「ベル、私が怒っている理由は分かるな?」
「はい…」
「いつもいつも繰り返してるだろう。私を怒らせるような事になると分かっているなら、最初からするんじゃないと」
「う、うん」
静かな怒りの声がホームの一角で聞こえてくる。矛先はもちろんベル、それにリオン。2人は正座で小さくなっており、ベルは早くもぐずり始めている。リオンも顔を俯かせて落ち込んでいる様子。
発端はもちろん、2人の今日の行動である。アリーゼがディアンケヒト・ファミリアへダンジョン探索用のポーション類を買いに行っている間、2人がダンジョンに立ち入った事だ。
「ベル、英雄になるなら無茶は必要だ。だがな、無茶はしても無謀な事はするなと何度も言っただろう!戦い方のひとつも知らない子供がダンジョンという無法地帯に何の知識もなく足を踏み入れるなんて言語道断だ」
「は、い、ご、 ごめんなさい…」ズビッ
「リオン。お前もだ。いくらLv5であるお前がいるとはいっても、ポーション、ベルに至っては防具すらない状態でそのまま
「す、すみません」
「アルフィア、その辺りにしておいたら?2人ともしっかり反省してるようだし」
アストレアが助け舟を出すと、アルフィアも深いため息をついて頷く。
「そうだな…リオンにはあと一つだけ。ベルが魔法を撃ちたいという気持ちを汲んでくれた事には感謝する。これからこういう事をするならば安全を第一にしてくれ」
「分かりました……以後気おつけます」
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ベルは1つ、治らない癖がある。母親であるアルフィアがいくら治そうとしても治せなかった、矯正出来なかった癖。それが今まさに発動していた。
「ベル。そろそろ離れたら?」
「もう食事の時間ですし、アルフィアさんも困ってしまいますよ」
それでもベルは離れない。ベルはアルフィアにピタリとくっついて離れない。小柄な体躯から小さい子供の微笑ましい光景とも見て取れたりするが、彼は14歳なのである。少々マザコンが過ぎやしないか。
「ベル、いい加減その癖を治せ。もう14歳だろう?」
「でも……」
「アルフィアさん、これってどういう…」
「ああ、ベルは怒られたら私から引っ付いて離れない癖があるんだ。私にも責任の一端はあるから強く出れない。だから中々癖も治らなくてな」
はぁ、とアルフィアは深い溜息をつく。表情からして嫌だとは思っていない。どちらかと言うと我が息子のこれからについての心配をしている感じだ。
「アルフィアさんにも責任の一端があるってどういうことなの?」
アリーゼが率直な疑問をぶつける。
「いや、抱きついてくるベルがあまりにも可愛くて…小さい頃は私からも抱きしめて落ち着かせていたからな。それに加えてベルに両親がいない期間が長かったというのもあるかもしれん」
返って来た答えは普段のアルフィアからは想像出来ないような可愛らしいものと、ベルの少し暗い過去。どちらに反応すれば良いのか判断しかねて、流石のアリーゼも黙ってしまう。
それをアルフィアはどう受けとったのか、少しだけ口角を上げて助け舟を出す
「まあ、じきに治るとは思う。人間誰しも反抗期はあるからな……多分」
最後の方が自信なさげになっていくアルフィアの言葉に、苦笑いで返す他無いアリーゼ達だった。
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翌朝。昨日に引き続いて衣服でのアリーゼのイタズラとリオンのポンコツが発生したものの、何とか朝のうちにギルドへ着いた。
ちなみに今日はベル1人である。
「チュールさん、おはようございます」
今日は朝早いのもあってどこの受付も空いていたが、見知った顔の元へテクテク歩いてゆく。
「あ、ベルくんじゃない。今日はアドバイザーの件について、だったよね?」
チュールの問に「はいっ!」と元気よく答える。それを見て、ギルドにいた誰もが入学したてのちびっ子を思い浮かべ、その日の話題をさらったのはベルの知らぬところの話。
「じゃあこちらへどうぞ」
促された場所はギルドのカウンターを抜けた先にある小さな個室。そこは長椅子が2つ、机を挟んで向かいあわせになっているだけの簡素な部屋だ。
「じゃあ改めて。私はエイナ・チュール。君の担当アドバイザーをさせてもらいます。これからよろしくね」
「よ、よろしくお願いします、チュールさん!」
「エイナで良いよ。じゃあまずは何をやるか、だね。それじゃあ…」
ベルの気分は有頂天に達していた。何せ美人揃いのギルドの中でもベルの憧れである種族、エルフのお姉さんが担当アドバイザーなのだ。ファミリアではリュー・リオンというこれまたオラリオきってのエルフ美人冒険者もいる。年頃のベルは今にも天国に昇るような気持ちでいた。
そんなベルを現実に引き戻す音が、目の前の机を力強く叩いた。
