午前9時30分……開店前のガンダムベースの前で一人たたずむ三船栞子。
彼女はそわそわしながら、その時を今か今かと待ちわびていた。
昨日、侑と歩夢と別れ際にかわした約束
『明日朝一でGBNデビューしようね!遅れないでよ!』
という侑の言葉を思い出しながら、鞄から大事そうに取り出したデスティニーガンダムを見つめる。
「ウフフ……少し早く来過ぎてしまったみたいですね。あぁ、早く開かないでしょうか!今日のために、昨日家のお手伝いをしてお小遣いを少し戴いてきたので、これでデスティニーをもっと綺麗にしてあげられますね!」
思わず独り言をこぼすと、店のシャッターが開いて、中から昨日の女性店員が、先輩従業員らしき男と共に姿を見せた。
「あれー?昨日のデスティニーの子じゃん!いらっしゃいませー!」
「おはようございます、昨日はお世話になりました!」
「モモちゃん、知り合い?」
「うん、昨日ちょっとね。昨日はごめんねー、ガンプラの事教えてあげられなくて…。」
「いえ!それについては大丈夫です!昨日、とても丁寧に指導してくださった方がいたので!」
「もしかしてそれってマサキくんかな?」
「お知り合いなのですか?」
「うん、GBNでちょっとね。僕はここの店長代理のナナセ・コウイチ。こっちはバイトリーダーのヤシロ・モモカちゃん。」
「三船栞子と申します。これからお世話になります。」
「と言う事は、今日はいよいよGBN?」
「はい!その前に、デスティニーをもう少し綺麗にしてあげようと思いまして。」
「だったらコウイチさんに任せてよ!」
「え、ちょっ、モモちゃん……。」
聞けばコウイチは、ガンプラ界隈ではそれなりに名の知れたビルダーなのだという。
ガンプラ初心者の栞子にはよくわからないが、ガンプラビルダー四天王というファンの間で語り継がれる4人のビルダーの一人なんだとか。
「四天王って……僕はそんなたいそうなもんじゃないよ……。ふむふむ、稼働をスムーズにするために、間接のきつめのところを削ったり、逆に緩いところを補強してみようか。それだけでもGBNでの動きもだいぶ変わるよ。」
「是非ご指導お願いします!」
「じゃあ私はー、栞子ちゃんのアバター作りのお手伝いしちゃいまーす!」
~~
午後13時 ダイバーシティ東京
ガンダムベースへ向けて足を走らせる高咲侑と上原歩夢。
二人は栞子と約束した時間を3時間も過ぎてしまい、彼女へ送ったメッセージも既読がつかないまま。
なのでこうして急いで、ただし鞄の中のガンプラが壊れないように慎重に走っていた。
「もう!侑ちゃんが何度起こしても起きないから!」
「だからごめんって!歩夢だって、起きた時間私とそんな変わんないじゃん!」
「栞子ちゃん絶対怒ってるよ!メッセージに既読つかないなんて、普段の栞子ちゃんだったら絶対無いもん!」
「い、いそげ~!!」
ようやくガンダムベースにたどり着いた二人。
栞子を探して店内を見渡すと、製作ブースで彼女の姿を発見した。
「し、栞子ちゃ~ん!!」
「遅れてごめんなさーい!!」
「あら、侑さん、歩夢さん。おはようございます。どうしたんですか?そんなに慌てて……?」
「え?だって、私たち3時間も遅刻しちゃったし……。」
「3時間?あ、もうこんな時間だったんですね。メッセージもこんなに……。」
「ほ、本当にごめんなさい!昨日侑ちゃんと夜通しでガンプラ作ってたら、いつの間にか寝ちゃってて……。」
「いえ、私も気づきませんでしたし、ここでの作業にも集中できたのでおあいこです。」
そういって栞子は全く怒らずに、コウイチとモモカと一緒に改修したガンプラを見せてくれた。
確かにベース機はデスティニーだが、アロンダイトと高エネルギー長射程ビーム砲が取り外されて翼が四枚になっており、スカート部分には折りたたんだブラスターのような物が取り付けられている。
カラーリングはデスティニーのブルーの装甲を、栞子のイメージカラーの翡翠色に変えていた。
何枚もの翼が重なったその姿は、どことなく『機動戦士ガンダムSEED』の主人公キラ・ヤマトの搭乗するフリーダムガンダムの様な印象を受ける。
「これは……!」
「ウフフ、先ほど、店長代理さんにご指導いただきまして、ついに完成したんです、私だけのオリジナルのガンダム。」
「この子の名前は?なんていうの?」
