熱いときめき
ガンプラバトル・ネクサスオンライン……通称『GBN』
自分自身の手で作り上げた『機動戦士ガンダム』シリーズのプラモデル『ガンプラ』をスキャンして、ネットワーク上で白熱するリアルなバトルや、広大なディメンションを探検することができる、今もっとも熱いオンラインゲームである。
3年前に起きたブレイクデカールと呼ばれるチートツールを巡る有志連合戦や、そのすぐ後に起きたELダイバーの処遇を決める第二次有志連合戦。
そして1年前から大流行したG-tuber『キャプテンカザミ』が配信していたエルドラミッション。
この3つの大きなミッションを経て、GBNは今や知らない人などいない世界的なゲームとなった。
そして、この3つの戦いすべてに関わった、伝説のフォースチーム……それこそが、『ビルドダイバーズ』である。
~~
その日の夜、高咲侑は興奮していた。
彼女の所属する『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』に所属するメンバーの一人である優木せつ菜からおススメされた動画を見てしまったからだ。
事の始まりは部活の休憩時間だった。
『せつ菜ちゃん、動画見てるの?スクールアイドル?』
『いえ、GBNですよ。ガンプラバトル・ネクサスオンラインです。』
『へー、せつ菜ちゃんガンプラ好きなんだ?』
『はい!!大好きです!!特に私の推しは『機動戦士ガンダムOO』に出てくる……と、まぁ今それはいいとして……今見てるのは3年前の動画なんです。ビルドダイバーズっていうフォースと、有志連合っていう混合フォースが戦う動画なんですけど……。』
『なんですけど?』
『これがもう!!大好きが溢れまくっててすごく燃えて泣けるんですよ!!見てください!!ボロボロになりながらもサラさんを助ける為にチャンピオンに挑むガンダムダブルオースカイの勇姿!!最高です!!私もこんな熱いバトルをしてみたい!!!』
こんな感じで一通り叫んだあと、同好会の後輩である三船栞子から騒がしいと言う事でお叱りを受けた。
それで気になった侑は、帰宅後にスマホで第二次有志連合戦の動画を再生してみた。
すると、案の定ときめいてしまった。
「すごい!!かっこいい!!ガンプラバトルって……なんて熱いんだろう!!私もやってみたーい!!あ、調べてみたら結構スクールアイドルでもやってる子多いみたい!!ニジガクの皆でできたら絶対楽しいだろうなー!!うわー!どうしよう!!興奮して眠れなーい!!」
真夜中にもかかわらず叫んでしまった侑のスマホに、お隣に住んでいる幼馴染の上原歩夢から『何時だと思ってるの』というメッセージが来てしまったため、その日は静かにすることにした。
だが、それでも興奮は冷めやらず、ついには朝まで動画を見てしまった。
翌朝
「ふわぁ~……おはよぉ歩夢ぅ……Zzz」
「おはよう。」
「あれ……?怒ってる……?」
「昨日誰かさんが朝までずっと騒がしくしてたせいで寝不足なの。」
「あ、ごめんごめん!お詫びに今日のお昼何か奢るからさ!」
「もう、調子いいんだから……それで、何見てたの?」
「うん、それがね!」
いつも通りマンションの下で合流して、登校する歩夢と侑。
侑は昨日せつ菜に勧められたGBNの話を、歩夢にもした。
思えばスクールアイドルを始めた時も、せつ菜がきっかけで夜更かしをして、こうやって二人で欠伸をしながら登校したものだ。
侑がもっともハマったのは、第二次有志連合戦もそうだが、一番はビルドダイバーズの初陣である第七機甲師団ロンメル隊戦。
おのおのの長所を生かした連携で、見事ロンメル隊を打ち破った勇姿は、それぞれの持ち味を生かしたパフォーマンスをするスクールアイドル同好会に通ずるものがあった。
「見て見て!ビルドダイバーズのエースのリクさんって人!この人のバトルが本当にちょーかっこいいんだ!」
「ふーん、そうなんだ?」
「なんで機嫌悪いの?」
「……別に。それより、早く学校行こ!」
「う、うん。」
