夜明けの魔法少女   作:Woudy

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マエ・マギライト(CV:喜多村英梨)
シャイヘル(CV:高山みなみ)


古代編
次元神の巫女は仲間を求める


――貴様、何のつもりだ……? 儂を騙しおったな!?――

 

――私だけだと”駒”を生み出せなかったからホント助かったわ。ご苦労さん、アンタは用済みよ。さよなら――

 

――ふざけるな! その子らはあくまで”守り子”じゃ! 貴様の”駒”になぞさせてたまるか!! ま、待てーー!!――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――……神も夢を見る事があるのじゃな。何とも懐かしく、嫌な夢じゃ……」

 

”シャイヘル様、こっちの準備は完了です。何時でも襲撃出来ます”

 

「了解、敵の位置はそっちに送った。頼むぞ、マエ」

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

ラヴァーナル帝国は、本土のラティストア大陸以外で支配下に置いた土地に統治庁を設置している。この島に置かれているものは、奴隷化し商品作物を作らせている現地住民を監視する為のものだ。

 

それが現在、半壊状態で火の手を上げていた。周囲に散乱した瓦礫に混じり、統治者である光翼人が気を失って倒れている。此処を襲撃した者の仕業であった。

 

「さあさあ、出た出た! 外でアンタらの家族友人が待ってるよ!」

 

統治庁の地下にある牢獄に閉じ込められていた人々を解放した襲撃者は、まだ若い。若過ぎる。日本人でいえば、まだ中学校に通ってなければならない年頃の少女だった。神秘的で愛らしい服装の彼女に促されるがまま、光翼人に反抗し閉じ込められていた様々な種族が地上を目指していく。その様子を見送った少女は地下全域を巡回し、生存者を捜索して回る。

 

魔導回路が破断した影響で真っ暗な牢獄エリア。とはいえ捜索に十分な明るさの光源は確保してある。光源は二つ。一つは少女の側で浮遊する光の球。そしてもう一つは少女の背中から噴き出す様に放たれる、白く輝く光の翼。

 

そう。襲撃者の少女は支配者たちにとっては同胞――光翼人なのだ。

 

”――どうじゃマエ? 他に捕えられた人の子は居るか?”

 

「シャイヘル様」

 

少女以外誰も居ない筈の空間の何処からか聞こえる謎の声。子供の様に幼い声だが、威厳に溢れる老人の様な喋り方に、マエと呼ばれた少女は驚くことも疑問を抱くこともない。見知った者の声だからだ。

 

「このエリアの奥まで調べましたが、誰も居ません。さっき出て行った人たちで最後かと」

 

”分かった。上層階は儂が確認したが、こっちも誰も居らんようじゃ。捜索を切り上げて地上に上がった者たちの移送を急ぐとしよう。儂は一旦拠点で受け入れの準備を行うから先に戻る。ご苦労じゃったな”

 

「はい。また後で」

 

シャイヘルなる人物との遣り取りを終えたマエは地上を目指す。階段を上る過程で今後の課題を溜息交じりに溢す。

 

「……しっかしどうすっかなぁ? シャイヘル様が用意してくださった世界は新人を受け入れる余裕が残ってないし、これ以上の解放運動は難しくなりそうだ」

 

その時、鋭い痛みが走る。気付いていなかったが、倒した警備兵から受けた銃弾が肩を掠めていたようだ。マエが早速回復魔法を掛けると、光に包まれた患部は跡形も無く消えていく。

 

「いたた……まーた何時の間に怪我してたのか。やっぱ一人で戦うのは限界かもしれねぇな。隙を突かれて痛手を負いかねないし。だからってシャイヘル様に手伝って貰おうにも、あの方は神様だからなぁ……必要以上の介入は出来ないし……」

 

神々は異物である光翼人を等しく目の敵にしているらしい。大多数の悪人は勿論、ほんの僅かに含まれる善人たちも。彼らにとって、光翼人である事自体が大罪なのだ。

 

そんな中自分の様な者に可能性を見出し、力を授けたシャイヘルは彼らにとってとんでもない異端であろう。神の掟に重大な違反レベルで介入すれば、これ幸いと討伐に現れるかもしれない。恩人でもある彼を、マエは必要以上に危険な目に遭わせたくない。

 

「協力者を探そうにも勧誘する以前に話が通じないしさ……」

 

