ロドスの錬金術師   作:アンダマン

8 / 9

注文できなかった大地巡旅の再販をずっと待っているので初投稿です。




14歳で社長ってめちゃくちゃ大変

時は少しばかり遡る。

 

確か春先のことだったと思う。経営部の組織運営がようやく軌道に乗り始めた頃で、俺はめちゃくちゃに忙しかった。偶然に偶然が重なってこのロドス・アイランドという船に担ぎ込まれてからというもの、暇な時期なんてほとんどなかったのだが、この時は格別だった。

 

きっかけはロドスの体制刷新である。テレジアが殺されてから半年ほどの間、ロドス本艦で恐怖の大魔王として辣腕を振るっていたケルシーがようやく大人しくなり、ロドス・アイランド製薬のCEOに正式就任したアーミヤに権力を譲り渡したのだった。もちろん、12歳の少女にいきなり企業経営の重責が務まるわけもない。医療部の責任者に納まったケルシーをはじめとした各部門の代表が業務を差配しつつ、重要な決断は会議に上げてアーミヤに委ねるという形だ。

 

問題は俺、原作には影も形も存在しない闖入者であるナマケモノ(ピロサ)のアルケミストが、新設される経営部の副代表に任命されたことであった。「エンジニア部と経営部の代表を兼任するクロージャには補佐役が必要。せっかく専門家がそのへんにいるのに病室で暇させとくのは勿体ない」というのが人事部の意見だったが、どうせ趣味にかまけて仕事しないクロージャの代わりに実務を全部やらせようという魂胆なのは明らかだ。

 

原作の流れに干渉したくなかった(まだ休んじゃダメですよ? されるのも嫌だった)俺は必死に逃げ回り、本艦脱出すら検討したが、鉱石病治療薬を受け取るために来客用待合室に隠れていたところを採用面接に来ていたドーベルマンに捕まってCEO執務室に連行された。ロドスの幹部連中による勧誘という名の圧迫面接は数時間続き、最終的にはちょっと涙目になったアーミヤから手を握られて説得されたことで俺の儚い自制心は砕け散った。しょうがないだろ、もう年だから若い子の涙に弱いんだよ。後ろで生暖かい笑顔で頷いていたブレイズはAceに依頼してシメておいた。

 

こうした経緯でクロージャと俺のツートップ(実際には俺のワンオペ)で誕生した経営部は、表立っては誕生したばかりの製薬ベンチャーの資金繰りという胃痛案件に駆けずり回り、裏では様々な非合法工作に汗を流した。バベルとロドスを繋げる公的な記録はひとつだって残してはおけないので、投資や業務提携を求めて各所に出向く傍らで買収やら脅迫やら書類改竄やら、血を流さずに済むあらゆる手段で隠蔽工作をしたのである。アスカロンは俺とAccountantに酒の一杯も奢るべきだと思うね。

 

そんなゴタゴタがさらに半年くらい続き、ようやく本艦の空気が落ち着き始めた頃のことだ。

 

「アーミヤを研修旅行に行かせる……?」

「これまで都市の一室か、鉱山の暗い坑道か、あるいは病室の天井しか知らなかった弱冠12歳の少女が企業のトップに就任したとなれば、必要なことではないでしょうか?」

 

ある日の午後、経営部オフィスに現れた人事部のジャールは来客用のソファを我が物顔で占領して悠然と言い放った。どこからともなく取り出された大量の書類が俺のデスクの上に積み上がり、脇に控えていた部下たちの手で即座に仕分けされていく。自ら選び抜いて経営部に配置した社員の仕事ぶりに███は満足そうに頷き、俺から奪い取ったコーヒーマグに口をつけるなり眉を顰めた。古い豆で悪かったな、経費節減は自分の足元から始めるんだよ。

 

「彼女の素質に疑うところはありません。若く経験不足ではありますが、希望と理想のもとで日々成長を続けている。殿下に見出されただけのことはあります」

「アンタがそう言うならそうなんだろうけどな。本艦での教育はやってるんじゃないのか」

「それだけでは不十分、というのがケルシーの見立てです。組織のリーダーには広い視野と柔軟な思考が必要不可欠、ロドス本艦だけでは単調にすぎますから」

 

またもや何もないところから大判のメモ帳が取り出される。サルカズの巫術なのか個人の特殊技能なのか知らないが、バベルの古株というのは超人ばっかりなので今更驚かない。渡されたメモには何箇所か土地の候補が走り書きされていて、おそらくは外部研修の候補地なのだろう。

