世界にもう一つの夜明けが訪れる
中央暦1639年 4月12日 深夜
――この日、不思議な現象が発生した。
第3文明圏および日本にて、東の空から仄かな黄色い光が観測された。地平線から現れたそれは徐々に大きくなり、周囲の空をオレンジに染め上げる。とても神秘的で穏やかな光景だ。
真夜中の時間帯に起きた謎の夜明けに、目撃した者は誰もが魅了され、そしてある出来事を思い出させた。
そう。ついこの間日本が転移した時に起きた、夜が昼間の様に明るくなる現象だ。それに比べれば小規模だが、夜中に光る現象と言う点では共通していた。
それ故にこの現象を解明し、己が異世界に来た原因を調べようと考えた日本。しかし、ロウリアとの衝突を間近に控えていたこともあって、調査は無期延期となる。
最も、非科学分野に関与する者の協力なしには、結局分からずじまいになるだろうが。
さて、一時的とはいえ無理やり夜を明けさせようとした勢力はというと……
――――
ウェシャス拠点 天空島カヤノ
私、『リズ・ノスカード』は仲間たちと一緒に時間跳躍を行い、無事に目的地へ着地した。
上空を見上げると、島を包む霧の切れ目から2つの月光が差し込み、私たちを優しく照らす。
「此処が一万年後の世界……」
私たちは一度ラヴァーナル転移から魔王軍侵攻時代まで跳んだことがある。その時は僅か100年。今回は一気に1万年以上先の未来だ。そんな気が遠くなる様な時間も、次元の神様の力ならあっという間である。
それだけ長い年月が過ぎても澄んだ空気や月の光は大昔と変わらず、本当に未来へ来たのか疑問を抱いてしまう。
「……ふむ。どうやら儂らは魔法帝国より先に来てしまったようじゃな」
浮遊しながらスクリーンの様な物を眺める赤い髪の男の子。彼こそ私たちごと拠点のカヤノ島を未来へ転移させた神様で、私たちに力を授けて下さった『シャイヘル』様だ。
外見は私たちより幼いけれどそこは神様。なんと数百万年も生きて(?)いるんだとか。ハイエルフの人ですら数千年が限界なのだから、神様って本当に不思議で凄い方たちだと思う。
「先にって、どれくらいですの?」
「彼の国の出現から約20年前ってところじゃ。本来は奴らの出現とほぼ同時刻に着地出来る筈じゃが……計算を間違えたかのぅ」
「誤差が生じたのはラヴァーナル側の転移魔法では? 例の転移システムは完璧とまではいきませんし」
緑のロングが特徴のお淑やかそうな女の子が、難しそうな顔をするシャイヘル様と会話する。
名前は『フィサリー・エイリエル』。ラヴァーナルの大貴族、エイリエル公爵家の元本家令嬢である。
私たちが通ってた学園の元生徒会長で先輩なんだけど、本人の希望で”会長”や”先輩”ではなく名前で呼んでいる。
「でもコレはコレで良かったのではないですか? 仮にラヴァーナルと同時期に転移したところで、この時代の各種族がいきなり現れた私らと連携取るのは難しいでしょう」
そう主張するのは紫の髪をポニーテールに纏めた女の子。
フィサリーちゃんと同い年で先輩の『ユトエル・ノヴァロン』。私たちは親しみを込めて”ユトー”ちゃんと呼んでいる。
「私もユトーに同意よ。それに一万年以上経ってるとは言え、光翼人への恐れが無いとは言い切れない。私たちの姿を見たら、それこそ連携どころではなくなるかもしれないわ」
「問答無用で、攻撃される、かも。エリーたちのこと、少しずつ、教えるべき」
ユトーちゃんに同意する女の子二人。
黄色い髪をツインテールにした釣り目の子は『ミシェル・ラスク』、煌めく空色の髪で途切れた様に喋る子は『エリー・マルクス』。
かつて酷い虐めを受けていた時に手を差し伸べてくれた、私の最初の友達。
「まっ、20年も猶予が出来たのは寧ろ幸運だと思うね。それだけあればラヴァーナルと戦う為の準備が余裕で出来るって訳だ」
そして夜風にサイドテールを揺らし、不敵な笑みを溢す銀髪の女の子。
『マエ・マギライト』。私たち5人よりも前からシャイヘル様の巫女として、ラヴァーナルの圧政に苦しむ人たちを助けて回った子だ。
「むぅ、それもそうじゃな。戦いの直前や最中では、お前たちの良い子っぷりを人類どもに知らしめる余裕が無い。危うく巫女自慢が叶わぬところじゃったわ、すまん」
シャイヘル様、やっぱりその点が一番重要なんですね。知っていましたけど……。
思わず苦笑いになる私たち。
「取り敢えず今後のことは朝に考えるとして、今はそれぞれ部屋に戻って休もうか?」
「そうだねリズ。あたいも……ふぁ〜……流石に眠くなってきたし」
