ニジガクビルドダイバーズ   作:バース・デイ

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立ち上がった男

 

「兄さん……どうして……。」

 

数年前、兄の葬儀の喪主を務めたカツラギは、兄と義姉の眠る棺の前でそう言葉を漏らした。

その隣で、かつてGPDの世界大会の最中に知り合い、意気投合した友人のキスギ・キョウヤも、彼の家族の葬儀に参加していた。

カツラギの両親はすでに他界し、肉親は兄だけだった。

その兄が研究中の事故に巻き込まれ、妻ともども命を落としてしまった。

深い悲しみに包まれるカツラギだったが、その彼よりももっと深く絶望した者がいた。

 

「カツラギさん、気をたしかに。」

「……私の事などどうでもいい……それより……。」

 

 

そう言いながらカツラギはチラっと視線をキョウヤの向こう側にいる少女へと移す。

左脚を失い、車椅子に乗って悲しげな表情を見せる少女。

 

カツラギの姪でもある、カツラギ・マリナだ。

 

スクールアイドルに憧れていたが、事故によりその夢も断たれ、天涯孤独の身となってしまった彼女の下へとカツラギは歩いて行く。

周りの参列者たちが『可哀想』などと他人事のように憐れみ、気休め程度の言葉しか投げかけていなかったマリナの前に跪き、カツラギは彼女にこう言った。

 

 

「私と一緒に来ないか?」

「………叔父さんのところへ……?」

「あぁ。一緒に暮らそう、マリナ。」

「………。」

 

 

お互いガンダム好きと言う事もあり、マリナが幼い頃から交流があった。

だからマリナを引き取る事に迷いは無かった。

しかし、マリナ自身にまだ迷いがあった。

そこで彼はこの葬儀を機に、施設へと預けられたマリナの元へと通い続けた。

彼女の大好きな『機動戦士ガンダムUC』のバンシィのガンプラを購入し、彼女と一緒にガンプラを作って、彼女の心に寄り添った。

 

 

「叔父さん……。」

「なんだ?」

「叔父さんは……私を1人にしない……?」

「当たり前だ。」

 

そうして、マリナはカツラギと共に暮らす事を決意。

 

この時、カツラギは決めた。

どんな手段を使ってでも、亡き兄夫婦が残したこの子を守ると。

この子と、兄が作ったGBNの世界を守ると。

 

だから彼はGBNが完成した時、そのゲームマスターとしてGBNの世界を管理すると決めた。

ブレイクデカールによるチートの横行、ELダイバー誕生によって引き起こされるバグの数々、異世界からの侵略者アルスの暴走。

GBNを守る為ならば、例え周りの人間を傷つけでもやり遂げると、そう誓った。

 

この彼の考えは、彼と同じく大切な者を守ろうとするビルドダイバーズの活躍を見て、リクとサラに心を動かされて多少変化が起きた。

 

そして現在、バンシィ・ノワールと名乗る謎のガンプラによりGBNは新たな危機を迎えている。

その原因となったのは、他ならぬカツラギの姪、カツラギ・マリナである事を、彼はついに知る事となった。

 

 

 

~~

 

「どうぞ。」

「失礼します。」

 

ヤジマ商事の代表室へと入っていくカツラギ。

その場にはヤジマ商事の代表取締役のヤジマ・キャロライン、そしてGBN開発の責任者でもありキャロラインの夫でもヤジマ・ニルスの姿があった。

現在のゲームマスターでもある4代目メイジン・カワグチは今頃目を覚ましたランジュの元へと向かっている。

 

 

「何かしら、カツラギ。」

「Mr.カツラギ、あなたには別の仕事を依頼していたはずですが?」

「代表……そしてニルス博士。私に隠している事がありませんか?」

「またその話?守秘義務があります。答える事は出来ません。」

「…………。」

 

 

一瞬表情が変わったキャロライン。

ニルスは無言でポーカーフェイスを貫いているが、一瞬だけ視線がキャロラインへ向いた事をカツラギは見逃さなかった。

 

 

