2021年初の投稿です。
私たちはギムのすぐ近くまで迫っていた。
しかし、
”減速を始めたはいいけど……”
”かなりゆっくりですわね”
どうやら超音速飛行は加速は凄まじいものの、減速には結構な時間を要するらしい。数分前からスピードを落としているけれど、まだギリギリ音速を超えている。一刻も早く現場に着地したいが、この速度では危険度が高い。
これは改善案件だ。任務を済ませて帰ったら早速シャイヘル様にお願いしよう。
「!!」
その時、誰かが助けを求める声が聞こえてきた。もしかして……今まさに誰かが犠牲になろうとしている!? もしそうなら一刻の猶予も無い。誰、何処にいるの!? 今そっちに行くから!
私は声の主を探そうと思わず地上を見下ろしたが、その時体を斜め下方向へ傾けてしまう。
……あ。
「うおおおおおおおおおおおお!!?」
「え、ちょ!?」
「リズっ!!?」
それがいけなかった。私は超音速を維持したまま地面にぐんぐんと近付いていき、そして――。
「ッ!!」
頭から諸に突っ込んでしまった。辺りに砂埃が舞い、地面は私が直撃した影響で大きなクレーターを作り出す。
爆心地の中心部で、私は咳き込みながらフラフラと立ち上がる。直にぶつかった箇所が少し擦りむいている。予想に反して、極めて軽い怪我で済んだようだ。
「いてて……体が魔力でコーティングされてなかったら危なかった……」
シャイヘル様のお陰だね。
土埃を叩き落としていると、そのシャイヘル様から念話が入った。
”り、リズっ!! 大丈夫か、怪我は無いか!? 応答せい!!”
「シャイヘル様。はい、何とか大丈夫です……」
”そ、そうなのか? 本当に大丈夫なのか? お主に何かあったら儂は、儂はぁ……”
シャイヘル様は今にも泣きそうだ。子供を泣かせたようで強い罪悪感を覚えたが、今は弁明している暇がない。早く助けを呼んだ人を探さないと手遅れになるかもしれない。
「ごめんなさい、心配をお掛け致しました。……あの、シャイヘル様! 私、さっき誰かが助けを呼ぶ声を聞いたんです! その人の現在地を教えてください!」
”何? 少し待て! ……ふむ。おそらくお前の背後50m地点に居る者じゃ。どうやら捕まっておるぞ”
「え!?」
振り返るとその先には、檻に閉じ込められている獣人の女の子が。その近くにも人間族の女性と獣人の男性が拘束されていた。
”すぐ向かって解放してやれ、リズ!”
「了解!」
返事より先に体が動く。
私は女の子を閉じ込める檻に素早く接近し、虚空から出現させた剣を横に振るった。魔力で強化された腕力と剣の切れ味が組み合わさり、鋼鉄の檻はあっさりと切断される。間を置かず女性と男性の元にも寄り、拘束具だけを綺麗に切り裂いた。
この間僅か1秒。3人にしてみれば私が消えた途端、自分たちを縛る物が一瞬でその能力を失った様に見えただろう。
「二人とも!!」
「あなた!」
「お父さん……!!」
「良かった、良かった、無事で……!」
男性が女性と女の子へ駆け寄り、抱き締める。どうやら親子らしい。無事に再会できて良かった。
「お怪我はありませんか?」
タイミングを見計らって声を掛ける。すると――。
「天使……さまぁ……!」
私を凝視していた女の子が声を上げて泣き出した。え? どうして!?
「あの、何処か怪我してるの!? 治してあげるから、お姉ちゃんに見せて!」
「ううん、怪我じゃないの。天使様に会えて嬉しいの!」
天使様……? 私のこと? 何で?
