『只今、電話に出る事が出来ません。ピーっという発信音の後に、』
「やっぱり繋がらない……まだバトルしてるんだ、あの2人!」
「急ぐわよ、侑。」
「早く行かないと、取り返しのつかない事になるかもしれない……。」
学園へと向かう道中、侑はせつ菜のスマホに何度も電話を入れたが全く繋がらない。
それはランジュのスマホも同じで、ミアや栞子が何度電話をしても取る気配が一切ない。
こういう非常事態の時ほど冷静な果林のおかげでなんとか自分も平静を保つことが出来るが、第二次有志連合戦でELダイバーの力の恐ろしさを知っているエマは終始2人の心配を続けている。
「だけど、もしバンシィがマリナ先輩だったとして、そんなに危ないんですか?だっていくら強いって言ってもガンプラじゃないですか。」
『ELダイバーはとても純粋な存在。もし本当にバンシィ・ノワールが悪意そのものから生まれたのだとしたら、それに体を乗っ取られているマリナも、そのバンシィ・ノワールと戦うせつ菜とランジュにも、何が起こっても不思議じゃない。』
「サラが言うなら間違いない。とにかく、今は急がないと!」
かすみの質問にサラが応え、全員が学園へと急ぐ。
あまりにも強烈な悪意は、時として周りや、自分自身をも滅ぼす。
バンシィ・ノワールはそんな悪意から生まれた、いわゆる生まれるべきでは無い存在ともいえるELダイバー。
彼の起こす行動は全てが予測不能で、何が起こるかわからない。
だからこそ、何か起こる前に3人のバトルを止めなければいけない。
「せつ菜ちゃん、ランジュちゃん……お願いだから、無事でいて……!」
~~
せつ菜に一喝され、冷静さを取り戻したランジュとシランジュは、スカーレットエクシアと肩を組みながら再びバンシィ・ノワールの前に立ちはだかった。
ユニコーンモードに関わらず圧倒的な強さを見せるバンシィ・ノワールに対し、スカーレットエクシアは右腕と主武装の損失と太陽炉の欠損、シランジュはトランザム切れによるパワーダウンとアシムレイトによるランジュ自身の負傷。
どうあがいてもせつ菜とランジュに勝ち目は無さそうに見えるが、2人とも戦意は全く削がれてはいない。
それどころか、かならずバンシィ・ノワールからマリナを助け出すと言う決意に満ち溢れている。
「せつ菜、あなたトランザムは?」
「先ほどビームマグナムの攻撃時に、太陽炉の一部にダメージを負ってしまいました。今のスカーレットエクシアにトランザムは……。」
「シランジュも粒子切れでトランザムは厳しいわ。でも、残りのエネルギーでビームアックスならまだ使える。」
「それなら私もまだ武器は残っています。セブンソードの名は伊達じゃありません。」
「いけるわね!マリナを助けるわよ!」
「もちろんです!」
「助けるだと?マリナを助けるのは私だ。私が、お前たちからマリナを守るのだ……!」
そう言うと、バンシィ・ノワールは再びビームマグナムを構えてシランジュを狙った。
引き金を弾くと同時にスカーレットエクシアがシランジュを蹴飛ばし、ギリギリのところで攻撃を躱す。
受け身を取ったシランジュはそのままGNビームアックスを構え、体勢を立て直したスカーレットエクシアも右腰にマウントされているGNショートブレイドを左手で握る。
両サイドから挟み撃ちにするように飛び込み、バンシィ・ノワールへと攻撃を仕掛ける。
「その程度の攻撃など!!」
攻撃力が高いのはシランジュのGNビームアックスの方。
そちらをシールドで受け止めると、スカーレットエクシアの方へはビームマグナムを向けた。
シランジュに気を取られているおかげで放たれたマグナム弾はスカーレットエクシアに命中する事無くスレスレのところで外れ、そのままスカーレットエクシアのGNショートブレイドがバンシィ・ノワールの横腹へと突き刺さった。
「なんだと……!?」
「ようやく、使い切ったわね……!」
「ビームマグナムの装弾数は全部で5発、今のが最後の一撃のはずです!!」
ショートブレイドを差し込んだまま、スカーレットエクシアはバンシィ・ノワールを蹴り飛ばして壁に叩き付けた。
そこへ追い打ちをかけるようにシランジュが飛び込み、握りしめた拳をバンシィ・ノワールの顔面にめり込ませた。
「私のビームマグナムを使い切らせるためにわざと隙だらけの攻撃を……。」
「今更気づいても遅いわ!」
「GBNでのあなたの強みはデストロイモードによる強力なアームドアーマーでした。しかし、このバトルはNT-Dが使用できないGPD……唯一の武器であるビームマグナムを封じればこちらのものです!!」
「姑息な真似を。」
「さぁ、これでおしまいよ!!」
そう叫び、シランジュがGNビームアックスを振り上げた。
バンシィ・ノワールを破壊する為、それを一直線に振り下ろす。
だが、バンシィ・ノワールは動じる事無く左腕をリアスカートへと伸ばす。
