【悲報】ワイ氏、なんかめっちゃ人がおる きさらぎ駅 に来てしまった模様   作:white river

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姉鬼好きだったのに扱いがすこし雑になってしまったことが悔しかったので初投稿です。今回は小説パート。今回だけでなく、これから先の小説パートは幕間ではなく本編に絡む内容になっていくと思います。
技量が足りずすみません。

鬼滅の刃最終話を読んでいれば、「ああ……」となるようでならないような、非常に微妙なネタバレ(のような匂わせのようなもの)があります。





那田蜘蛛山 -1-

(癸のアイツらは大丈夫だろうか……?)

 

 鬼殺隊員、階級庚。村田は抜き身の刀を手にひとり、山をさまよっていた。応援として呼ばれた、階級癸の隊士たちと一時は合流したものの別れてしまっているためである。

 そこらかしこにいる蜘蛛や糸を警戒する、というのは確実に彼の神経をすり減らす。そうして、自身の心が乱れているのを感じた村田は意識をして "呼吸" しながら、落ち着くためになるべく別のことを考えるよう努めた。

 

(あいつら、思い出せば態度が妙だったなあ。いつの間に着替えただの、背が伸びただの、人違いだっただの。もしかして、俺は隊の中でも有名になってきてるのかも? って、そんなわけないか。)

 

 自嘲を交えながらも、当初よりは落ち着きを取り戻した村田。ザクザクと落ち葉と枝の地面を踏み鳴らし、ときおり虚空にむかって威嚇のように刀を向ける。誰かほかの隊士と合流できやしないものか、村田はそう思いながら足を止めることはしなかった。

 

「──────、────!」

(ッ、誰かいるのか?)

 

 ふと遠くから、村田の耳に誰かの声が届いた。ぴたりと足を止め、刀をその方向へ向ける。人間かもしれないし、鬼かもしれない。警戒をするに越したことはないからだ。

 

 森はただでさえ薄暗く、加えて今は夜。木の幹の連なる向こうは真っ黒で何も見えやしない。特殊な耳も、鼻も、ましてや空間知覚を可能なほどの皮膚も彼は持っていなかった。

 

 村田に鬼狩りの才能があるとは言いづらい。それは本人も自覚して久しいものである。彼の同期は、今では鬼殺隊最高位の一柱を務めている───それは村田本人が援護向きであり、進んで補助に徹するものゆえに直接の討伐数が伸びないから、というのも理由ではあったが─── のにもかかわらず彼の階級は庚だった。

 

 しかしそれでも、村田には例の癸の新人隊士達にはない経験というものがある。端的にいえば、村田は暗闇の遠くにある小さな動く光を月光の反射と見逃すことなく知覚し、そしてそれを人間であるとの判別ができた、ということだ。

 

 夜の森の中、遠くにみえるその人物はふらふらと歩きながら、あちらこちらを光で照らしている。「────! ─────、──!」村田はその人物の声に耳を澄ませたが、母音しか聞き取れず何を言っているかわからなかった。

 

(鬼じゃない、よかった。操られているわけでもなさそうだ。なにか叫んでいるがここからじゃあ聞き取れないな。多分だが、人の名前……? とにかく合流しないと。)

 

 瞬間。ほんの一瞬にも満たない間だったが、光が光の持ち主を照らした。村田の喉をすきま風が一気にせり下がる。青ざめるより先に足が勢いよく前に出た。

 走り出す村田。光の持ち主は、隊服を着ていなかった。刀も身につけていない。

 

(なんでこんな所に一般人がいるんだ! 死にに来ているのか!?)

 

 顔は見えなかった。見る暇もなかった、という言葉が正しいのか、隊服でない服装に視線が吸い寄せられた、という表現の方が適しているのか。とにかく、鬼殺隊員にとって市井の人間の安全の確保は優先すべきものであることは確かだ。

 

「そ、そこのアンタ! この山は危険だ! 一旦俺と一緒に下山、」

 

 だが、ここまでの事は全て()()()である。

 

「あ…………え……? お、俺……?」「兄貴……? どうしてここに……」

 

 光の持ち主───村田に顔立ちのよく似たその人物は、村田と同様によく困惑しながらも、なぜかその光源のナニカを弄ると辺りを一瞬だけ閃光で満たした。パシャリと聞きなれない音もした。

 

「あ、あなたは俺の兄貴ですか……?」

 

 そう目の前の人物に問いかけられて、ようやく我にかえった村田が思ったのはただ一つ。お互いの顔立ちについてのことではなく、「やけにコイツのさっきの動作、手馴れているな……」という場違いな感想のみだった。

 

 

 


 

 

 

 鬼がうろついている山の中だというのに、二人は警戒すらも一時忘れ、身を寄せて話し合っていた。

 