 

「うちの部下たちに作らせた私案です。率直なご意見をどうぞ」

「俺よりケルシーに見せた方がいいんじゃないか?」

「何でもあの人に頼っているようでは健全な組織とは言えませんよ。それに、あなたの見識は信頼していますので」

 

そう言われると悪い気はしないもので、チョロい俺はメモをホイホイ受け取ってざっと目を走らせる。うーん、大半はヤバそうだ。テラの大地に厄ネタを抱えてない場所なんてないが、今のロドスの立場を考えると足を伸ばせる土地の方が少ない。流石に軍事委員会の目が届きそうな場所はリストに載っていないが、それ以外にも問題は多い。

 

寝不足による疲れ目を瞬かせながら上から下まで読み返し、危なげな選択肢を弾いていく。炎国やクルビアが比較的安牌なのは███も分かっているようで、リストには龍門など経済が発展した都市が多い。鉱石病関連の現場視察を考えてか、サルゴンやレム・ビリトンの鉱山都市もいくつか候補にある。おい、イバトを候補に入れたのは誰だ? 確かもうすぐサンドソルジャーが街を燃やすはずじゃなかったっけ。却下だ却下!

 

丸を付けては消し、足しては引き。いくつか残った地名にコメントを付けておく。戻されたメモを一瞥したジャールが意外そうに目を丸くした。

 

「カジミエーシュですか。少し驚きました」

「何だよ。俺みたいな拝金主義者はクルビアを選びそうってか」

「御友人のいらした炎国ではとも思いましたが、そのどちらかかと。あなたの立場からすれば、アーミヤには経営者としての素養を求めるでしょうから」

「バランスを考えてるんだよ。商談をしに行くならともかく、アーミヤに経験を積ませるんだろ」

 

ロドスは営利企業であるからして、利益追求はもちろん大切だ。金がなければ社員に給料を払えないし、株主や投資家を説得できないからな。だが同時に、鉱石病問題の解決というロドスの理念もおろそかにしてはいけない。設立間もないベンチャー企業に優秀な社員が集まってくるのは往々にして掲げたビジョンへの共鳴ゆえで、給料の額面は二の次であるからして、理想に背けば足元から崩れるものと決まっている。

 

テラにおける企業経営のイロハを学びつつ、感染者問題のモデルケースを直接確認できる実例が必要だ。今後アーミヤとロドスが成し遂げていく数々の改革を考えて、そこに至るまでの問題が凝縮された土地を探す。資本主義社会が発展しながらも貴族制度が残り、感染者への根深い差別と社会参画の試みが並行しているカジミエーシュは題材として良質だろう。本当はヴィクトリアの工業都市、例えばカレドンなんかが最適なんだが、まだ大公爵どもを刺激していいタイミングじゃないからな。

 

「カジミエーシュは勉強になる場所だと思うぜ。血騎士が優勝してからは感染者も表舞台に出てきてるし、少人数なら通行許可は下りるだろ」

「そういうことであれば、現地での研修プログラムについては我々の方で検討します。つい最近までOutcastが外勤に出ていましたし、受け入れ態勢の構築は難しくはありません。後は作戦部の安全評価次第でしょう」

「商業連合会に睨まれたら分からんが、ただの視察だしな。問題ないだろう」

 

メモを渡すついでにジャールの手からマグカップを奪い返した俺は、もう彼女が持ってきた訓練場教官の採用案に思考が移っていた。だからその時は深く考えず、上の空で言葉を発したのだ。

 

「カジミエーシュは金持ちには安全な国だ。何事もなく帰ってくるだろうさ」

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

p.m. 16:25 天気/曇り

カジミエーシュ・ウルサス国境 丘陵地帯 居住地

 

夏だというのに底冷えする風が吹き付ける、夕暮れ時の丘陵地帯。飛行装置のローターがゆっくりと回転数を落としていき、巻き上げられる塵を避けて人々は自然にいくつかの砂を被らないポイントに集まっている。

飛行装置が着陸したのは丘の谷間にある小さな平地で、集落の出入り口に近い場所だ。積んできたコンテナが運び出され、互い違いに配置されて臨時の物資集積場になっている。Ace率いるオペレーター陣が急ピッチでコンテナの展開を続ける中、集積場の一角では感動の再会が起きていた。

 

 