今は真夜中。普通なら寝ている時間帯だ。何人かはマエちゃんの様にウトウトしかけている子もいる。
育ち盛りの私たちにとって夜更かしは毒だ。緊急事態でもない限りは、キチンと休んで明日に備えるべきだろう。
私たちは一度解散し、各々の自室がある建物へ歩き出す。
(ラヴァーナルの好きにはさせない。同じ光翼人として、彼らの暴走を必ず止めてみせる)
シャイヘル様の巫女になった目的は変わらずそれ一つだ。その場凌ぎで終わらせない人助け、その為に授かった力で一人でも多く理不尽から救おう。
私は拳を強く握り締め、改めてそう決意を固めた。
――――
「全くシャイヘルの奴、拠点ごと時間跳躍するとは。これでペナルティがまた一つ増えたな」
神域では一柱の神が、霧に包まれたカヤノ島を呆れた様子で見下ろしていた。
太陽神『シャマシュ』。日本の最高神、天照大神と同一の存在だ。
「シャイヘル様はこの時代をリズさんたちの終点に選んだみたいですね。シャマシュ様が召喚した日本が存在するのです。リズさんたちの幸せの為に彼らを利用するつもりなのでしょう」
シャマシュの側にもう一柱の神が現れ、共に下界を見下ろす。
豊穣の女神『●●●●●』。日本神話の豊受姫と同一だ。我々が彼女の異世界における名前を認識出来ないのは、過去の下界への介入によるペナルティで失われたからだ。
「あの光翼人たちに奇妙な格好をさせたのも納得がいった。我が眷属はその手の趣味を持つ者が多い。その上で他者を守る姿を見せれば、確実に注目を浴びるだろう」
次元神シャイヘルは己の能力で様々な世界や時代に干渉出来る。事前に知らされた対魔法帝国用の国家の実態を調べ上げるのは造作も無い。
その過程で得た情報から魔法少女というジャンルを取り出し、巫女たちに反映させたのがウェシャスと呼ばれる対魔法帝国抵抗組織である。
まさか本人たちも露出マシマシの戦闘服が、日本に興味を持たせる為に作られた物だとは夢にも思うまい。
「まぁしかし、これでリズたちと我が眷属たちが手を組めば大きなメリットになるのは間違いない。彼女たちは魔法帝国の情報をある程度持っている。それを上手く利用すれば眷属たちはより優位に戦える筈だ」
何せ数だけで言えば自衛隊は魔帝軍より小規模。国力的にも魔法帝国が上なのだ。質で20年程度しか優っていない以上、数の暴力は十分厄介になる。
そんな折、善良な光翼人が人類側に付いて情報提供を行えば、有効的な対策を魔帝の復活前に立てられる。
「ふふふ」
「何が可笑しいんだ●●●●●?」
「いえ、シャマシュ様は随分変わったなと。最初にリズさんたちと会った時は『光翼人など一人残らず皆殺しにすべきだ』と、かなり過激なことを言ってましたのに」
「別に深い意味は無い。偶然にもシャイヘルと私の利害が一致しただけのこと」
シャイヘルはリズたちの平凡で幸せな生活を望み、シャマシュは日本や人類の勝利を望んでいる。シャマシュは魔帝打倒の協力の見返りに、ウェシャスに属する光翼人の少女たちを見逃すことにしたのだ。
「それに、私が見逃そうと散々光翼人に辛酸を舐めさせられた人類が許すとは思えん。彼の種族は恐怖と憎悪を撒き散らし過ぎた。無論、彼女たちの身に何が起きようと私たちは決して助けない」
憎悪に飲まれ、最悪死んだとしてもシャマシュは知ったことではない。いくら神に見初められる程の善良な少女たちでも、所詮は異物。生きようが死のうがどうでも良い……そうシャマシュは主張するが。
(それでも積極的排除から放置に変えたのですから、最高神という立場で言えば十分温情だと思いますよ?)
そもそも魔帝打倒はウェシャスも目指していることであり、協力関係自体が彼女らを殺そうと動く神々を抑える為のポーズに過ぎない。
最高神直々に組まれた協力関係だ。邪神でもない限り彼女の意向を無視する愚かな神は存在しないだろう。
冷たい態度を見せながら、その実シャマシュもリズたちを気に入っているのだ。だが光翼人を憎む他の神の手前、表立って庇う様な真似は出来ない。だからこその放置であり、不干渉である。
彼女のそんな意図が分かってるからこそ、●●●●●は微笑む。
「せいぜい同胞たちが築いた憎しみや怒りを撥ね返し、幸せとやらを掴み取ってみるがいい……光翼の魔法少女たちよ」
適当に返す様な台詞とは裏腹に、シャマシュは世界に憎まれた少女たちの行く末が不安であった。
次回、ギムの虐殺を食い止めろ。
現代編と古代編では話の流れが異なる為、別々に読むことをお勧めします。