昔から歩夢は、侑がクラスの男子と話したり、芸能人でも男の名前を出したりするとなぜか不機嫌になっていた。
今に始まったことではないので特に気にせず、二人はそのまま学校へと向かった。
~~
放課後の同好会の活動にやってきたのは栞子と歩夢と侑だけだった。
というのも、残りの8人は全員用事。
3年のエマは父親のぎっくり腰で現在スイスに帰国中、彼方は妹とデート、果林は数学と古文の追試。
2年の愛は実家のもんじゃ焼き家の店番、せつ菜は進路相談。
1年のしずくは掛け持ちの演劇部にプロの劇団が来るのでそちらを優先、璃奈は久しぶりに両親が帰ってくるので帰宅、かすみは全教科の追試。
よって、歩夢と栞子の二人だけで練習をして、侑がノートを付けて今日は解散だ。
「お疲れ様です歩夢さん、侑さん。」
「おつかれー栞子ちゃん。歌もダンスもだいぶ良くなってたよ!」
「ありがとうございます!あなたにそう言っていただけると自信が付きます!」
「栞子ちゃん、この後用事ある?私と侑ちゃん、これから遊びに行くんだけど一緒に行かない?」
「いいんですか?」
「もちろん!というか、二人だけじゃちょっと心細いからもう一人欲しいというか……。」
「? よくわかりませんが、私でよければ喜んで。」
やった!とハイタッチをする侑と歩夢は、状況をよく呑み込めていない栞子を連れて学校の外へ。
向かった先は、二人がせつ菜に出会ったり、公の前で初めて全体曲『TOKIMEKI Runners』を披露した思い出の場所、ダイバーシティ東京。
その前にたたずむ『機動戦士ガンダムUC』の主役機でもある1分の1スケールのユニコーンガンダムを見上げて、侑は心を弾ませた。
「着いたよ二人とも!」
「こ、こんなところ初めて来たよ。男の人ばっかりいそうでちょっと怖いな……。」
「ここは……ガンダムベース……?」
3人がやってきたのは、ダイバーシティ東京のすぐそばにあるビルダーたちの聖地ともいえるガンダムベース東京。
ここには、世界中のガンプラが集まる、世界一の品ぞろえを誇るガンダム専門ショップだ。
ガンプラの購入はもちろん、その場ですぐ作って技術を磨いたり、GBNにログインしてガンプラバトルをすることだってできる。
まさにガンプラファンなら一度は訪れたい夢の場所だ。
「うわぁ~!すっごくたくさんのガンプラがある!どれにしようかなぁ~!私にぴったりなガンプラってあるかなぁ!?」
「フフフ、そういえばあなたって、幼稚園のころからこういう模型とか結構好きだったよね。お父さんが好きなんだっけ?」
「うん!休日とかよく車のプラモ作ったりしててさ~。あ、歩夢!これなんて歩夢にいいんじゃない?」
「そうかなぁ?あ、ごめんね栞子ちゃん……私たち、こういうところ初めてで、二人だけじゃ心細くって……退屈じゃない?」
「い、いえ!そんな事は!でも、意外でした。せつ菜さんはともかく、お二人がこういうものに興味があるだなんて。」
「引いた?」
「むしろ逆です。お二人の事、また少し知れてとてもうれしいです。そうですね……私も何か買いましょうか。先月節約できたので、今月はお小遣いには少し余裕があります。」
栞子の家はお金持ちだが、お小遣いはかすみと同じでひと月3000円。
少しお高いガンプラを買えば消えてしまう金額だが、今は楽しさを優先したい。
自分に合いそうなガンプラを捜しながら店内をうろつく。
結局、歩夢は侑が薦めてくれた『HGCE 1/144 フォースインパルスガンダム』を、栞子はかっこいいという理由で『HGCE 1/144 デスティニーガンダム』を購入。
同好会ではいろいろと気が合って仲のいい二人だが、この時購入したガンプラはどちらも『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の主人公であるシン・アスカの乗っていた機体だ。
インパルスの方は後にヒロインであるルナマリア・ホークが受け継ぎ、共に戦った。
思わぬ偶然に、歩夢と栞子は顔を見合わせて笑ってしまった。
「う~ん……え、選べない……どうしよう……。」
