ランジュの中の人料理めっちゃ上手で惚れた。
「おーい、りなりー!お昼一緒に食べよー!」
その日、愛はどうしても璃奈と一緒にお昼ご飯を食べたい気分だった。
特に理由があったわけではないが、時々そういう気分になる時がある。
しかも今日愛が持ってきていたお弁当には、宮下家の主である彼女の祖母の特製ぬか漬けが入っていて、璃奈はそれが大好物だった。
廊下を歩いていた璃奈に大声で声を掛けた愛だったが、振り返った璃奈は表情こそ変わらないが申し訳なさそうにモジモジしていた。
「あ、愛さん……。」
「お、ミアもいるじゃん!ミアも一緒にどう?おばあちゃん特製のぬか漬けだよ!」
璃奈の隣には、スクールアイドル部のミア・テイラーがいた。
彼女は14歳にして飛び級で大学を卒業、その後ランジュと共に虹ヶ咲学園にやって来た3年生。
中々人に心を開かないが、璃奈とは親友とも呼べるほどに仲が良く、最近はよく一緒に行動している。
「あぁ、愛。悪いけど、璃奈はさっきボクと一緒にハンバーガー食べたから。」
「ごめんね愛さん。前から約束してたから……。」
「そうなの?もう、謝らなくていいって!愛さん、りなりーとミアが仲良くしてるの凄く嬉しいからさ!」
「うん。ありがとう。」
「フフフ、実はここ最近で一番いい曲が出来たんだ。まずは璃奈に聞いてもらおうと思ってね。」
「そうなんだ。邪魔しちゃってごめんね二人とも!りなりー、また部室でね!」
笑顔で璃奈とミアに手を振った愛。
二人の姿が見えなくなると、愛はその場から立ち去ろうと、後ろを振り返る。
すると、そこには愛と同じように昼食のパンを持ってウロウロしていたエマの姿があり、エマは愛に気が付くと彼女へ駆け寄った。
「おーい!愛ちゃーん!」
「エマっち。」
「これからお昼?」
「うん。エマっちも?果林は?」
「果林ちゃん、今日は侑ちゃんとミーティングがあるからもう行っちゃったんだ。よかったら一緒に食べない?」
「うん!ありがとエマっち!」
~~
「ん~!とってもボーノ~!」
「ハハハ、良かった!でも、コッペパンにぬか漬け挟んでも美味しいなんて意外だったな~。」
「愛ちゃんのおばあちゃんの特製ぬか漬けと、かすみちゃんお手製コッペパンだからだよ~。」
「美味しそうに食べてるエマっち見てたらこっちまで嬉しくなっちゃうよ!」
きゅうりのぬか漬けをホットドッグの様にコッペパンに挟んで食べるエマと愛の二人。
いつもはいろんな種類のぬか漬けを持ってきている愛だが、今日はきゅうりの一種類だけ。
そう言えばこれは、璃奈の大好物だったはず。
先ほど、璃奈を誘おうとしていた愛の姿を思い出しながら、エマは恐る恐る愛に尋ねた。
「これ、本当は璃奈ちゃんの為に持ってきたんだよね?」
「え?あぁ、うん、まぁ……でも、エマっちが美味しそうに食べてくれるから良かったよ!」
そう言って、愛は笑った。
笑ってはいるが、本当は璃奈に食べてもらいたかったに違いない。
心配そうな顔でエマが愛の顔を覗きこんでいたら、愛は観念したのか、心情をエマに話し始めた。
「アタシさ、りなりーにお礼したいんだよね。」
「お礼?」
「うん。この話をするとエマっちは怒るかもしれないけど……愛さん、スクールアイドル部に行ってたじゃん。」
「…………。」
愛は少し前まで、同好会を抜けてスクールアイドル部に在籍していた頃がある。
他のメンバーに負けたく無いという思いが先走り、周りのメンバーの反対を押し切って部に入部してしまった。
そのせいで同好会と部の仲は最悪であり、特にエマとかすみは移籍組を『裏切り者』と軽蔑していた。
しかし璃奈は愛と変わらず仲良くしてくれて、一緒に部で活動していたミアの話を親身に聞いてくれた……あの時の愛からしたら、まさに璃奈は『恩人』だった。
「何か、りなりーの喜ぶことをしてあげたいって思うんだ。ハハハ……ごめんねエマっち。こんな相談、嫌だよね……?」
