これは、スクールアイドル同好会がガンプラバトルとビルドダイバーズに出会うより1ヶ月ほど前の事。
「ガンプラ……ですか?」
朝香果林は所属している事務所のマネージャーから、一つのガンプラを渡された。
アニメなどほとんど見ない果林でも、GBNが世界的にメジャーなゲームなおかげでガンダムという存在自体は知っていたが、今渡されたガンプラはどう見てもガンダムには見えない。
肩が妙に広いし、どう見ても正義の味方という風貌のモビルスーツではない。
箱には『HGUC 1/144 キュベレイ』と書いてあった。
「そう。ほら、あなたも知ってるでしょう?うちの事務所にいたカミキ・ミライ。」
「えぇ、もちろん。あの人はうちの事務所のスターでしたから。」
「そうなのよ!それでね、あの子が有名になったきっかけがそれなの。」
「ガンプラが……ですか?」
「もう7年は前だったかしら?ガンプラバトル全国大会でMCを務めたのがミライなの。ほら、今GBNもずいぶん盛り上がってるでしょう?だからうちの事務所でもガンプラを使った新しいスタイルを取り入れていこうと思って!」
(新しいスタイル?過去の栄光にすがってるだけに見えるけど……まぁ、いいわ。ちょっと面白そうだし。)
「それで、私にもガンプラと一緒に撮影をしてみろって事ですね。」
「話が早くて助かるわぁ!ガンプラ作りはこっちで手配するから、あなたは連絡がありしだい……、」
「いえ。」
マネージャーの話をさえぎる果林。
キュベレイの箱を手に取った果林は、それをそのまま自分のカバンへと押し込んだ。
「自分でやってみます。その方が、真剣に撮影に臨めそうなので。」
「そう……わかったわ。じゃあ、お願いね、果林ちゃん。」
「はい。では、また。」
そう言い残し、果林は事務所を出た。
ちなみに、先ほどまで果林と会話をしていたマネージャーは、紛れもない男性であった。
~~
寮へ帰ってきた果林は、さっそく箱を広げてキュベレイの組み立てを始めてみた。
ランナーを手に取り、説明書を読みこむが、細かすぎて意味が分からない。
「あ、あれ?これってどっち向きなのかしら……?こっち?それともこっち?」
ランナーからパーツをもぎ取り、もう使わなくなった古い爪切りと爪やすりで余計なパーツを少しずつ削っていく果林。
内心少しイライラしながらも、少しずつキュベレイを形にしていく。
「あーもう!なによこれぇ!パーツと枠をつないでる余計なでっぱり太過ぎよぉ!もぐ時に指痛めるじゃない!!爪切りがあって本当に助かったわ……。」
なお、ガンプラのもぎり取りはご法度である。
これが許されるのは『武者○伝』シリーズのみだ。
ガンプラに限らず、プラモデルを作る時にニッパーは必須だ。
ようやく足が一つ完成した時には、すでに始めてから1時間が経過していた。
「ふぅ……疲れたぁ……。少し休憩しようかしら……。」
コンコンっ!
