開きっぱなしの窓から吹き込む寒風に当てられて目が覚める。
いつもと違う、見たことのない屋根。見覚えのない家具や調度品。整理整頓はされているが、ベッドの下には下着や服が散乱している。
……え、なんでブラジャーが落ちてるの?
意識の覚醒。と、同時に布団に物凄い力で引きずり込まれる。
「うわあああっ!???」
情けなく引っ張られた先にいたのは、燃えるような情熱を体現した紅の髪に正義を輝かせる
そして今、僕はアリーゼさんと向き合っている。少しでも前に出れば唇同士が触れ合うほど近くに。アリーゼさんは物凄い力で、絶対に離すまいと僕の背に手を回して僕を抱きしめている。
2つの柔らかい果実が僕の胸の下あたりで形を変形させている。
僕の獲物は鎮まることなく、どんどんと硬く強くなっていく。最近忘れられかけているが、僕も小さいだけで立派な14歳、思春期真っ只中なのだ。
「どどどどうすれば……」
考えること10分。僕は考えるのをやめ、流されるがままに身を預け、まどろみの中に溶けていった。
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アリーゼは目を細める。あれ、窓なんて開けてたっけ…
通りで寒いわけだ。季節に合わぬ寒気を感じながらうっすら瞳を開けると
手の先にはもふもふがあった。
えっ、な、なんでだっけ?なんでベルが私の部屋で私に抱きついて寝てるの?と、まだ覚醒しきらない頭であれこれ考える。
「とりあえず、朝だし起きなきゃ」
声に出して自分に喝を入れる。朝ご飯はリオンと私の担当だから、早くしないと。リオンだけに任せたら朝ご飯が朝ご飯で無くなってしまう。
むくりと起きた瞬間、思考が明瞭になった。
昨日、軽く気絶したベルをリオンが背負って。
改めて考えるとこの子って本当お子様よね。実年齢と精神年齢の乖離が凄まじいわ。
「よいしょっと」
そのまま寝巻き姿で顔を洗って台所に行く。今日の朝は…余ってる野菜とキノコ、肉の炒め物ね。ある野菜は葉野菜だから後で炒めるとして、キノコと肉をタレに少しつけましょうか。キノコは繊維質だからよく味が染みるようになるしね。
誰に説明するでもないのに頭の中で解説しながら調理していると、トン、トンとゆっくりまったり歩いてくる音が聞こえた。
「ん…おはようございます」
「おはよう、ベル。今日は早かったのね」
「えへへ。なんか、いい夢を見た気がするんです。あ、なにか手伝うことありますか?」
「じゃあこの野菜を切っといてくれる?その後にパンも切り分けておいてくれると嬉しいわ」
「分かりました!」
それから各々の作業を始める。ベルの作業は手際が良く、聞けばアルフィアさんの料理を頻繁に手伝っていたとのこと。やっぱりあの人の母親力は相当高いぞと、改めて舌を巻く。
アリーゼは意外にも女子力が高く、しかもそれを磨くことに余念が無い。だからこそ、ベルをここまで育て上げたアルフィアや皆の世話をしていたアストレアは尊敬、憧れの対象でもあるのだ。
トントントン。小気味のいいリズムで野菜を切っていく。アリーゼも肉とキノコとタレをを袋に入れて揉みこみ、それを焼いている。
どういう訳か、なんの脈絡もなくベルは不意に昨日の約束を思い出した。
「アリーゼさん、昨日買ってもらう代わりの条件ってなんだったんですか?」
鼻歌を歌いながら料理していたアリーゼの手がスッ…と止まる。そのままベルの方へ向き直り、にっこり微笑む。
「私の事、お姉ちゃんって呼んでみて?」
へっ?とベルは野菜を切る手を止める。なんと突拍子の無いことを言うのだろうか、この団長は。そもそもお姉ちゃんなんて呼んだらお母さんがなんて言うか…
「べーるー?聞いてる?」
肉を焼きながら器用に僕のほっぺたを引っ張ってくる。
「わ、わかひまひた!はからひっはふのやへて!」
アリーゼは抗議を素直に聞き入れ、その代わりベルの顔を凝視する。
「えっ、あっ、そのっ……おねえちゃん」
恥ずかしさで心臓が跳ねている。ドキドキなんて次元じゃない。でも、高鳴る鼓動の中に少しだけチクリと痛い感情もある。しかし、ベルはその感情の名をまだ知らない。
「聞こえないわね。もう1回」
「おねえちゃん!」
勇気を振り絞るも、アリーゼの耳には依然として届いてないようだ。ベルは耳まで真っ赤である。
「いまいち聞こえなかったわ。もう1回お願い!」
「アリーゼお姉ちゃん!」
ばくんっ!今度はアリーゼの胸の鼓動が加速度的に速くなっていく。
お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん。この言葉を心の中で、口でも呟いて噛み砕いてゆく。
アリーゼ自身も天涯孤独、もしかしたらベルよりも凄惨な幼少期を送ってきた。だから【家族】を求めた。オラリオに来て、
だから、少しだけリオンとアストレアと溝ができた。あちら側からは飛び越えられるけど、アリーゼからは決して飛び越えられない深い溝が。
しかし、何気なしに言わせた少年の言葉がアリーゼの心を急速に溶かしていった。
気づいたら、無意識にベルを抱きしめていた。瞳からは
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ベルは驚いていた。アリーゼさんが泣いて僕のことを抱きしめた事に。
ベルは彼女が強いと思っていた。明るく快活で可憐。面倒見が良くて時々意地悪だけどすごく優しいお姉ちゃん。そう思っていた。
しかし、ベルが想像するほど人間強くはないらしい。ベルは振り返る。あれほど強い母親でさえ、ベルに会った当時は泣いていた。今でも
『人は等しく脆弱なもの。それ故に神秘的な生き方をする』
いつしか何処かで聞いた神の言葉。
14年も生きてきて、ようやくこの言葉の真意を理解した、気がする。強く生きていかなかくてはならないから、
アリーゼが何を考えているのか、何に涙しているのかはまるで分からないが、それでもベルはアリーゼを抱き締め返した。
やらなきゃいけない、そう感じて
少しだけ驚いた
「ベル、ありがと」
ベルの頬に
顔を真っ赤にしたベルは、そそくさと自分のする作業に戻って行った。
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リオンは固まっていた。あまりにも多くの事が起こりすぎて、心の中で感情の大渋滞が起こっていた。
まず1つ。どうしてベルがアリーゼを手伝っているのか。
いや、これはベルが早めに起きたという事で説明がつくだろう。
2つ。ベルがアリーゼのことをお姉ちゃん呼びしていること。これも今の状況を見ると戯れには聞こえない。アリーゼのいつになく柔らかい表情がそれを物語っている。
3つ。アリーゼが……泣いていた。正確には、涙の跡が残っていた。
決して私たちには弱みを見せなかった。少しモヤモヤする気持ち、問いただしたい気持ちもあるが、薔薇色に笑う彼女を前にその気持ちは失せてゆく。
だから、リオンはいつも通りにする事にした。私が起きて来るまでの間に何かあったのだろう。それがいつも片意地張ってる彼女の心の壁を壊したに違いない。そう自分を納得させ、新しい
「おはようございます、2人とも」
いつもより少しだけ近くなった3人の一日が始まる。
次回、アストレアとアルフィアの動向
追記:アンケートを追加しました。
やる理由としては、最近お気に入りの伸び悩みによるモチベーションの低下が有るので、それらの改善の参考にするためです
御協力、よろしくお願いいたします