悪役令嬢の護衛は男の娘   作:橘 ミコト

4 / 15
第3話 主演男優賞

 どうしようかな、この人……。

 

 私は隣でベラベラと喋り続けている珍妙な人物を横目でチラリと伺う。

 時折謎のポーズも決めており、異様に目立っていた。

 並んで歩いている私は物凄く恥ずかしい。妙に似合っているのも若干イラッとする。

 

 校門の前で行われた羞恥プレイ。

 我に返った私は「ち、遅刻するので失礼しますね~」なんて愛想笑いを浮かべながら彼女の横を通り過ぎた。

 時間はまさに登校時間。周囲には何事かと多くの生徒たちが遠巻きに眺めていた。

 見た目で彼女が聖女候補の一人だとは察しがついたが、ここまで奇抜な人だなんて聞いていませんよ姉上。

 別に聖女候補と仲良くなる必要はない。

 私の任務は護衛だが、あくまで緊急対応の役目だ。

 警備の網をすり抜けて、聖女候補へ直接危害が及びそうな場合に動く最終防衛ラインだ。

 年がら年中側に引っ付いて友誼を結ぶのも逆に変であろう。

 特に聖女候補なんて、その肩書だけでも目立つのだ。

 どの候補の側にも私がいたら、私も必然的に目立ってしまう。

 それは避けたい。

 避けたかったんだけどなぁ……。

 

 まさか、ミスズ様がここまで頓珍漢な行動に出てくるとは思っていなかった。

 ここ数年のプロフィールは確認していたが、書類上では特に目立った言動はしていなかったと聞く。

 つまり、情報を集めた諜報部の漏れか、ここ最近で急にこのキャラに変わったか。どちらかだろう。

 おい諜報部、仕事してくれ。帝国の諜報部は他国に比べても優秀なはずなんだけど。可笑しいな。

 

 現実逃避しつつも、もう一度隣を盗み見る。

 そこでは、未だに演説を続けているミスズ様がいる。

 もう何を言っているのか分からない。修飾過多だよ。

 校門の時点でそそくさと逃げたのだが、この変人は気にも留めずついてくる。

 始めは「人違いでは~?」などとやんわりお断りを入れたのだが、全く届いていない。

 もう話しかけるのも億劫だ。無視しよう、無視。

 どうせ学年も違うし、教室の中まではついてこないだろう。

 さっさと早歩きの私の横で、ミズズ様はスタスタとその長い脚を使い楽についてくる。

 何故か再びイラッとした。

 

「それでは先輩、失礼いたします」

 

 教室の扉のところまで到着した私はくるりとミスズ様へ振り返り、ニコリと愛想笑いを浮かべる。

 少々威圧感を滲ませてしまったのか、ミスズ様はどうあっても止まらなかった口をポカンと開けたまま黙ってこちらを見つめている。

 私の反応が全くなくて傷ついたのだろうか? 

 気にせず教室へ入っても良いのだが、なんとなくこの方は悪い人ではないと感じる。

「悪鬼レイカ=ダイドウジ!」なんて言っていたし、恐らく昨日レイカ様に呼び出された事をどこからか聞いたのだろう。

 つまり、私を気にかけ守ろうとしての行動である。

 その心意気だけは感謝したい。

 

「先輩、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ? 私、これでも女ですから」

 

 そう思うと、何故だか妙に年上の先輩が可愛く見えてきた。

 クスッと微笑を零してしまうと、ミスズ様はビクリと肩を震わせる。

 え、なんで? 

 

「では」

 

 彼女の反応が気にはなったが、別段問い詰める事でもない。

 そう思い、私は軽く会釈して教室の扉に手をかけた。

 

「何をしていらっしゃるのかしら?」

 

 と、そことで噂の悪役が登場した。

 タイミングが悪い上に昨日の事もあって顔を合わしずらい。

 そもそも、よく普通に声をかけられるなと変な関心すらしてしまう。

 

 そこには、私の中では最底辺の評価だった彼女──レイカ=ダイドウジが腕を組んで仁王立ちしていた。

 

「君がレイカ=ダイドウジ嬢か」

 