「カツラギ・マリナは私の姪です。」

「何が言いたいの?」

「誤魔化す必要はありません、代表。バンシィ・ノワールのダイバーが私の姪のマリナである事は、すでに分かっています。」

 

 

キャロラインは驚いた表情を見せたが、ニルスは冷静にカツラギを見た。

まるでその時が来るのがわかっていたかのような表情を浮かべ、キャロラインとカツラギを交互に見る。

ニルスはカツラギの兄夫婦とは同じ研究所で苦楽を共にした仲間であり、カツラギの事やマリナを心配する気持ちも理解している。

だから今回の件が片付くまではバンシィの事を知らないままにしておくつもりだったが、やはりそこはゲームマスターだった男 カツラギ。

GBNの事ならば、どれだけ完璧に隠ぺいしていたとしても、この男の前では無駄な事だった。

 

 

「出来る事ならば、あなたには何も知らないままでいてほしかったものです……。」

「やはり、私を本社に呼んだのは、マリナの事を隠す為だったんですね。バンシィ……マリナは今、どこに?」

「それは我々にもわかりませんし、たとえ知っていたとしても、教えることは出来ません。」

「そうですか。では、こちらを。」

 

 

そう言いながらカツラギが懐から取り出したものを見て、キャロラインは絶句した。

だがニルスは冷静で、カツラギが出した物をまじまじと見つめる。

 

 

「辞表……ですか。」

「私を守るためというのならば、私がこの会社にいる理由はもう無い。私がGBNを守って来たのは、亡き兄と義姉、そしてその忘れ形見のマリナの為。マリナを守る事が出来なくなったこの会社に、もはや未練はありません。」

 

 

姪のマリナを救う為に、ヤジマ商事を去る覚悟を決めたカツラギ。

その目に迷いはない。

こうなる予感は、ニルスはしていた。

カツラギならばどれだけ隠していてもきっと真実を自力で暴いてマリナを助けに行くはずだと。

皮肉にも、それはかつてカツラギが敵対していたビルドダイバーズのリクと同じ行動だった。

あの時の、例えすべてを敵に回してでもサラを助けようとしたリクの気持ちが、カツラギは今になって初めて分かった気がする。

 

 

 

「……なるほど、退職するのであれば、もはや我々にあなたを止める権利はありませんね。」

「ニルス!!」

「ですがどうするのですか?いくら元ゲームマスターと言っても、あなた1人の手に負える相手ではありませんよ?」

「友人を頼ります。では、失礼します。……今まで、お世話になりました。」

 

 

そう言い残し、カツラギはその場を去った。

残されたニルスとキャロラインはカツラギの後姿を見つめ、彼が見えなくなると、キャロラインはニルスへと詰め寄った。

 

 

「何も辞めさせる必要なんて……!」

「これが彼なりのケジメなんだよ、キャロライン。GBN史上最悪のELダイバー バンシィ・ノワール……カツラギ・マリナの家族である彼が、戦う為のケジメ。彼はゲームマスターとしてではなく、マリナさんの家族として戦うんだ。」

「……よくわかりませんわ……。」

「同じ男としては、ボクは彼の気持ちはわかるよ。」

 

 

 

~~

 

 

本社から自宅へと帰宅したカツラギは、早速自室へと向かい、棚の中にしまっていたボロボロの箱を取り出した。

随分と年季の入った箱で、その中には正式実装前に配布されたβ版のダイバーギアと、もう一つ……HG規格の赤いガンプラが入っていた。

彼はそれを取りだすと、机の上に広げて、一度分解を始める。

バラバラにしたガンプラの埃を掃い、塗装剥げを直していく。

やがて元通りの姿を取り戻したガンプラは、その雄々しい真紅の姿を再びカツラギの前に見せてくれた。

 

 

「お前に会うのも久しぶりだな、ソニック。」

 

 

『ソニック』と呼ばれたガンプラ……それはかつて、キョウヤのガンダムAGE-2マグナムと共に作り上げたカツラギの愛機。

 

 

その名も『デルタソニック+』

 

 

