悪役令嬢の護衛は男の娘   作:橘 ミコト

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間隔空いてしまってすみません……。


第7話 試験

『私の事を普通に教えるだけではつまらないですから、そうですね。折角ですから試験をしましょう。教師らしく』

 

 そんな意味の分からない事を、桐桜学園臨時講師『カリーナ=ヨークシュバルト』は宣った。

 馬鹿みたいに強いだけでなく、隠密や索敵も常人以上に優秀らしい。

 いや、やっぱり普通に気付くわ。

 存外な想いをレイカ様とミスズ様からぶつけられたその場は普通に目立っていた。私たちがポンコツなだけである。

 ……いつもの事か。泣きそう。

 

 私たちにできた事はと言えば、忌々しくも相手を睨み返す事だけだった。

 しかし、逆にこれはチャンスでもある。

 試験さえクリア出来れば向こうから自身の事を語ってくれると言うのだ。

 勿論、罠という可能性の方が高い。

 刺客と警戒するのであれば、相手の土俵で戦うのは避けるべきだろう。

 そもそも、試験をクリアすれば本当に教えてもらえるかどうかも怪しい。

 懸念点を挙げればキリがないのだ。

 ただ言える事は相手にこちらの動向を気付かれた時点で、私たちに選択肢は残されていないという事だけである。

 ようはいつもの如く場に流されただけだ。

 ……いつもの事か。あ、涙が出てきた。くすん。

 

 一応カリーナの身体解析も行ってみたが、特に不自然な点は見つけられなかった。

 もしかしたら認識阻害の魔法術式でもついているかと思ったが杞憂なようだ。

 つまり、カリーナは魔法で外見を誤魔化している訳ではないらしい。

 まあ、もしそんな事などしていたら諜報部どころかこの学園の教師にも感づかれるレベルである。念のための解析だ。

 どうせ簡単に調べて分かる情報も大したものではないだろう。今も諜報部に調べてもらっているが、反応は(かんば)しくない。

 ならばやはり、本人の口を直接割らせた方が話は早いだろう。

 レイカ様は「やぁぁぁってやりますわ!」とか意気込んでるし、ミスズ様は「ふっ、他愛ない」とか意味分からない事を言っているけれど。

 うん、相手が未知数過ぎてどうなるか私分かんない。

 という訳で、母上に連絡を取ってみた。こんな時は頼りになって相談も出来る身内に限る。

 

『へー、そんな事があったんだー』

 

 なんだこの棒読みは……。

 あの後、レイカ様とミスズ様とは少し話し私は寮に戻った。

 不安を胸中に押しとどめ、あくまで連絡事項として母上に相談に乗ってもらおうと思ったらこれである。

 母上は別に腹芸が下手って訳ではないから本気で興味がないのだろうか。

 それは結構ショックだ。こんな母でも割と勇気を出して連絡したのに……。

 

『あ、違うの! 興味ないとかじゃないの! ほんとよ? むしろ興味しかないから! あなたの事しか興味湧かないから!?』

 

 それはそれでヤダなぁ……。

 しかし、直接顔を合わせている訳でもないのに私のしょんぼりとした雰囲気でも伝わったのか。流石だな。何故か勝手にテンパっているけれども。

 

『でも、そこまで心配しなくても良いと思うわよ?』

「どうしてそう思ったのですか?」

『 勘 』

「……」

『あ、待って!? もう少しあなたの声を聞かせて! それで後──ピッ』

 

 この間の姉上と同じような事を言いそうだったので容赦なく切った。

 経験上、母上の勘は馬鹿にできないのだが、私の心を助けてはくれないようだ。……少し軽くはなったけれども。

 まったく、流石母娘(おやこ)だなぁ。クスッと笑ってしまう。もう。

 そんな二人の身内である事がなんとなく可笑しく、ちょっとだけ嬉しくなった。

 

 

 △▼△

 

 

「時間十分前ですね。良い心掛けです」

 

 雲の無い綺麗な星空が見える。月も煌々と明かりを灯し、学園の校庭には一種の幻想的とも言える空間が広がっていた。

 カリーナから指定された”試験”の時間は話をした夜の0時。

 普通ならばこの時間に寮の外に出る事は禁じられている。さらに言えば、警備の人間が学園内を見て回っているはずなのだが、現在周囲には私を含めたお嬢様たちとカリーナの四人しかいない。

 私一人であれば諜報部と連携してここに来る事は容易かったが、お嬢様二人をつれてだとその難易度は一気に跳ね上がる。

 ここに来れるかどうかも試験の一環だったのかもしれない。

 しかし、校庭なんていう見晴らしの良い場所で人気がないのは異常だ。カリーナが何かしらの手を打ったのだと思われるが、それを出来てしまえるのも彼女の特異性を象徴していると言えた。

