静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

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短いです


12. 知識と無知

「エイナさんおはようござっムグッ!」

 

朝、ベルは昨日と同じようにギルドへ行った。朝一番、ギルドの扉を開けて挨拶しようとしたその時、目の前に駆けてきたエイナさんに口を塞がれた。

 

「むーむー!」

 

ベルは動揺して何とか声を出そうともがいている。エイナは人差し指を口元で立て、静まったベルの手を引いて個室へと連れてゆく。

 

「ベルくんごめんね!ちょっと聞かなきゃいけないことがあって。内容的に他の人に聞かれるとあんまり良くないから、個室に来てもらったんだ」

 

「は、はい。どうしたんですか?もしかして僕、なにかやっちゃったんじゃ…」

 

不安げに上目遣いでエイナを見つめるベル。愛らしいベルの姿にドキリと胸が高鳴る。

 

「えっ、えっと、まだ疑いの段階なんだけどね」

 

そう前置きした上で、エイナは話を続けた。曰く、

・Lv1の冒険者が気絶、ゴブリンが瀕死の状態で山のように積み上がっていた

・その時間帯にダンジョンへ入って行った中にベルも含まれる

・他の冒険者は魔法等の性質も知られている著名な冒険者

・現状魔法や実力が不透明なのはベルのみ

 

以上の点から、ベルが怪しまれているらしい。

 

だが、身に覚えの無いベルは全く知らないと横にブンブン首を振る。

 

「そんな、知らないです。僕も魔法の試し打ちはしましたけど、特に何も起きなかったですし」

 

ベルはせっかく覚えた魔法で何も起きなかった事を思い出して徐々に落ち込んでゆく。

 

「ご、ごめんね?何もベルくんの事を責めてるわけじゃないんだよ?ゴブリンを生かさず殺さずの状態にするなんて相当の手練じゃなきゃできないから、私はベルくんがやったんじゃないと思ってるし」

 

それを聞いて少し胸を撫で下ろすベル。

 

「うん。まだ疑いは完璧には晴れてないけど、多分大丈夫だから。それじゃあ、勉強始めよっかな」

 

「あ、はい…」

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

〜2週間後〜

 

「お疲れ様、ベルくん。テストも合格だし、もうダンジョンに行っても問題ないよ」

 

「ほ、ほんとですか。やった…」

 

エイナ特製の最終テストを終え、労いの言葉をかけられるベルは今、机に突っ伏している。これからダンジョンへ行けるという気持ちより、今は地獄が終わったことへの安堵と疲労感が勝っているようである。

 

「ほら、シャキッとして。外でリオンさんが待ってるよ?」

 

「え、リオンさんが?どうしてですか」

 

「私には分からないなあ。でも、勉強も終わったんだし早く行っておいで」

 

「はい、分かりました」

 

ベルは扉のドアノブに手をかけると、ふと思い出したようにエイナの方へ向き直る。

 

 

「エイナさん。2週間も勉強を教えてくれて、ありがとうございました!これからもよろしくお願いします!」

 

 

突然のベルからの感謝の言葉にエイナは面食らったようで、少しの間を置いてから優しく微笑む。

 

 

「うん、これからもよろしくね」

 

 

その笑顔は、まるで大切な物を愛でる妖精のように、幸せそうなものであった。

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「リオンさん、お待たせしました」

 

ベルは走ってギルド内のソファに座っていたリオンに声をかける。

 

「いえ、そんなに待ってはいませんよ。して、ベル。 勉強の疲れがあるかとは思いますが、ダンジョンへ一緒に行きませんか?」

 

えっ、と驚くベル。先程まで机に突っ伏していただけあり、疲労は相当なものだ。

 

 

 

 

 

 

それでも、少年は自分の欲求に正直だった。否、自分に対して無知だった。

少年にその判断が身を滅ぼしてしまうという考えは、少年の意識には一欠片も存在しなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「はいっ!よろしくお願いします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

故に少年は、地獄の入り口(ダンジョン)へ歩を進めてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「ハアっ!!」

 

少年は的確に敵の急所を穿つ。手渡された短剣でゴブリンの喉仏を貫き、流れた短剣を壁に突き刺してそのまま斜め上に蹴り上げ、トドメを刺す。

壁に着地した少年は短剣を壁から引き抜き、持ち前の脚力を活かして壁から一直線にコボルドの元へ跳躍、首をたたき落とす。

この間わずか数秒の出来事、後ろで見ていたリオンも感嘆の声をあげてしまうほど、鮮やかな殲滅劇だった。

 

モンスターの群れというほどではないが、数体のモンスターを相手に苦もなく戦っていた。小さな体躯とそれに見合わぬ脚力を活かした3次元的な戦闘。第一級冒険者でも中々しないような戦い方に、リオンはつい見とれてしまっていた。

 

「リオンさん、どうですか?」

 

少年は戦闘のアドバイスを求める。リオンはその声で我に返る。

 

「凄く良かったですよ。あまり見ない戦い方でしたが、動きにぎこちなさが無かったです。ベルはもしかしたら才能があるかもしれません」

 

「本当ですか!やった、やった!」

 

少年は褒められて、ダンジョンであるにも関わらずはしゃぐ。このように、時折まだまだダンジョンへ来るには早いのではないかとも受け取れる行動をするのがたまに傷といったところか。

 

「ベル、浮かれてはダメです。エイナにも習ったでしょう?ダンジョンはいつ、どこで、どんな危険が潜んでいるか分からない。上級冒険者でさえ、上の階層でも慢心はしません。一喜一憂する暇があるなら、周囲を警戒して次のモンスターの対処の仕方を考えて下さい」

 

「うっ…分かりました。ちゃんと気をつけます」

 

「いい返事です。では、今日は3階層まで進みましょう。基本的に私は手を出しませんので、勉強した事を活かして戦ってくださいね」

 

「はいっ!」

 

大きな返事と共に駆け出した少年。

 

 

 

 

その時、彼女は彼の小さな背中に何を見たのだろうか

 

 

 

 

懐かしむように口元を緩め、モンスターと対峙する少年を彼女は穏やかに見つめていた。




次の話が大きな転換点となります。気合入れて書くので、受験と相まって時間がかかります。ですが、応援して下さる皆様の期待に応えられるような話にしますので、それまでの間待っていただけると嬉しいです。
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