「「「うわははははは!!!!!!!!!!」」」
まだ眠いのに起こされた時のような不快感がベルの気持ちをドス黒い物へと変貌させる。下品な笑い声、歓声。何処か何か奢っている彼らのーーロキ・ファミリアのものだ。
こんな気持ちは初めてだった。僕は別に騒がしいのは嫌いではない。ファミリアの皆とのおしゃべりも好きだし、お祭りは大好きだ。
でも…なんでだろう、
思えばお母さんは静寂を好み、喧騒を嫌う。山での暮らしも一時を除いて静かなものだった。響き渡っていたのは僕のはしゃいだ声だけだった。そう考えると、いつの間にか僕もその血をしっかり受け継いだのかもしれない。
僕は喧騒から隠れるようにして、同様に渋い顔をしているお母さんに擦り寄る。お母さんも僕を引き寄せ、僕の頭を撫でる。
僕の心の中の黒いモヤモヤとは裏腹に、アリーゼさん達はお互い面識がある人がいるようで、手を振ったり会釈をしたりしている。
そんな中、1人の男の人がこちらへ歩いてきた。年齢は20代に差し掛かっているくらいだろうか、短髪であり、パッと見美形揃いのロキファミリアの中では珍しく至って普通の容姿だ。それでも、洗練された立ち振る舞いはオラリオの看板を背負うに相応しい風格を持っている。
「すいません、
僕は耳を疑った。礼儀なんてほぼ無いような冒険者の世界でこんな言葉を耳にするとは思ってもなかった。
その男の人の言葉に、アストレア様が代表して受け答えする。
「あらあら、わざわざありがとう。でも大丈夫よ。もうすぐで出るから、気にしないで」
「寛大なお言葉ありがとうございます。ハメを外しすぎないように注意したいとおも」バキィ!
彼の言葉は最後まで聞き取れなかった。何故か?テーブルの上にあった空の木製料理皿が割れる音が彼の声をかき消したからだ。
音の発生源に視線をやると、ミノタウロスの一件ですれ違った銀髪の
「お前らァ!ちと面白い話を聞きたくはねえか!?」
「ベートからそんな話をするなんて珍しいわね。どんな話?」
「なになに?聞きたい聞きたい!」
「なんやあ、酒の肴になる様なおもろい話なんか?それ」
椅子に突っ立って片方の足をテーブルに乗せて皆から興味や関心、注目を集めた優越感からか、
嫌な予感は、現実になった
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「もうお前ら遠征組が戻って来る頃だと思ってよ、ダンジョンに行ったんだ。そしたらよぉ」
「なんや、何があったんや?」
「血塗れの坊主が半べそかきながら【疾風】に背負われてんだよ!しかもあとから聞いたらミノタウロス如きに殺されかけたってんじゃねえか!へっ!泣くくらいならダンジョンなんかに夢見て追っかけて入ってくんじゃねえってんだ。雑魚は雑魚らしくおうちでおかーさーんって縋ってればいいんだよ!」
どっと笑いが起きる。醜悪で、下劣。品性の欠片も無い。言っていることは一部を除いては決して間違っている訳じゃ無い。なまじ核心を突いてるだけあって、より癇に障る。頭に、脳内に滑り込んでくる。脳の一層一層に一語一句、刷り込まれてゆく。
悔しい
悔しい
悔しい
それでも、構わず続けられる僕の遠回しな公開罵倒会。先のお兄さんや、ほかの数名も止めに入るが全く聞く耳を持とうとしない。
「ベートさん!他のお客さんもいるっす!落ち着いて!」
「流石に言い過ぎよ!節度をわきまえて!」
「あんまり気分が良いものでは無いわね…」
「なんかつまんなーい。だってー、ベートがその現場見たわけじゃないんでしょ?モンスターの返り血かもしれないじゃん」
「品位を疑われる。言い過ぎだ」
「ベート、君、かなり酔ってるね?」
しかしこの声はほんの一部のものでしかない。大多数は…ドワーフは違う区画で酒飲み対決、そしてほとんどは彼の話に耳を傾け、笑いこけている。
ベートは1割の非難の声なんぞ意に介さなかったが、1人の少女の声が彼の語りを止めた。
「ベートさん、違います。その子は、弱くなんかない、です」
ギロリと金髪の…アイズ・ヴァレンシュタインを睨む。
「あぁ?なんだよアイズ。あんのトマト野郎の肩を持つのか?剣姫ともあろうものが?」
僕は身体中に広がる悔しさを無理やり呑み込んだ。鉄の味がトマトの味と口の中で絡み合って気持ち悪い。
苛立ちの土石流に飲み込まれ、視界が赤黒く染まりそうになった時、僕を呼ぶ声がした。
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五月蝿い。ギャーギャーギャーギャーと小蝿如きが騒ぐな。
アルフィアは憤っていた。しかし手は出さない。ギリリと歯ぎしりが鋸のように鳴る。
私は騒がしい事が嫌いだ。雑音が嫌いだ、喧騒が嫌いだ、そもそも『音』という事象に良い感情は何一つ無い。はずだった。