「あれっ、フォリニックさん? どうしてこちらに……わぷっ!」

「アーミヤ、無事だったんだね! 身体の調子はどう? ご飯はちゃんと食べられてる? 長旅で疲れが溜まってるんじゃない? あっ、目の下に隈ができてる。あなたはすぐに起きて勉強しようとするんだから、こういう時こそちゃんと寝ないと……」

「ふぉ、ふぉりにっくふぁん、わたしはふぇいきでふからああああ」

 

 

「──実に美しい光景じゃないか。ああいうものを目にする時は、この大地もまだまだ捨てたものじゃないと思える。だというのになぜ君はそんな物陰にいる?」

「うるさい、今ちょっと自己嫌悪してるんだ」

 

いつものように可愛いが流石にお疲れの様子の我らがCEOを、医療部の俊英が全力で抱きかかえて頬や肩を揉みしだいている。まるで外勤明けのブレイズのようだ……と言ったら多分フォリニックはキレるな。実際微笑ましいシーンではあるが、ロドスから遠く離れた荒野での再会をさせる羽目になった元凶はこの俺の軽率なメモ書きである。

 

「あの時の俺をぶん殴ってやりたいよ、全く」

「君にそう言われてしまうと、安全評価書にOKの判を捺した私やScoutなどは自分で自分を撃つ羽目になりそうだな。まだその時ではないと思いたいね」

 

ニヤリと笑う老境のサンクタは、取り戻した帽子の上に煌々と白い光輪を輝かせている。埃まみれの防水コートをまとってコンテナに寄りかかる姿は、荒野の猟師や傭兵と大差ない出で立ちにもかかわらず実にスマートで格好いい。芝居がかった語り口も、要するにお前だけの失敗じゃないのだからあまり自責するなと励ましているのだろう。

 

「アーミヤは勿論のこと、アンタも元気そうで何よりだ、Outcast」

「そうかな? 実を言うと少し腰が痛くてね。この居住地は見ての通りの有り様で、年寄りが居眠りするのに適した椅子がないんだ。君のところにロッキングチェアの在庫はあるかい?」

「経営部じゃ扱ってない。クロージャ(うちのボス)に直接頼めよ、3割増しの値段で仕入れてくれるぜ」

 

多分余計な機能もついてくるだろうけどな。源石錐式の自動マッサージとか、ランダムに羽獣のやかましい鳴き声を流す目覚まし時計とか。

 

俺が冗談くらいは言える状態だと確認したからか、Outcastは肩を竦めて身を翻す。手招きするので大人しくついていくと、集積場の外周には人だかりができていた。 泥棒や暴徒を警戒してか、Ace隊の盾兵たちがコンテナの間に立っており、シャレムがこちらに気付いて一礼する。敵意がないことを示すため、彼らは盾も警棒も足元に置いているが、強面の男たちがそこにいるというだけで丸腰の人々には十分な威圧感だ。住民の側が圧倒的に数が多いものの、彼らの顔には怯えの色が濃く、こちらと視線が合うとすぐに目をそらす。

 

「難民だな。それも年季が入ってる」

「もう半年近いそうだよ。とはいえ私も聞き齧っただけだし、ここで話せば長くなってしまう」

 

あっちだ、と指さされた方を見ると、難民たちの中から腰の曲がった老人が進み出てきた。背格好からしてザラックだろうか? 何人かの若者に介助されてはいるが、杖もなくしっかりした足取りで歩いてくる。周囲の人間が自然と道を空けるのを見るに、この集落の有力者なのだろう。視線が合い、丁寧に会釈された。うーん、これはあれだな。商談の匂いだな。

 

「はあ、アンタが俺のことを気遣ってくれるなんて珍しいこともあると思ったら。到着早々に仕事させようってか」

「私は自分の役目を果たしてるんだ。君だってそうするべきじゃないか? 思うに、この旅は若人の健全な成長を促すためのものなのだから、追いかけるべき背中を見せてやるのも我々の務めだと思うがね」

「そこを突かれると痛いなあ」

 

できれば現地の人間との交流はこちらの手札を全て把握してからにしたかったのだが。それでもOutcastが今ここでの接触を勧めるということは、悪いようにはならないと見ていいだろう。彼女の人を見る目は確かだ。騙し討ちの危険はないはず。

俺もゆっくりと前に出る。左にOutcastが控え、右にはシャレムが付き添ってくれている。この手の突発的な交渉にプロトコルはないが、おそらく既にアーミヤが訪問しているのだろうし、こちらからボールを投げるのが礼儀だろう。

