静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

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p.s.この話から明確にオリジナル要素を追加していきます。どうかよろしくお願いします。




10. 前触れ/久しぶり

「団長!緊急報告が!!」

 

物凄い勢いで扉を開けて来たのはラウル・ノールド。言わずと知れたロキ・ファミリアの幹部である。

その報告を受けたのは金髪の小人(パルゥム)、フィン・ディムナ。都市最大派閥を纏めるオラリオきっての冒険者だ。

 

「どうしたんだい?何か問題があったりしたのかな」

 

優しく、柔らかく接するフィンとは対照的な焦りようのラウルは、一気に言葉をまくし立てる。

 

「37階層からの帰還途中の第一階層で摩訶不思議な現場に遭遇!現場は多数のゴブリンが瀕死、そしてそれらと対峙していたと思われる冒険者数名が気絶していました!迅速に瀕死のゴブリンにトドメを刺し、今ようやくアキと冒険者達をバベルの医療施設へ運び込んだ所です!」

 

フィンは焦るラウルを右手で制し、落ち着くように呼吸を整えさせる。

 

「状況で不審な点は?」

 

「……瀕死になっていたゴブリン、冒険者達は()()()()()()()()()()()()()

 

外傷を負っていない…?あまりにも不可解な情報、そして疼く親指。

 

「何か……強大な物がオラリオに紛れ込んでるようだね。外傷無く敵を、か。闇派閥(イヴィルス)でなければ良いんだが」

 

「なっ…と、とにかく、回復した冒険者への事情聴取を今アキが行っている所です情報を待ちま「団長!情報が掴めました!」

 

ラウルの言葉を遮って入ってきたのは猫人(キャットピープル)の女性冒険者、アナキティ・オータム。主神の趣味からか美形揃いのロキファミリアの中でも一際可憐な容姿をしている。こちらもまた上級冒険者だ。

 

「そうか、詳しく説明を頼むよ」

 

「はいっ!倒れていた冒険者からその当時の状況ですが、全員が『鐘が鳴った』『何に攻撃されたかも分からない、ただいつの間にか意識を失っていた』とだけ…」

 

考え込むフィン。一瞬の沈黙の後、2人に問いかける。

 

「Lv4の君達からして、その光景は異常極まりないものだったんだね?」

 

「は、はいっす」

 

「そうですね。こんな事、見た事も聞いた事もありません」

 

「そうか。人的被害も特になし、何かを盗まれた訳ですらないとなると…考えられる事は3つ」

 

「1つ目はさっき話してた闇派閥(イヴィルス)の計画的犯行っすね」

 

「2つ目は新種のモンスター、幻覚等の精神汚染系統ですかね」

 

フィンは神妙な面持ちで頷く。

 

「ああ。2つはそれで間違いない。そして残る1つは、【魔法】だ」

 

「ま、魔法っすか」

 

ラウルは拍子抜けと言った感じに情けない声をあげる。

 

「しかし周囲には冒険者はおろか、ゴブリン以外のモンスターすらいなかったと言ってましたが…」

 

被害にあった冒険者達の証言も加えつつ、有り得ない事だと言いたげなアナキティ。

 

どこか間の抜けてしまった2人の顔が引き締まる様な恐るべき事を、フィンは告げた。

 

 

 

 

「いたんだよ、昔のオラリオには。()()()()()()()()()()で全てを灰にする冒険者が」

 

 

 

 

 

苦虫を噛み潰したような顔をして、疼く親指を押さえつけるフィン。その視線は眼前の2人ではなく、遥か虚空を見つめていた。

 

「まさか、まだ生きてるとでも言うのか?オラリオ史上で右に出る者はいないと言われた才能の怪物、【静寂】が………」

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「くしゅん!」

 

「あら、風邪かしら?大丈夫?」

 

「ああ、問題ない。誰かが噂をしているのかもしれないな」

 

ここはアストレア・ファミリアのホーム。机ではハーブティーの入ったティーカップを片手に、談笑している主神と保護者が居た。

元来女性はおしゃべりな生き物と言われるが、その中でも特に際立つ長さを誇るのが子連れの井戸端会議である。子供にとって狂気の集会とも言えるそれは、どこから話題が湧き上がるのか、永久機関の如く時間という絶対的な制約が迫るまで話し続ける。

まさに今がそれだった。子連れと言うのにはいささか疑問点があるが、今まで眷属(子供たち)を世話してきたアストレアと、亡き妹の子を自分の子供のように愛情を注いできたアルフィアである。話が合わないはずがない。いわゆるママ友と言うやつである。また、【静寂】を好むアルフィアではあるが彼女もまた女性。おしゃべりが嫌いな訳では無い。

 

「噂ねえ…そう言えば、ベルくん遅いわね」

 

「ベルに限らず、3人とも遅いな。何か厄介事に巻き込まれてなければ良いのだが」

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

ベチン!