「果林ちゃーん、いるー?」
「え、エマ!?」
その時、果林の部屋を、同じ寮生のエマがノックした。
慌ててガンプラを隠すと、エマを部屋へ招き入れる。
お風呂上りなのか、エマは髪を下しており、すでにパジャマ姿だった。
「ど、どうしたのエマ?こんな時間に。」
「ちょっとお話がー……って、果林ちゃん、またこんなに散らかして。」
「次のお休みにでも掃除するわよ。」
「だめだよ。こんなお部屋じゃ勉強も進まないよ?」
「いいのよ……どうせ勉強しないし(ボソッ」
「聞こえてるよ。」
いつも通りの調子でエマが部屋を簡単に掃除しはじめた。
幸いガンプラは鞄の中に入れたためエマに見つかることは無く、少し綺麗になると、エマは満足そうに笑顔になる。
その間に果林は紅茶を淹れてエマにふるまった。
「どうぞ。」
「ありがとう。いただくね。」
「それで、なんなの話って?明日じゃダメなの?」
「ううん。明日でもいいんだけど、早めに伝えたくって。あのね、実はお父さんがぎっくり腰になっちゃって……今月はお手伝いの人が来てくれるらしいんだけど、来月の頭には一度スイスに帰らなくちゃいけなくなったんだ。」
「え!?ぎっくり腰って……大変じゃない!エマのお父さん大丈夫なの!?」
「うん、しょっちゅうやってるから。」
「それは大丈夫じゃないんじゃ無いかしら……?」
「いつもなら平気なんだけど、この時期は農作物の収穫で人手がいるから、お父さんがいなくなると皆が困っちゃうんだぁ。」
「大変ね……わかったわ。久しぶりに家族に会うんだし、私たちの事は気にせずにいってらっしゃい。」
「ありがとう果林ちゃん!あ、そうだ。」
最後にエマは笑って、余計なひと言を言った。
「私がいない間、絶対にお寝坊しちゃダメだからね♪」
「……………わかってるわ。」
「ちょっと間があったね。」
エマが自室に戻り、再びガンプラを取り出した果林は作業を再開。
いつも面倒くさい事はエマが助けてくれたが、来月は少しの間とはいえエマがいなくなる。
このガンプラ作りは、その時にエマに頼らないための予行練習と思う事にした。
「それにしても難しいわね。みんなよく作れるわー……あれ!?ここのパーツどこ行ったの!?まさかさっき掃除した時に!?」
前途多難だった。
~~
結局、キュベレイの素組みを完成させるだけでも3日かかってしまった果林。
事務所で見てもらったが苦い顔をされてしまい、『やっぱりうちで手配しましょうか?』と言われてしまった。
だが、負けず嫌いの果林はそれを拒否し、撮影帰りの喫茶店で一人悩んでいた。
「難しいのね、プラモデルって……。せつ菜ならこういうの好きそうだし、相談してみようかしら……あぁ、でも私のイメージが……。」
「お待たせしました。ご注文の、アッガイカレーです。」
「ありがとう。まっ、悩むのは後にして……ウフフ♪カレーライスなんて久しぶり!普段あんまりカロリーの高い物は食べないけど、こういうモヤモヤした時は美味しいごはんが一番よね!」
先ほどまて悩んでいたのが嘘の様な笑顔で、果林はカレーを口へと運ぶ。
うん、思った通り美味しい。
想像より少し薄味だが、濃い味が苦手な果林にとってはちょうどいい塩加減だ。
「うん、美味しいわ。ちょっと薄味で、私好みの味ね!」
「え!?塩味薄いですか!?」
「? えぇ、まぁそうね。でもちょうd、」
「すいません!」
果林に頭を下げると、彼女と同い年ぐらいの女性店員が厨房に向かって思いっきり叫んだ。
「ちょっと!!塩味薄いそうですけど!!塩がないと戦力に影響しますよ!!」
「塩が足らんのです……!!」
「「「おーーーーー!!!」」」
謎のやり取りに、何故か湧き上がる店の客。
何が起きたのかわからない果林は、スプーンを咥えたまま呆然としていた。
すると店員がニコッと笑い、果林の下へ来た。
「驚かせちゃいました?今の、ガンダムのタムラコックって人のセリフなんですよ。」
「が、ガンダム!?なんで突然ガンダム!?」
「だってここ、ガンダムベースのカフェスペースですもん。知らなかったんですか?」