 彼女が刺客である場合、警備の者に内通者がいると考えるのが妥当だろう。彼女をどうこうしたら終わりとは考えられなかった。

 むしろ、彼女に何かあった場合、他の者が何かしらの対応をするはずである。

 今更ながらに、彼女の誘いに乗って良かったのか不安が鎌首を上げる。

 

「心配には及びません、人払いは済ませてあります」

 

 無表情なまま言葉をかけられる。

 腕を組み泰然と仁王立ちしながら周囲に目を走らせていたレイカ様がキッとその琥珀の瞳をカリーナへと向ける。

 ミスズ様はいつも通りだ。優雅ともとれる自然な姿でカリーナを見つめている。彼女はあまり気にしていなかったらしい。流石と言うべきなのだろうか。

 

「どのような絡繰りかしら」

「簡単な事です。それも私の正体を知れば分かる事でしょう」

「煙に巻く物言いは好きではありませんの」

「見れば分かります」

 

 カリーナの飄々とした態度はその無表情と相まって余計不気味に聞こえる。

 埒のあかない問答にレイカ様は苛々とし出すが、ここはさっさと試験を進める事にしよう。

 

「試験とはなんですか?」

「簡単な事です。私に一太刀入れれば合格。時間は一時間と致しましょう」

「あら、余裕ですわね」

「授業で各々の力量は把握したつもりです。まあ、カオル君は例外ですが」

「カオルさんの力量……」

 

 思う事でもあったのか、チラリとレイカ様がこちらに目を向ける。

 今回は私もある程度の力を出すつもりだ。愛刀の『名月』も持ってきた。

 いざとなれば記憶処置という最終手段があるのだが、あれは脳への負担が大きい。おいそれと何度も行う事は出来ない。

 それに、レイカ様とミスズ様を少し信じてみたいという気持ちもあった。

 彼女たちならば認めてくれるのではないか。”私”という個人を見てくれるのではないか。出自について語る事は出来なくとも、”カオル”として付き合っていく事は出来るのではないか。

 そう、信じてみたいと思えた。

 

「カオル嬢は私のあずかり知るところではない。しかし、今回の試験は些か不可思議な点が多い」

「そうでしょうか?」

「とぼけられるとは考えておられないでしょう」

「そうですね。まあ、私の個人的な事情というものです」

 

 スッと目を細めたミスズ様は、今度は腰からスラリと細長い剣を取り出した。細剣(レイピア)だ。珍しい。

 帝国の主流剣術は刀を基本とした型だ。百年程前から増えた外国からの人口流入により昨今ではハーフも多いが、王国の流派を習う人はあまりいない。

 レイカ様も気になったのか、ほうと感心したようなため息が聞こえた。

 

「言葉を重ねても、もはや意味を成さない。貴殿の実力はカオル嬢とレイカ嬢から聞いた限り、三対一も卑怯だとは思わない」

「妥当な判断です。騎士を目指していると聞きましたが、なるほど。視野は決して狭くはないようですね。その割に言動はアレですが」

「この振舞いはとある方を目標にしている」

「そうなのですか。ちなみに、どなたかお聞きしても?」

「カナメ=ミツルギ殿だ」

「「えっ」」

 

 思わず声を出してしまった。姉上じゃん。

 いやいやいや。

 姉上そんなんじゃないよ? 

 それと、何故かカリーナも似た声を上げていた。鉄面皮も心なしか引き攣った様に見える。

 

「本来ならば、ここでカナメ殿が如何に優れた方であるか話したいところだが……。それはまたの機会にしよう」

「結構です」

 

 カリーナの即答に少しだけ寂しそうな空気がミスズ様から漏れた。

 何仲良くなってるのですか、ミスズ様。

 

「さて、お喋りはここまでにしましょう」

 

 空気を変えたかったのか、コホンと軽く咳払いをしたカリーナは腰から刀を静かに抜く。

 

「どうぞ、いつでも」

 

 半身になって右手のみで軽く刀を正眼に構えるカリーナ。

 その姿勢は一見すると隙だらけに見えるのだが、纏う空気が圧縮していくような迫力があった。

 私たちも気持ちを切り替えて各々の得物を構える。

 ゴチャゴチャと考えるのは後だ。

 まずはこの場にて、この試験とやらに合格をしよう。

 そして、こんな時に真っ先に飛び出すのは、やはりレイカ様だった。

 

「はぁっ!」

 

