シア「私の家族も助けて下さい!」
峡谷にウサミミ少女改めシア・ハウリアの声が響く。どうやら、このウサギ一人ではないらしい。仲間も同じ様な窮地にあるようだ。よほど必死なのか、先程から相当強くユエに蹴りを食らっているのだが、頬に靴をめり込ませながらも離す気配がない。
雄汰「とりあえずシアだったか?ハジメが嫌がってるし、俺達も話しを聞かないとわからないからハジメから離れて説明してくれ。」
かなり嫌がっているハジメを見て雄汰がハジメから離す為、何故こうなっていたのかの事情説明を求めた。
シア「改めまして、私は兎人族ハウリアの長の娘シア・ハウリアと言います。実は......」
そんな兎人族の一つ、ハウリア族に、ある日異常な女の子が生まれた。兎人族は基本的に濃紺の髪をしているのだが、シアの髪は青みがかった白髪。しかも、亜人族には無いはずの魔力まで有しており、直接魔力を操るすべと、とある固有魔法まで使えたのだ。
当然、一族は大いに困惑した。兎人族として、いや、亜人族として有り得ない子が生まれたのだ。魔物と同様の力を持っているなど、普通なら迫害の対象となるだろう。しかし、彼女が生まれたのは亜人族一、家族の情が深い種族である兎人族だ。百数十人全員を一つの家族と称する種族なのだ。ハウリア族は女の子を見捨てるという選択肢を持たなかった。
雄汰「んでバレてフェアベルゲンに捕まる前に一族ごと樹海を出たところを帝国兵に捕まったか。」
シア「はい……気がつけば、六十人はいた家族も、今は四十人程しかいません。このままでは全滅です。どうか助けて下さい!」
ハジメ「断る」
ハジメの端的な言葉が静寂をもたらした。何を言われたのか分からない、といった表情のシアは、ポカンと口を開けた間抜けな姿でハジメをマジマジと見つめた。そして、ハジメが話は終わったと魔力駆動二輪に跨ろうとしてようやく我を取り戻し、物凄い勢いで抗議の声を張り上げた。
シア「ちょ、ちょ、ちょっと! 何故です! 今の流れはどう考えても『何て可哀想なんだ! 安心しろ!! 俺が何とかしてやる!』とか言って爽やかに微笑むところですよ! 流石の私もコロっといっちゃうところですよ! 何、いきなり美少女との出会いをフイにしているのですか! って、あっ、無視して行こうとしないで下さい! 逃しませんよぉ!」
ハジメ「あのなぁ~、お前等助けて、俺に何のメリットがあるんだよ」
シア「メ、メリット?」
ハジメ「帝国から追われているわ、樹海から追放されているわ、お前さんは厄介のタネだわ、デメリットしかねぇじゃねぇか。仮に峡谷から脱出出来たとして、その後どうすんだよ? また帝国に捕まるのが関の山だろうが。で、それ避けたきゃ、また俺を頼るんだろ? 今度は、帝国兵から守りながら北の山脈地帯まで連れて行けってな」
シア「うっ、そ、それは……そ、そうだ!もしお願いを聞いてくれるならなんでも一つ言うこと聞いてあげますよ」
このままだと置いていかれると判断したのか、ハジメ相手に色仕掛けを仕掛けるが、鼻水まみれの顔にボロボロの姿で台無しだった。
ハジメ「俺にはユエがいるからいらん」
はっきり断るハジメにいやんいやんと体をくねらせるユエ。
そのユエの突き抜けた美貌を見て、ぐぬぬと唸ったウサミミ少女はユエに対抗して地雷を踏み抜いた。
シア「で、でも、胸なら私が勝ってます! そっちの金髪の女の子はペッタンコじゃないですか!!」
『ペッタンコじゃないですか』
『ペッタンコじゃないですか』
『ペッタンコじゃないですか』
峡谷に命知らずなウサミミ少女の叫びが木霊こだまする。恥ずかしげに身をくねらせていたユエがピタリと止まり、前髪で表情を隠したままユラリと二輪から降りた。
それを見た雄汰とハジメは……
雄汰「おい、ハジメ。ここの地盤、掘れるか?」
ハジメ「霧散するから難しいな」
ウサミミ少女が死ぬ未来が見えた。震えるシアのウサミミに、囁くようなユエの声がやけに明瞭に響いた。
雄汰はシアに対し、「骨は拾ってあげる」言って、さっさとハジメと逃げた。
―――― …お祈りは済ませた?
―――― …謝ったら許してくれたり
―――― …………
―――― 死にたくなぁい! 死にたくなぁい!
「『嵐帝』」
―――― アッ――――!!