 フリーズしていたミスズ様が復活する。

 流石は王子を守る騎士に憧れている人だ。私と猿の間にスッと自然に体を割り込ませる。

 少し恰好良いと思ってしまった。

 

「……どちら様ですの?」

 

 その様子を面白くないとでも言うように、フンッと鼻息荒く赤髪は口を開く。

 眉間に皺も寄り、目も細めた姿は随分と苛立っているように見えた。

 自分の獲物が他の女に取られるとでも思っているのだろうか。

 そもそも私は(便宜上)女だと、何回言えば分かってくれるのだろう。

 本当に男だった場合でも女だった場合でも、ダメージ負うのはそっちだぞ? 

 分かってんのかな、この猿。

 それとも本当に百合趣味なのかしら。だとしたら本気で身の危険を感じる。

 

「君に名乗る名などない」

「へぇ~、私を誰か知った上でその態度。先輩と言えども随分失礼ではありませんこと?」

 

 お前が言うか。

 様子を伺うためにミスズ様の背から体半分と顔だけ出してみる。

 

「僕は昨日、君の悪逆な行為を偶々目撃してしまった。知ってしまった以上、見過ごす事はできない」

「「えっ」」

 

 今度は私と猿がフリーズする。

 見られていた? 

 それは不味い。色々と本気で不味い。

 あの時、私は僅かとは言え本気を出した。女としても強いほどの力だ。

 今は良く分からない正義感と義務感に駆り立てられているミスズ様も、私が何者なのかをどこかで疑問に持つかもしれない。

 まあ、見られたのは力に関する面なので、最悪「男ではないか?」と疑われる方面にいきそうにないのが何とも言えないが。

 

 本来なら諜報部の面々が影で止めたのだろう。

 しかし、彼女は腐っても聖女候補。その上、私は護衛官だ。不測の事態が起こっても対処するのは私の方が早い。

 勿論、見えないところから監視はしていただろうが、今回ばかりは諜報部だけを責められない。私の失態だ。

 やはり、男などが出しゃばって仕事を受けるべきではなかったのだろうか。

 心の中に急に不安が滲みだす。

 母上や姉上に鍛えられ、そこいらの女性だけでなく、軍人にだって負けないつもりではあった。

 しかし、ただ腕っぷしが強いのと潜入任務では必要な能力の方向性が違う。

 むしろ、私には単純な戦闘行為よりも護衛の方が向いていると言える。

 それでこの結果だ。

 悔しさでキュッと下唇を噛んでしまう。

 

 ふと、視界の端にレイカ様の顔が映った。

 ミスズ様ではなく、私を凝視しているようでその顔は動揺と後悔に塗れていた。

 まあ、レイカ様にとっても不祥事だから当然だろう。猿は大人しく叱られてください。

 

 視線の行き先に気付いたのか、ミスズ様は体の位置を微妙にズらして猿から私を見えないようにする。

 具体的にどのような行為を行ったのかまで言及しない点といい、気遣いの塊だよ、ミスズ様。

 でも私への対応が完全に男に対するものだ。一応後で「私は女ですから、過分な気遣いは余計です」とやんわり言っておこう。

 気持はとても嬉しいのだけれどね。

 これで平時の言動が普通なら言う事なかったのに。この人もこの人で残念な方だ。

 

「分かったのなら立ち去るが良い。これ以上、彼女に近づかないでくれ」

「私もこのクラスの生徒なのですが? 教室に入る邪魔ですのでそこをどいて頂ければ結構です」

「後方にも扉がもう一つあるが?」

「私に余計な手間をしろと?」

「そう言っているつもりだ」

「嫌ですわ。どうして私がそのような事をしなくてならないのかしら」

 

 見えない火花がバチバチと散っている気がする。

 ここで一人、勝手に教室に入るのは、駄目だよね。はい、知っていました。

 