出会った光翼人は、どいつもこいつも他種族を人と思ってない連中ばかり。誰もがマエを頭のいかれた裏切り者と罵った。

ならばと他種族に協力を仰ごうとしたが、こっちは逆の意味でダメだった。みんな、マエを恐れて逃げ出してしまう。

 

「おいあれ! あの翼はまさか!」

「嘘っ! あの女の子、光翼人だったの!!?」

「た、頼む! 拷問するなら俺だけにしろ! 妻と子供は許してくれ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「やだやだやだ……! 爪を剝がされるのは嫌ぁ……」

 

(……ほぅらね。まっ、しゃーないけどさ……)

 

今回もこうして正体がバレた瞬間怯えられた。地上では奴隷にされた人々が家族や友人と喜び合っていたが、マエの登場で一気に静まりかえり、恐慌状態寸前に陥る。彼らの受けた仕打ちは苛烈を極める。同じ光翼人である自分を恐れるのも無理はないと、マエは半ば諦めていた。

 

とは言えいつまでも怯えられては話は進まない。まずは彼らを少しでも安心させよう。

 

「拷問なんて野蛮なこと、あたいはしないよ。そもそも同胞倒してまで助けた奴が、そんなことして何の意味があるのさ? ……取り敢えず、まずはアンタらの怪我の治療をさせてくれないか……頼むよ」

 

マエは震えて後退る人々に近付くと、深く頭を下げた。人々は目を見開いて驚く。あの傲慢なイメージしかない光翼人が、家畜同然の自分たちに頭を下げた。それは長年奴隷として使役されていた彼らにとって極めて衝撃的な光景で、逃げるという選択肢が自然と彼らの中から消え失せていた。勿論、それでも警戒の目は向け続けていたが。

 

逃げることをやめた彼らに回復魔法で治療を施していく。一人二人と治療を続けていくうちに危険は無いと判断したのだろう。怪我を負った者はすすんでマエの所へ来て治療して貰った。

 

「ありがとう、お姉ちゃん!」

「……ん? あぁ。怪我が治って良かったな」

 

子供たちの大半はマエに対して完全に警戒を解き、彼女に無邪気な笑顔を向けていた。彼女が良い人だと、本能的に察したのだろう。久方ぶりに向けられた友好的な表情に、マエもまた年相応の少女らしい笑みを溢した。

 

だが、大人たちは違った。マエの側にいた子供を即座に自分の元へ引き寄せた父親は、今度は憎しみの籠った目でマエを睨んだ。

 

「“良かった”だと……? この子が怪我したのも、俺らが散々な目に遭うのも、全部お前らのせいだろうが」

「悪魔め……世界の屑が!」

「この程度のことで許されると思うんじゃねぇぞ!」

 

一人の大人からの怨嗟の声が全体に波及し、あっという間にマエへの罵倒の嵐が始まった。殺意に満ちた彼らの視線は、それだけで彼女の身体を穴だらけにしてしまいそうだ。通常の光翼人相手にこんな反抗的な真似をすれば容赦なく殴られ、最悪殺されていただろう。マエなら心配ないと判断したからこそ、人々は蓄積された恨みを、彼らに対して何も酷いことをしていないマエにぶつけるのだ。

 

「……まだ治療してない人は居るかい?」

 

まあ、こんなことは一度や二度じゃないから流石に慣れたもので、無視して残った怪我人の治療を続ける。それが癪に障ったらしい。一人が石を掴んで後ろに立つと、

 

「何とか言えよ光翼人!!」

 

「ぐっ!?」

 

殺すつもりでマエの頭部に石を叩き付けた。治療に専念して防御が疎かだったマエは諸に受けてしまい、地面にうつ伏せで倒れる。

 

「「「お姉ちゃん……!!」」」

 

子供たちが悲鳴を上げて近付こうとするが、親たちが無理矢理止める。

 

「いっつぅ……」

 

流れ出る血を手で抑え、激痛に悶えながら立ち上がろうとするマエだったが、殴り掛かった者とは別の男性が血で赤く染まった白銀の髪を鷲掴み、無理やり引っ張り上げる。

 

「いったっ!! や、やめろ、離せよ……!!」

 

「黙れ! お前らはそう懇願する俺たちを笑いながら蹴り飛ばしたじゃないか! なのに自分の番になった途端命乞いしやがって!!」

「そうだそうだ! それに、このガキだって他の連中と同じことしてるに違いない! ちょっと優しくするフリをしたって騙されないぞ!!」

「日頃の恨みを晴らすチャンスだ! やっちまえ!!」

 