ベース機は『機動戦士ガンダムUC』に登場するリディ・マーセナスの乗る機体として登場した『デルタプラス』

百式の原型機でもあるデルタガンダムの量産機として生産され、Zガンダムの開発データをフィードバックして作られた可変型モビルスーツ。

名前の最後に『+』と付くのはデルタプラスがベース機と言う事もあるが、元々はカツラギがキョウヤと出会う前に本機以前に使っていた『デルタソニック』というガンプラの後継機に当たる為。

ソニックの名の通り音速を超える速度で空を駆け抜けるこの機体は、キョウヤと共にガンプラバトルの高みを目指した。

だが、マリナの父親でもあるカツラギの兄が事故死した後は、ガンプラバトルから手を引き、GBNを見守り続ける事を決意してカツラギ自らが封印した。

 

 

「俺と、もう一度共に戦ってくれるか……?」

 

 

デルタソニックにそう尋ね、カツラギはダイバーギアとヘッドギアを装着。

ダイバーギアの上にデルタソニックをセットし、GBNの世界へと意識を飛ばした。

 

 

 

 

~~

 

 

 

GBNの世界へとやってきたカツラギは、いつものガンダイバーの姿では無く、リアルの姿から多少若返り、地宇宙世紀の地球連邦軍の軍服に似た制服を着た姿……ダイバーネーム『カツラギ』の姿となっていた。

本来GBNへとログインをすると、フォースネストや指定のエリア、それ以外であれば基本的にはログインルームのロビーに出現するのだが、今回彼がやって来たのはまったく違う場所。

周りには電子空間が広がっており、街や自然などの本来あるはずの物は何もない。

そこにあるのはただ一つ……止まり木のみ。

そしてその止まり木には、光る鳥のような物が佇んでいた。

 

 

『その姿でお会いするのは何年振りでしょうか、カツラギ。』

「ミス・トーリ……協力、感謝する。」

 

 

『SD戦国伝』に登場する結晶鳳凰(クリスタルフェニックス)と同様の姿を持つこの鳥……彼女の名前は『ミス・トーリ』

ニルスやカツラギの兄と並ぶGBNメイン開発者の一人であり、GBNのメインシステムを担当した女性科学者。

ニルス以上にGBNの事を熟知しており、この世界に彼女以上にGBNに関する知識を持つ人間はいないとされているほど。

今はELバースセンターを通じてELダイバー達の管理を続けながら、GBNを見守る存在となっている。

 

 

彼女こそが、カツラギが協力を依頼した『友人』

 

 

ミス・トーリはすでにヤジマ商事やキョウヤからの情報でバンシィ・ノワールこそがマリナである事は知っている。

カツラギとマリナの関係を知っている彼女は、カツラギからの協力要請を快く引き受けてくれた。

 

 

『ごめんなさい、私がいながらバンシィ・ノワールの正体に気が付かなかっただなんて……。』

「あなたのせいでは無い。あなたがいるから、私はヤツを追うことが出来る。」

『あなたの使っているダイバーギアにはマリナさんのログイン履歴もある。それはつまり、あなたのダイバーギアはバンシィ・ノワールのデータをロードした事があると言う事。』

「マリナがGBNを始める少し前に、私のダイバーギアで試しにログインした事がある。その時には、すでにマリナはバンシィのガンプラを使っていた。」

『確かに私なら、そのログイン履歴からバンシィ・ノワールのデータを抽出して、彼の居場所を突き止める事は出来る。しかし、あなたにも相応の危険があります。敵は純粋な悪意の塊……最悪の場合、あなたの心が壊れてしまうかもしれない。』

「それでも私は行かなければならない。マリナは、俺が救う。」

 

 

グッと拳を握るカツラギ。

危険というならば、すでにバンシィと幾度も戦った勇敢な少女達がいる。

マリナの家族でもあり、GBNのゲームマスターだった自分がリスクを恐れるなどありえない。

ミス・トーリが解析したバンシィ・ノワールの位置データがデルタソニックに転送される。

カツラギはデルタソニックに乗り込むと、その位置データを読み込み、目の前にワープゲートを出現させた。

 

 

『健闘を祈ります……カツラギ。』

 

 

 

「デルタソニック+、出る!!」

 