「あ、そうだったのね……ごめんなさい、道に迷っててお腹すいて立ち寄ったの……。」
「気にしないでください。道に迷ってるなら、あとで駅まで案内しますよ。」
「ありがとう、助かるわ。」
女性店員が指差した先には、1/1のエールストライクガンダムの立像が立っていた。
何を隠そうここは、横浜にあるガンダムベース『シーサイドベース』
実はここで彼方がバイトをしているのだが、この時は非番であり、果林はそのことを知らない。
カレーを食べながら、果林はバイトの少女にいろいろと質問をしてみた。
「ねぇ、ここのお客さんは皆ガンダムが目的で来ているの?」
「そうですね。ここはガンダム専門店ですから。」
「あなたもガンダムが好きなの?」
「私の場合は、ガンダムが好きというより、ガンダムが好きな人を応援するのが好きなんです。ココだけの話、私の幼馴染、ガンダムで世界を救った事だってあるんですよ!」
「ウフフ、面白い話ね。私の後輩が聞いたら喜びそうなお話だわ。私は朝香果林よ。東京のお台場にある虹ヶ咲学園ってところの3年生なの。」
「じゃあ同い年だ!もっと年上かと思っちゃったよ。私、ムカイ・ヒナタ!この近くの高校の3年生!」
どうやらこのヒナタの幼馴染が凄腕のガンプラビルダーらしく、彼女も何度か一緒にGBNをプレイしたことがあるらしい。
せっかくなので、ヒナタのバイトが終わった後に一緒にキュベレイを見てくれることになった。
店長のマツムラさんという方も大変良くしてくれて、果林はせっかくなので最後に工具一式を購入していく事にした。
「今日は楽しかったわ。いろいろアドバイスありがとう、ヒナタちゃん。」
「ううん。こちらこそ楽しかったよ!でも、私もあんまりガンプラ作るの得意じゃないから……今度、ヒロトも連れて来てアドバイスしてもらうね。」
「ヒロト?」
「さっき話した幼馴染!今は友達の大事な試合が控えてて、その為のガンプラのお手伝いをしてて、あんまり話せてないんだけど……。」
「……いいえ、やめておくわ。」
「え?どうして?」
「馬に蹴られたく無いもの。」
「馬?」
「何でもないわ。縁があったらまた会いましょう♪」
そういって、ヒナタに案内してもらった電車に乗り、果林はようやく寮へと戻ってこれた。
さっそく工具を広げ、さらに駅前の本屋で購入したプラモデル専門雑誌を読みながら、キュベレイを自分好みに改造していく。
「やっぱり、私と言えばセクシーさが売りよね……。でも、この子ってあんまり細く無いし……もう少し細く出来ないかしら?」
事務所からあまったガンプラのパーツなどをもらい、それを組み合わせていき、ついに果林は数日かけて、自分だけのガンプラ……『キュベレイ・ビューティー』を完成させた。
~~
数日後、エマはみんなに見送られながらスイスへと旅立っていった。
エマが帰ってくるまで約3週間、その間に事務所に提出する動画を撮影するため、事務所の用意したアカウントと貸出品のヘッドギアを使って、果林は寮からGBNへとログインすることにした。
自分用のアカウントを使わないのは、宣伝のためだそうだから。
必要以上にセクシーさが全面に出過ぎたアバターになってしまった果林は、その姿に文句を言いつつも、そのアバター『サニー』として、キュベレイ・ビューティーと共にGBNの世界へと飛び込んだ。
「朝香だから『サニー』って……全く、愛じゃないんだからもっと捻った名前にしてくれればよかったのに……。」
初心者用ミッションを軽くこなし、一人で挑めるミッションを次々と受注していく。
難易度の低いミッションをクリアしていく様子を自ら動画に収め、事務所に提出、審査が通れば、早ければ再来月号の雑誌に果林の活躍が載る事となる。
(でも、思ったより退屈ね、GBNって……。難易度の低いミッションは本当に簡単だし、やる事も単調……これなら、キュベレイを作ってた時の方が楽しかったわね……。)
元々果林はゲームそのものにあまり興味は無かった。
最初にGBNにログインした時は、そのあまりの広さに驚きはしたものの、ミッションで向かう場所などは限られているし、思ったより激しい移動はしない。
