荘厳なバロック調の門の前には屈強な冒険者が、来るものを威圧するように二人立っている。その門を通り抜けると目の前に広がるのは手入れのされた美しく青々とした芝生と鍛錬に励む団員達。
そして、両端の尖頭アーチが象徴的な建築物、【黄昏の館】が見下ろす形で出迎えてくれる。
ここはロキファミリアのホーム。その一角では、深刻な面持ちをした面々が一堂に会していた。
金髪、精悍な顔つきの
「皆、突然の招集に駆けつけてくれてありがとう。第一級冒険者を擁するファミリアでも特に古参である君たちに参加要請をした訳だが…」
「御託や挨拶は後でいい。早くしてくれないか」
フィンの挨拶に横から割って入るのはフレイヤファミリア団長、オッタル。身の丈2Mはあるかと言うくらいの巨漢は、オークやミノタウロスにも匹敵、否、それを凌駕するほど太い腕を組んで淡々と話す。
「そうだね。じゃあいきなり本題から入ろう。聞き覚えが無い人もいるだろうが……」
間を置き、語気を強める。
「【静寂】が、オラリオに現れた」
「なにっ!?」
オッタルは普段どんな事があろうと見せることの無い動揺を顔に浮かべ、言葉に乗せた。
「これは由々しき事態だ。7年前の悲劇…もしかしたら、ザルドの再来と捉えてもおかしくはないだろうね」
今まで事態を飲み込めていなかった
オラリオ暗黒時代の終焉を告げる鐘の如く現れ、破壊と殺戮の限りを尽くした【暴喰】ザルド、エレボスファミリアに
「故にオッタル。アルフィアと君が対峙したとして、勝算はあるかい?」
「ある」
自信に満ちた野太い声。皆が安心するのも束の間、次の言葉が彼の口から紡がれる。
「条件下によるが…俺にとって最高の状態で勝率は9割、最悪の状態では…2割にも満たないだろう」
あたりがどよめく。オラリオの遥か高みに座する彼でさえ、条件次第では負ける、そう言ったのだ。
「オッタル。その最悪な条件と言うのを教えては貰えるかな?」
「7年。いや、正確に言えば10年以上。あの【静寂】が何もしなかったと考えることそのものが難しい」
場は凍りつく。
「レベル8…ですか」
アスフィの問いかけに、神妙に頷くオッタル。
「もちろん、俺ともう1人、第一級冒険者がいれば遅れは取るまい。しかし…」
オッタルの目配せにフィンも頷く。
「ああ。彼女に攻撃、侵略の意思がある場合、間違いなく裏には
ゴクリ…と誰かが生唾を飲み込む。
「そうであれば、早めの厳戒態勢を敷いた方が良いのではないか?先手を打つ方が被害も少なくて済む」
「シャクティ、君の言うことも最もなんだが、どうも昨日の行動が引っかかるんだ」
「昨日の行動とは?」
「昨日、豊穣の女主人に遠征後の宴会をしに行ったんだけどね。その時ベートが酔って他の冒険者…恐らくは駆け出しの冒険者を馬鹿にしたんだ」
「…それだけか。まさかあの【静寂】がそんな事で」
「そのまさか、さ。オッタル。どうやら僕たちの知る【静寂】とは何か違うらしい。僕たちの知らない間に、大きな変化があったと考えるのが自然だね」
「ああ。さらに言えば、正義を謳うアストレアファミリアと行動を共にしていたことも気になる点だ」
先程まで黙っていたリヴェリアが口を開く。その発言で、場が凍りつき、再び燃え上がる。
「7年前の悲劇でほぼ全ての団員を失ったアストレアファミリアと?それが事実ならば、この話し合いは一体なんのために行ったんだ!」
オッタルが目の影を一層濃くして拳を机に落とす。しかし、フィンは慌てた素振りすら見せない。
当たり前だ。あまつさえ
そして、そのようなファミリアと行動を共にするアルフィアも“クロ”とは考えにくいのである。
「オッタル。落ち着いて、こう考えてみてはくれないか」
そう言って取り出したのは、相関図のようなもの。そこにはアルフィア、アストレアファミリア、
「まず、7年前にアストレアファミリアはほぼ壊滅。現在も第一級冒険者は2人いるが、目立った動きは無い」
「そして
「そして最後に【静寂】。こちらは黒龍以来オラリオとの接触は無いだろう。最近、突如としてアストレアファミリアと共にいる所が目撃された」
