族の子息で一人っ子など殆どいない。
確かに彼女の父は早くに亡くなっていたが、普通ならば後父を取るか側室にでも相手をさせるだろう。
彼女の母があまりにも一途だったか、そもそも既に産めない体になってしまったのか。理由は定かではないが、貴族として世継ぎを作るのは責務の一つだ。それを疎かにするほどの事だったのだろう。
そんな母を近くで見たカオルさんであれば、「自分が頑張らなければ」と考える事など容易に想像できる。
誰にも頼らず、いや、頼れずに、だ。ただ愚直に己を磨いてきたのだろう。
しかし、彼女の容姿で散々に嫌な想いをしてきたに違いない。
華奢な体つき、中性的な顔、綺麗な髪。全体的に見れば女性らしくはあるのだが、どこか幼い男の子を彷彿とさせてしまう見た目なのである。
次期子爵家当主として立派であろうとする中、彼女がどのような扱いを受けてきたのか。
自身の姉だと分かった瞬間の彼女の怒気は、少し時間が経った今でも鮮明に思い出せる。
もしかしたら、彼女は知っていたのかもしれない。自分には姉がいる、という事も。
私がカオルさんのお母様であったならば、人攫いにあった姉の存在を伝えるだろうか。いや、伝えないだろう。
けれども、この歳まで隠し通せるかどうかは分からない。
カオルさんはきっと聡いだろう。これは直感である。
もう一つ気になった点と言えば、彼女の実力だ。
昨日に続き、今日の試験で見せた剣技を、私は全くと言っていい程に知覚できていなかった。
気が付いたらあの教師が倒れていたのだ。
私は同年代でも優れた実力を持っていると自負している。そうあれと、自身のプライド故に己を高めてきたからだ。
それでも、彼女の動きにはついていくこどができなかった。
カオルさんは、どれほどの鍛錬を積んできたのだろう。
どれほど自分を追い込んできたのだろう。
そう考えると、昨日今日と彼女に取ってきた行動に罪悪感が湧いてきた。あの私がである。
自分で言ってしまうのもどうかと思うが、他人を慮る事に意味を見いだせていなかった私が、他者に対して罪悪感を抱くなど、昨日までは考えてもいなかった。
考えていたのは、「そろそろ世間体を気にするか」程度である。
今更ながらに、私は彼女の
素直になる事に躊躇を覚えてしまう私にとって、「供になりなさい」という言葉は、一言で言えば「私が守ってあげる」という事だ。
なんて傲慢なのだろう。
彼女は一人でここまでやってきて、私がした事と言えば痴漢行為だけだ。自身に反吐が出る。
ならば、私は変わるべきなのだ。
カオル=リヒテンバウワー。私は彼女の事を尊敬すらしているのだろう。
柔らかい人当たりに隠された、彼女の孤独にして孤高の精神に、私は憧れすら抱いているのだろう。
私は変わらなければならない。
彼女を”守る”など、それこそ彼女にとって侮辱となる。
ここまで考えて、私は部屋に戻ってから立ちっぱなしである事に気付いた。思わず苦笑が漏れてしまう。
まだ15年という短い人生ではあるが、私のこれまでの価値観を根底から変えるに足る出会いだった。
彼女の凛とした佇まい。
月の光を反射する髪に浮かぶ白い輪は天使の輪のようだ。
あの細い手足には信じられない技術と膂力が秘められており、いざとなれば強大な敵にも臆する事なく向かっていける胆力も備わっている。
誰だ、彼女が男らしくひ弱であると決めつけた者は。
私だ。
すると、私の胸がトクンと一つ、大きく跳ねた。
「……え?」
思わず呆然と呟いてしまう。
いや、違う、私にそんな趣味はない。
確かに、「世の女性たちの好みで言う男性は脆弱すぎないか?」とか、「頼られるだけでなく、頼もしくも感じる相手がパートナーの方が良い」とか、「私は突っ走り気味だから臆する事なく私に意見とか言って欲しい」とか、「でもやっぱりある程度は可愛い子が良いな」とか、「公爵家というネームバリューに潰されない、芯の強い人じゃなきゃダメね」とか……。
