静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

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狂い酒・避け・狂い咲け 4

私は3つ、致命的なミスをした。

 

1つはベルを育ててきたこの7年間で発生した戦闘に対してのブランクが想像してたよりも大きかった。

 

そしてもう1つ。強さへの奢り。謎の魔法によって強化された奴らを侮っていた。油断があれば格下でも押し負けてしまう事はいくらでもある。

 

最後に……自分の身体が戦闘を拒んでいた、ということだ。

 

でなければこんな醜悪を具現化したアマゾネスなんぞに遅れは取るまい。

しかし、多勢に無勢と言ったやつか。福音(ゴスペル)さえ満足に撃つことの出来ないこの身体で、肉弾戦は辛い。

 

 

だが、それでも、ベルの悲しむ顔は見たくない。私はまだ、生に手をかけられるならそこにしがみついてやる。執着だって言われても、惨めでもしてやるさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

愛する甥の…息子が望むなら、無様にでも生き抜いてやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

人が1人、崩れ落ちた。

僕ははっきりと、この紅玉色(ルベライト)の瞳で確かに見てしまった。

あれは……あれは………!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おかあ、さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで、なんで?お母さんに勝てる人なんていない。だってお母さんはレベルが7。あの猛者(おうじゃ)オッタルさんがやっと勝てるという程の猛者なはず。それがなぜ、あんな一介のアマゾネスを前にして倒れ伏しているの?

 

 

まさか、病気の……

 

 

嫌だ、嫌だ、お母さんが死ぬなんて嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕と、家族を引き離す奴らは……僕がこの手で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コロシテヤル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドス黒い殺気を纏い、白兎は喧騒の主役へと躍り出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ な※※※ ※※※

 

 

私は夢を見ている。そう信じたかった。それほどの悪夢がそこにはあった。

 

吹き飛ばされ、木っ端微塵になってしまった数々の思い出が詰まった大切な(ホーム)

無力な私を身を呈して守り続け、そのせいで病魔に蝕まれ目の前で倒れてしまった友人(アルフィア)

行ったっきり戻ってこない2人の大切な眷属(こども)

 

……狂い堕ち、殺戮を続ける目の前の白兎。

 

突然私達の前に降り立ったかと思うと、無言でそのまま飛び立った。最初に、アルフィアの攻撃で傷だらけ、瀕死のアマゾネスを母親譲りの【福音(ゴスペル)】で一蹴。その後も背後で呆然としている彼女達を一閃。それを見て瞬時に切り替えてきた他のアマゾネスも纏めて【福音(ゴスペル)】の一言で宙を舞う。そして次の獲物へ、地面を滑るように移動していく。その光景に辺り一帯が感じたのは、純粋な恐怖。

 

 

彼には確かに、謎のスキルがあった。そして、そのスキルに対しての懸念や不安は大きかった。彼自身の心の問題も、共に過ごすうちに分かってきていた。

 

彼…ベル・クラネルは、あまりにも愛に、家族に飢えている。両親を物心つかぬうちに亡くしてしまい、7歳まで祖父(ゼウス)と暮らしていたと聞く。しかし、7歳の時の体験が全てを塗り替えたのだと私は思う。

それは、ザルド、アルフィアとの出会い。父や母がいるというごく当たり前の【家族】というものを体験した。いや、してしまった。だから、その直後の祖父と父親代わりのザルドとの別れで異様なほど【家族】というものに執着するようになったのだろう。特に最後の肉親であるアルフィアに対しての愛は人並外れている。それ自体は一概には言えないけど、私は良いことだと思う。

それが良い方向に働いたスキルが【福音信仰(ゴスペライズ)】。大切な人を守り抜くための力を欲する彼にとって、最高のスキルと言えたでしょうね。

逆に未知数だったスキル、それが酒場事件の後に発現した2つのスキル。

 

 

逆襲者(ワルキューレ)侵略者(ゼーレヴェ)

 

 

