悪役令嬢の護衛は男の娘   作:橘 ミコト

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気付いたら凄い伸びてて驚きました……。
お気に入り、評価、感想を下さった皆様、ありがとうございます。
今後もマイペースではありますが更新していきますので、お付き合い頂ければ幸いです。


第4話 予想外の成り行き

 黙りこくったお嬢様方を横目に、私は教室の扉を開く。

 廊下の様子を伺っていたのか、扉を開けた目の前には片耳に手を当てた幾人もの女生徒たちが壁を作っていた。

 

「……」

 

 思わずジト目になる。

 見世物じゃありません。

 彼女たちは「お、おほほー」などと愛想笑いを浮かべながら三々五々に散っていった。

 ムスッとした表情のまま教室へと入ると、何人もの視線がチラチラと私の方へ飛ばされる。

 気遣われてはいるようだ。

 しかし、声をかけてくる程の勇者は流石にいないらしい。助かる。

 

 私は無言のまま自分の席へと進み憮然とした顔で静かに座る。怒ってますよアピールだ。

 少し経ってからレイカ様も教室へと入ってくる。

 無言で、私の方へ目線を向ける事もなく、スタスタと席へと向かっていった。

 お嬢様らしく背筋をピンと伸ばした綺麗な姿勢は何も罪悪感など感じさせない。別に感じて欲しかった訳ではないが、少々癪に障る。

 昨日、私にあれだけの事をしておいて、彼女の「何か?」とでも言いたげな顔に思わず顔を顰めそうになった。

 先ほど顔を曇らせたのも、どうせ保身の事を考えていたのだろう。

 プライドが無駄に高くて容姿に優れた成績優秀の猿の癖に。

 自身の中で沸々と湧いてくる怒りに客観的な自分がどこか理不尽なものを感じる。

 彼女はただの護衛対象だ。それ以上でも以下でもない。

 別にレイカ様が私に対して殊勝な言動を取るとも思っていないのだから、彼女に対して怒りを覚えるだけ無駄である。

 無関心でいるのではなく、あくまでビジネスライクに考えろ。

 聖女候補と護衛。それだけだ。

 何故か何度も頭の中で確認をする自分に気付き、再び顔を顰めそうになる。

 

 何なのだ、あのお嬢様は。

 

 モヤモヤとした思考を振り払い、廊下の方へと視線を向ける。

 ミスズ様は自分の教室へと帰ったのか、既に平穏を取り戻しているようだ。

 ミスズ様も癖の強い方ではあるが、聖女候補である事に変わりない。

 私は自分の仕事に忠実であれば良い。

 授業の準備を簡単に済ませ、クラス担任が来るまで心を静かにする事に努める。

 この程度の事で乱されるようでは、この先緊急事態などが起こったらどうするのか。

 私は護衛官なのだ。そう、護衛しなければならない。何があろうと、必ず彼女たちを守ってみせる。

 それだけで、いい。

 大陸の覇権国家である王国との同盟関係も悪化してきている。新興国だが勢いがあり、魔法工学の発展著しい合衆国の動向も注意しなければならない。また、長い歴史を持つ皇国も裏で色々と動いてきたそうだ。

 対人関係などという些事で任務が疎かになっては本末転倒である。

 もっと集中しなければ……。

 

 

△▼△

 

 

 本日の一時限目は体育である。

 男である私がお嬢様方の前で着替えるのは流石に抵抗があるので、私はいつもトイレの個室で着替えていた。

 女性用のトイレは個室しかないので便利だ。

 始めは少し抵抗があったが、女が男の方へ入るよりかはマシだろう。

 それに、小さい頃から周囲には近衛騎士のお姉さま方がおり、洗濯などの身の周りの世話もしてきた。

 今では女性トイレへ突入する程度の事に羞恥心はない。

 ただし、私が用を足す時は誰もいない時にしている。

 聞くのは別にそこまで構わないが、聞かれるのは恥ずかしいのだ。当たり前である。

 

 体操服を片手に席を立ちあがる。

 朝の事もあってか、横目で何人かに見られたが気にせず教室を出ていった。

 恐らくだが、体育の度にこういう事をしているから男疑惑が消えきれないのだ。

 分かってはいる。分かっていても、流石に女性の前で着替えるのは避けたい。男としての尊厳に関わる。

 