次第に暴徒化していった大人たちは報復を口々に叫び、近くの石や瓦礫、農園で働かされていた時に持っていた鍬などを掴んでマエを取り囲む。

 

「やめて! やめてよお父さん……!」

「お姉ちゃんは優しい人だよ! 乱暴しないで……!!」

 

離れた場所から子供たちが訴えるも大人たちは耳を貸さない。人格の違いなぞ、彼らにはどうでも良い。光翼人だから。体よく溜まった恨みをぶつけるのに、これ程都合の良い理由があっただろうか。

 

(あぁ、やばい、これ以上は……。仕方ない)

 

身の危険を感じたマエが魔法で人々を吹き飛ばそうとした時、

 

 

”儂の巫女に何をしとる?”

 

 

全てを見透かされるような声が、暴走寸前の大人たちと泣き叫ぶ子供たちを等しく鎮める。本能的に逆らってはいけない神聖な存在だと誰もが理解させられた。

 

「シャイ……ヘル、様……」

 

直後、虚空から人の頭ほどの大きさの温かなオレンジの光球が現れる。人々は、特に精霊とも密接な繋がりを持つエルフたちは、それが自分たちより遥か上位の存在だと認識した。――神の降臨である。

 

”移住先の準備を整え様子を見に戻ってみれば……。その子に救われた恩を忘れ、仇で返そうとは……とんだ愚か者どもじゃな”

 

「あ、貴方は……貴方様は……神様、でしょうか?」

 

”そうじゃ。我が名は『シャイヘル』。神域の神が一柱じゃ”

 

光の塊がそう名乗るや否や人々は血相を変え、咄嗟に平伏する。

 

「こ、これは神様……! まさかこの悪魔っ……いえ、この少女が貴方様の眷属だったとは、とんだご無礼を……!」

 

マエを悪魔呼びしようとしたエルフの男性は、シャイヘルからの威圧が増すのを感じて慌てて訂正する。が、彼はその男性に目を付けた。

 

”……お主はエルフ族じゃな? なら知っておるじゃろ? 神が見初めるは慈愛の心を持つ者のみと”

 

「そ、それは……存じてますが」

 

仮に邪気を持つ者が神の力を受ければ体が猛烈な拒否反応を起こし、最悪死んでしまう。善なる心を持つ者でなければ神の力を受け取ることはできないのだ。でも、分かってはいても現実を受け入れきれない。近くで倒れている光翼人が善良な者だなどと、どうしても信じられない。

 

だが、神に真っ向から反抗して更に怒らせたくない。だからエルフ男性は自分の意見を言えず、途中で黙り込む。神と相対するという想定外の事態に真っ白な肌は青く染まり、溢れ出た冷汗が頬を伝い地面を濡らす。他のエルフやそれ以外の種族たちは男性を憐れみながらも、自分が目を付けられまいと身を縮こませ存在感を小さくする。

 

”貴様らが考える光翼人なら無理じゃろう。が、この子は特別じゃ。お前たちを襲い傷付けることは絶対に無い。儂が保証するから……黙って助けられろ”

 

「は……ははっ!!」

 

神にここまで言われれば反論できる余地はない……元より反論する勇気も無かったが。大人たちは渋々納得してシャイヘルに再び頭を下げた。

 

シャイヘルとしては自分の巫女に手を出した愚か者に少しお灸を据えてやろうと考えていたが、マエが望まないだろうから止めた。

 

「神様、ありがとうございます!」

「「「ありがとうございます!!」」」

 

”うむ。……さて、移住先の準備が整ったと先も申したが、其処は結界に覆われた我が領域じゃ。ちと狭いが、魔法帝国の脅威が去るまで、お前たちには其処で過ごして貰うとしよう。少なくともお前たちが危険に晒されることは無いから安心せい”

 

「お、おぉ……! 神様の庇護下に入るということですか!」

「良かった! これで魔帝の脅威に怯えなくて済むぞ!」

「ありがとうございます、神様!」

 

子供たちからの感謝の言葉に満足げに返答したシャイヘルから威圧感が消える。そして彼から元奴隷たちへ己の領地へ案内する旨が伝えられる。解放されたは良いが行く当ても無かった彼らにとって安全地帯の提供は大変喜ばしい話だ。大人たちもシャイヘルへ感謝の意を伝える。