「じゃ、じゃあ、あに……村田、さんはマジで兄貴にクリソツなだけで、__って名前でもなければ、高校の教師でもないし、平成生まれでも令和経験者でもないって感じでオッケーすか。」

 

 村田によく似ていた男、彼は()() 明と名乗った。奇しくも苗字まで一緒である。お互い近くによって、月明かりの下で顔を見ればなるほど。顔立ちはよく似ていたが、全てが同じというわけでもなかった。

「ワンチャン兄貴も来てるんかと思ったけど、またそりゃちげーわな…」そう呟く明を、村田は横目によく眺める。

 髪艶は似ていたが髪型は違ったし、年齢も明の方が大分下のように見えた。むしろ明の方に至っては村田を見て別の人物を、彼の実兄を連想したようだった。確かに、そっくりさんと言われるよりは近縁、いや、兄弟と言われた方がしっくりくる。言葉遣いは少々変だったが。

 

「イヤイヤ、ずっと鬼殺隊でやってきたんだから、俺に教師ができるほどの学があるはずないだろ。えっと、あきら…さん?は、そっちこそなんで鬼のいる山にいるんだ?」

「ツレとはぐれたンすよ。鬼殺隊です。猪の被り物したヤツと、緑と黒の上着のヤツと、黄色の上着のスーパーサイヤ人。見かけましたか?」

 ピンときた。黄色の上着に関してはわからなかったが、前二つについては少し前に村田が接触した癸の隊士二人の特徴だった。「見たぞ。ああ、でも大丈夫かなぁ、あいつら……。」迷う素振りをしてから、村田は「そうだ、よかったら俺も一緒に探してやろうか。」と、そう明に提案した。無論断る理由はない。「うっそ! サンキュー()()! あっ。えっと、村田さん。」

 

「…………。」

 

 気まずい沈黙。山中の静けさが逆に双方の耳を刺す。「あの……、」「そのだな、」同時に沈黙を破る。アッ先にどうぞ、イヤイヤそっちがどうぞ。譲り合いに負けたのは隊士の方の村田だった。

 

「その、いいぞ。俺の事、兄貴って呼んでくれても。さっきから何回か間違えてるし、呼びづらいんじゃないか? それに、明…さんは死んだ弟に似てる気がする。名前が一緒だったら、正直弟が生きてたんじゃないかって思うぐらいに。

 ……アイツが生きてたら、きっとアンタぐらいの歳だ。こっちも、その。少し複雑だけどそう呼ばれると、すこし嬉しい。」

 言い終わってから一体何に気がついたのか。村田はその場から2メートルぐらい飛び退くと、「アッイヤ嫌だったら全然構わないんだ! てかごめんさっきの嘘! 嘘嘘!」と慌てふためきながら叫んだ。

 

「あに───」

 

ザザザザッ

 

 何かが草を掻き分けて高速で近づいてくる。村田の背後からだ。明は気がついたが、村田はよく分からない言い訳のようなものを言い連ねるこのに気を取られて気づくのが遅れた。気がついた頃には、村田のそのすぐ背後に何かが、否、女の鬼が───

 

「───危ないッ!」

 明は村田を横の草むらに押し倒し、反射的にさっきの光源を持っていた手、()()()()()()()を前にかざす。紫の光が鬼を照らした。

 

「なっ、ギャア! 眩しっ、なんてことすんの、よ……え?」

 鬼の左肩から首元に掛けてを、光が満遍なく照らす。「な、なんで()()()、嘘、どうして、せっかく今まで頑張って人間を食ってきたのに、何よこれ。」光に当たった肩と首元がボロボロと塵になり、ついには鬼の向こう側の景色が見えるようにさえなってしまった。「嫌、いやよ……頸が……取れて……嫌……。」

 

 光が───U()V()()が照らしたのは、鬼の肩口から反対肩の鎖骨まで。つまり頭を支える部分は総じて塵となり、奇しくもそれは日輪刀が鬼の頸を切るのと同じ効果を発揮した。「イヤ、嫌あ……」女の鬼の全身が塵になっていくのを、じっと見つめる明。「イタタ……一体お前、何したんだ?」立ち上がった村田も、崩れゆく鬼を眺めながらそう言った。

 

「あー、これは、」

 

 

 

「私も気になります。すごいですね、今のはどういう原理ですか? もしかして、血鬼術ですか?」

 

 

 勢いよくその場で振り向く明。

 

「こんばんは。」

「あ、あなたは、」

 

 女は微笑んだ。

 

 

「今日は月が綺麗ですね。」

 

 

 





村田さんの家族構成に独自設定を加えました(事後報告)

これは公式ですが、村田さんは鬼によって家族を失っており、敵討ちのために鬼殺隊を志願しました。


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