静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

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お久しぶりです。
まず、感謝を言わせて下さい。
500を超えるお気に入り、閲覧も1万を超え、たくさんの評価をつけて頂き、本当にありがとうございます!
皆さんの応援のおかげで共通テストも乗り切れました!
しかし、今度は私大の入試、そして国公立と続くので、3月までは気が抜けない状況が続きますから、投稿頻度は元には戻りません。申し訳ないです。
ですが、応援してくださる人がいる限り、完結まで持っていきたいと思うのでこれからもどうぞよろしくお願い致します!



ふたつの約束

あの後、動けない僕はリオンさんにおぶられてホームへ戻った。途中銀髪の狼男(ウェアウルフ)のお兄さんに目を見開きつつ睨みつけられた(すごく怖かった)けど、そのあとは何事もなく無事に着いた。いや、道行く人の視線は凄かった。でも、それだけだった。

 

だが、平穏な時間(とき)は帰り道だけだった事を僕は強く思い知らされる事になった………

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「おかえりー!って、どうしたの!?そんな血まみれでおぶられて、まさか…リオン!」

 

「アリーゼの想像するような事だけは絶対に、確実に、間違いなく無いとは言い切っておきます」

 

やけに上機嫌で出迎えて来たアリーゼと軽口を言い合いながらベルを風呂場へ誘導する。ダンジョンからホームに直行したので、もちろんベルはトマトのように血まみれだ。

 

「アルフィアさんはいますか?」

 

「居るわよ〜!ちょっと待っててね」

 

ドタドタとアルフィアの部屋へ走るアリーゼとすれ違いでアストレアが歩いてくる。

 

「おかえりなさい。リューと…ベルかしら?どうしたの?イメチェン?」

 

ベルはアストレアの口から出てくる聞いた事のない単語に、こてんと首を傾げる。

 

「いめちぇん?えっと、よく分からないけど…多分違います」

 

「ふふ、白兎から赤兎になるなんて思い切ったと思ったけど、違ったのね」

 

「アストレア様…流石に赤兎は」

 

クスッと笑うリオンと微笑み返すアストレア。

依然としてなんの事か分からないベルだったが、そんな思考を吹き飛ばす恐怖を背中に感じた。極寒の地に突然転移させられたような絶対零度の寒気が全身を包む。心臓を突き刺し、脳を貫く目線。歯はガチガチと鳴り、全身は鳥肌を立たせる事によって危険信号を全身に飛ばしている。が、身体は動かない。本能が理性を抑え、その場に留まるよう身体を縛っている。

 

…そう、恐怖の象徴(お母さん)が、これまでに無いくらい怖い顔で、ツカツカと床を鳴らして僕の元へ歩いてきた。

 

すっかり硬直する僕の目線に合わせるように屈んでから

 

「汚れを落として来い」

 

そう言って僕の背中を風呂場へ突き飛ばした。

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

アルフィアは、普段は閉じている瞳を開いてベルの目線と交錯させている。

瑠璃と翡翠、それぞれ異なる色を持つ瞳は、どちらも怒りを携えている。

 

「ベル、自分がなんで怒られるかは分かっているな?」

 

「…はい」

 

「私との約束を守るために《冒険》をしたのは分かる。だが、自分の力を過信しすぎるなと、そして何より約束は何がなんでも守れと口酸っぱく言っているはずだ。違うか?」

 

ベルは首をブンブン横に振る。

 

「だろう?でもお前はそれを破った。約束を二重に破ったんだ。約束を破る事…それ即ち、人の信頼を裏切る事でもある。今までは私とお前の2人しかいなかったから多少甘めに見ていたが、もう違う。お前は独り立ちの一歩をオラリオ(ここ)で踏みしめたはずだ」

 

ベルは借りてきた子犬…いや、子兎のようにプルプルと身体を震わせながら泣くのを堪えて目を見て聞いている。

 

「もし、今度約束を破ったと私が耳にしたら…お前を置いて私は帰るからな」

 

 

 

 

 

 

その瞬間、我慢してた涙がポロポロと流れ、頬を伝う。

 

声も出さず、ただ、ただ涙を流す。

 

「ああもう…本当にすぐ泣いて。ちゃんと反省したんだな?」

 

返事は無かった。ただ、母の胸に縋りつき、泣きながら何度も謝り、懇願するだけ。

 

「ごめんなさい」

 

「置いてかないで」

 

「一人はもうやだ…」

 

「お母さんまでいなくならないで」

 

 

 

ただただ、泣き疲れて眠るまでその言葉を繰り返していた。

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「あら、寝ちゃったかしら?」

 

アルフィアに抱きついた状態ですーすーと寝息を立てるベルを、アストレアはニコニコしながら覗き込む。

 

「ああ、少し言いすぎたかもしれん。教育と言うのは難しい」

 

「そうね〜。過去のトラウマが掘り返された感じだったわ」

 

アリーゼもここぞとばかりに茶々を入れる。

 

「む…やはりか。ベルには悪い事をした…」

 

「そんな事ないと思うわよ。少し言いすぎかもだけど、もうベルは同じ事を繰り返さないと思う」

 