全てが変わったのはあの子に…ベルに出会ってから。
大切な、愛してやまない妹の忘れ形見を遠くから見るだけ。本当にそれだけのつもりだった。だが、桶をひっくり返すように溢れ出た感情に私は抗えなかった。
それから、私の世界は大きく変わった。鈴の音のようなベルの声は私の癒しだった。ベルはよく喋る子だったが、それすら心地よく感じられた。灰色に濁った世界は再び白く染まり始め、ベルの声、行動によって色付けられていった。
私はあの子を元気で優しい子に育てる事が生き甲斐になった。
しかし、ベルは
なら、私が…親がすることはただ1つだろう。
息子の鐘の音が鳴り響くまで、支え続けてやることだけだ
今のベルは、甘えや弱さで震えているのではない。紛れもなく、悔しさが募っているのだろう。
ならば…
「…悔しいか?」
「……うん」
「それは良い事だ」
「……しかしベル、その想いは未来にとっておけ」
「へ?お、お母さん?」
ベル、今は………
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アルフィアはミアに断りを入れて手元にあるフォークをおもむろに掴むと、バレない程度に振りかぶって、銀髪の
一直線に空間を貫く鈍い光はまるで、ヴァンパイアを突き刺す銀の十字架。
しかし、
「あぁ?なんだてめえ」
アルフィアはローブを纏ったまま、無言でベル達アストレアファミリアの横に立っている。
「何とか言えよ薄気味悪い雑魚が!」
いつの間にか、世界は静まり返っている。時間が、人が、硬直していた。
ただ1人、動きを止めない者がいた。ベート・ローガ。彼は苛立ちを隠そうともせず利己的な制裁を加えるために、凶器を放ったであろうローブ姿の輩へ歩み寄る。
そして、胸ぐらを掴もうとしたその時
澄んだ、美しい声色と共にベート・ローガは吹き飛び、テーブルや皿をを割って料理諸共ぶち壊しにする。
あのロキファミリア団長、フィン・ディムナでさえ思考が追いついていない中、吹き飛ばした張本人と思われるローブの女は1歩、1歩と薄汚い木板に音を鳴らす。
「弱すぎたか…」
「ってえ…なにしやが「
2度目。ベート・ローガが為す術もなく吹き飛び、血を流す。恐らく死ぬ寸前とまでは行かないものの、ピクンと血に塗れた身体が痙攣している。
「ふっ…汚らわしい。まるでトマトのようではないか。雑魚が」
凛とした佇まいに、ロキファミリアの団員達は吹き飛ばされて血塗れの仲間へ意識が向かなかった。
「悪かったな、皆」
「だ、大丈夫よ。それより、お会計早く済ませちゃいましょう」
「む…料理の方は大丈夫なのか?」
「さっきアリーゼとリューが頑張ったわ」
「そうか、なら帰ろう。ベル、おいで」
「う、うん!」
先程の襲撃者はアストレアファミリアと共に颯爽と店を去る。
何かを言いかけた
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「あーっ、大変だった!」
「申し訳ない。迷惑をかけた」
「いえ、アルフィアさんに言った訳では無いですよ」
「そう!当事者がいるってのにあんな言い方!第一級冒険者の風上にも置けないわ!」
ホームに帰ってくるなり、アリーゼはクッションへダイブ。リオンも傍らにある椅子に疲れました感MAXで座る。
道中アルフィアの事を「大丈夫?」とか「血、吐かないよね?」等とひたすら心配していたベルは、眠くなったためアルフィアにおぶられている。
アストレアもアリーゼが埋まるクッションに腰を下ろす。
「ベル、ステータスの更新しましょ?」
「ん……」
寝ぼけ眼を擦りながらアルフィアの背から降り、振り子のように揺れながらクッションへと辿り着く。
アストレアは優しく微笑み、ベルの背中に血を一滴垂らす。
「どれどれ…まあ、ふふふっ」
ベルのステータスを見るなり破顔するアストレアを訝しげに見る3人。
手際良くステータスを写し、皆に見せる。
「おお〜」
「これはまた…なんというか」
「意志の強い奴だ。全く、その辺りはメーテリアそっくりだな」
その夜、とあるファミリアのホームで赤銅、紅、翡翠、灰。色とりどりの花が咲いた。
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ベル・クラネル Lv1
力:0→D512
耐久:0→D561
器用:0→E401
俊敏:0→E441
魔力:0→C600
魔法
エルピス・ヴェーリオン 詠唱式【
不可視の音の波動で内部から崩壊させる
対象: 鐘の音に仇なす者達
スキル
【
対象が存在する限り成長補正(大)
対象との誓いを諦めない限り成長補正(大)
【
敵が強者であればあるほど
敵が強者であればあるほど基礎能力向上
【
勝利への確固たる意志がある時、魔法威力倍加