そこから取り出したエネルギーパックを素早くビームマグナムへと装填し、GNビームアックスごとシランジュの左腕に向かって引き金を弾いた。
「「!!?」」
「予備が無いとでも思ったか?」
左腕が粉々に吹き飛ぶシランジュ。
アシムレイトでシランジュと繋がっているランジュにもその衝撃が伝わり、今まで感じた事の無い痛みが彼女を襲う。
「うわあぁぁ……!な、なにこの痛み!?う、腕が、焼けるように痛い……!」
「ら、ランジュさん!!」
「このバンシィ・ノワールは、マリナがユニコーンモードで最大限に戦えるように調整してくれている。主兵装のビームマグナムを、たった5発で終わらせるような調整を彼女がすると思うのか?」
「……ランジュさんは休んでいて下さい。ここからは、私が1人で戦います。」
「せ、せつ菜……。」
「トランザムも使えないエクシアに、一体何が出来ると言うのだ。」
GNソードSSPとトランザムを失ったスカーレットエクシアではあるが、まだ彼女にはいくつかの剣が残されている。
右腕を失った事で身軽になった分、通常時の機動性自体は上がっている。
せつ菜がポケットからハンカチを取り出すと、それを破いてGPDのバトルフィールドへと投げ入れる。
ハンカチの切れ端をスカーレットエクシアが掴むと、それで破損した右腕を隠し、マントのようにはためかせた。
「優木せつ菜……ガンダムスカーレットエクシアリペア、未来を切り開きます!!」
「言いたい事は、それだけか!!」
シランジュの折れたGNビームアックスを掴み、そこへ自分のGN粒子を送り、赤い刀身を出現させたスカーレットエクシア。
バンシィ・ノワールが放つビームマグナムをトランザムも使わずにかわし続け、どんどん距離を詰めてくる。
とうとう懐へと入って来たスカーレットエクシアが、GNビームアックスでバンシィ・ノワールのビームマグナムを切り裂いた。
主兵装のビームマグナムを失った事で一瞬動揺したバンシィ・ノワール……その隙にGNビームアックスを手放したスカーレットエクシアはバンシィ・ノワールの画面を掴み、地面へ叩き付けた。
リペアとなった事でパワーは落ちているため決定打にはならなかったが、頭部を押さえつけられた事で身動きが取れないバンシィ・ノワールの胸に、リアスカートから抜き取ったGNダガーを突き立てた。
「なん……だと!?」
「せつ菜凄い……。」
「これで!!」
「調子に乗るなよ……中川菜々ぁ!!」
なんと、これでもバンシィ・ノワールには致命傷を与えられず、GNダガーを握ったスカーレットエクシアの右腕を、バンシィ・ノワールが掴んだ。
そのままスカーレットエクシアの左腕をポリキャップごとねじ切り、完全に破壊。
両腕を失ったスカーレットエクシアはバランスを崩し、その場に倒れ込む。
「え、エクシア……。」
「実機バトルとはいえこの私を……ここまで追い込んだのは褒めてやる……。だが、ここまでだ。お前のガンプラは、この場で完全に破壊する……!」
「くっ!動いてくださいエクシア!動いて!!」
スカーレットエクシアを破壊するために、バンシィ・ノワールが立ち上がる。
倒れた衝撃で腰から外れたスカーレットエクシアのGNショートブレイドを手に取り、その切っ先を向けた。
そして、そのままスカーレットエクシアにとどめを刺すために剣を振り下ろすが、その瞬間に横から突っ込んできたシランジュに体当たりされ、その場から突き飛ばされた。
「せつ菜にこれ以上手出しさせないわ!!」
「ランジュさんやめてください!アシムレイトを使えるあなたが戦って、万が一シランジュが壊されたら、あなたの身体がどうなるかわかりません!!」
「……無問題ラ、だってランジュだもの。せつ菜も守ってマリナも助けて、また皆でライブしたり、ガンプラバトルで遊ぶのよ!こんな所で、こんなやつに負けるわけにはいかないじゃない!」
先ほどとは逆で、スカーレットエクシアを守るシランジュ。
その光景を見て、バンシィ・ノワールは心底不思議そうな顔で彼女たちを見つめていた。
「何故だ、鐘嵐珠。ソイツはスクールアイドル同好会。お前の大嫌いな、お前を認めなかった連中の一員だ。何故そいつを守る?」
「ノワール。あなた、大嫌いを履き違えているわよ。」
「なんだと……?」
「確かにアタシは前に同好会を敵って言った事もあるわ。だけど、今は皆アタシの親友なの!親友を守るのは当たり前じゃない!せつ菜のことも、マリナの事もそう。」
「大嫌いという感情は、確かに誰の中にでもあります。けど、大嫌いを大好きに変える事も出来る。私は、今はスクールアイドル活動を応援してくれるお父さんとお母さんが大好きです。他の皆もそうです。大嫌いを大嫌いのままで終わらせない……そのために私達は、大好きを叫ぶんです。」