「ううん。私たち、色々あったけど、愛ちゃん達はちゃんと戻ってきてくれたんだもん。仲間なんだから、悩みがあるなら相談してほしいな。」
「エマっち……!ありがとう!」
「愛ちゃんの悩みを聞くのはこれで二度目だね。」
「そうだね。なんか、愛さんって悩んでるといっつもエマっちに話聞いてもらってるなぁ。」
「頼ってもらえてうれしいよ。」
璃奈に今までのお礼がしたい。
そんな愛の悩みを解決するために、エマはとある提案をした。
スマホからGBNの公式ホームページにアクセスすると、今日の放課後に開催されるイベントを愛に見せた。
「ナデシコアスロン……?なにこれ?」
「女性ダイバー限定のミッションだよ。普通のガンプラバトルと違って、自分のガンプラで戦うんじゃなくて、トライアスロンをこなしながら、各ポイントに設置されたガンプラに関するお題をクリアしていくレースミッションなんだぁ。」
「へー!こんなのあるんだ!楽しそう!でもなんでこれ?」
「優勝賞品を見てみて。」
「んー……あ!」
女性ダイバー限定ミッション『ナデシコアスロン』
女性向けブランドメーカーとコラボしたイベントで、毎年豪華な景品が用意されているこのミッション。
今回の優勝賞品は、リアルでもらえるピンクとオレンジのペアイヤリングだ。
「いいじゃんこれ!ピンク色でりなりーに似合いそう!」
「コレで優勝して璃奈ちゃんにプレゼントしようよ!私も参加するよ!」
「いいの?」
「うん!実は、今日は元々コレに参加しようと思ってたの。ほら……私のダイバールックって、前まで『アレ』だったから。」
以前までのエマのアバターは、父親と瓜二つのコワモテの大柄の男『ヴェルダー』
リアルでは女性でも、ダイバールックがアレでは、こういった企画には参加できない。
なのでベテランダイバーであるエマでも、今回のナデシコアスロンが初参加だ。
「自分のキャラを忘れて有志連合戦前のナデシコアスロンに参加しようとしたら、AVALONの人達に凄い顔されたなぁ……懐かしいよ。」
「あー……うん、どんまい、エマっち。」
「自分のガンプラに乗る機会は無いけど、一応愛ちゃんのガンプラも持ってきてね。何があるかわからないから。」
「エマっちがいつも言ってる『戦場での油断は命取り』ってやつ?わかってるよ!愛さんと愛参頑駄無は一心同体だからね!あいさんだけに!」
「ウフフ♪じゃあ、またあとでね、愛ちゃん!」
~~
「ミアさんの新曲、凄く良かった!璃奈ちゃんボード『ぶいっ』!」
「Thank You璃奈。いつかボクの作った曲を、君にも歌ってもらいたいよ。」
「うん、楽しみにしてるね。」
「ミアー!ミアー!ちょっと手伝ってミアー!!」
「……はぁ……。」
「行かなくていいの?ランジュさん、呼んでるよ?」
「どうせ禄でもない事だと思うけど。」
「困ってるなら助けてあげないと。」
「璃奈は優しいんだから全く……。」
スクールアイドル部の部室で璃奈に新曲を聞いてもらっていたミア。
部室の外でランジュが呼んでいる声が聞こえたので、璃奈に言われて渋々ドアを開ける。
するとそこには、大量のガンプラの箱を抱えたランジュとガンプラバトル同好会兼近江彼方姫親衛隊(正式名称)の部員数名がいて、彼女たちはミアがドアを開けると同時に部室の中に倒れ込んできた。
「あいたたた……!開けるなら開けるって言いなさいよ!」
「……何してんの?」
「ガンプラバトル同好会の人達?」
「あら!璃奈もいたのね!ニーハオ!今日も可愛いわ!」
「こんにちわ。」
ミアと璃奈にも手伝ってもらい、運んできた大量のガンプラを部室に置いたランジュ。
手伝ってくれたお礼に先ほど授業で作ったリンゴケーキを全員に振る舞ってくれた。
「で、なんなのさコレは。邪魔なんだけど。」
「ガンプラバトル同好会から……、」
