静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

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※アストレア様のキャラは「兄の嫁と暮らしてます」という作品の希さんをモデルにしてます


新たな影

1週間。人生で最も果てしなく長い1週間を乗り越えた僕は今、ダンジョン前の噴水で知らない人と話している。

 

「だーかーらー!あなたソロでしょ!?報酬少し分けてくれるだけで良いから私を雇ってくださいって言ってるの!」

 

「えっ、でも…お母さんには知らない人と一緒にいちゃダメだって言われてるし、お姉ちゃん達もあとから来るから…」

 

「お・ね・が・い・し・ま・す・よ!私が居候しているファミリア…みたいなとこ、人が1人しか居ないんです!神様のバイトだけじゃあとてもじゃないけどやっていけないんですぅ!後生ですから助けてぇ…」

 

僕に縋り付いてる栗色の髪を靡かせる女の人はリリルカ・アーデさん。かれこれ20分はこのやり取りを繰り返している。驚くことに僕よりも身長が低い。というのも、耳が人間(ヒューマン)小人(パルゥム)として付いてるはずの場所に無く、犬人(シアンスロープ)猫人(キャットピープル)の人と同じ場所にあるからだ。普通、その人たちは身長が低いということは無い。むしろ亜人(デミ・ヒューマン)は高い傾向にある。

 

「え〜。でもぉ…」

 

「む〜…分かりました。他を当たります。時間取ってすいませんでした」

 

「え、あ…はい。さようなら」

 

20分も粘ったのに何ともあっさりした感じでその場を離れていった。嵐のような時間だった。ダンジョンに行く前から疲れていると、より疲れてそうな顔の2人がこちらへやって来る。

 

「ベル…申し訳ないけど、私たちアストレア様にお話しなくちゃいけなくなったから。夜ご飯までには帰るようにしてくれてら、あとはテキトーに好きなことしてていいわよ」

 

なんだかすっごくゲッソリしてる。僕は漠然とした不安に襲われて、口を開くとリオンさんがそれを塞いでくる。

 

「ベル…今は何も聞かないで下さい。胃痛が…」

 

「ふぁ、ふぁい」

 

そう言ってホームへ帰る2人は、見たことも感じたことも無い哀愁が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

 

 

「アストレア様!これはどういうことですか!?」

 

慌ただしく入り、扉を乱暴に閉めて2人は主神(アストレア)に詰め寄る。

 

「これ、ちょっとやそっとの事態じゃ無いわよ。1つのファミリアの内部崩壊起こしておいてなんでそんなにケロッとお茶飲んでられるの…!?」

 

問い詰められてもアストレアファミリアが主神は何処吹く風。

一体どうしたというのか、それは数日前までに遡る。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

ヘスティアに別れを告げ、神会へ持っていくお土産を買いにアルフィアと街へ行く途中の事だった。何の気なしに裏路地の方を向くと、明らかに体格差がある2人が取っ組み合いの喧嘩…いや、一方的な暴力を受けていた。

 

「はなして…くだ、さい!リリは盗みなんて、、」

 

「そのセリフは聞き飽きたんだよチビ野郎がぁ!じゃあどうして俺が肌身離さず持ってた指輪が消えてるんだよっ!!」

 

「ど…うせ、無くしたんじゃあないですグハッ」

 

小人(パルゥム)と思わしき子が筋骨隆々とした男に思いっきり殴られる。腹に一発。その衝撃でこちらへと小人(パルゥム)が吹き飛んできた。

流石に一方的な蹂躙は見ていて気持ちのよいものではない。アルフィアは興味無さげ、早く買い物へ行きたいという感じがひしひしと伝わってきたが、アイコンタクト(上目遣い)で説得する。

 

「大丈夫?ちっちゃな冒険者さん」

 

「は、はい…カハッ」

 

ドロドロと口から溢れる血。目も焦点が合わず、意識を保つのがやっとに見える。

 

「おう?なんだぁ、これはこれは、正義を司る善神、アストレア様じゃないですか。聞いてくだせえ、こいつが何回も何回もギルドの換金でヴァリスちょろまかしたり俺たちのもの盗んでやがったんですよ!」

 

なるほど。確かにそれは許されることではない。どんな事情があろうと、盗むのは決して許されることではない。

だが、殴ることも然り、だ。

 

「そうね。盗むのは良くないことだわ」

 

「でしょう?だからそいつをこっちに」

 

「でもね、殴ることもまた良くないことよ」

 

うっ、と当然の指摘。しかし、あからさまに彼の顔から余裕が消える。

 

「あなたのやっていたことは憎しみの連鎖を紡ぐだけ。今殴って気が済んだとして、その後にこの子が金で殺し屋を雇う可能性も有るのよ?巡り巡って憎しみは帰ってくる。だから行動に移してはダメ」

 

男の冒険者はバツの悪そうな顔をすると、踵を返して捨て台詞を吐きながら去ってゆく。

 

「次はねえからな」と。

 

「ふぅ、行ったわね。って、あの子はどこに?」

 

「説教中にどこかへ行ってしまったようだ」

 

「アルフィア、ちゃんと見てなかったの?」

 