 

「うぶっ!」

 

「ベル、起きなさい!もうマインドダウンは治ってるはずよ!」

 

「アリーゼ、何も叩かなくても…」

 

アリーゼは両手でベルの両頬をベチンっ、と叩いた後、そのままほっぺたをもにゅもにゅといじくる。

 

 

ここはダンジョンからホームへの帰り道の街道。両側に所狭しと露天が立ち並び、ギルドやダンジョン周辺とはまた一風変わった喧騒がある。

そんな中を3人は……正確には1人おぶられているが、歩いていた。

 

「いたい…」

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

「ほらほら!起きないと奢ってあげないわよ!」

 

「おごる…ですか?」

 

寝起きに弱いベルは蕩けた目でキョトン、としている。

 

「そそ!ベルにこのオラリオのソウルフードを教えてあげるわ!」

 

意気揚々とベルをリオンの背から引きずり下ろして、タタタタターっとベルの手を掴んで走ってゆく。ベルは初動が遅れて半ば引きずられるように連れてかれる。3人がいた場所は、突然の事に反応できなかったリオンだけが取り残されていた。

 

 

 

 

 

 

「ここよっ!」

 

アリーゼが滑り込んだのはとある屋台。香ばしく、ベルにとってはどことなく懐かしい香りのする場所だった。

 

「急ぎすぎです、アリーゼ。ああ、ベルの服もこんなに汚れて…」

 

リオンさんは未だに目が回っている僕の服に着いた汚れをパンパンと払ってくれる。

 

「あ、ありがとうございます。リオンさん」

 

「どういたしまして」

 

「ベル。このじゃがまるくんがオラリオでのソウルフードよ!買ってあげるから好きなの選んできてね」

 

「ふぁ、あい、」

 

気の抜けた返事をして、屋台に立ち寄る。

 

「すいませーん」

 

「いらっしゃい!…あれ、君、どこかで見たことあるね。具体的には1年くらい前に」

 

ニヤリと笑う屋台の女神。何かを企んでそうな顔だが、ベルはその表情が示すことに全く気づいていない。

 

「もしかしてお墓参りの時の!」

 

「そうさ!その時の女神だよっ!今日はどうしたんだい?またお墓参りかい?君のお母さんはいないようだけど、もしかして…」

 

屋台の女神に呼応する様にベルは元気よく答える。

 

「はいっ!冒険者になるためにここに来ました!」

 

ベルの言葉に女神はぱあっと笑顔になる。

「そ、それじゃあボクの眷属になってくれるんだね!」

 

ピタッ

 

ベルは張り付いた笑顔のまま、硬直する。

 

「ボクの名前はヘスティア!これから末永くよろしく頼むぜ!」

 

ベルにお構い無しでどんどん話を進める女神ヘスティア。

そこに、間が良いのか悪いのか、心配顔のリオンがやって来た。

 

「ベル、アリーゼが早くしてと言ってますよ」

 

今度はヘスティアが硬直する。

 

「べ、ベルくん?これは、どういう事かな?」

 

ベルは目線を全力でそらす。

 

「ボク、君と約束したよね!?あの日、ここで!冒険者になるならまずはボクの所に来るって!」

 

ベルはヘスティアに向き直り、後ろのリオン、どころか辺り一帯に響く声で

 

 

 

ごめんなさあああい!!!!!!!!!!

 

 

 

謝った。

 

 

 

 

 

 

「まあまあ落ち着いてください。ベルも謝ったんですし、1年前の事なんて中々覚えてないですよ」

 

「そんな事あるかい!ボクはしっかりバッチリ覚えてたぞ!楽しみで楽しみで今か今かと一年を過ごしたんだ!」

 

そう言ってギロっとベルを睨む。

リオンの後ろに隠れているベルは涙目で謝罪の言葉を繰り返す。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

 

「む〜!モヤモヤするけど決まってしまった事は仕方ない……そこのエルフくん、どこのファミリアなんだい?」

 

「あ、アストレアファミリアです」

 

「アストレアかー。愚弟の娘…だっけ?かなりのお転婆娘とは聞いているよ」

 

リオンは苦笑いで返す。

 

「突飛な事はたまにしていますが、基本は落ち着いた良い主神ですよ」

 

「なら大丈夫そうだね。何せこの子だから。近くに大人がついてなきゃ不安だろ?」

 

再びリオンの背後にいるベルに目線を向ける。

 

「僕、一応14歳なんですけど…」

 

「ええっ!?そうなのかい?てっきり10歳いくかいかないかとばかり思ってたよ」

 

「うっ!は、ははは………はぁ」

 

 

 

その後、アリーゼが我慢できなくなって突撃し、ヘスティアにじゃがまるくんを作る様に急かして、受け取った後に足早に店を離れた。

 

ベルは手を引かれながらも後ろを振り返る。ベルの瞳に映ったのは、昼と夜の境界が曖昧になる幻想的な瞬間だった。地平線の彼方に沈んでいく太陽を見ながら、ベルは決意した。

 

 

 

 

 

 

 

いっぱい食べて、早く大きくなろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………遅い、遅すぎる。しっかりお灸を据えてやらなければいけないようだな」

 

 

 

 

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