シャア専用ザクの単騎撃破ミッションの難易度Eをクリアしたところで、果林は一度ロビーへ戻り、新たなミッションを受注する事にした。
「次は少し難しいミッションをやってみようかしら……。連戦ミッション?で……です、あーみー……?を倒しながら、最後のデビルガンダム……?っていうのを倒すのね。これでいいかな。」
事務所の意向としては、あくまで果林の活躍を掲載する事で、ミッションをクリアすることではない。
だがそれではあまりに退屈なので、果林は『機動武闘伝Gガンダム』連戦ミッションの、難易度Cに挑戦する事にした。
~~
「きゃあ!!」
順調にデスアーミーを倒し続けてきた果林とキュベレイ・ビューティーであったが、途中で中ボスであるマスターガンダム相手には全く歯が立たず、圧倒されていた。
果林は今まで、簡単な射撃と鋭い爪による近接格闘のみで戦っていたのだが、このマスターガンダムは近接格闘のプロフェッショナル。
今までの様な戦法が通用する相手ではなく、細身に改造したとはいえ一つ一つのパーツが大きいキュベレイがベースのキュベレイ・ビューティーでは相手にならなかった。
「これはミッション失敗ね……。やっぱり私、こういうのガラじゃなかったのよ。明日、事務所に断りの連絡をいれなきゃね。」
普段は負けず嫌いの果林でも、この戦力差はもはやどうにもならないと悟る。
最低難易度で調子に乗っていたのかもしれない。
もはや勝利を完全に諦めていたその時、キュベレイ・ビューティーの後方から、銃撃音がした。
『チャオ!』
「誰?」
振り向いた先にいたのは、緑色の装甲に身を包んだ、巨大なライフルや大砲をいくつも積んだガンダム。
バスターガンダムの改修機であるヴェルデバスターガンダム、それをさらに強化したガンプラ……『ヴェルデブラストガンダム』だった。
ヴェルデブラストガンダムはキュベレイ・ビューティーの上空からマスターガンダムのみを狙い撃つと、マスターガンダムを彼女から引き離すことに成功。
キュベレイ・ビューティーの腕を掴んで上空へとひっぱり、彼女の救出に成功した。
『無事かな?』
「あ、ありがとう……助かったわ。」
『どうしてファンネルを使わない?』
「ふぁ、ファンネル……?」
『なるほど。機体の特性をまだよく理解していないんだね。なら、私の指示通りに動いてくれ。』
「よくわからないけど……わかったわ。」
ヴェルデブラストガンダムに乗るダイバーの説明通りに機体を操作すると、キュベレイ・ビューティーの全身から小型のファンネルが大量展開。
それをマスターガンダムへと放つと、格闘戦に特化したマスターガンダムの動きを封じる事に成功。
キュベレイ・ビューティーよりも少し離れた位置でライフルを構えたヴェルデブラストガンダムは、本来ならばマスターガンダムのコックピットのある場所へめがけ、引き金を引いた。
ドカアアアアアアン!!!
その一撃を受け、マスターガンダムはついに爆発。
残るはラスボスであるデビルガンダムのみとなり、果林は初めて強敵を倒せた事に喜びを感じていた。
「す、すごいわあなた!あんなに強い敵を一撃でなんて!」
『あなたのキュベレイだって凄いよ。初めてなのにファンネルを使いこなしている。』
「いいえ。あなたの指示通りに動いただけよ……あなた、凄く強いのね。」
『久しぶりにログインしたんだけど、腕が衰えていなくてよかった。』
「ねぇ、あなたさえよければ、最後まで付き合ってくれないかしら?」
『私で良ければ。』
そうして、果林はヴェルデブラストガンダムのダイバーと共に、ラスボスであるデビルガンダム戦へと挑んだ。
果林のキュベレイ・ビューティーによるファンネルの撹乱攻撃と、ヴェルデブラストガンダムによる正確な遠距離高威力射撃により、見事難易度Cの連戦ミッションをクリア。
初めての手に汗握るバトルに、果林は心が躍っていた。
~~
ミッションを終え、ロビーに戻ってきた果林ことサニー。
そこへ先ほどのヴェルデブラストガンダムのダイバーがやって来た。