羽根ペンを盤上に走らせていく。
「そしてザルドが最期に残した言葉、君なら覚えてるよね?」
フィンはオッタルに目線で問いかけ、オッタルも頷く。
「そう、彼等は暗に仄めかしていた。“英雄”の存在を」
フィンはペンを置き、続ける。
「“英雄”。僕たちが焦がれ、1度は追い求めたはずの夢。始原の英雄アルゴノゥトから数千年と現れなかった、冒険者としての隔絶された遥かなる高み。そしてその始原の英雄は、神のいない、モンスターが跋扈する時代に存在した」
「まさか英雄を創り出すという行為そのものが、オラリオを破壊する事と繋がるというのか!?」
フィンはリヴェリアの問いかけに首肯で返す。
「ならば、アストレアファミリアに居ること自体明らかにおかしいのでは?」
「アストレアファミリアは隠れ蓑だとしたら?1番
「しかし、神は嘘を暴くことが出来るぞ」
「それも、考えがあっての事だろう。シャクティ、アストレア様はなんの神かな?」
「決まってる。正義を司る神だ」
「そう、正義の神だ。しかし、善人だろうが悪人だろうが、自分の正義を信じてしか人は行動しない。というか出来ない。正義を司る事はすなわち、正義を許容する事。例えどんな正義だろうが彼女は許容してしまうだろうね。なんせ、何千何万という罪なき民の殺戮を主導した神にさえ慈悲を与える程なんだから」
グサリと皮肉を言うフィン。
「…とは言っても、これはあくまで最悪の事態の想定だ。明日、謝罪がてらそれとなく目的を聞きに行ってみるさ」
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先程の張り詰めた空気は客人と共に去り、今はロキファミリア幹部が集まっている。
「…って事なんだけど、僕とリヴェリアは監督責任的な意味で行くとして、他に付き添ってくれる人はいるかな?流石にあの戦力差を前に僕達は2人で行く勇気はないんだ」
もう少し若ければ行ってたかもしれないけどね。と苦笑いのフィン。
「本来ならベートが行くのが筋なんだけど…」
「ベートさんはまだ自室で伸びてるっす」
ラウルがため息混じりに報告する。
「だ、そうだ。誰がついてってくれるかな?」
「はい。私も、行く」
澄んだ声が固まった空気を通り抜ける。
フィンも驚いた様子を隠さず、目を大きく見開いている
「珍しいね。じゃあアイズと」
「はいはーい!私も行きたい!」
元気よくティオナも手をブンブン振り回す。
「もう1人はティオナだね」
「ん?ティオネは行かなくていいのか?」
「行きたいけど、緊急の用事が有るのよ…はぁ、メンテがここまで長引くとは思ってなかったわ」
余程ショックだったのか、ズルズルズルと気持ちが身体と共に沈んでゆく。
「よし。じゃあ…アイズ、ティオナ。もしもの事があるかもしれない。覚悟はしっかりしといてね。」
「はーい!」
「は、はい…」
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「こらっ!ベル!待ちなさーい!」
「嫌ですー!僕は女装なんか絶対絶対ぜーったいしませーん!」
「ベルがしないと昨日行ったお店との約束が守れないのよー!頼むからぁ〜!」
「そんなのアリーゼさんがやればいいじゃないですか!」
「私も、リオンもやるの!後はベル、貴方だけなの!」
「え…」
「スキありぃ!」
「わっ、やっ、やめて下さい〜!」
コメントでご指摘頂いたので追記。
アスフィはヘルメスに何もかも伏せられた状態で物事を行っていたので、そんなやべーやつだとは思ってなかったって感じです。
ちなみにフィンはいつものフィンではありません。7年前の事を、意識しすぎてするべき事すら見失ってる状態にあります。後手後手になりすぎて犠牲が多かったので、先手を打つのに執着し過ぎています。
この各キャラ綱渡り状態もこの作品の見所(メインはアルフィアママ)としてますので、それも含めて楽しんでみてください。