 

 

「突然の訪問をお許しくださり、誠にありがとうございます。ロドス・アイランド製薬のアルケミストと申します。本名ではなく役職名のようなものですが……失礼ながら、貴殿のお名前をお伺いしても宜しいでしょうか?」

「コントルタと申す。ここでは村長の真似事をさせてもらっている。居住地を代表して歓迎しましょう、アルケミスト殿」

 

 

深々と頷くザラックの老人は、かつては十分な教育を受けていただろうことを伺わせる堂々とした態度を崩さなかった。着ているものは周囲の難民たちと同様に粗末だが、明らかにバックグラウンドの違いがある。元は貴族か高級軍人か、あるいはカジミエーシュだから企業幹部? 何にせよ国境の難民キャンプに紛れているような人物ではなさそうだ。

 

「色々と聞きたいことがあると見えるな? まずは我が家に招かれてくれんか。見ての通り懐の寂しい土地柄だが、客人に茶の一杯も出せぬようでは長の名折れだ」

「ありがとうございます。喜んでご招待にあずかります──しかし、差し支えなければ我が社よりもう一名、栄誉に浴したく思うのですが」

「アーミヤ殿のことか? 後ほど人を遣わせよう。よもや本当に彼女が代表であったとは」

 

まあ普通冗談だと思うよね。労働基準法なんて概念すらないテラだけど、子供が社長をやってる会社は流石にあまり見かけない。金持ち貴族が家督を継げない次男三男をグループ企業の頭に据えて税金対策するとか、芸能事務所が看板アイドルを名目上のトップに置くくらいのもので、独立ベンチャーではまず聞かない話である。ましてやお飾りじゃない本物のCEOだから凄いぜ。

 

Outcastをアーミヤの迎えにやり(光輪で顔を隠すのは流石に可哀想だからやめろと言っておいた)、シャレムに護衛に来てもらう。色白のフィディアは集落の中で目立つんじゃないかと思ったが、周囲の難民たちも血色が悪いせいで逆に群衆に溶け込んでいた。世も末だな。

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

p.m. 17:02 天気/小雨

カジミエーシュ・ウルサス国境 丘陵地帯 居住地

 

「どうぞ、お客人がた。カリスカ伝統の松葉茶だ」

「わあ、きれいな緑色……」

「いただきます。代表、まだ熱いのでお気をつけて」

「は、はいっ」

 

まさかその名前が出てくるなんてなあ。驚きを薄いお茶と一緒に飲み下す。茶葉の保存状態が悪いせいか、正直言って味は良くない。それでも雨が降り始めた夕暮れに、荒野の外れで温かいものを胃に流し込めるというだけでもありがたい。

村長のコントルタが住むバラックは丘陵の斜面に張り付くように建てられていて、隙間風が吹き込まないよう、方方の壁に藁や土を固めたものが突っ込まれている。源石錐をはめ込むタイプのランプは光量が不十分で薄暗く、後ろに控えているOutcastの光輪の方が明るいくらいだ。野営用の携帯コンロを持ってきて良かったな。おかわりのお湯を沸かせるし、光源にも暖房にもなる。

 

「これはありがたい。アルケミスト殿は気が利く方だ」

「恐縮です」

「砂糖をどうだね? 故郷では二杯目に少し混ぜて味の変化を楽しんでいたものだよ。備蓄は少ないが、今日は特別だ」

「そういうことでしたら、我々にも持ち合わせがあります。良ければ後ほど、いくらかお包みしましょうか。ご招待いただいたお礼です」

「それは助かる。実を言うとね、甘くない茶というのはどうにも味気ないのだ」

 

楽しげにウィンクされる。こういうことをやると怒る人もいるんだけどね、”我々の歓待では不十分だというのか”みたいな。コントルタが寛容というか、実利を優先するタイプで良かった。元貴族って感じじゃないし、やっぱり軍人かな? 騎士だとすると下級の征戦騎士?