見た目は大柄な男で、黒いマントと黒い仮面をつけている。
全身真っ黒なフル・フロンタルの様な風貌だ。
「さっきはありがとう。とても楽しかったわ。」
「こちらこそありがとう。私も、楽しかったよ。」
「私はか……じゃなくて、こっちでの名前はサニーって言うの。あなたは?」
「ヴェルダー卿と名乗らせてもらっている。」
「そう……ウフフ♪」
「どうしたの?」
「ううん、私の親友と名前がちょっと似てたから、なんだかおかしくって。ねぇ、あなたは一人でプレイしてるの?」
「うん。前はフォースに所属していたんだけど、色々あって……『AVALON』ってフォースなんだけど、知ってるかな?」
「ごめんなさい。私、仕事の関係でGBNを始めたから、ここでの情勢とかよく知らないのよ。もしよければ、色々教えてくれる?私、今月中に上手くなりたいの!」
「……私で良いの?」
「あなたがいいのよ。さっきは凄く楽しかったわ!」
そこから、果林ことサニーは、ヴェルデブラストガンダムのダイバーであるヴェルダー卿とコンビを組む事になった。
~~
そこから数日間、果林はサニーとして、ヴェルダーと共にGBNを駆け回った。
たとえ同好会の練習やモデルの撮影にスケジュールを追われていたとしても、終われば寄り道などせずに必ず寮へまっすぐ帰宅し、GBNへログインしていた。。
今日は休日だったがモデルの仕事が入っていたため、少し遅れてしまった。
ロビーについてすぐにヴェルダーの姿を捜し、彼に駆け寄った。
「お待たせ、ヴェルダー!」
「サニー!」
「ごめんなさい、遅くなってしまって。」
「いや、私もさっきまで一人でフリーバトルをしていたから。」
「あら?そうなの?」
「うん。チーム『魂太』っていうフォースと。」
「変な名前ね……。それで今日はどのミッションをやりましょうか?貴方の教え方が上手だったおかげで、昨日はBランクのミッションもクリアできたし……そろそろ、Aランクに挑戦するのもいいと思うのだけれど。」
「それもいいけど、その前に今日は君と一緒に行きたいところがあるんだ。」
「コレクトミッション……?難易度設定無しの採集ミッションね。どうしてこれを?」
「来ればわかるよ。」
ヴェルダーがそう言うと、二人はそれぞれのガンプラに乗ってコレクトミッションのエリアへと向かった。
今回の目的は『ヤナギラン』と言う植物の採集であり、『機動戦士Vガンダム』に登場していた花の名前。
二人は空を並走しながら、その目的地へ向かう。
しばらくしてその場所につくと、キュベレイ・ビューティーから降りた果林はその光景に目を奪われた。
その場所は、あたり一面にヤナギランが広がった、とても幻想的な場所だった。
「綺麗………。」
「ここは、私のお気に入りの場所なんだ。リアルで住んでいた場所ととてもよく似ていてね。君にも、この光景を見せたかったんだ。」
「あら?ひょっとして私の事、口説いているのかしら?」
「くどっ……!?ち、違うよ~!!」
「ウフフ、冗談よ♪あなた、いつも思うんだけど本当にいい反応するわね。そんなダイバールックをしているから男性かと思ったけど、案外リアルは女の子だったりして?」
「ハハハ……どうだろう……。」
ヴェルダーのリアルが男性だろうが女性だろうが、果林にとってはどうでもよかった。
ただこの人といる時間が、とても大切で、とても愛おしかった。
まるで彼の事をずっと前から知っていたかのような、そんな気持ちだった。
「でも、ならどうしてこの光景を私に?本当にお気に入りなだけ?」
「……実は、私はリアルの事情でGBNから離れていたんだ。いや、違うかな……GBNを遠ざけていたんだ。」
「遠ざけていた?」
「元々ガンプラに興味が無かった君は知らないかもしれないけど、3年前に第二次有志連合戦っていう戦いがあったんだけど、私もそこに参加していたんだ。」
~~
そこからヴェルダーが話してくれたのは、第二次有志連合戦で、彼が所属していた『AVALON』というフォースでの仲間の事。
