悪役令嬢の護衛は男の娘   作:橘 ミコト

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第13話 あっさり

 ──その日、(カオル)は運命を呪った。

 

 時間は午後1時。

 レイカ様とミスズ様と姉上と外野を交えた賑やかな昼食を終えた後の事だった。

 

 午後一の授業が体育であり、姉上は「授業の準備があるので」と早々に退散。

 私たちも着替えがあるしとキリの良い所で教室へと戻った。

 早めに戻らなければ女性が着替えている場面へ私が突撃してしまう事になる。出来れば避けたい。

 女性の下着姿程度なら近衛騎士の皆で見飽きていはいるが、それでも積極的に見たいなんて事は無い。見なくて済むならそれに越した事はないのだ。

 

 こうして、いつもの様に(かわや)へと逃げ込もうとした私に、第一の試練が立ちはだかった。

 

「全部埋まってる……」

 

 そう珍しい確率でもない。

 男性用は衝立のような物で隣と遮っているが、女性用は完全に個室形態。男性用と違って場所を取られやすいだろう。

 しかし、これでは着替えられない。

 女性はどうしてか厠で雑談をするから一回の使用時間が長いのだ。

 男性はそそくさと出ていくのに、何故このような違いが出るのか甚だ疑問である。

 出てから話せよ。

 

 チラリと時計を確認する。

 まだ時間に余裕はあるが、別にここで大人しく待つ必要もない。

 こんな事もあろうかと、カナメ姉上(カリーナ先生)が「着替えの際には使うと良い」と別室を用意してくれていたのだ。

 流石である。持つべきものは頼りになる姉だ。少々ブラコンが酷いが、それ以外は超を三つくらい付けても物足りない優秀さだ。

 

 私は厠を出ると、用意されている別室へと鼻歌交じりに向かう。

 女子校という環境において、着替えを気楽に行える場所という有難さはとても大きいのだ。

 

「ここ、かな?」

 

 実は初めて使う私専用更衣室。

 扉の上部に掲げられているプレートを見れば『魔法実験準備室』とあった。

 次の時間に魔法実験室を使う様なクラスが無ければ、この時間には誰も来ないだろう。

 鍵が掛かっているか確認するも、扉は抵抗なくスッと開いた。

 これも姉上が準備してくれていたのだろうか。

 それにしては準備が良すぎるような気もしたが、念のため探知魔法を周囲にかけてみるも特に怪しい点はない。

 あまり時間もないのでさっさと着替える事にする。

 

 襟元に巻いたリボンを解き、綺麗に畳んで近くの机の上に置く。

 そこまで強く締めていた訳ではないが、拘束が解かれた様でホッと軽く息を吐いた。

 次いでブレザーを脱ぎ、ブラウスのボタンを一つずつ外していく。

 当たり前だが胸はないので、特に苦労する事もなく私の上半身前側は解放された。

 残るはキャミソールくらいだが、これは防弾防刃仕様の特別制だ。体育の時でも肌身離さず着けている。

 世の男性に限らず、女性でも胸の小さい人はキャミソールを着けている事が多いと聞くし、別段変な事もないだろう。まあ、多くの女性はスポブラの上に服を着るらしいが。

 

 女性は10歳程度までスポブラ、15歳手前くらいまでは派手なブラ、そして成人するとまたスポブラに戻るらしい。

 近衛騎士の皆が言っていた。「解放感と格好良さでブラを決めるガキと、機能性と安定感を求める大人の差、かな」なんて有難くもないご高説を聞かされたのだ。当時はセクハラなんて知らない時分で、「すごい、みんな物知りだねー!」なんて言いながら、私は無邪気に喜んでいた。ニヤニヤしていた奴らは後に母上と姉上から制裁を喰らっていた。

 

 思い出が脳裏を過ぎりクスリと笑みが零れる。

 皆は今も元気にしているだろうか。

 学園に入る前に小さなパーティーを開いてくれて以来だから、もう3か月程会っていない。

 そんな事を思いながら、私はスルリとブラウスを肩から降ろし脱ぎ去った。

 

 なんとなく、露わになった自身の肩を見つめてみる。

 華奢だ。

 身長があと1cm伸びて150台に入れば少しは変わるだろうか。

 

 そっと撫でるように肩の輪郭をなぞる。

 撫でた指も細い。

 肌は色白と言えば白いのだが、外で近衛騎士の皆と訓練をしていた事を思えば異常に白いだろう。

 

 そのまま少し伸びつつある髪へと触れる。

 学園に入る頃は肩に届くか届かないか程度だった髪も、今では頭の後ろで普通に結べるくらいの長さだ。

 他の人に比べ少し伸びるのが早いような気もするが、癖もない綺麗な黒い髪はみんな(家族)に人気だった。可愛いい、と言われた。嬉しかった。自分の中で、この髪はちょっとした自慢だった。

 自然と細くなっていく目を自覚しながらも、着替えなければ手を動かす事にする。

 

 長めにはいているスカートのチャックを降ろす。

 取っ掛かりの無くなった服はパサリと床へ落ちた。

 飾り気の少ない、白いショーツが露わになる。

 活動的な女性はボクサーパンツをはくと言うが、ショーツを身に着ける人も少なくない。

 人に見せない部分ではあるし、本当はもう少しお洒落をしたいのだが、何かの拍子でスカートの中を見られないとも限らない。絶対に見せる気などないが。

 そのため、今はいているのは装飾が最低限の地味な物である。

 小さくため息を吐いた。

 