ふふっ、と笑うアストレアはまさに慈愛の女神と呼んでも差し支えないだろう。アルフィアが、アストレアから後光が差しているような錯覚に陥るほどに。

 

 

 

 

 

 

 

「…で、アリーゼ。ちょっとお願いが有るんだけど、いいかしら?」

 

「え、なになに?今日は気分が良いからなんでもやるわよ!」

 

「じゃあ豊穣の女主人の所に行って、予約を明日にしといてもらえる?」

 

ピキっ、何かにヒビが入る音がする。

 

「え、え、え、なんで?」

 

「ベルの歓迎会なのに、本人が寝ちゃってるもの」

 

「い、いやよ!それやって前私が一週間働かなきゃ行けないなんてことになったんじゃない!やっと雑務が終わったのに、やっと3人でダンジョンに行けると思ったのに〜!!!!」

 

「でも…ほら、あれを見てそんな事言える?」

 

アストレアが指さす先には、正座を崩した体勢で眠るベルを優しく撫でるアルフィアの姿。

 

「うっ…でも、やっぱり嫌だなあ……」

 

「じゃあ、リューと一緒に行ったら?(も道連れにしたら?)

 

最近たまに見せる小悪魔みたいな笑顔で提案する我らが主神。

 

アリーゼの何かがガラガラと音を立てて崩れていった。

 

「ナイスアイデアね!流石はアストレア様!そうと決まればリオン、早く行くわよ!」

 

アリーゼは叫びながらリオンが入っている風呂場へ特攻して行った。

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「うう…もう外には出たくなかったのに。湯冷めしてしまいます…」

 

「後でもっかい入れば良いじゃない。それより早く行くわよ!」

 

「あ、待って下さいアリーゼ!一体どこへ行こうと言うのですか!」

 

「ひっみつ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アリーゼ…もしかしたら、いえ、もしかしなくても、この道は」

 

「察しが良くて助かるわ!そう、豊穣の女主人に予約の変更を」

 

言い終える前にバッと走り出すリオン。しかし、アリーゼは分かってたと言うように足を出す。もちろんその足に躓いて全身で砂煙を巻き上げる。

 

「な、何をするのですかアリーゼ!」

 

「えー。だって逃げようとしたからじゃない」

 

「逃げようとするのは当たり前じゃないですか!以前同じ事をした時の恥辱、忘れたとは言わせません!」

 

「ちじょく〜?メイド服着てご飯を運ぶだけじゃない」

 

「それが恥辱なんです!あんな…衆目の、男共の値踏みするような、好奇の視線に再び晒されるくらいなら今ここでっ!」

 

胸元から小刀を取り出すリオンを慌てて押さえ付けて止めるアリーゼ。

 

「ちょちょちょ、待って待って!とりあえず一旦付いてきて、ね?」

 

小刀を奪って引きずるようにリオンを引っ張ってゆく。

 

「くっ…これがアリーゼじゃなかったら、差し伸べられた手を振り払って逃げたというのに」

 

ブツブツ言い続けるリオンだったが、この時点で既に好奇の視線に晒されている事には気づくよしもなかった。

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「あ、アリーゼさん、それにリュー!いらっしゃい、今日はどうしたの?予約の時間より少し早いですよ?」

 

豊穣の女主人に着くなり、笑顔で迎え入れてくれる一人の少女、シル・フローヴァ。鈍色の髪を後ろでシンプルに纏め、緑のワンピースに白いエプロンを着こなす。瞳は大きく、あどけなさを残した愛嬌のある顔は誰が見ても可愛いと言うくらいには整っている。その童顔ともいう可愛らしさに反して、出る所はしっかり出て引っ込むところは引っ込んでいる理想的な体型をしているとか言う、俗に言って【女神が嫉妬する】タイプの少女である。

 

「ねぇねぇシルちゃん。何時になったら私のことも呼び捨てで呼んでくれるようになるのー」

 

「残念ながらその日が来ることは無いようです」

 

ニッコリ、笑顔で毒を吐く。酷いわよーと抗議するアリーゼを尻目にリオンが例の件を話し始める。

 

「その、誠に申し訳無いのですが、予約の方を明日に変えていただきたくて」

 

「ああ、それならミア母さんに聞いてきますので少し待ってて下さいね」

 

〜数分後〜

 

「3日間のバイトでOKですって〜」

 

「結局やらなきゃいけないのね…」

 

2人は肩を落として深くため息をつく。

 

「あ、それとですね、『ロキファミリアと一緒になるけどいいかい?』と『アストレアファミリアに新入りが入ったんだろ?ならそれも連れてこい』ですって」

 

その時、2人の思考によからぬものがよぎった。

 

 

 

 

 

 

 

クリンと癖のある白い髪の毛の上にちょこんと乗るホワイトブリム

 

なにかに怯えるような丸く大きい紅の瞳

 

まだ成長期が来ていない小さな体に中性的な顔立ち

 

声変わり途中の微妙に高い声

 

ちょこまかと歩き回る小動物のような可愛い仕草

 

だぶついた、丈の長いメイド服

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでお願いします(するわ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

かくして、ベルの預かり知らぬ所で妙な密約が完成したのであった。

 

シルが提示し、完全に忘れ去られた爆弾を取り残したまま…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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