ELダイバー『サラ』を巡ったその戦いは、ビルドダイバーズの勝利で幕を閉じ、彼らの『好き』という気持ちがサラの命とGBNを救った。
ヴェルダーは、電子生命体とはいえ、GBNのためにサラを消そうとする運営のやり方に疑問を覚えつつも、皆のためにと必死にビルドダイバーズと戦った。
本当は自分だってサラを助けたい……そんな気持ちを、押し込めて。
ビルドダイバーズの勝利が伝えられると、ヴェルダーはライフルをその場に落とし、心の底から安堵した。
『終わった……ようやく……ん?あれは……?』
サラを連れてフォースネストから離れていくダブルオースカイを見ていたヴェルダーは、自分の近くで膝をつく、仲間のガンダムを発見した。
そのガンダムの名は『アースリィガンダム』
泥だらけになり、膝をついて線維喪失していた彼の下へ、ヴェルデブラストガンダムで駆け付けた。
アースリィガンダムの前の地面は大きく抉られており、その手には彼が狙撃用に使用していた『U7ライフル』が握られていた。
『ヒロトくん!!』
『……………。』
アースリィガンダムのダイバーへ語りかけるヴェルダーだったが、彼からの反応は無かった。
このアースリィのダイバー……ダイバーネーム『ヒロト』は、『AVALON』では指折りの実力者。
ちょっと無愛想なところもあったが、他人を思いやり、誰かのために戦う事が出来る人格者で、フォースメンバーからの信頼も厚かった。
だが、第一次有志連合戦以来、ずっと様子がおかしく、同じフォースのカルナやエミリア、隊長のキョウヤもずっと気にかけてはいた。
しかし、今の彼の状態はどう見ても普通ではなかった。
『ヒロトくん、どうしたの!?ヒロトくん!!』
『………俺は………最低だ……。』
『ヒロトくん……?』
『俺に………構わないでくれ………。』
そう言い残すと、ヒロトはそのままログアウトしてしまった。
ログアウト寸前に、一度だけアースリィから降りてきた彼の顔は、後悔と悲哀と絶望が入り混じった表情をしており、ヴェルダーはその顔が今でも忘れられない。
その後も、しばらくヒロトを探してログインをしていたが、彼はあの戦いの後にすぐにフォースを辞めてどこかへと消えてしまった。
『最低だ』、その言葉がずっとヴェルダーに引っかかっていた。
(私は皆のために……GBNのためにビルドダイバーズと戦った……でも、私がやろうとしたことは、サラちゃんを………だったら、私だって最低だ……!)
ヒロトの真意を確かめる事も出来ず、ヴェルダーもその後AVALONを辞めた。
電子生命体といえど、人の命を奪おうとしていたことに変わりは無いと思ったから。
そこからヴェルダーは、ガンプラバトルという行為すら楽しめなくなってしまった。
~~
「そんな事があったの……。」
「私はこの場所が大好きだった。初めてGBNにログインした時に、最初のミッションでここを見つけた……感動した、楽しかった。ここはね、私の『楽しい』っていう思い出が詰まった場所なんだ。」
「その後……その、仲間の人はどうなったの?」
「少し前に、彼の新しい仲間があげている動画のアーカイブをたまたま発見したよ。すごく楽しそうにバトルをしていた。私はそれがすごく嬉しくて、今なら私もガンプラバトルを楽しめるんじゃないかって思って、またGBNにログインしたんだ。」
ヤナギランを手に取り、それを果林へと渡す。
果林はそれを受け取ると、香りを確かめた。
「いい香りね。」
「君に出会って、私はまたGBNを楽しめた。だから君にどうしても見てほしかったんだ。私の『楽しい』の思い出の場所を。」
「素敵な場所だわ。」
「それはよかったよ。」
「それにあなたも、素敵な人だわ。あなたのやろうとしたことが間違っていたとは私は思わない。それでもそんなに自分を責めてしまうあなたは、とても優しい人……まるで私の親友のあの子みたい。」
「君の親友?」
「えぇ。素敵な子なの。皆の心を温かくさせたいって頑張る、とても優しい子。あなたは彼女にとても似ているわ。私、あなたとならいつまでも楽しめそうだわ!」
「いつまでも……か……。」
「ヴェルダー?」