 二人の様子に私の中の劣等感みたいなものが一時流される。

 自信が揺らいだが、私は何も一人でここに立っている訳ではない。

 母上に姉上、それにあの帝が直々に私を指名してくれたと聞いた。

 正直、どうして私なのかは分からないが、それでも期待をしてくれているのだろう。

 ならば、私はその期待に応えるまでだ。自分の能力に疑問を持っている暇はない。

 これ以上のヘマをしないよう、気を引き締めて事態に臨むべきだ。

 胸元に手を置いて、軽く深呼吸する。よし、まずはこの事態の収拾からだ。

 聖女候補同士が仲良くする必要はないが、今のままでは私は必要以上に目立ってしまう。それでは今後動きにくい。

 睨み合っている二人から、あえて敬遠されるべきだ。

 少々心が痛むが、ここはキッパリとお断りしておこう。

 

 悪役は私だけで十分だ。

 

 

「お二方とも、お辞め下さい!」

 

 

 私は演技のため少し大げさにミスズ様の影から飛び出す。

 今にも飛び掛かりそうなレイカ様と、それを見下したように見るミスズ様。お二人は驚いたように私へと振り返った。

 よし、とりあえず視線は集められた。

 後は周囲の同情を誘い、二人に気まずい思いをさせれば、しばらく近づきにくくなるだろう。

 

「確かに昨日は少々怖い思いを致しました。けれど、このような晒し者になる気など、私にはございません!」

 

 ハッとしたような顔になる二人。

 気付きましたか。

 朝の登校時間に教室の前でこんな喧嘩をしている事が、どれだけの注目を集めているかという事に! 

 

「私は女です。見た目は男性らしい点は自身でも分かっております。けれども、このような扱いは私を侮辱していると同じです」

「そ、そのようなつもりは!」

「つもりがなくとも同じ、だと申し上げております」

「……」

 

 酷く狼狽えた様子のミスズ様に対して、レイカ様は静かだ。

 反論をするでもなく、ジッと私を見据えている。なんだか気味が悪いな……。

 それにしても、やはりミスズ様は演じていたのだな。先ほどと声の質が若干違う。こちらが素か。

 

「ここは桐桜学園です。帝国内の最高学府と言ってよいでしょう。その信頼と実績は皆様がご存知の通りです。であるならば、私の素性を詮索する事に、何の意味がございましょう」

 

 二人だけでなく、野次馬にも聞こえるように朗々と語り掛ける。

 ここで私が男ではないかという疑惑を払拭する! 

 

「ここはお互いに切磋琢磨し、自らを高める学び舎です。決して、他人のプライベートを除く下世話をする場ではございません! ましてやこのような公衆の面前で私を辱めて……!」

 

 顔を紅潮し、目には涙を溜める。

 あ、涙はいらなかったかも。

「涙は男の武器!」と母上たちから散々言われてたため、つい癖で出てしまう。母上と姉上、近衛騎士団の皆など女性を叱る時にはこれが一番効果的だったのだ。この癖は早急に直しておこう。

 

「すまない」

 

 速攻でミスズ様が謝ってきた。

 年下の私相手にしっかりと頭を下げるなど、本当に実直な人なのだと分かる。

 このような方なら言動が可笑しな点くらいは許せる。目の前でやられても対応できないだけで。

 

「ふんっ」

 

 対して、猿は反省していないようだ。

 プライドの塊と聞いていたし、この程度の反応は予測済みである。

 私にちょっかいをかけづらい雰囲気を作り出す事に意味があったのだ。

 別に彼女からの謝罪など期待していない。

 

 ふう。

 内心で息を吐く。

 これで少しは私の周りも静かになるかな。

 ここまで言っておけば、私を男性扱いする輩も減るだろうし、良心が咎めるはずだ。

 ミスズ様は言動があれなだけで割と良識人のようだし、誠実そうではある。

 問題はレイカ様の方だが、下手に私に関わろうとすれば周りが良い顔をしないだろうし、こんな所で話していれば教職員にも伝わるだろう。

 生徒が直接助けてくれる事はないだろうが、他人の目があるというのはそれだけで抑止力だ。

 余計な注目を浴びてはしまったが、落としどころとしてはこのようなものだろう。

 後は任務に忠実に、日々を平穏に過ごせば良いだけである。

 これで心配の種も減った。

 

 

 この時の私は、そう思っていた。




変態にはあんまり効かないんだよなぁ……。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。