そんな中、一人だけまだガンプラを選べていない侑。
すると、そこへ店員らしき女性が近づいてきて、彼女に声をかけた。
「ガンプラ、選べないの?」
「え?あー、はい……どれもこれも魅力的で……。リクさんと同じダブルオーもいいけど、メイジン・カワグチが世界大会で使ってたケンプファーも捨てがたい……ビギニングガンダムっていうのもいいなぁ……。」
「そういう時は、直感で選んじゃえばいいんだよ!あなたが一番ときめいたガンプラを手に取ってみて!」
「ときめき……私が一番、ときめいたのは……、」
店員に言われた通り、直感で手を伸ばしてみた。
すると、今まで目に留まらなかったガンプラを、手に取っていた。
無意識に手に取ったそれは、侑が初めてスクールアイドルにときめいた時に、彼女を傍で見守っていてくれたガンダム。
「ユニコーンガンダム……!私のGBNのデビューは、君に決めた!」
~~
ガンプラを購入した三人は、さっそく製作ブースで組み立て開始。
まずは素組みでGBNを体験してみて、徐々に塗装やミキシング、スクラッチなどでオリジナルのガンプラにしていくのがセオリー。
なので全員、まずは説明書を読み込み、それぞれのガンプラを組み上げていくが……、
「え?このパーツって向きどっち?説明書ビッシリ書いててわかんないよ~!」
「ひゃあっ!?ど、どうしましょう!?切ってはいけないところを切ってしまいました……!せ、接着剤でくっつくでしょうか……!?」
「…………。」
「うわぁ、歩夢うまいねぇ~。」
「えへへ、こういう地道な作業は得意だから。」
「さすがコツコツ系スクールアイドル……。」
「ど、どうしましょう侑さん……このままじゃ私のガンプラ作れません……!」
普段細かい作業に慣れている歩夢はスムーズに組み上げていくが、基本大雑把な侑と、プラモデルに触れたことすら無い栞子は苦戦している。
そこへ先ほどの店員が近づいてきて、3人の様子を見に来た。
「どう?順調?」
「店員さん……私のデスティニーが……。」
「あらら~……バッキリいっちゃってるねぇ。わかるよー。私も初心者のころはよくこうやって失敗してリッくんやユッキーに手伝ってもらったっけ……そんな私が今じゃガンダムベースのバイトリーダーだなんて……懐かしいなぁ。」
「どうしたらいいですか?」
「それはねぇ、」
「モモカちゃーん!ちょっとレジおねがーい!!」
「……ありゃりゃ。ごめんね、ちょっとレジしてこないと。はーい!コウイチさん、すぐいきまーす!」
上司らしき男性店員に呼ばれて、モモカと呼ばれた店員は行ってしまった。
再び途方に暮れる栞子とそれを慰める侑、そして着々とインパルスを組み上げていく歩夢。
するとそこへ入店してきた男が、困っている3人を見つけて近づいてきた。
「壊れたのか?」
「あー、はい。そうなんです。この子、学校の後輩なんですけど、なんとかしてあげたくて……。」
「見せて見ろ。」
「は、はい!」
男は栞子のパーツを見ると、どこからともなく取り出した工具箱から道具を取りだした。
折れたパーツを削り、ピンバイスで穴を開け、そこへ接着剤と真鍮線を差し込み、パテで固める。
あっという間に壊れた個所は元通りになり、彼はそれを栞子に渡した。
「次からは気を付けるんだぞ。」
「あ、ありがとうございます!!すごい……さっきより丈夫になってる……。」
「ガンプラは傷ついても、そのたびに機体を磨いて強くなっていく……熊と同じだな。」
「え?熊?」
「よかったね、栞子ちゃん。」
「はい、これでデスティニーを完成させてあげられます!」
「凄い技術ですね、壊れたガンプラをあっという間に修理しちゃうなんて!」
「GPDの頃に嫌というほど鍛えたからな。君たち、見たところ初心者みたいだが……ほう、君は上手いな。」
「えへへへ。」
男が称賛するぐらいには、歩夢は手際がいいらしい。
よく見てみると、歩夢は紙やすりやブラシなども使ってパーツを綺麗に整えてから組んでいた。
「俺で良ければ作業を見てあげようか。」
「いいんですか?心強いです!よかったね、歩夢、栞子ちゃん!」
