中央暦1639年1月某日
エモール王国 竜都ドラグスマキラ ウィルマンズ城
リズたちが現代に現るより少し前。
空間の間にて開かれる年に一度の占い。国の帰趨に関わる内容を知る為、竜人でも特に魔法素養が高い者たちが集まり、空間の神々に干渉し未来を視るのだ。
「あり得ない……!!」
荘厳なる空間に悲鳴に近い叫びが響く。声の主は汗だくで上記の台詞を呪詛の如く呟く。
「どうしたアレースル、汝は何を視たのだ?」
竜王ワグドラーンが問い掛ける。それにより少しばかり落ち着きを取り戻したアレースルが口を開いた。
「ま、魔帝なり……」
「何だと……!?」
その言葉に誰もが強い衝撃を受けて一斉に立ち上がる。
「魔帝が……神話に謳われる魔法帝国が、近い将来……復活する」
「あの恐怖の国が、復活だと!?」
「奴らの出現はまだ遥か先の事ではなかったのか!?」
「何ということだ! これは世界規模の一大事だ!!」
「静かにしろ! まだ儀式は続いているのだぞ!!」
伝説の超大国、ラヴァーナル帝国。通称『魔法帝国』と呼ばれる超文明の出現が予測され、場は騒然となる。
「待て! 私が見たのはこれだけではない! 絵師を連れてきてくれ! 私が見たものを描き起こさせて欲しい!」
「わ、分かった! 誰か、絵師を連れて来い!」
そうしてアレースルの話に従って絵師に描かせた絵が公開される。竜王は勿論、儀式に参加している有力貴族や他の占い師たちも集まり、その絵に釘付けになる。
「アレースル、これは……?」
描かれていたのは対峙する2つの勢力。左側は上に描かれた漆黒の太陽と糸の様な物で繋がった、翼を背中から生やした人に近い集団。アレースルに説明されるまでもなく魔法帝国の光翼人だろう。しかし問題は右側だった。周囲が困惑する中、ワグドラーンに促される形でアレースルが説明を再開する。
「魔法帝国は近い将来復活する。――しかし恐れることなかれ。魔法帝国を打ち倒し、人々に安寧を齎す者たちあり」
「この絵の右側で光翼人どもと対峙している連中がそうなのか……?」
「これは……まさか、そんなことが」
「見間違いでは……ないのか? 本当にコイツ等が……?」
人々の盾になる様に光翼人と向かい合う存在。それは頼もしさを感じさせる巨大な太陽の下、構える様な姿勢を取る少女たちだった。だが、誰もが愕然とした表情で絵の少女たちを見て、あるいは先のアレースルと同様に『在り得ない』と連呼していた。その理由は彼女たちの背中に生えた、敵対している光翼人どもと同じ形状の”翼”以外にない。
「魔帝に立ち向かう者たちは2つ。1つはこの太陽を模した勢力――人間族が治める国、『日本国』。もう1つは太陽に照らされし少女たち――神々の恩恵を受けし光翼人、『ウェシャス』」
「なっ……!!?」
「嘘だろ……!?」
認めたくなかったが、改めてアレースルの口から人類に味方する光翼人が語られ、驚愕するワグドラーン一同。先に出てきた魔法帝国に対抗するもう一つの勢力、日本を完全に無視してしまう程に。
「信じられるか! 光翼人が光翼人と戦うなど、質の悪い冗談だ!」
「神々は何を血迷ったことを!」
竜人は光翼人のえげつなさを遺伝子レベルで理解させられている。何せ奴らは同等の力を持っていた当時の先祖に装飾品用の材料として竜人を提供しろと命令し、それが叶わないと判断するや否や多大な犠牲と引き換えに先祖たちを絶滅寸前へ追い込んだ程なのだ。傲慢どころか頭がイカレてるとしか思えない狂暴な種族、それが光翼人なのだ。だからこそ光翼人が同胞と敵対し、下等種と呼び蔑む人類を守ろうとする占いの内容が、とても受け入れられない。
「貴殿の見間違いではないのかアレースル殿!? 光翼人どもが人類に味方するなぞ、有り得ん!!」
「これは紛れもなく空間の神々が我に視せたもの! 断じて見間違いではない! ……そりゃ私だって信じたくねぇよ」
アレースルがそっぽを向いて本音を漏らす。彼だって信じられないのだ。いくら神々から視せられた内容で、98%の確率で視た通りに実現する未来だとしても。
「皆の者、静粛に」
混乱する場を威厳に満ちた声が制する。ワグドラーンだ。
「空間の占いは極めて高い的中率を誇る。故に国儀として取り入れておるのだ。それを疑うは国の舵取りを大きく誤りかねない。ここは神々が視せた通りに対策を進めるべきではないかね」
ワグドラーンにとっても信じ難い話だったが、『在り得ない』だの『そんな馬鹿な』だの繰り返していても話は全く進まない。竜王の言葉に完全とはいかなくとも、一同は無理やり自身を納得させる。儀式会場は漸く落ち着きを取り戻した。
「さて、我らがやるべきことは決まった。そのウェシャスとやらに属する光翼人どもと……あと何だ?」
「日本です、陛下」
「そうだ。その日本とやらについて調査室を設け、世界中から情報を集めるのだ。魔法帝国の脅威を確実に取り除く為に」
『御意』
エモール王国は日本とウェシャスの調査に動き出した。
「――やれやれ、竜人とは何と面倒くさい連中か」
遥か高次元から、霧で出来たモニターを通じて空間の占いを覗いていたウェシャスの守り神、シャイヘル。竜人たちの占いに干渉する神の一柱でもある彼は、早速己の巫女たちを彼らにアピールしてみた。リズたちの幸せの障害は何も魔帝だけではない。彼女たちを絶対に受け入れないであろう竜人族にも対処しなければならない。
「場合によっては脅は……コホンッ、直接話し合う必要もあるかもしれんの」
竜人は終始受け入れ難い態度を取っていたが、一応はリズたちを関与すべき相手と見做した様なので、まぁ良しとしよう。
「あとはリズたち次第じゃな。――頑張るんじゃぞ」
シャイヘルが別の霧に視線を変え、柔らかな笑みを浮かべる。そこには人類の希望となり得る少女たちが、拠点たる天空島の草原で心地良さそうに昼寝をしている姿が映っていた。