 短い呼気と共に一足飛びの一刀が伸びる。

 彼我の距離、約三m。

 一瞬でその差を詰めたレイカ様の身体能力はハッキリ言えば同年代の中でも十分に優れている。むしろ最高クラスだ。

 そして、レイカ様の背に続くようにミスズ様が踏み出した。

 胸の前に細剣を相手へ刺さるように掲げ、一条の光線のように吶喊していく。

 

「ふむ。良い気迫です」

「ふんっ!」

「連携に信頼関係が見えますね。貴方たち二人は仲が悪いと思いましたが、なるほど。とても良いと思います」

「シッ!」

 

 レイカ様の一閃は軽く止めらえたが、そのまま走り抜くようにカリーナの脇へと抜ける。

 カリーナから見てレイカ様と一直線になるように細剣を繰り出したミスズ様は、下手をすればレイカ様の背へとその剣を突きさしていただろう。

 まるで背面を見えているかのようなレイカ様の行動に私も感心してしまう。

 結果として出来上がったのは、カリーナを前後に挟む形での強襲。

 一朝一夕でのコンビネーションには思えないが、彼女たちの仲を少しでも知っていればとてもではないが信じられない。

 

 だが、このままなら私が奴の首を()()()

 

「筋は良いですが──愚直すぎますね」

 

 カリーナは目を細めると、ミスズ様の細剣を自身の刀で()()()()()

 

「なっ!?」

「ちっ!?」

 

 そして、後ろから来るレイカ様の剣へと、まるで川に流れる木ノ葉が滝壺へと落ちていくかのように威力を増した形で誘導する。

 

「理比天流”舞踊”」

「ぐぅっ!?」

 

 レイカ様は反射神剣と身体能力にものを言わせて、強引に横へと飛び退る。

 ミスズ様は威力と速度を増された自分の剣に引っ張られるようにして前へ体勢を崩してしまう。つんのめる様に送り出されたミスズ様の背後がカリーナの眼前に晒された。

 

「せぇえい!」

 

 無理矢理繰り出したのだろう。横っ飛びしたレイカ様がカリーナの側面から刀を振るう。

 しかし、体勢も整っていない中から出した一太刀は今までと比べて明らかに遅く力が乗っていない。

 

「……」

 

 しかし、カリーナはミスズ様から視線を切り、一瞬私へと視線を向けた後に迫っていたレイカ様へと振り返った。

 

 気付かれたか……? 

 私は切った鯉口を静かに戻す。

 

 確かに近づいてきているレイカ様への対処はしなければならないだろうが、奴の腕ならばミスズ様へ止めを刺してからでも十分に間に合ったばすだ。

 今までの言動からカリーナの目的を推算するべく思考を回す。

 そもそも、先ほどカリーナが行った剣技「理比天流」って……私の家に伝わる独自の流派、という設定なのだが。何故それを彼女が使えている。

 あれは近衛騎士団の皆に協力してもらって()()開発した流派だ。

 

 レイカ様の縦横無尽な剣。ミスズ様の岩をも砕きそうな一点突破。

 一度は崩れかけたが、今ではなんとか持ち直した上でそれぞれが卓越した技術を披露する。

 その中でもカリーナはその無表情を崩していなかった。むしろ余裕すら感じられる。

 私も加勢をしてはいるが、本気を出すのならば一瞬だ。

 下手に相手に私の実力を把握されて対策を取られるのはマズイ。私の技を持っているというのなら、下手に見せてもカウンターを喰らってしまう。理比天流は基本待ちの技として開発しているのだ。

 レイカ様とミスズ様の攻撃によって生み出される隙を見逃さないよう、私はサポートに徹していた。

 そんな時である。

 

「ふむ、悪くはないですね。では、気合の入る事をお教え致しましょう」

 

 カリーナは唐突に、そんな事を言い出した。

 彼女の言葉に口を挟む余裕もないのか、レイカ様とミスズ様は表情を険しくする。

 そして、何の前触れもなく、今までの流れなど関係なく、カリーナは爆弾を放り投げた。

 

「貴方たちに()()()を託せるかどうか。試させて頂きます」

 

「「「へ?」」」

 

 

「カオル君は──私の生き別れの妹です!」

 

 

 ……

 

 

「「な、なんだって────!!??」」

 

 レイカ様とミスズ様が上体を仰け反って驚きを露わにする。

 表情からして本気なのだろうが、傍から見るとギャグみたいだ。

 先ほどまでの剣技乱舞がどこかへ行ってしまった。

 

 いや、そもそも! 

 そんな設定始めて聞きましたよ!? 

 

 ていうか、結局あんたは誰なんだよ!? 




地味に主人公の家名が判明
なお、本名は以前不明の模様
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