 背中に感じる視線を無視し、私は教室を出て厠へと向かう。

 しかし、しばらく歩くと妙な気配に気づいた。

 つけられている。

 廊下にはめられた窓のガラス越しに後ろを確認してみると、なんとレイカ様だった。

 

 うっそだろ、おい。

 メンタル鋼かよ。

 

 まだ一時限目の開始までに少し時間があるからか、廊下には生徒がそれなりにいる。

 けれども、私から少し離れて後をついてくるレイカ様には誰も気を留めていないようだ。

 誰も私がつけられているとは考えていないらしい。

 レイカ様も別に隠れてコソコソ移動している訳ではなく、普通に廊下を歩いているだけだ。

 ここまで堂々と歩かれてはつけられていると言っても自意識過剰に捉えられるだろう。

 教室から厠まではそこまでの距離もないのだし、現時点で私を追ってきたと判断するのも早計だ。

 しかし、真っ直ぐと前を見据えるを双眸は私をロックオンしていると語っている。

 その目を見れば偶々同じタイミングで厠に行こうとした、とは少々考えづらい。

 完全に目を付けられたらしい。

 衆人環視の中で恥じをかかされたなどと、逆に反感をかってしまったのだろうか。

 しかし、厠の中は個室だ。それに授業前の厠など誰もいない事の方が珍しい。

 他人の前で用を足しているところを覗くなど、彼女のプライドからして許せないだろう。

 そもそも変態である。前から知ってはいたが。

 ならば、私は変に反応せずこのまま放置していくのが最善だろう。

 私は気付かなかったフリをして、そのまま厠へと入っていった。

 

 既に何人かが使用しているようで、空いている部屋は一つしかない。

 迷わずそこへ入ると、私は鍵をしっかりと閉める。

 念のため着替える前に外の気配を探っていると、少し遅れて一人厠へと誰かが足を踏み入れたようだ。恐らくレイカ様だろう。

 別の個室に入っている生徒二人が壁越しに会話しているのが少々うるさいが、女性なんてそんなものだ。

 よく会話しようと思うな、出てから喋れよ。などと男である私は思うのだが、そこは今はどうでも良い。

 他に個室が空いていないからか、レイカ様は立ち止まった。

 私の個室の前で。

 少し不安が出てくる。本当に覗いてこないよな? 

 着替える気にもなれず、私は続けて外の動きに神経を尖らせる。

 

「ねえ、あなた──カオルさん」

 

 他の使用者がいるためか、呼び方を直して私を呼ぶ。

 私は肩をビクリと震わした。

 隣の個室で喋っていたお嬢様方も何事かと口を閉じている。

 

「体操服を持って厠など、もしかしてそこで着替えているのかしら?」

 

 その言葉に気負った様子はなく、いつも通りの高飛車な雰囲気だ。

 純粋に不思議に思っている様子が感じ取れる。

 

「……もしかして、レイカ様は百合でいらっしゃいますか?」

 

 思わず本気で気になっていた事を聞いてしまう。

 

「いいえ。性癖としては殿方が好みですわ」

「それならば、どうして私にそこまで固執するのでしょうか?」

「私、気になった事はハッキリとさせないと気が済みませんの」

「ですから、私は女だと何度も申し上げているのですが」

「では、何故このようなところでお着換えを?」

「……以前、私が着替えで肌を人目に晒した際、妙に周囲の女性が興奮したのがトラウマなのです」

 

 以前から用意していた言葉を吐く。

 自分の見た目が男らしい事は自覚しているのだから、このような事があってもおかしくはないだろう。

 

「あー、それは、その……。ご愁傷様ね」

 

 喧嘩売ってる? 

 説得力あるかな、などと思っていたが、レイカ様ですら気遣う様子に何故か泣けてきた。

 そもそも、こんな事を言うのは貴方のせいなんですけれどね。

 

「いえ……。なので、今はそっとしておいて頂けると嬉しいのですが」

 

 私はおずおずとした感じで言葉を返す。

 本気で気まずいのだから演技も何もなかった。

 

「そう、ね。分かったわ。失礼したわね」

 

 そういうと、レイカ様はそのまま厠から出ていったようだ。

 ほうと思わず安堵のため息を吐いてしまう。

 予想外に素直だった。裏を疑ってしまう程に。

 

「何と申し上げれば良いか分かりませんが……」

「あまり気になさらないのがよろしいかと……」

 

 壁越しに二人から慰められた。

 だからそういうのが余計なんだって! 