「サニー………今日はそのことで、もう一つ話があるんだ。」
「え……?」
~~
ヴェルダーから告げられたのは、別れだった。
どうやら彼のアカウントはリアルの事情で、もう使えなくなってしまうらしい。
サブアカウントを作る事を果林が提案したが、ヴェルダーは首を横に振った。
「どうして……!?楽しかったんじゃないの!?」
「楽しかったよ……だから、私はGBNを辞めようと思うんだ……。こんなに楽しいGBNを守る事に、私は一度でも疑問に感じてしまったから……。サラちゃんの命も、GBNの命も、本当は天秤にかけちゃいけなかったんだよ。それを中途半端な覚悟で天秤にかけた私は、GBNを楽しむ資格なんてない。」
「だけど、あなたの仲間は復帰出来たんでしょ!?ならあなたが辞める必要なんて……!」
「皆、覚悟はできていたよ。有志連合の皆は、必死にGBNを守ろうと戦った。ビルドダイバーズの皆は、必死にサラちゃんを救おうと戦った。あの場で覚悟が無かったのは、私だけだったんだよ。」
「………本気なのね……。」
「ごめんね、サニー。」
「……私に、あなたを止める資格なんてないわ……。辛いけど、あなたがそれを決断したのなら、私はそれを肯定したい……。だって、私たち、『相棒』でしょ?」
止めたい気持ちを抑え、果林はヴェルダーを『相棒』と呼んだ。
きっとヴェルダーは優しすぎたのだろう。
だから割り切る事が出来ず、心の底からGBNを楽しむことが出来なかった。
出来る事ならば彼を救いたい……だが、自分に彼を救うことが出来るのだろうか。
果林はいろいろ考えたが、出てきた言葉は……、
「ねぇ、だったら最後に……Aランクのミッションに挑戦しましょう?私たちが初めて出会ったデビルガンダムのミッション、あれがいいわ!」
「……うん。そうだね。じゃあ、デビルガンダムがSDガンダムになった、覇道大将軍が出てくるミッションなんてどうかな?あ、今誰かちょうどやってるみたい……どうする?」
「いいじゃない。乱入して美味しいところ持っていっちゃいましょう!」
こうして、二人は最後のミッションである『VS魔星大将軍』ミッションに挑戦した。
到着したころにはすでに覇道大将軍と化した魔星大将軍が、シドの操るクアドラムテルティウムとアイの乗る直江兼続頑駄無と交戦しており、果林の宣言通り、美味しいところでミッションへ乱入。
キュベレイ・ビューティーのファンネルと、ヴェルデブラストガンダムの狙撃で見事に覇道大将軍を撃破し、最後のミッションを華々しい大活躍で終えた。
「やっぱり私たち、最高のコンビね、ヴェルダー。」
『…………うん。』
「忘れないわ、あなたの事……楽しい時間をありがとう。」
『サニー、一つ約束してほしいんだ……。』
「……なに?」
『私がいなくなっても、ガンプラを楽しむ気持ちを忘れないでほしいんだ……私みたいに、ならないでほしいんだ……。』
~~
ヴェルダーが去った翌日、果林はいつものようにGBNへログインしていた。
だが、まったく楽しくなかった。
もう彼女一人でCランクまでのミッション程度なら楽にクリア出来るし、そこそこ名の知れたダイバーになってきた。
しかし、そこにもうヴェルダーはいない。
続けていても、勝利への喜びや達成感など得られず、ただの作業と化していた。
(あぁ、そうか……そういう事だったのね……。)
ログアウトし、果林はダイバーギアを事務所へ返納した。
事務所のマネージャーは果林の華々しい活躍を知っていただけに、彼女が突然この仕事をキャンセルして来た時には鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「え?果林ちゃん、嘘でしょ!?この仕事キャンセルしちゃうの!?次のトピックは間違いなくあなたなのに!?」
「いいんです。私には、ガンプラバトルをする資格なんてありませんから。」
「どういう事なのぉ!?」
「だって、私はガンプラバトルが好きなわけじゃありませんから。」
自分が好きだったのはガンプラバトルじゃない。
ヴェルダーと一緒に楽しむGBNが好きだった。