元々あった囲炉裏にコンロの足を埋め込んでお湯を沸かす。コントルタとその付き人数名に加えて客人である俺とアーミヤ、護衛のOutcastとシャレム、それからOutcastがなぜか連れてきたフォリニックで、あまり広くないバラックはぎゅうぎゅう詰めだった。まあ人が多い分温かいからいいけど。ピロサは寒さに弱い種族なんでね。

 

全員にお茶が行き渡り、体も温まったところで世間話というか、こちら側の身元について一通り。アーミヤが事前に説明はしていたのだが、やはり12歳の少女の言うことなので話半分と思われていたようだ。ロドスが多国籍・多種族の企業であり特定の国や組織の後援は受けていないこと、アーミヤと部下たちはカジミエーシュからの帰路で偶然ここに立ち寄ったこと。社員を受け入れてくれたお礼に、物資や医療支援などのサービスを提供できることを説明していく。

一応交渉の席ではあるが、雰囲気は友好的だ。耳をぴんと立てて一生懸命に説明するアーミヤを適宜アシストする形で話を進める。具体的な支援内容の話に移ってきたところで、場の空気が十分に緩んだと判断した俺は少しだけ踏み込んでみることにした。

 

「実のところ、我々もこの土地の事情を理解できていないのです。本艦はカジミエーシュ国境に近寄れずにいますし、通信も着陸直前まで不通でした。失礼ながら、我々の持つ地図にもこの居住地は載っていません。それにカリスカといえば……」

「その口ぶりからして我が故郷をご存知かな、アルケミスト殿」

「残念ながら、実際に訪れたことはありません。しかし風光明媚な地であると聞きました。見事な赤松林が続く、地味(ちみ)の肥えた豊かな田園地帯。ひと夏の静養に適していると」

「その通り。だがそれももはや過去のことだよ」

 

ザラックの老人は深い溜め息をついて、茶杯を一気に傾けた。今まで口の端に上るのを避けていたが、やっとそれを口にする覚悟ができたのだと言うように。

 

「赤松林は枯れ落ち、我らは追いやられた。嵐とともにあの石が降ってきて以来、名誉も何もない流浪の身だ。この名もなき丘はその終末地に過ぎない」

「それでは、貴方は……」

「想像はついていたのではないかね? 君たちのような者を招き入れ、こうして同じ火を囲んだことで。かつての我が主君が目にしたならば、怒り狂って私に槍を向けたことだろう」

 

若い付き人に肩を支えられて、コントルタがシャツを捲り上げる。露わになった脇腹には、おそらく服を破らないようにボロ布が巻きつけられていて、その端から顔を出した黒い結晶がコンロの火を反射してオレンジ色に輝いている。

鉱石病(オリパシー)の最も顕著な感染症状──体表源石の析出。これほど巨大かつ広範な析出、おまけに臓器が集中する腹部となれば、病状はとても深刻だ。フォリニックがハッと息を呑み、アーミヤは両手を握りしめている。そんな初々しい反応を示す若者二人に、老人は驚き混じりの笑みを浮かべた。

 

「この石の大きさを目にすれば、同じ病を受けた者でも嫌悪や恐怖を隠せないというのに。君たちはそうでないばかりか、哀れみすらも見せないとはな。そうできることではない……どうやら感染者を救うという言葉も、あながち嘘ではないようだ」

「ロドスは全ての感染者が抱える問題を解決するためにいます。コントルタさん、それはあなたのことも、この居住地に住む人々のことも含んでいるんです」

「ウサギのお嬢さん、どうか肩の力を抜きたまえ。そう勢い込まずともいいんだ、我々にはもう選択肢がないのでね」

 

シャツを着直したコントルタの口調には諦観が滲んでいるが、その目にはまだ力が残っている。携帯コンロの炎の向こうからアーミヤに視線を合わせるその姿から、この会話がただのカミングアウトに終わらないのは一目瞭然だ。

さてどう来るか。身構える俺に一瞬だけ目をやって、老ザラックは落ち着いた口調で言った。

 

 

「君たちを──ロドスを見込んで頼みがある。どうかこの集落を救ってくれないか」

 

 




アーミヤの誕生日は12月23日。ドクターが目覚めた1096年の12月23日は誕生日ということになります。この時点で14歳だそうなので、本作の時系列である1095年の半ばだと12歳……12歳!?

人事部のジャールはニンフの実姉で、バベル時代からの古株。本名は呪術で守られているらしく、認識しても███に変わってしまい、書き残すことも口に出すこともできないとか。サルカズの巫術って本当に何でもありですね。立ち絵だけでも出てこないかな?

カリスカの伝統云々は全て捏造です。大地を巡る旅の申込みを忘れていて買えなかったので、これ以降に出てくるそれっぽい記述も全部捏造です。助けてください。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。