なんて事だ。
全て彼女に当てはまってしまうではないか……。
ふと、昨日の裏庭での事も思い出す。
カオルさんは細いから、無駄な脂肪もついておらず、とても抱き心地が良かった……って。
「私は最低かっ!?」
思わず声に出して自身を否定する。
ここまで俗物的な思考になるとは自分でも思ってもみなかった。
しかし、一度考えだすと止まらない。これが思春期の恐ろしさである。
愛想笑いの奥に潜んでいる孤独を分かち合いたい。
彼女から頼られるようになりたい。
私に彼女の弱い所を見せて欲しい。
私の駄目なところを叱って欲しい。
私の側で支えて欲しい。
一緒にいたい。
なんなら、一緒にお風呂にも入って見たい。
「……誰か私を殴ってくれないかしら」
信じられない。
私はどうしてしまったというのだろうか。
ただ、殴られるならカオルさんに殴られてみたい。
またしても昨日の事を思い出す。
鳩尾に沈んだ小さなな拳と、「さいてい」と冷めきった声。
ゾクリと背筋が震えた。
恐怖で、ではない。興奮で、だ。
「ええぇぇ……」
私はもう駄目かもしれない。
いや、昨日から駄目だったのだ。もう遅いのだ。
そう考えると、妙に開き直ってきた。
どうやら私は、百合な上にドMだったらしい。
カオルさんのせいで新たな扉を開かれてしまった。
始めは彼女の境遇に忸怩たる思いを抱いていたはずなのに、どうしてこのような結論に至ったのか。私の思考回路は性欲で出来ている。仕方がない。思春期であるし、結婚も出産も適齢期なのだ。
面倒くさがってお母様が連れてきた許婚を全て適当にあしらっていたが、子爵家ならばいけるか?
いや、そもそも彼女は女性だ。お母様が認めるはずがない。ならば仕方ない、側室だ。
待て待て、彼女の意志はどうした。
まずは私がカオルさんを『男性としてではなく女性としてみて好き。勿論LOVEで』という事を告白しなければならない。
私の猪突猛進な性格のお陰か、一度自分の性癖を認識してしえば、脳内では予想以上に着々と準備が整っていく。
きっとカオルさんは困惑と羞恥で顔を真っ赤にするだろう。もしかしたら、もう一度「さいてい」と言ってくれるかもしれない。その妄想だけでゾクゾクとしてしまった。
……興奮してきてしまった。
私はチラリとベッドを見やる。
後は寝るだけだ。試験の事もあって今日は疲れたし早く寝ようと思っていたが、妄想のせいで妙に目が冴えてしまった。そうだ、仕方ない。これは仕方ない事なのだ。明日から勝負に出る私にとって睡眠は重要。しっかりと質の良い睡眠をとるためにも、ここでストレスを溜めるような我慢は良くない。うんうん。
身にまとっている制服を少々乱暴に脱ぐ。
まだ夜は肌寒い季節だ。下着姿になった私は少し身震いをする。
なんとなく見下ろした自分の体は良く引き締まっていた。胸の脂肪は女性の平均サイズを上回っているが、まあ男性に引かれる程ではないだろう。多分。経験がないので何とも言えない。
対して、腰も足も無駄な脂肪はない。尻は、微妙だ。平均よりかは大きいが別にこのくらいならままいる。胸の方が問題だ。さらしでも巻こうかしら。
思わず姿見の前で思案に耽っていると、冷静な私が一瞬だけ帰ってきた。
──いやいや、今日あった事を忘れましたの? カオルさんは生き別れのお姉様と再会いたしましたのよ? それなのに、明日いきなり女である私がカオルさんに告白? 馬鹿は休み休み言いなさいな。
ド正論だった。
私の興奮は一気に冷めた。
下着姿のまま無言でベッドへ潜りこむ。
その日は三回だけして寝た。
レイカ様、目覚める(性癖)