 本当はもっとお洒落をしてみたい。

 可愛い下着やお化粧もしてみたい。

 しかし、女所帯で育った私には、そういった事を教えてくれるような存在はいなかった。

 唯一、帝様からは時々男性向けの高級品が届けられてきたが、恐れ多くて使用できずにいる。好意を無碍にしているようで些か後ろめたい気持ちはあるのだが、通常なら帝様からの贈り物など家宝レベルである。普段使いできるような代物ではない。

 後は母上や姉上もくれたりするが、どうにもセンスが微妙で積極的には使えていなかった。

 そもそも、私が男として表に出る事を異様に気にしていた家族たちだ。ただでさえこの容姿で注目を浴びやすい中、余計に人目を引くような恰好をする気にもなれなかった。

 ただ、それは建前でもある。

 なんとなく恥ずかしかったのだ。

 大切に大切に育てられた箱入り息子の私は、外で見かけるような華やかな男性たちの姿に憧れながらも、自分がそういった装いをする姿をどうしても想像できなかった。

 

 

 ──『男は逞しくあるべきだ。当然だろう』

 

 

「え?」

 

 突然聞こえた声に思わず振り返る。

 机の上へと置いていたブラウスを手に取り前を隠し周囲を伺ってみた。

 探知魔法を発動。

 反応なし。

 勘違いか? 

 確かに、今のは耳に入った音とは別の感覚があったし、心の声と言った方がすんなりと納得できる。

 

「え?」

 

 じゃあ、私は男は逞しくあるべきと思っているのだろうか? 

 こんな体つきをしているのに? 

 むしろ、こんな体つきだからこそ変な理想のようなものを無意識の内に抱いてしまったのだろうか。

 

 顔を下に向けて見下ろしてみる。

 

 結っていないので、伸びた黒髪がサラリと視界の隅に映った。

 その下には視界に収まってしまう両肩のラインと、妙に肉感的な上半身。

 普段からトレーニングをしているのに、どうしても筋肉がついてくれない。むしろ胸元などプニプニとしてそうな雰囲気すらある。

 しかし、別に太っている訳ではない。

 腰回りには無駄な肉などないし、足もスラリと伸びていてしなやかだ。

 臀部には心持ち肉がついている気もするが、まあ許容範囲内だろう。

 ただ、そのせいかウェストにくびれが見える。

 肩幅が無い癖にくびれが出来るのだから、世の男女問わず羨ましいと思われるだろう。男性はくびれが出来にくいからね。女性は無駄な脂肪が少ない方がスラリと見えて恰好良いし。

 そう考えると、私の体はやはり女性受けしそうな要素しか持ち合わせていない。

 まあ、世の女性のスタイルともそう離れていないから、こんな仕事(女子校への潜入)が出来るのだが。

 

 今更ながらに思うが、世の女性は中性的な存在を好む傾向がある。

 身長は如何ともし難いが、スタイルと容姿は別だろう。

 ならば、何故に私は先ほどのような妄想を思い浮かべたのだろうか。

 

 首を捻りながらも、別段深く考える程のものでもない。

 私は気にせず着替えの続きをしようと、手前に抱えたブラウスを再び机の上に戻した。

 

 その時である。

 

『諜報部から”烏”へ。生徒が一名近づいてきている。目視により聖女候補の一人、レイカ=ダイドウジと確認』

 

 耳に着けているインカムから警告を告げる声が聞こえた。

 彼女(レイカ様)は私がここにいるなどとは知らないだろう。

 慌てる事なく体操着を身に着けるため、私はブルマを手に取った。

 しかし、

 

 

「カオルさーん? どこにいらっしゃい、ます…………のぉ?」

 

 

 唐突にガラリと魔法実験準備室の扉が開け放たれた。

 そこに容赦などない。

 普通に開け放たれた。

 幸いだったのが、そろそろ次の授業が始まる時間帯だったので、開けられた扉から見える廊下に開け放った本人以外の姿が見えなかった事だろうか。

 

 そこには、太陽の光を浴びて燃え上がるような豪奢な赤髪を背中に垂らし、琥珀色の瞳をこれでもかと見開いているレイカ様がいた。

 

 口をあんぐりと開け、その表情は驚きで固まっている。

 私はと言えば、直前まで別の事に思考を飛ばしてぽけっとしていたものだから、手に持つブルマで胸元を隠す事すら忘れていた。

 え、早すぎない?

 そもそも迷いなく開け放ったよ、彼女。

 敵性存在だったら羞恥心などかなぐり捨てて、下着姿で飛び掛かる事も出来たんだけどなぁ。

 

 レイカ様の視線が下がる。

 恐らく、私の股間あたりを見つめている事だろう。

 

 私は、何故か冷静になった。

 

「レイカ様」

「ひゃ、ひゃいっ!?」

「扉を閉めて頂けますか?」

 

 レイカ様は鬼のような速度で扉を思いっきり閉めた。

 

「何故、内側に入るのです?」

「え?」

「何故、室内に入ったのですか?」

「わひゃいっ!?」

 

 スパーーンと吹き飛ばすような勢いで開けられた扉から凄まじい勢いで廊下へと飛び出す(レイカ様)

 

 私は再び自身の体を見下ろした。

 ショーツとキャミソーツくらいしか身に着けていない。

 

 瞬間、顔が真っ赤を飛び越えた。




バレてーら
慢心、環境の違い
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