ランジュとせつ菜がそう言うと、マリナの身体でバンシィ・ノワールは表情を歪ませた。
その瞬間、バンシィ・ノワールの脳裏に謎の映像が浮かぶ。
(……だよ、ノワール。)
「……なんだ今の映像は……?やめろ……私の存在意義を否定するな……!私は……俺は……!!」
「俺……?」
「……貴様のせいだ鐘嵐珠……!貴様がマリナと出会わなければ、マリナが更に傷つくことも無かった……!!俺は、貴様の全てを破壊する!!」
全身の装甲の割れ目から、漆黒の光が漏れ始めるバンシィ・ノワール。
それによりGNショートブレイドも刀身が黒く染まり、全身に黒いオーラを纏う。
対するシランジュはすでにボロボロであり、リボーンズガンダムに搭載されていた二基の疑似太陽炉も片方失っている。
しかし、ランジュはすでに覚悟は決まっていた。
「シランジュ、アタシと今までガンプラバトルをしてくれてありがとう、とっても楽しかったわ。」
「ランジュさん……?」
「カワグチが作ってくれて、栞子やミア達と一緒に楽しさを知って、エマ達にバトルを教わって……短い間だったけど、あなたはアタシの最高の親友よ。」
「何をするつもりですか……!?変な考えは捨ててください!!」
シランジュの全身からGN粒子が溢れ出す。
それと同時にサイコフレームの耀きも放つ。
しかし、ツインドライブシステム搭載のシランジュが片方の太陽炉のみでトランザムを使えるはずも無い。
しかも、すでにシランジュはトランザムを使い切っている。
そうなるとこの力はどこから……そう疑問に思ったせつ菜は、すぐに嫌な想像が頭に浮かんだ。
アシムレイトでガンプラと繋がっている、ランジュ自身からエネルギーを貰っている。
「これがアタシ達の、最後のトランザムよ!!さぁ、支配してあげるわ!!」
『TRANS-AM』
サイコフレームとトランザム……二つの力でピンクゴールドの耀きを放つシランジュ。
すでにすべての武器を失っているシランジュは、残った右腕にすべての力を込める。
怒り狂ったバンシィ・ノワールも、残った力の全てをGNショートブレイドに乗せて、二体のガンプラはGPDの筐体の上で激しくぶつかり合った。
サイコフレームの共振により凄まじい衝撃波が筐体から漏れ出し、耐え切れなくなったせつ菜はその場で尻餅をつく。
「ランジュさん!!マリナさん!!」
「戻ってきなさい……マリナーーーーーーー!!!」
~~
ようやく学園に辿り着いた侑達。
急いでせつ菜たちを捜し、校舎の中へと入っていく。
すると彼方がハッと気づき、侑の肩を叩いた。
「ゆ、侑ちゃん!あそこ!」
「電気がついてる部屋がある。あそこって……、」
「ガンプラバトル同好会の部室だよ!行ってみよう!」
「う、うん!!」
ガンプラバトル同好会の部室に電気がついている事を彼方が発見し、その場所を目指して走る。
すると、リクの肩に乗っていたサラが何かを察し、悲しそうに顔を覆った。
『……バトルが、終わった。』
「サラ……終わったって……。」
『残ってる気配は一機だけ……これは、スカーレットエクシア?』
「ちょ、ちょっと待ってくれよ。エクシアだけって……ランジュもそこにいるんだろ……?」
『………。』
「黙ってないで、何か答えてよサラ!!」
「ミアちゃん、落ち着いて。」
「……急ごう……皆、早く!!」
そう叫び、ミアは1人で走ってガンプラバトル同好会の部室まで走って行った。
一足早く部室の近くまで来たミアは、肩で呼吸をしながら部室へ向かう。
すると、その瞬間、部室のドアが吹き飛び、それと同時にピンクゴールドのGN粒子が部室から溢れ出た。
「な、なんだよコレ!?」
「ランジュさん!!ランジュさん、しっかりして下さい!!」
「せつ菜……!?」
部室の中からせつ菜の声が聞こえて、ミアは慌てて部室の中へと入って行った。
すると、眼前に飛び込んできたのは信じられない光景。
滅茶苦茶に破壊されたGPDの筐体。
同じように滅茶苦茶になっている部室。
両腕を失い、半壊状態のガンダムスカーレットエクシア。
原型がわからないぐらい全壊し、もはや修復が不可能なほど破壊されたシランジュだったと思われるガンプラの残骸。
そして、せつ菜の腕の中で気を失っているランジュ。
すでにマリナの姿はそこには無く、窓ガラスが開いている所を見る限りすでに逃亡している模様。
「ら……ランジュ……?」
「救急車……救急車を呼んでください!!早く!!!」
~~
救急車に運ばれ、病院へと送られたランジュは一命は取り留めた。
しかし、未だに意識は戻らず、医師にも原因はわからない。
幼馴染の栞子と同じ部の仲間であるミアはずっとランジュの病室で彼女につきっきりとなっている。
「せつ菜ちゃん……。」
「…………。」
病室の外で侑がせつ菜に呼びかけたが、彼女は俯いたまま反応は無い。
その日は、全員ランジュの病室の前で、一夜を明かした。