突如発生した竜巻に巻き上げられ錐揉みしながら天に打ち上げられ、地面に叩きつけられるシア。彼女の悲鳴が峡谷に木霊した。
――――――――――――――――――――――――――――――――
シア「酷いですぅ……こんな光景見えなかったのにのに!」
ハジメ「……おい、それどういう意味だ?見えないって……お前の固有魔法と関係あるのか?」
一向に折れないハジメに涙目で意味不明なことを口走るシア。そう言えば、何故シアが仲間と離れて単独行動をしていたのかという点も疑問である。その辺りのことも関係あるのかとハジメは尋ねた。
シア「え? あ、はい。〝未来視〟といいまして、仮定した未来が見えます。もしこれを選択したら、その先どうなるか? みたいな……あと、危険が迫っているときは勝手に見えたりします。まぁ、見えた未来が絶対というわけではないですけど……そ、そうです。私、役に立ちますよ! 〝未来視〟があれば危険とかも分かりやすいですし! 少し前に見たんです! 貴方が私達を助けてくれている姿が! 実際、ちゃんと貴方に会えて助けられました!」
シアの説明する〝未来視〟は、彼女の説明通り、任意で発動する場合は、仮定した選択の結果としての未来が見えるというものだ。これには莫大な魔力を消費する。一回で枯渇寸前になるほどである。また、自動で発動する場合もあり、これは直接・間接を問わず、シアにとって危険と思える状況が急迫している場合に発動する。これも多大な魔力を消費するが、任意発動程ではなく三分の一程消費するらしい。
どうやら、シアは、元いた場所で、ハジメ達がいる方へ行けばどうなるか? という仮定選択をし、結果、自分と家族を守るハジメの姿が見えたようだ。そして、ハジメを探すために飛び出してきた。こんな危険な場所で単独行動とは、よほど興奮していたのだろう。
ハジメ「そんなすごい固有魔法持ってて、何でバレたんだよ。危険を察知できるならフェアベルゲンの連中にもバレなかったんじゃないか?」
ハジメの指摘に「うっ」と唸った後、シアは目を泳がせてポツリと零した。
シア「じ、自分で使った場合はしばらく使えなくて……」
ハジメ「バレた時、既に使った後だったと……何に使ったんだよ?」
シア「ちょ~とですね、友人の恋路が気になりまして……」
ハジメ「ただの出歯亀じゃねぇか! 貴重な魔法何に使ってんだよ」
シア「うぅ~猛省しておりますぅ~」
ハジメ「やっぱ、ダメだな。何がダメって、お前がダメだわ。この残念ウサギが」
呆れたようにそっぽを向くハジメにシアが泣きながら縋り付く。ハジメが、いい加減引きずっても出発しようとすると、何とも意外な所からシアの援護が来た。
ユエ「……ハジメ、連れて行こう」
ハジメ「ユエ?」
シア「!? 最初から貴女のこといい人だと思ってました! ペッタンコって言ってゴメンなッあふんっ!」
雄汰「アホだろ。」
ユエの言葉にハジメは訝しそうに、シアは興奮して目をキラキラして調子のいい事を言う。次いでに余計な事も言い、ユエにビンタを食らって頬を抑えながら崩れ落ちた。
ユエ「……樹海の案内に丁度いい」
「「あ~」」
確かに、樹海は亜人族以外では必ず迷うと言われているため、兎人族の案内があれば心強い。樹海を迷わず進むための対策も一応考えていたのだが、若干、乱暴なやり方であるし確実ではない。最悪、現地で亜人族を捕虜にして道を聞き出そうと考えていたので、自ら進んで案内してくれる亜人がいるのは正直言って有り難い。
雄汰「あまり力に頼っていると痛い目に見るぞ。穏便に行けるんならそっちの方がいいだろ?もし敵なら潰せばいいんだし。」
ユエ「……大丈夫、私達は最強」
するとハジメは苦笑をし
ハジメ「そうだな。おい、喜べ残念ウサギ。お前達を樹海の案内に雇わせてもらう。報酬はお前等の命だ。」
セリフが完全にヤクザである。しかし、それでも、峡谷において強力な魔物を片手間に屠れる強者が生存を約束したことに変わりはなく、シアは飛び上がらんばかりに喜びを表にした。
シア「あ、ありがとうございます! うぅ~、よがっだよぉ~、ほんどによがったよぉ~」
ぐしぐしと嬉し泣きするシア。しかし、仲間のためにもグズグズしていられないと直ぐに立ち上がる。
シア「あ、あの、宜しくお願いします! そ、それで御三方のことは何と呼べば……」
ハジメ「ん? そう言えば名乗ってなかったか……俺はハジメ。南雲ハジメだ」
ユエ「……ユエ」
雄汰「俺は葛城雄汰。よろしくな。」
シア「ハジメさんとユエちゃんと雄汰さんですね。」
三人の名前を何度か反芻し覚えるシア。しかし、ユエが不満顔で抗議する。
ユエ「……さんを付けろ。残念ウサギ」
シア「ふぇ!?」
ユエらしからぬ命令口調に戸惑うシアは、ユエの外見から年下と思っているらしく、ユエが吸血鬼族で遥に年上と知ると土下座する勢いで謝罪した。どうもユエは、シアが気に食わないらしい。何故かは分からないが……。例え、ユエの視線がシアの体の一部を憎々しげに睨んでいたとしても、理由は定かではないのだ!
雄汰「まぁ、とりあえずハジメはシアを連れてけよ。」
ハジメ「なんでだよ。」
雄汰「いや。だってもう座っているし。それに後ろは先約があるため絶対乗せる気はないけど。」
本当にいつの間にか移動しているんだよなぁ。おかげで香織との約束が守られる。
シア「あ、あの。助けてもらうのに必死で、つい流してしまったのですが……この乗り物? 何なのですか?」
ハジメ「あ~、それは道中でな」
そう言いながら、俺たちは魔力駆動二輪を一気に加速させ出発した。悪路をものともせず爆走する乗り物に、シアがハジメの肩越しに「きゃぁああ~!」と悲鳴を上げた。地面も壁も流れるように後ろへ飛んでいく。
俺たちは兎人族のいる場所へと急ぐのであった。