「見てたさ。3店舗先の八百屋が一番安い。今日はそこで買おうかと思っている。今夜はベルの好きなシチューだな」

 

「ん〜!そこじゃないんだけどなあ…」

 

〜〜〜

 

場所は変わってガネーシャファミリアのホーム、【アイアム・ガネーシャ】。気まぐれな神達が何となくで始めるこの神だけの会合に、アストレアも出席していた。

 

「うっ…叔母さんもいるじゃない」

 

ドレス姿の中で1人私服の神が1柱(ひとり)。ガネーシャにお礼の手土産を渡した後にヘファイストスと談笑していたが、下の食事会場で縦横無尽に駆け回る神に目がいってしまった。

もちろん、彼女の名はヘスティア。放蕩癖のある父親の姉にあたるのだが、父親が行動力の化身で色好みなのに対し、姉である彼女は高潔でぐーたら。何がどうしたらこんな取り合わせになるのか分からない、似たとこが全くない姉弟である。正直、苦手なタイプだ。

 

「えっと、これはタッパーに詰めて。これも頂いちゃえ!」

 

誰の入れ知恵か、タッパーまで持参してるよあの神!?いえ、ダメではないけどもっと善神としての威厳を見せて欲しいわ…

 

「ねえアストレア。あの子のとこに1人居候が出来たの知ってるかしら?」

 

同じように彼女を見ていたヘファイストスが保護者の顔で話してくる。

 

「えっ?知らないけど…」

 

「そうでしょうね。ついさっき今日の夕方頃。路地裏で倒れてるとこを拾ってきたらしいわ」

 

それを聞き、私はふと今日の昼のことを思い出した。

しかし、心当たりがある事を言う隙が無い弾丸トークが飛んでくる。

 

「その子の主神がソーマなのよ。最近金銭絡みで巷を騒がせているあのボンクラファミリア。なまじ冒険者ギルドに居て内輪揉めで解決してる分闇派閥(イヴィルス)より面倒な所もあるくらいよ。正攻法でぶっ潰すことが出来ないし、すこーしでも外部からの話があればギルドは動くと言ってるけど、全く動く気配も無し。ウチには金にものを言わせて不相応の装備をじゃんじゃん要求してくるし……鍛冶に誇りを持つものとして、武器をちゃんと見ないってのはあまり頂けないのよね。」

 

「あはは…でも、ソーマは結構素直な神よ?お話すれば何とかなるんじゃないかしら」

 

「本気で言ってるの!?」

 

「ええ、本気よ。職人さんだからね、お酒のことだと頑固だけど」

 

「そう…でも、妙な気は起こさないでよ?」

 

「うふふふふ」

 

「いやほんとに!じゃないとオーダーで装備作ってあげないわよ」

 

「それはやめて!?お願いだから、ね?ちょっとお話するだけだから!」

 

 

 

 

〜〜〜

 

「って感じで、ソーマの所にお話しに言っただけよ」

 

無言、ジト目、正座の3コンボで主神を見つめる2人。その圧に押され、左右の人差し指を合わせながら恥ずかしそうに目を逸らす。

 

「……お酒、作れなくなるよってことを事細かに言っただけよ」

 

 

 

 

 

「「それが明らかに火種でしょうがあぁぁぁぁ!!!!!」」

 

 

 

 

ホームに揺れるように響き渡る甲高い2人の大声。少しビクッとした後、アストレアはまた、普段通りに落ち着く。相変わらず異常に速い切り替え速度だ。

 

「まあ、ソーマがチャチャッと頑張るって言ってたから何とか…なるように助言しておいたのだけども」

 

「今まで全く眷属を顧みなかった主神の話とか聞くかしら?私なら聞かないわよ。それに趣味神だからその辺の要領は悪いでしょうね」

 

「あ…そうよね。全く気が回らなかった」

 

「まあ…そんな感じで更に荒れてるんです。真っ当に酒を探求し、神酒をそれほど欲しない。なんなら自分でそれを作ってみせるという、いわゆる酒造派と従来通り神酒のために冒険し、金銭欲の権化と化すことを厭わないザニス派で」

 

「あら…悪いことをしたわね。で、周囲に被害は?」

 

「いえ、特にありません。いずれ瓦解するファミリアだったので、時期が早まっただけだと。それにもう、事は済んでます。ギルドが介入して、後者が謹慎処分の後、不当な金銭の受け渡しがあったとして冒険者失格処分を言い渡されました」

 

「凄かったわよ。ギルドに行ったら質問の雨あられ。職員からもそなへんの冒険者からも何事だーって狂ったように聞かれちゃった。リオンが言った話もその時に聞いたの」

 

「そう。周囲に被害が無いなら…良くないけど。私が巻き起こしたんだもの。ソーマに謝らなきゃ」

 

心底申し訳なさそうに俯くアストレア。彼女は彼女で、目の前で起きた暴力沙汰を無くそうと【力】が無いなりに立ち回ったのだろう。他ファミリアの干渉という禁忌を侵してまでそれを行った。それは褒められたものでは無いだろう。決して。

 

なぜなら…

 

 

一歩間違えたら、大切な家族を失うところだったのだから

 

 

 

 

 

 

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