 

「お姉ちゃん、大丈夫……?」

「あっはっはっ、平気平気! これぐらい魔法ですぐ治せるさ。心配してくれてありがとう」

 

子供たちが倒れているマエに優しく声を掛け、起き上がらせる。頭から血を流しておいて大丈夫な訳ないが、彼らの純粋な好意が嬉しかったマエは心配させまいと、得意げに笑って一人一人頭を撫でてあげる。

 

”……”

 

シャイヘルは集団から少し離れた場所で大きな円を描くように宙を動く。すると彼の後を追うように白い霧が発生し、次には中央部から仄かなオレンジ色の光を発した。人々は魔法とは異なる神の不思議な力に感嘆の声を漏らす。

 

”ゲートを開いた。この先が我が領域じゃ。準備が整い次第、順次此処を通れ。住居等の詳細は到着後に説明する”

 

「我々の為に何から何まで……本当に感謝しか御座いません」

 

”……儂はあくまで銃後を守っとるだけじゃ。助けようと最初に言い出したのも、直接お前たちを助けたのも、其処に居るマエという少女じゃ。そこの所、勘違いするでないぞ?”

 

「は、はい。分かりました。……みんな、行くぞ! これで奴隷生活ともおさらばだ」

「お姉ちゃん、バイバイ!」

「助けてくれてありがとう!」

「あぁ、またな」

 

大人たちに連れられてゲートの向こうへ消えていく子供たちに、マエは手を振る。結局最後まで大人たちはマエを怯え憎み、感謝の言葉も謝罪も全く無かった。それにシャイヘルは心底不満そうだ。

 

”――フン。儂には礼を言いながら、一番自分たちの為に頑張ったマエは完全に無視か。ちゃんと礼を言える幼子たちの方がよっぽど大人だわい”

 

「仕方ないですよ。あの人たちが受けてきた苦しみは、言葉で簡単に表現出来るものじゃないですから」

 

”むぅ……じゃがのぅ。儂はお主のことを大層気に入っておるのだ。今回以上のことが起きたらと思うと心配でしょうがない。頼むから他種族と会う時は儂の側にいてくれ”

 

光球が少し弱弱しく明滅する。その反応が何処となく可愛らしくて思わず微笑む。

 

シャイヘルの心配もよく分かる。今回は彼が早く現れなければ本当に危険だったかもしれないのだから。マエとしても唯一にして最大の理解者である彼を不安にさせたくない。だから素直に彼の指示に従おうと決める。

 

「分かりました。シャイヘル様がいらっしゃるなら、誤解を解くことも容易ですからね」

 

そう言って回復魔法を施そうと頭部の傷口に手を当てた時、シャイヘルが「待て」と一言。

 

”お主はかなり消耗しておる。儂に任せろ。なぁに、傷の一つや二つ塞ぐくらい、掟には違反せぬ”

 

「良いんですか? じゃあお願いします」

 

光の球がマエの真上に浮かび、まるでUFOの様な光の線を下部に放ち、彼女の全身を包み込む。

 

”全く――この子は何も悪いことをしとらんのに……!”

 

「まぁまぁ」

 

治療中、先の大人たちの対応に再び不満を募らせ愚痴を溢すシャイヘルを宥めつつ、マエはこれからのことを考える。

 

(やっぱ協力者は必要かな。一緒にラヴァーナルと戦ってくれる人が居ればシャイヘル様も少しは安心出来るだろうし……)

 

マエはある方向に視線を向ける。その先には最早祖国などとは微塵も思っていないラヴァーナル帝国の本土、ラティストア大陸がある。

 

(次は帝国本土の収容所を襲う予定だったし、ついでに探してみっか。……あたいと同じ奴を)

 

治療を終えたマエは一旦休息を取る為、シャイヘルと共に拠点へ帰還。暫くして帝国軍 第3辺境旅団が応援に駆け付けたが、其処にはボロボロに崩れた統治庁と、記憶が混濁し呆然とする職員のみが残されていた。

 

帝国側の人員に死者は一人も出なかったが、第3植民地の奴隷全てが行方不明となり、帝国辺境管理省及び警察省は調査室を設置。現場の残留魔力から襲撃犯の特定を急いだ。




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