私が首を傾げていると、女の子は右腕で涙を拭い興奮した様子で理由を教えてくれた。
「だってお姉ちゃんは御伽噺に出てくる、勇者様と一緒に魔王を倒した天使様でしょ? 天使様はとっても綺麗な羽を出してたって、絵本で見たもん!」
あ、光の翼のことか。確かに天使っぽく見えなくもないね。納得した。
それよりも当時の私たちのことが昔話として伝えられているの? あれから1万年以上も経てば流石に記憶も記録も風化してしまうと思ったけど、そうでもなさそう。
(タ・ロウさん、ケンシーバさん、キージさん、ルーサちゃん。あれから4人はどうなったんだろう……)
一緒に戦い、ダレルグーラ城で別れた友達のその後が気になる。魔法帝国も魔王も無くなった時代、あの人たちは幸せに暮らしたのだろうか。今となっては分からない。
でも、友達の頑張りが今も語り継がれていることが知れて嬉しい。あの人たちはもういないけど、彼らが勇者として戦った証はしっかりと残されているんだ。
「ねぇねぇ、お姉ちゃんって御伽噺の天使様でしょ? 勇者様たちとの武勇伝、沢山聞きたいなー!」
「え、えっとぉ……」
「ちょっと待てユキ。先に私と話をさせてくれないか?」
「え、でもお父さん!」
「今はまだ危険な時なの。お話を聞くのはまた後にしましょうね?」
「む~、分かったよお母さん……」
さて、キラキラとした眼差しを向ける女の子への返答に困っていると、この子の父親が話し掛けてきた。
女の子は不満そうに頬を膨らませたが、女性の宥められて渋々引き下がった。
男性は女の子と女性を離すと、私の前に来て頭を下げた。
「さっきは助かった。もう少しで私は家族を失うところだった。アンタは一生の恩人だ、この恩は必ず返す」
「いえいえ気にしないで下さい。私はただ助けたくて助けただけですから。……それにまだ危機が去った訳ではありません。敵が近付いています」
あれだけ派手に着地したんだ。間違いなくロウリア軍に気付かれている。現に敵の兵士が沢山こちらへ向かっているのが遠目にも分かる。ぐずぐずしていたら人質ごと包囲されてしまう。
「リズ!」
「リズー! 無事ー!?」
「みんな!」
丁度マエちゃんを筆頭に、ウェシャスのメンバー全員が私の元へ降り立った。ある子は心配そうに、ある子は眉間に皺を寄せた様子で私に詰め寄る。
「大丈夫ですの、リズ!?」
「身体、痛いとこ、ないっ!?」
「全く! 防壁のおかげで何とか助かったものの、ヘタしたら死んでたかもしれないのよ!?」
「本当無茶をする! 何かあったらどうするの!?」
「ご、ごめんね皆。心配かけちゃった……本当にごめん」
みんなに心配掛け過ぎちゃった。同じ事にならないように気を付けなくちゃ。
「敵さんが集まってきたみたいだね」
予想より早くロウリア軍の兵が集まっている。流石に万単位で一気に攻めてこられたら厄介だ。これ以上の死傷者は何が何でも避けなければならない。
「もし。貴方のその恰好、もしや軍人さんでは?」
フィサリーちゃんが獣人の男性に問いかける。鎧を身に付けたその姿は兵士と見て間違いない。それも多少煌びやかな装飾も施されていることから指揮官と思われる。
「あ、あぁ。私はこの街一帯の守りを担う西部騎士団の団長だ。名をモイジという」
「ではモイジさんにお願いがありますの。生き残った住民や兵士を連れて、この街から脱出してくださいまし。私たちが援護致しますわ」
「な、何……!?」
モイジさんはひどく驚いた様子だ。
「助けて貰ったことは感謝してる! だが、いきなり現れた君たちを信じて簡単に命を預ける真似は出来ない! こう言っては悪いが、君たちが敵のスパイである可能性も否定できないのだからな」
「お父さん、酷いよ! お姉ちゃんたちは御伽噺の天使様なんだよ!」
女の子が抗議の声を上げるが、モイジさんの言っていることは正論だ。私たちは明白に味方だという証明が出来ない。指揮官として味方や一般の人たちを無事に逃がす為にも、私たちのような不安要素は加えたくないだろう。
「第一殿を務めるにしても、君たちの部隊はどれだけの規模だ? 100人か? 1000人か?」
「いいえ、此処にいる6人で全員ですわ」
「気は確かか!? たった6人でロウリア軍を相手取ると!? 相手は3万近い大軍なんだぞ!!」
当然と言うか、モイジさんは目を剥いて抗議する。普通に考えれば多勢に無勢。囮にもなるか怪しい人数で敵と戦うと私たちは主張しているんだ。正気を疑われても仕方ない。
でも私たちは似たような経験をしている。つまり、こんな状況は慣れっこだ。
「ご心配なく」
フィサリーちゃんが切先に沿って幅広い刃が持ち柄に付いた珍しい武具――薙刀と言うみたい――を出現させる。何をする気が察した私たちは邪魔にならならないよう距離を取った。
そしてフィサリーちゃんは接近中の敵集団と真正面で向き合うと、少し腰を落としながら片足を前に出し、両手で構えた薙刀を横に振るった。
「な……」
「嘘……」
「すごーい……」
モイジさんも、女性も女の子も固まっていた。
薙刀が起こした衝撃波が完全武装の騎兵100人以上を馬ごと吹き飛ばす様子を見せられたら、そりゃそうなる。