「はい、安直ですが、デスティニーフリーダムと名付けました。同好会のみなさんのおかげで、運命は自由なものだと、考えを改めた私にふさわしいガンダムだと思ってます。」
デスティニーガンダムとフリーダムガンダムのミキシング機『デスティニーフリーダム』
ガンプラ初心者の侑と歩夢の目から見ても、これが大事に作られたものだとよくわかる。
「お二人も新しいガンダムを作られたんですよね、見せていただけますか?」
「いいよ!じゃーん!これが私のレインボーユニコーンガンダム!刺し色に同好会10人のカラーを使ってるのがポイントなんだー!見た目はあんまり変わってないけど、すごい隠し機能があるんだから!」
「私はガンダムドリームインパルス!フォースシルエットをかわいく改造してみたんだ。ほら、羽根の形がハート型になってるの!」
「わぁ!素敵なガンダムですね!」
「3人ともお待たせー!準備できてるよ!」
3人で盛り上がっているところに、モモカがダイバーギアを持ってきてくれた。
GBNにログインするためには、このダイバーギアを使ってアクセスする必要がある。
GBNの筐体にダイバーギアをセットし、そこへ自分のガンプラを置く事でゲームスタートだ。
なお、ログインに必要なのはあくまでダイバーギアのみであり、ガンプラバトルをしないユーザーはガンプラなしでもログインできる。
モモカからダイバーギアを受け取り、筐体に腰かけると、ヘッドギアを被り、その上にガンプラを置く。
『ID data convert Please scan your Gunpla』
台座に置かれたそれぞれのガンプラが光った。
次の瞬間、3人の意識は現実の肉体を離れ、データの海へとダイブした。
~~
GBN 中央ロビー
「……すごい……!これが、GBN……!」
ログインルームからロビーに出てきたのは、高咲侑。
ダイバーネームは『ユウ』
彼女と同時に上原歩夢もロビーにログインしてきて、二人とも現実とほとんど変わらないその容姿を見て思わず笑ってしまった。
「あはは!歩夢ぜんっぜんかわってないじゃん!」
「そ、それを言ったら侑ちゃんこそ!髪型がポニーテールになっただけでリアルとほとんと一緒じゃない!」
「歩夢かわいいんだからもっと冒険すればよかったのに!あ、でも衣装めっちゃかわいい!それ、2ndライブの時の衣装にそっくり!」
「侑ちゃんの方は……半袖半ズボンでちょっとワンパクだね。」
「動きやすい方がいいと思ってさ!さて、栞子ちゃんはどこかなー?」
「あの……ここです。」
「あれ?栞子ちゃんの声が聞こえる。」
「ホントだ。でもいないね?」
「私はここです。」
「んー?おかしいなぁ?バグかな?」
「運営さんに問い合わせてみる?」
「侑さん!歩夢さん!!ここです!!下です!!」
「「下?え?」」
ハッとして、目線を下した先にいたのは、栞子と非常にそっくりなダイバー。
しかし身長はユウの半分程度しか無く、頭には犬耳、さらにしっぽまで生えているというマニアック仕様。
服装は決意の光衣装に近い造形だが、スカートは足首まで隠れるぐらい長めになっている。
普段自分たちよりも背の高い後輩が、これほどまで小さくなってしまって、二人は驚きを隠せない。
「「冒険してる!!!」」
「わ、私の趣味じゃないんです!モモカさんにアバター作りを手伝ってもらったらこのような姿に……あ、あまりジロジロ見ないでください!」
「めっちゃくちゃ可愛いよ栞子ちゃん!!うわぁ、しっぽモフモフ!耳あったか~い!なにこれすっごいときめき~!あ、いかん涎が……。」
「ゆ、ユウちゃん!早く変わってよ!次は私が触る番なんだから!」
「二人ともいい加減にしてください!!潰しますよ!!」
一通り栞子のアバターを撫でた後、3人はそれぞれのIDを確認。
歩夢のダイバーネームはそのまま『アユム』、栞子の方は『しおこ』だ。
ユウとアユムは自分でアバターの設定をしているが、しおこの方はモモカが作成しているため、ダイバーネームは自分が一番なじみ深いあだ名で付けられてしまった。
「私だってもっとかっこいいアバターにしたかったです……。」
「大丈夫、その尻尾抱きかかえて落ち込んでる姿だけで私はご飯3杯はいける。」
「ユウちゃん……。」
凄く冷たい目で見てくるアユムに気づかず、ユウはあたりを見回した。
すると、彼女たちの姿を見つけた一人の長身の男が近寄ってきて、彼女たちにウインクをしてきた。
「ウェルカムようこそいらっしゃ~い♪GBNへようこそ~♪」