他の真剣にこの仕事に取り組んでいる仲間たちがいるのに、そんな気持ちの自分がこの仕事を続けてていいはずがない。
そう考えた果林は、ガンプラモデルの仕事から降り、普通の読者モデルの仕事に戻っていった。
(せめて、同好会の皆がガンプラを楽しむのを、邪魔しないようにしないとね……。あなたの気持ち、少しわかった気がするわ、ヴェルダー。)
~~
その翌日に、ガンプラバトル同好会が襲来してきて、同じくライフデザイン学科3年の彼方がバトルに名乗りを上げた。
結果は見事大勝利で、彼方はガンプラを楽しむ気持ちを手に入れた。
凄く楽しそうに戦う彼方の姿は、とてもまぶしくて、キラキラして見えた。
そんな姿を見るのが、果林は心苦しかった。
彼方が頑張っているところを見るのが辛く、無いはずの予定も入れて、ヴェルダーとの最後の約束を果たそうとしなかった。
だから、果林は彼方の祝勝会も行かなかった。
~~
そこからさらに数日経ったある日の夜だった。
「エマー、いるかしら?エマー?」
いつものエマにハンカチやタオルを用意してもらっている果林は、洗濯を終えたそれらを持ってエマの部屋をノックした。
普段ならすぐにエマが出迎えてくれるのだが、今日は反応が無く、気になった果林はそのままドアを開けた。
そこにエマの姿は無く、いつも置いてる場所にお風呂セットが無いところを見るに、寮の大浴場へ行ったのだろう。
「もう、あの子ったら、鍵もかけずに不用心なんだから。それにしても……相変わらず片付いてるわね、この部屋。私の部屋とは大違いだわ……。」
親友の几帳面さを見て、少し反省しかけた果林。
とりあえずテーブルの上にタオルとハンカチを置くと、そのまま部屋を出ようとする。
だがその時、果林の目に、エマのカバンの中にある『ある物』が目に入った。
「え……?コレって、ガンプラ?どうしてあの子が………ッ!? 嘘……そんな、こんなことって……!?」
「あれ、ドア開いてる?果林ちゃーん?来てるのー?」
「!!! え、えぇ!!ごめんなさいすぐ出ていくわ!!」
浴場から戻ってくるエマの声が聞こえて、果林は慌ててガンプラをカバンの中へ戻した。
エマと顔を合わせないように走って部屋を出ていくと、すぐに自分の部屋へと戻っていった。
「か、果林ちゃん!?どうしたの!?」
「なんでもないわ!!」
一瞬すれ違った時にエマが声をかけてきたが、そっけない返事だけ返した果林は部屋に戻り鍵をかけた。
心臓がバクバク言っている音が聞こえ、手汗が止まらない。
汗まみれの手で自分の胸を抑えると、擦れそうな声で、果林は呟いた。
「さっきの……ヴェルデブラスト……!?エマが……ヴェルダー……!?」
~にじビル毎回劇場~
第8回:悪いのは誰?
せつ菜「栞子さん!彼方さんの祝勝会をしましょう!!幹事は私たち二人です!!」
栞子「いいアイデアですね。私たちのために戦ってくれた彼方さんに、出来うる限りの恩返しをしましょう!」
せつ菜「では、料理はぜひとも私にお任せを!!」
栞子「いいのですか?私もお手伝いしたいのですが……。」
せつ菜「いえ、栞子さんは飾り付けなどをお願いします。大好きな彼方さんが、私たちの大好きを守るために戦ってくれたんです!であれば私も、最大限の大好きでお応えしなければ!!」
栞子「せつ菜さん……私、感動しました!では、料理はせつ菜さんにお任せします。私は私なりに、彼方さんの喜びそうな飾り付けを頑張りますね。」
せつ菜「はい!!何故か同好会では私に料理をさせてもらえないのですが、今回は大丈夫です!!頑張ります!!!」
栞子「そうなのですか?どうしてせつ菜さんに料理させてもらえないのでしょうね。お料理、苦手なのですか?」
せつ菜「お料理は大好きです!」
~間~
せつ菜「彼方さん、私たちのためにありがとうございます!!」
栞子「彼方さんのために、私たち二人で祝勝会の準備頑張りました!飾り付けは私で、お料理は全てせつ菜さんが。」
彼方「栞子ちゃん!!!!!(全ギレ)」
栞子「え!?何故私は怒られてるのですか!?」