「これなら心配ありませんでしょ?」
薙刀を一度回転させてから柄の先をガンッと地面に突き立てると、フィサリーちゃんはドヤ顔でそう言った。
「さて、今まさにロウリア軍を攻撃した私たちは、これで少なくとも貴方がた同様ロウリアの敵となりました。ここは共通の敵から逃げる為にも手を組みませんこと?」
「……それで証明したつもりか?」
フィサリーちゃんが手を差し伸べるが、モイジさんの疑惑はまだ晴れない。
その態度にミシェルちゃんが切れ、ずんずんとモイジさんに近付いて胸倉を掴んだ。
「あーもう、さっきからごちゃごちゃと文句ばっかり! 私たちが敵か味方かなんて考えてる暇ないでしょ!? そんなこと考えてたら時間切れで皆死んじゃうわよ! いいから、さっさと全員連れて街を出なさいよ!」
「ミシェルちゃん、焦るのは分かるけど言い方!」
「あッ、う……ご、ごめん。言い過ぎた」
私から咎められモイジさんを離すミシェルちゃん。
モイジさんはミシェルちゃんの言葉に当てられたせいか、さっきのフィサリーちゃんの件も含めて少し考え込んでいた。やがて大きく息を吐いた彼は私たちを見据え、
「――分かった。君の言う通り、あまり時間は残されてなさそうだ。これ以上部下や住民が犠牲になるのは御免だ。どうか力を貸してくれ」
その言葉に私たちはホッとした。
「しかし、住民はばらけた形で拘束されている。彼らを敵から守りながらどうやって救出する? それに魔信も使えないから連絡すら取れない」
モイジさんが没収された刀剣を回収しながら懸念を口にする。実はこれに関しては既に対応策がある。
「アタシの出番だね」
「ユトーちゃん、お願いできる?」
「勿論よリズ。マエ、救出後の人質の周りに障壁を展開させて頂戴」
「おう、了解した! 誰一人傷付けさせはしないよ!」
「それじゃあ残った私たちは、マエちゃんが人質みんなをシールドで保護した後に周囲の敵を排除するよ。周囲の安全を確保したら、人質を救出して街の東端へ連れて行く……流れはこんな形だね。モイジさん、それで良いですか?」
「あぁ、私は近くの同胞を掻き集めて、途上の住民を救出しながら街の東端へ避難しよう。正直、君らの実力を見て尚不安が拭えないが……西側に残された人質を頼む」
「はい、任せて下さい!」
「さあ、行くよ! 準備は良い!?」
ユトーちゃんが態勢を立て直そうとする敵集団へ走り出す。その両手にはオリハルコン製の金属具が付いた、折れ曲がったような青い武器。別世界でブーメランと呼ばれているその道具は、シャイヘル様曰く遠くに投げても自分の所へ戻ってくるらしい。一体どんな原理でそうなるのか、凄い武器だ。
「シャイヘル様、人質全員の現在地をお願いします!」
”安心せいユトー。既にクワ・トイネ側の住民全員の位置情報は割り出しておる。タイミングはお前に任せるぞ”
「はい!」
それぞれ私たちの顔辺りに出現する映像。人質の位置だけでなく、その人がどのように拘束されてるかまで事細かく情報が示されていた。ユトーちゃんはそれを頼りにブーメランを操り、人質の拘束具のみを破壊する。
何故ユトーちゃんが人質解放の役目を担うのかというと、これはマエちゃんとユトーちゃん以外の私たちの攻撃射程が短いことにある。衝撃波を起こして遠くの檻を破壊することは可能だけど、当然それは人質ごと吹き飛ばしてしまうことを意味する。遠距離から、ましてや街中の様に入り組んだ場所で人質の拘束具だけを破壊する、なんて真似は出来ないのだ。
マエちゃんも遠距離攻撃は得意だけど、今回のような正確性の求められる戦い方は苦手である。
射程が長く、障害物の多い所でバラバラに位置する住民を安全に解放出来るのは、ユトーちゃんのブーメランだけなのだ。
「――フンッ!!」
ユトーちゃんは空間を交差するように2本のブーメランを投げ飛ばす。ブーメランは目で追うのもやっとな豪速で、少し離れていた人質の拘束具を一瞬で壊してしまった。
「な、なんと……」
唖然とするモイジさんを余所に、ブーメランはまるで意思を持ったかのように街の奥深くへと吸い込まれていった。投影画像では頑丈な檻が、縄が、手錠が、罪なき人たちを縛り付ける物が次々と切り裂かれ、みんなを自由にしていく様子が映される。
彼らはすぐにマエちゃんが発動した障壁で、敵と完全に分離される。これでロウリア軍は暫くの間、どう頑張っても人質に手出し出来なくなった。
「モイジさん、早く!!」
「あ、あぁッ! 行くぞ二人とも!」
「え、えぇ!」
モイジさん親子が私たちと反対側へ走り出す。
「お姉ちゃんたち!!」
私たちも動き出そうとした時、お母さんに連れられていくユキちゃんが叫んだ。咄嗟に振り返る私たち。
「頑張ってー!!」
私たちの身を案じてくれているんだろう。応援の言葉とは裏腹に、その顔はひどく不安そうだ。だから安心させようと笑顔で明るく返した。
「うん、任せて! 絶対に皆助けるから!」
大きく跳躍しながら街の奥へと進む。戦いはまだまだ始まったばかりだ。
ユトエルのブーメランは、ゼル伝の風タクに出てた物に近いです。威力や射程、速度、機動性などは前者の方が圧倒的ですが。