「「「え……?」」」
「アタシはGBNの案内人のマギー、マギーお姉さんって呼んでくれていいのよ~♡」
「男性ですよね?」
「そうよ♪でも心は、お・と・め♡ あなた達の事は、モモちゃんから聞いているわ。初心者だからいろいろと教えてあげてってね。」
「モモカさんの知り合いなんですか?」
「えぇ。アダムの林檎のマギーって言えば、結構有名だと思ったんだけど……アタシもまだまだね。」
彼(彼女?)の名はマギーというらしい。
聞くところによると、GBNでの初心者案内を買って出たSランク級ダイバーであり、あの有志連合加入フォースである『アダムの林檎』のリーダーだそうだ。
今や次期チャンピオン候補筆頭と呼ばれているビルドダイバーズのリクを導いた者としても有名だ。
「あの、GBNって最初は何をしたらいいんですか?」
「私たち、早くガンプラに乗ってみたいんです!」
「慌てないで。まずは初心者ミッションを受注して、格納庫へ行きましょう。コンソールパネルを開いて、チュートリアルミッションを選択。次に格納庫のマークをタッチしてみて。」
マギーに言われた通り、コンソールパネルを開き、チュートリアルミッションを受けると、画面端にある格納庫のマークをタッチ。
すると4人の体は瞬時にワープし、ログインした店舗のデータベースに用意されてある格納庫へとたどり着いた。
そこには、自分たちが手塩にかけて製作したガンプラが、まるで本当のガンダムであるかのようにたたずんでおり、それを見て、ユウ達は目を輝かせた。
「す、すごい!私のレインボーユニコーンが……!私たちをいつも見守ってくれてた、あのユニコーンガンダムみたいに!」
「見て!私のドリームインパルス!すごく綺麗!本当にこの子を私が作ったんだ……!」
「デスティニー……フリーダム……!」
全員、感動で言葉が出ない。
アユムがドリームインパルスの脚部を触ると、まるで本当のロボットに触れたかのようなひんやりとした感触が手に流れる。
たとえデータだとしても、今目に前にあるガンプラは、間違いなく本物のガンダムだ。
「あら?あなた、この子ってHGよね?デストロイモードじゃなくて、ユニコーンモードにしたの?」
「あぁ、はい。角がカッコよくて。」
「そう。変形できるRGのユニコーンもいいけど、各形体の美しさならHGも負けてないわ。いいチョイスよ、あなた♪」
「えへへへ。」
「ユウちゃん、しおこちゃん!早く乗ろう!」
「はい!私も早くこの子と一緒に飛びたいです!」
「そうね、感動するのもいいけど、GBNの醍醐味はここから!さぁ、行っちゃって!」
GBNはコンソールパネルを使えば簡単にコックピットへ転送できるが、最初にそれをやるのは邪道。
3人とも格納庫のエレベーターに乗り、開いたコックピットへ直に乗り込む。
ハッチが閉まり、カメラを通して周りの風景が映し出されると、3体ともカタパルトへと輸送される。
発射台にガンダムが固定されると、3体とも腰を落とす。
「う、うわぁ~……緊張するぅ!」
『ユウちゃん!』
「うわっ!?アユム!?あ、そっか、通信できるんだっけ。」
『いよいよですね、ユウさん、アユムさん。』
「うん!さぁ、行くよ二人とも!」
「ユウ!レインボーユニコーンガンダム!」
「アユム!ガンダムドリームインパルス!」
「しおこ、デスティニーフリーダム!」
「「行きます!!」」
「参ります!!」
ついに、空へと飛び立つ3機のガンプラ。
いよいよGBN、初のミッションだ。
「いってらっしゃ~~~い♡♡♡」
~にじビル毎回劇場~
第1回:ガンプラではなくガンダム
モモカ「栞子ちゃんって、ガンプラの事をちゃんと『ガンダム』って呼ぶよね。なんで?」
栞子「そうですか?意識したことはなかったです。」
モモカ「最初はガンプラって呼んでたのに、途中からガンダムって呼んでるよ。」
栞子「私、初めてガンプラに触れて、デスティニーを作ってみて、この子はただのプラモデルとしてではなく、『ガンダム』になるために生まれてきたんだと、そう思ったんです。たぶん、それが原因だと思います。」
モモカ「へー!その言葉、ユッキーとかシャフリさんが聞いたらきっと喜ぶよ!」
栞子「そ、そうですか?」
モモカ「よーし、そんないい子の栞子ちゃんには、とびきりかわいいアバターをプレゼントしてあげよう!期待してて待っててね!」
栞子「はい、楽しみです!」