 本当に女はデリカシーがないな! 

 

 「あ、ありがとうございます……」などと返事をしながら、私は胸中で頭を抱えていた。

 そして、なんとか平穏に着替え終わると、荷物を置いてくるために教室へと向かう。

 広々とした廊下にはもうあまり生徒もいない。

 コツコツと足音を立てて教室へ向かうと、何故か教室の前にレイカ様が仁王立ちしていた。

 既に嫌な予感しかしない。

 

「……」

 

 一瞬、声をかけようかどうか迷ったが、朝の一件もあるので素通りする事にする。

 しかし、近づいてきた私に気付いたのか、レイカ様はぼんやりと外を眺めていた目を私へと向ける。

 キッと尖りきった目力は妙な迫力があった。

 まるで、何かを決意したような目だ。思わず足を止めてしまう。

 

「カオルさん」

 

 見た目の迫力に対して、その声は静かだった。

 私は未だにどう対応しようか悩んでいたのだが、そんな内心はおくびにも出さずレイカ様を強く睨み返した。

 ここで引いたら、何かに負けた気がする。

 

「貴方、男性として見られる事に悩んでいたのね?」

「へ?」

「私も昨日は悪かったわ。思い出しても私自身に反吐が出る行いをしました。謝罪致します」

 

 目礼ではあるものの、あのレイカ=ダイドウジが人に己の非を認めた。

 その事実に、私は驚愕した。

 事前のデータでは無体を働かないだけで傍若無人ではあると聞いていたからだ。

 それも昨日の出来事で嘘っぱちだと思っていただけに、この態度には殊更驚いた。

 

「は、はい。分かって頂けたのでしたら……」

 

 素で返してしまう。

 聖女候補との関係は別に悪いのが良いと言う訳もない。関係が良好ならそれに越したことはないのだ。

 彼女の謝罪を受け入れない理由はない。

 

「あの方、確かミスズ=ラッテンハイム様と思われますが、彼女は貴方を守ると仰っていましたが、貴方が彼女へそう頼んだのかしら?」

「いえ、そういう訳ではありません。今朝、校門で突然」

「ああ、今朝は妙に騒がしいと思っていましたが、そういう」

「はい」

「では、カオルさんは特に誰かの庇護下にある訳ではありませんのね?」

「はい……」

 

 何が聞きたいのだろうか。

 レイカ様の言葉に内心で小首を傾げつつも素直に回答する。

 

 

「それでは、貴方は本日から私の供をなさい」

 

 

「は?」

 

 思わず反応が遅れた。

 何を言っているんだ、この猿は。

 

「もう貴方を男性だと疑ったりはしません。それは貴方への侮辱になると、流石にそう理解できました。しかし、そうなると別の観点から興味が出てきました」

「別の?」

「ええ。私を一撃で沈めた”力”。とても興味がありますわ」

 

 そっちかー。

 私は天を仰ぎそうになる。

 心配事が一つ減ったら、今度は厄介事が舞い込んできた。

 

「ふふっ。つまり、私は純粋に貴方が欲しくなったのです。今朝の啖呵といい、度胸もあるようですし」

 

 どうやら、私は気に入られてしまったようだ。

 不良の価値基準など分かる訳ないだろう。私は今まで善良な一市民だったのだ。

 まあ、これまでの生活が一般的だなどとは口が裂けても言えないが。

 

「反論は認めません。これより、私の側を離れる事を禁じますわ。ふふっ、ふふふ!」

 

 実に楽しそうに笑い出したレイカ様を見て、私はどうやっても逃げられない事を悟る。

 目をつけられた時点で、私の平穏で職務に明け暮れる日々は終わりを告げたのだ。

 

 

「それでは、手始めに一時限目の体育で優秀な成績を修めなさい。──()()()()承知しないわよ?」

 

 

なんだよも───!! 

いいから大人しく護衛されててくれ!! 




ちなみに、帝国は軍事国家です。
ここら辺については次話触れますが、国営の最高学府である桐桜学園もエリート軍人を輩出する士官学校のようなものだとお考え下さい。そのため、授業内容も現代の学校とは大分違います。
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