音の元を視線で辿るとそれは、何冊かの分厚い教本。ベルは分かっていながらもつい聞いてしまう。
「あの、これは…?」
「教本だよ。ダンジョンに行くためには欠かせない知識が沢山載ってる資料とか、地図。それにモンスターの種類の本だね」
ベルは露骨に顔を引きつらせる。教本には特に良い思い出は無い。母に
「これを…やるんですよね」
「もちろん!全部覚えてもらうからね。このくらい覚える覚悟が無いとダンジョンになんて行っちゃダメだよ。情報は生きるための術、だからね?」
「うっ…はい。分かりました」
「じゃあ今日はダンジョンって何なのかを覚えようか。全部覚えるまでは帰れないって思ってね」
「ひえっ…」
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物覚えが決して良い方ではないベルは、半分程を何とか覚えたあたりでやっと解放された。言わずもがな、外はもう日が暮れている。魔石を使った街灯が闇夜を照らし、眠らない街を暖かく彩っている。
街には昼間の威勢のいい客引きや駆け回る子供たちの姿はなく、賭け事に興じる見てくれの悪い男達やダンジョン帰りの冒険者達が今日の出来事を口々に話している。
何気に初めて夜のオラリオを1人で歩く白い子兎は、それら一つ一つに興味を持ちながら市街地を抜け、ホームへ歩く。途中、路地で男女二人組の知らない人に声をかけられたが全力で走って逃げた。どうやら追っては来なかったらしい。
その後は何事も無く、安心してホームに辿り着く。
「ただいま…」
ベルはカバンを自分のフックに掛けて、ホームの談話室に顔を出した。
そこで、ベルは硬直した。
「こんな感じで良いか?」
「ありがとうございます。アルフィアさんって髪を梳くの上手いんですね」
「妹が生きていた頃はよく他人の髪を整えてからな。ベルを育てるようになってからはそこまでやらなくなったが」
「どうしてですか?ベルも髪は長い方ですよね」
「あんまり髪を弄られるのは好きじゃないらしいんだ。やってやろうとするとどこかに逃げていく」
「ベルらしいですね。特にどこかにすぐ逃げて行っちゃうところ」
「私も直そうとは努力したんだが、どうにも逃げ癖は自分でどうにかするしかないようだな」
視界に映るのは母と娘のように喋っているアルフィアとリオンの姿が。ベルは心の奥がモヤモヤするのを感じる。耐え難いこのモヤモヤはベルにとっては初めての経験だ。言ってしまえば、リオンに大好きなお母さんを取られたという、いわゆる
「〜〜〜!!!!!!!」
頬をふくらませ、ベルはアルフィアの元へ走る。
アルフィアが気づいて振り向いた時には、ベルはアルフィアに抱きついていた。
「おかえり、ベル。どうした?そんなにムスッとして」
優しく頭を撫でるアルフィア。ベルの表情が一瞬緩んだが、再び口を真一文字に引き締めてムッとした顔になる。
「どうしたんだ?言ってくれないと分からないぞ」
それでもなお喋らない。否、喋れないのだ。何故かは分からないが、この気持ちは口に出す事は恥ずかしいものだと本能が告げている。
しかし、忘れてはならない。今この場にはもう1人、巷では有名な
「どうやらヤキモチを妬かせてしまったようですね。すみません、ベル」
ベルの顔がボフンッと赤くなる。リオンになにか言いたげに口をパクパクさせているが、肝心の声は出てこない。
「ヤキモチ…?ふふっ、そうかヤキモチか。ベル、お前はまだまだ子供だな」
今度はアルフィアに向かってなにか言いたげに口をパクパクさせるが、同じく言葉は出てこない。1歩、また1歩と離れ、駆け出そうとした所で、アルフィアにがっしり捕まった。
その後、ベルはアルフィアにこれでもかと可愛がられ、これを聞き付けたアリーゼがおちょくり、アストレアとリオンは微笑ましくその光景を眺めていた。
とある路地の一角にて
「ああっ、見失ったっす!」
「下手に警戒されてもダメだし、深追いはしないでおきましょ?」
「そうっすね。でも、あんなに小さい子が下手したらとんでもない魔法を……ちょっと想像できないな」
「そうね。正直冒険者に成り立てって感じだから、エルフでもない限り魔法が発現してるとも思えないわね」
「とりあえずホームに戻ろうか。後の調査は……そうっすね、レフィーヤ達に頼もうかな?ギルドには後で通達しておこう」
「それが良いわね。そうと決まれば早く戻りましょ」
ヒラリと青年の腰から落ちた人相書き。それは間違いなく
質問、疑問が多かったのでフレイヤ・ファミリアとロキ・ファミリアのパワーバランスについて
・作者の勘違いをそのままに、4兄弟長男アルフリッグはLv6
・現時点でロキ・ファミリアの幹部のLv6はフィン、リヴェリア、ガレスの3人のみ。この時点ではパワーバランスの変化は特になし(オッタルが強すぎるので…)
・ストーリーの進行と共にロキ陣営の他幹部もレベルが上がりますが、それはその都度入れていけれたら入れていきます