 

 

カツラギが叫ぶと同時に、デルタソニックはウェイブライダー形態へと変形。

ワープゲートを潜り、ついにバンシィ・ノワールが待つ場所へと飛び立っていった。

 

 

 

 

~~

 

 

「我恨它……こんなご飯ランジュ食べたくないわ~……お肉が食べたい……。」

「わがまま言うんじゃありませんランジュ!病院食はその人にとってもっとも適切な栄養バランスを考えて作られているんですよ!残さずにしっかりと食べてください!」

「ミア~!栞子が意地悪言うわ~!」

 

 

ようやく目を覚ましたランジュは、少しずつ元気を取り戻していた。

入院前ほどの覇気は無いし、まだ体も満足には動かないが、同好会メンバーのおかげで食欲は戻って来ていた。

代表して栞子、ミア、侑の3人でお見舞いにやって来たが、病院食を嫌がるランジュに無理やりご飯を食べさせようとする栞子を見て最近全然笑えていなかったミアと侑もちょっとだけ笑顔になれた。

ふと病室の窓を見て、侑が気が付いた。

 

 

「この病室、窓からダイバーシティのユニコーンが見えるんだね。」

「えぇ。夜になると綺麗に光っててカッコいいわ!」

「光る……?あ、いつの間にか工事終わってるね。」

「最近忙しかったらすっかり忘れてたよ。そう言えばしてたね、工事。」

「ガンフェスの時に動かすんでしたよね?」

 

 

病室から見えるユニコーンガンダム立像は、いつの間にかいつもの姿を取り戻していた。

少し前まではガンフェスの時にELダイバーを使って立像を動かすために、各関節を稼働できるように改造していたが、その工事も無事に終わったようだ。

 

 

「ミア、栞子……ライブ、頑張ってね。」

「ランジュ……。」

 

 

今回のライブ、ランジュは参加しない。

一度気晴らしの為に病院でGBNへのログインを試みたが、その瞬間にバンシィ・ノワールとの戦いが脳裏をよぎり、ログインできなかった。

今回の入院は、ランジュの場合は身体的なダメージよりも精神的なダメージの方が大きく、回復にはまだ少し時間がかかりそうだった。

 

 

「侑!同好会の皆の事頼んだわよ!大部長であるランジュからの命令よ!」

「だ、大部長!?あ、アハハ……かすみちゃんが聞いたら怒りそう……。」

 

 

いつのまにか同好会の大部長(自称)となっていたランジュから念を押される侑。

 

 

ガンフェスライブまで、いよいよ残り1週間を切った。

 

 

 





~にじビル毎回劇場~

第98話:お姉ちゃん

かすみ「えぇ!?しお子って素は敬語じゃないのぉ!?」

璃奈「かすみちゃんとしずくちゃんは同級生の前だとため口だったけど、栞子ちゃんはずっと敬語だからそっちが素なんだと思ってた。」

しずく「せつ菜さんもご両親相手には普通に喋りますから、純粋な敬語キャラは栞子さんだけかと思ってたのに……。」

薫子「いや~、中学上がったぐらい?から敬語で喋り出したし、私の事も『お姉ちゃん♡』って呼ばなくなったけど、家だとごくまれに敬語外れるよ。」

かすみ「どんな時ですか?」

薫子「ブチ切れてる時。」

璃奈「何それ怖い。」

しずく「どんな状況なんですかそれ?」

薫子「中学生の時に栞子の自由研究の為にって思って捕まえてきたセミをあの子の部屋の中で放したら、すごい剣幕で『お姉ちゃんの馬鹿』って怒鳴られたよ。」

璃奈「何それカワイイ。」

かすみ「でも薫子先生のやってる事が可愛くない。」

しずく「先生、そう言う動画とかってありますか?」

薫子「あるよ~!ちょっと待ってね……えーっと……どれがいいかなー……。」

栞子「…………姉さん。」

薫子「え?うわっ栞子!?いつからそこに……!?」

栞子「……さぁ、家に帰りましょうか……お姉ちゃん。」

薫子「あ、これメッチャ怒ってるやつ。」

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