「ガンプラバトル同好会ではありません!!ガンプラバトル同好会兼近江彼方姫親衛隊(正式名称)です!!」
「我々の高校生活はガンプラと、彼方姫と共にあり!!」
「あとこのケーキとても美味しいです!!ごちそうさまでした!!」
「……この子たちから、部活で使ってないガンプラを貰って来たのよ。」
「どうしてそんな事を?」
「ランジュもガンプラバトルやってみたくなったのよ!ヤマトに相談したら、積んでるガンプラで良かったらくれるって!」
「どれも大型キットばかりだ……あ、凄い。ミーティアにデンドロビウム、ネオ・ジオングまである。」
どれも今では手に入り辛い、高級なキットばかりだ。
なんでも今から数年前にガンプラバトル同好会の初代部長が部費で購入したが、『デカくて扱い辛い』という理由でずっと部室の棚で埃をかぶっていた、いわゆる『積みプラ』だそうだ。
発売当時はGBNは存在せず、限られた範囲内でしか動けない実機バトルしかなかったので、過剰に大きなガンプラが煙たがれるのはわかる。
しかし、ガンプラを積むというのは、現在の部長であるヤマトからしたら許されない事であり、そうするぐらいならと快くランジュに譲ってくれた。
「今から作るの?言っておくけど、ボクは手伝わないからね。」
「アタシは作らないわよ!放課後、家に持って帰ってプロのモデラーを雇うの!」
「自分で作らないの……?」
「こういうのは専門家に任せた方が強いガンプラが出来るでしょ?」
「天王寺さん、バトルの為にプロを雇うのは珍しい話じゃないよ。3代目メイジン・カワグチさんだって、世界大会で使っていたアメイジングケンプファーとアメイジングエクシアはプロが作ったものだったし。」
「そ、そうなの……?」
言われてみれば、璃奈の尊敬するセイも、パートナーであるレイジの為にガンプラを作っていた。
プロ意識の高いランジュなら、モデラーを雇うぐらいの事はするだろう。
「お礼を言うわガンプラバトル同好会!今度あなた達をスクールアイドル部のライブに招待してあげる!」
「あ、いえ。私たちが見たいのは彼方姫なので。」
「なんでよ!!」
「じゃあ今度、私たちのユニット練習見に来る?」
「いいんですか!?是非行かせてください!!」
「ちょっと!!なんでアタシたちのライブには来ないで、璃奈たちの練習の見学には行くのよ!!」
~~
練習後、GBNへログインしたアイとエマは、さっそくナデシコアスロンにエントリーした。
このイベントはGBNの運営と有名ブランドメーカー『サザメス』の提携で、毎年豪華景品が用意される人気イベント。
先日の龍虎祭が男性ダイバー向けのイベントなら、こちらはその名の通り女性ダイバー向けのイベントだ。
さっそくダイバールックをナデシコアスロン用のウェアに変更し、アイとエマは会場へ入場。
その参加人数の数に圧倒された。
「滅茶苦茶参加者いるじゃん!これ、この前の龍虎祭より多いよね?」
「うん。ランクも関係ないし、なんならガンプラを持って無い人でも参加できるイベントだからね。」
「エマっちは自信ある?」
「もちろんだよ~!ずーっと参加したかったイベントだもん!絶対に優勝するよ~!私が優勝したらアイちゃんに景品あげるから、璃奈ちゃんに渡してあげてね!」
「ううん。こういうのは自分で勝ち取ってこそだよ!エマっちにも絶対負けないからね!」
「私だって負けいないよ~!」
「エマ!」
「あ、サラちゃん!」
準備運動をしているアイとエマの下へ、銀髪の美しい髪の女性ダイバーが駆け寄ってきた。
ビルドダイバーズ所属のELダイバー……サラだ。
彼女はエマたちと同じくナデシコアスロン用のウェアに着替えていて、彼女の後ろには同じ服装をしたサラの妹、BUILD DiVERSのメイもいた。
「サラちーとメイりんじゃん!ちーっす!」
「サラちー?」
「メイりん?」
「あだ名だよ!あ・だ・名!」
「なるほど、あだ名か。親しい者同士が呼び合う、特別な呼称の事だな?」
