不良と皇帝陛下   作:アイリエッタ・ゼロス

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幕間 奈落

 帝がゴモラを暴れさせた数日後....

 

 〜〜〜〜

 雫side

 

「このバカども! メルドさんの言う通り、さっさと撤退しなさいよ!」

 帝君のショーが終わって数日後、私達はオルクス大迷宮にいた。ここには、実戦訓練の

 一環として来ていたのだが、あるバカがトラップを発動させたせいで私達は窮地に

 立たされていた。

 

「(こんな時に帝君がいたら....!)」

 私は目の前にいるモンスター、ベヒモスを見てそう思っていた。そう思っていると、

 突然私達の前に南雲君が走ってきた。そして、南雲君は天之河の胸ぐらを掴んで必死な

 形相で後方の状況を説明していた。そして、その説得が効いたのか、天之河は後方に

 向かおうとしたのだが、一箇所に固まっていた私達はベヒモスの攻撃の余波を受け

 吹き飛ばされた。私は剣を地面に突き刺して風圧に耐えたが、それでもかなりの

 攻撃の余波を身体に受けた。

 

「(一体どうすれば....)」

 私は頭をフル回転させたが、これといった方法が思いつかなかった。すると、南雲君が

 メルドさんに何かを言っていた。耳をすませて聞いてみると、どうやら南雲君は一人で

 ベヒモスの足止めをすると言っていた。そして、メルドさんは南雲君の覚悟を聞いて

 南雲君の策に許可を出した。

 

「南雲君。その策、私にも手伝わせてくれない?」

 許可を出すのを聞いていた私は、気づけば南雲君にそう言っていた。

 

「八重樫さん?」

「雫!?」

「ベヒモスを引きつけるのは私がやるわ。メルドさん達以外の中だったら、私が一番

 俊敏が高いわ。攻撃を引きつけて回避するぐらいならまだできるわ」

「で、でも....」

「それに、勇者があの様子じゃ後方は危険なままよ。ここはメルドさんに後方を頼んだ方が

 生存率は上がるはずよ」

 私はそう言いながらも、剣をベヒモスに向けて構えた。

 

「それに、ここであなたを死なせたら帝君に合わせる顔がないのよ。だから、断られても

 私はそれを無視するわよ」

「....わかったよ。メルドさん、ここは僕達二人に任せて後方をお願いします!」

 そう言って、私と南雲君は一歩前に出た。そして、私はベヒモスの攻撃をギリギリまで

 引きつけると、その攻撃をギリギリのところで躱した。

 

「南雲君!」

「錬成!」

 そして、私と入れ替わるように南雲君はベヒモスの角が突き刺さった地面を固めた。そして、

 私は脚や腕の筋の部分を斬りつけた。

 そこまで深い傷にはならなかったが、それでも少しはダメージが入り血が流れていた。

 そして、それがしばらく続くと南雲君が声をかけてきた。

 

「八重樫さん! そろそろ退避を! 僕の魔力も次で尽きる!」

「わかったわ!」

 南雲君の言葉が聞こえた私はベヒモスから距離を取り、南雲君が最後の錬成を発動した瞬間、

 南雲君とともに階段のある方に一気に駆け出した。そして、ベヒモスから三十メートル程の

 場所に離れた時、突然前方から嫌な気配を感じた。私がその気配の方を見ると、私達に

 向かって火球が飛んできた。

 

「っ! 南雲君!」

 私は咄嗟に南雲君を突き飛ばした。南雲君は火球から回避したが、その代償に私は火球の

 衝撃波を受け、さっきまで走っていた道に吹き飛ばされた。私はすぐに立ち上がろうと

 したのだが、平衡感覚が狂い、身体に力が入らなかった。

 

「(っ....一体誰が....!)」

 私は階段の方を見ると、とある男が私達の方を見て笑っていた。

 

「(っ! アイツが....!)」

 私がその男の顔を見ていたその時....

 

「八重樫さん! 逃げて!」

 突然南雲君の叫び声が聞こえてきた。だが、その声に気付いた時には既に遅く、ベヒモスの

 怒りの一撃が私と南雲君のいる橋を襲った。そして、橋はその強大な一撃で崩壊を始めた。

 私は何とか掴める岩などを探したのだが、その岩ですら崩壊していき、私は奈落に

 落ちていった。

 

「(ここで、私は死ぬの....?)」

 私は奈落に落ちていく時、帝君との思い出が頭の中に思い浮かんできた。

 

「嫌だ....まだ、死にたくない....!」

 そして、私は地上に手を伸ばしながらこう呟いた。

 

「助けて.....! 帝君....!」

 

 〜〜〜〜

 ? side

 

『....』

『(何故この様な所に人間の娘が....)』

 俺はある迷宮の様な所で一人の人間の娘を見つけた。その人間の娘は身体中に傷を

 負っており、血を流して地面に倒れ伏していた。

 

『(....既に息絶えているのか)』

 そう思いながら娘に近づくと、娘は閉じた瞳から涙を流しながらこう呟いた。

 

「死にたく、ないよ....」

『....』

『(死にたくないか....仕方あるまい)』

 そう思った俺は娘を抱きかかえ、側に落ちていた剣を持って自分が作った住処に向かった。

 

 

 

 

 




この時に、南雲も奈落に落ちています。ただし、落ちた場所が違うので雫と
会うことはありません。

そして、最後に出てきた男は、剣に関係するある宇宙人です。
(察しの良い人はすぐに気づくと思います。)

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