狂い酒・避け・狂い咲け 0
ここはソーマ・ファミリアの館の一角。雑多に置かれているのは酒の材料、そしてそれらを酒に昇華させるための道具。どれも奇天烈な造形をしているが、他ならぬ酒の神ソーマ謹製の道具であり、もちろん酒を作るため最高の効率が弾き出せるようになっている。
そんな中で酒造派閥に属するある2人の青年が指定の酒を作りながら話していた。
「なあ、やっぱりおかしいよ」
「なにがだ?」
「俺たち、ザニスの野郎を追放してようやくまともな酒造りができるってなったじゃねえか」
「ああ。そうだな」
男の持つ硝子のフラスコがチリン、と無機質な音を奏でる。
「それにしてはここんとこ、流通量がおかしくないか?」
「………」
「ザニスの奴、脱獄したって瓦版にもあったしよ…あいつの神酒に対する執着は異常なものがあらァ。何かしでかしてないと良いが」
「………」
「おい、きいてんの…か、、、よ?」
突如として途切れる反対側で作業しているもう1人の男の声。
男が背後にいるはずの同僚を確認するため、酒造を中断して後ろを振り向く。
そこにあったのは鮮血でコーティングされた肉塊。それが先程まで話していた彼だと気づくにはさして時間がかからなかった。
「おっ ー」
恐怖のトンネルから抜け出してようやく声を出したもう1人の男の首は、瞬時に胴体から切り離される。一切何も理解ができないまま、彼の瞳は閉じられることも無く木板に嫌な音を奏でて落ちていった。
「まぁ、こんなもんかねぇ」
ペロリ、ナイフに付いた紅色に光る真っ赤な液体を妖艶な舌で舐めとり、鞘に入れる。黒く風に靡く髪をサラリと手で掻き上げ、暗闇の中切れ長の瞳をギロリと光らせるその姿はまさに修羅。だが、異様に面積の小さい衣服で隠されている豊満な胸に鉄の香りを帯びたナイフを入れるその仕草は、闇夜であっても美しく洗練されていることが分かる。
そうして彼女は暗い路地裏を去っていく。無論、ドアの開閉音から足音まで何一つ聞こえない。
運命の歯車は異物ひとつで大きく狂ってゆく。今、
それはとある
「全く……一体何が
「ああ。彼が何に酔っているのかは明白。果たしてその酔いに周囲が巻き込まれていくのか」
「巻き込まれるさ、間違いなく」
「ふーん?どうしてそう言いきれるんだよ」
「何故って…そりゃあ」
「人間、なにかに酔っ払ってないとやってけないからねえ」