「はい!」
「私、上原歩夢です。こっちは友達の高咲侑ちゃんと、三船栞子ちゃんです。よろしくお願いします。」
「俺はシドー・マサキ。好きなガンダムはガンダムMk-III、好きな動物は熊だ。」
「あの……さっきからなんなんですかその熊推し。」
~~
マサキの指導を受けてからの作業は順調だった。
真っ先に作り終えた歩夢のフォースインパルスガンダムの出来栄えは素晴らしく、初心者とは思えない。
続けて侑がユニコーンガンダム(ユニコーンモード)を、最後に栞子がデスティニーガンダムを完成。
どうやら歩夢と栞子はこの『作る』という作業に思った以上にハマッたらしく、さっそくスミ入れまでやり始めた。
歩夢に至っては一度分解して本格的な塗装まで。
もう日も暮れてきて、こんな時間からだとGBNデビューは明日以降になってしまいそうだ。
「ちょっとした塗装や簡単なミキシングでも自分のオリジナルのガンダムを作れてしまう、それがガンプラのいいところだ。」
「ホントにありがとうマサキさん!すごく助かっちゃった!」
「そうだね!私もおかげで、自分のイメージカラーのかわいいインパルスが作れちゃったよ!」
「歩夢は器用過ぎ……っていうかピンク色のインパルスかわいい!」
「ありがとうございましたマサキさん。私、頑張ってこの子を強いガンダムにしてみせます!」
「そうか、頑張れよ。」
「そういえばマサキさんの用事は済んだの?」
「いや、俺はこれからだ。ちょうど新しいバックパックを作ったから試してみようと思って。この後、友人と落ち合う約束だ。」
そう言って、マサキはGBNへ行ってしまった。
すっかり遅くなってしまって、GBNデビューはできなかったが、自分のガンプラを作ることが出来た。
自分たちの愛機を大事そうに鞄にしまい、3人はガンダムベースを後にした。
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その日の夜
侑と歩夢は、侑の部屋でガンプラの調整をしていた。
実は侑の父親が独身時代に買い集めていたガンプラを発見し、了承を得て改造に使わせてもらえる事になった。
今日は金曜日で明日と明後日は休日、練習もない。
だからこうやって泊り込んで作業に没頭することにした。
歩夢は本体はカラーリングと模様を簡単に変えて、フォースシルエットの改造を試みる。
侑の方はマサキから教わった改造テクニックやネットの情報を見ながら、2人で相談しあいながら改造を施していく。
「なんか、嬉しいな。」
「え?何が?」
「侑ちゃんと、こうして同じ目標に向かって一緒に頑張れるのが。」
「スクールアイドルだってそうじゃん。」
「でも、侑ちゃんは私たちのサポートはしてくれるけど、一緒にステージにはあがらないでしょ?だからこうやって、同じ事を同じ様に頑張れる事がすごく嬉しいの!」
「歩夢………よし!いつかみんなも誘って、GBNでもトップ目指そう!みんなでフォース組んで、ビルドダイバーズにも負けない、すっごく強くてさいっこうにかわいいガンプラアイドル!目指そうよ!」
「いいね!私たち11人で!」
その日は一晩中作業に没頭した。
そして翌朝、二人の手元には生まれ変わったガンプラがあった。
「出来た……!名付けて、レインボーユニコーンガンダム!私にしかできない、私が一番やりたいことを詰め込んだガンプラ!」
「私もできたよ。私たちの夢に向かって一歩ずつ近づいていく、ガンダムドリームインパルス!」
「さぁ、行こう歩夢!さっそく、GBNデビューだよ!!あれ?………ねむっ………Zzz」
「うわぁっ!?ゆ、侑ちゃん!?」
「うぇへっへ……その前に……ちょっと一眠り……すやぁ…Zzz」
「もう……それじゃ彼方さんみたいだよ!でも、私も眠いかも……ちょっとなら、いいかな……Zzz」
意気揚々よレインボーユニコーンを掲げた侑。
だが、寝不足に加えてガンプラが完成したことにより緊張が解けた事で、そのままベッドに倒れこんでしまった。
結局そのまま歩夢と一緒にお昼までぐっすりと眠ってしまった。