「そうそう!二人とも、ナデシコアスロン参加するんだ?」
「うん。今日はエマと約束していたの。」
「エマっちと?」
エマとサラには、決して忘れられない過去がある。
エマがまだAVALONに所属していた時に勃発した第二次有志連合戦。
そこでエマは、不本意ながらサラと敵対してしまった。
ELダイバーとはいえ、人の命を奪う事に疑問を持ったエマはGBNから離れ、ガンプラバトルを辞めた。
少し前に、果林と一緒にGBNで本気の喧嘩をして、ヒロトに諭された事で、ようやく自分を許せてGBNに復帰できたのだ。
サラと再会した時、エマは当然そのことを彼女に謝罪した。
だが、サラは笑って許してくれた。
「今日は元々、サラちゃんともっと仲良くなりたくて一緒に出場しようねって約束してたんだ~。」
「え?そうだったんだ。なんかごめん、アイさんお邪魔になっちゃったかな。」
「全然そんな事無いよ!ね、サラちゃん!」
「うん。私もアイと、もっと仲良くなりたい。」
「う~ん!ありがとサラちー!ギュってしてあげよう!」
「メイちゃんも、今日はよろしくね。」
「あぁ。お前たちとはフォース戦以来だな。」
「今日はあの時みたいにはいかないよ。」
「臨むところだ。」
ちなみに、ナデシコアスロンでは毎回、主催者であるサザメスの会長が演説をして、出場者から『会長コール』なる黄色い声があがるのだが、今年はそれは無い。
商品がGBNでのレアアイテムではなく、リアルでもらえるそんなにお高くないアクセサリーだというのものあるが、それ以外にも理由が。
このイベントでは、その年の『GBNイメージガール』を決めるという目的があるのだが、3年前に毎年一人しか選ばれないイメージガールに、なんと同時優勝の11人が選ばれるという珍事が起きた。
それ以降、イメージガールはこのイベントでは選ばれなくなり、その為に会長コールも減った。
「メイは参加初めてだったよね。」
「えぇ。色々ご教授お願いします、姉さん。」
「サラちー、参加した事あるの?」
「アイちゃん。サラちゃんは3年前のナデシコアスロンの優勝者の一人で、GBNのイメージガールなんだよ。」
「えぇ!?マジで!?凄いじゃん!!」
「私、モモち、アヤメ、ナミ、ビルドダイバーズは全員優勝したんだよ。」
「ナミ……?聞いた事無い名前だなぁ。」
「今度紹介するね。あ、そろそろ始まりそう。行こう、メイ。」
「はい、姉さん。」
BUILD DiVERS内では基本あまり表情の変わらないメイ。
サラにつき従い、嬉しそうに後ろをついていく姿は、どことなく侑に対するかすみ、歩夢に対する栞子、エマに対する果林を彷彿とさせて案外可愛いと思うアイ。
果林だけなんか違うという事に突っ込むのは野暮だ。
「私たちも行こう、アイちゃん!」
「OKエマっち!よーし、りなりーの為にも、絶対に優勝するぞーーー!!」
~にじビル毎回劇場~
第30回:バレンタイン
侑「今年はあげる人多くて大変だなー。まず同好会の皆でしょ?ライブで仲良くなった人達に……あ、リクくんたちとヒロトくんたちにもあげなきゃね。コンナニタクサンヨウイデキナイヨー!!」
果林「待ちなさい侑。今の発言は聞き捨てならないわ。」
侑「え?果林さん?」
果林「ヒロトくんにチョコをあげるのは、やめなさい。」
侑「え?な、なんで?」
歩夢「そうだよ侑ちゃん!!」
侑「歩夢!?」
歩夢「他の人達はいいけど、ヒロトくんだけには絶対に渡さないで!!ヒロトくんへのチョコは、ヒナタさんだけでいいの!!」
果林「そうよ!わかってるわね歩夢!さすがは幼馴染ガチ勢!」
侑「えー……でも、一人だけ渡さないっていうのも可哀想……むぅ、わかったよ……じゃあBUILD DiVERSはやめておいて、リクくんたちに……、」
キョウヤ「あぁ、待ってくれ侑くん。リクサラは尊い……見事だ……!」
侑「チャンプはさぁ……。」