能力自体は相手が強いほど強くなり、勝利への確固たる意思がある時に魔法の威力が上がるというもの。しかし、双方に共通してあった不気味な文言があった。私は咄嗟にそれを隠して彼に能力を見せてしまった。

その文言とは、

 

 

『真紅に染まりしその時に、華は咲いて狂い散る』

 

 

こんなもの、見たことも聞いたことも初めてだった。しかし、その意味が初めて分かった。いや、()()()()()()()()

これはいけない。今私は、蕾が花開く瞬間を目の当たりにしている。

その華とはつまり、ベルの命。現に真紅に染まっているものは、ベルの髪色。可愛らしい真紅(ルベライト)の瞳は漆黒に染まり、朱の残滓は瞳の中央部のみ。

 

しかし彼はまだレベル1。通常有り得ない限界突破をしていると言っても、レベルの差は如何ともし難いはず。

しかし、格上の彼女達と互角に戦っている。いや、それどころか圧倒している。それが意味する事は、危惧していたスキルに神の力をも凌ぐ可能性を秘めているということ。その怨嗟と復讐に塗れた殺戮劇の先に、【英雄】の可能性を秘めていることになる。

 

私は全てを理解して、息を呑んだ。同時に、止めなくてはと、考えるよりも先に行動に出た。

 

「ベル!もうやめて!このままじゃあなたが壊れちゃう!!」

 

しかし、ベルは止まらない。恐怖に腰が砕け、戦闘意欲が欠けらも無いアマゾネスを彼は容赦なく刈り取っている。

そして、アマゾネスが持ってきた謎の鉄格子へと手をかけるその時だった。

 

「ベル…何をやってるのですか」

 

いつの間にか私の横にはアリーゼを抱えたリューが。

アリーゼをそっと下ろし、すぐさまベルの元へと飛んでゆく。

ベルの裾を掴むリオンに気づいたのか、ベルから殺気が引いていく。

 

「ベル、あなたはなんのためにここに来たのですか?あなたの目の前にいる彼女の表情を見てください。あなたは、こんな痛いけな人をその手で殺めるためにここに来た訳では無いはずです!だからどうか、どうか戻ってきてください」

 

だが、まだ足りない。抱きしめるリューの腕を振りほどこうと必死にもがくが、暴れ回っていた頃の覇気は無い。言うなれば欲しいものを買って貰えない駄々っ子と言った方が当てはまるだろう。

 

「ベル、お願いですから…!じゃないと、私はどうしようもなくやりすぎてしまうっ」

 

それでもなお暴れるベルに対して、リューは一言謝罪の言葉を言って手刀を入れる。ベルは口から大量に血を吐き出し、そのままリオンの腕の中で昏倒した。

 

私の目に焼き付いたのは、ベルを抱きながら無惨な死体の山を一歩一歩踏みしめて歩く、純潔の妖精(リュー・リオン)の頬を伝う涙だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

ベルの狂行は一旦、終演した。時間にしておよそ半時にも満たない時間のはずだが、何日も経ったような疲労感を味わった。

そして数日後の今、私の家族の3人が病室のベッドで眠っている。と言ってもアリーゼは全快に近く、逆にアルフィアは危険域をさまよっている。ベルはアミッドの手を持ってしても原因が分からないらしく、途方に暮れている。

そのベルの横では、リューが大急ぎで呼んだアーディがベルの手をギュッと握りしめている。その目には濃いクマが刻まれていて、ここに来てから眠っていないことの証左が痛々しく刻まれている。

 

「アーディちゃん、そろそろ寝たら?身体壊しちゃうわよ」

 

「それ、はアストレア様も、同じです」

 

「私はいいの。これでも神だから死ぬことはないもの。でも、貴方は違うわ。ベルが起きた時、弱っているあなたを見てどう思うかしら?優しい彼なら自分のせいだって追い込むかもしれない」

 

「……そうで、すね。少し、眠ります」

 

そう言い、その場でベルに縋るように眠ってしまう。やはり相当無理をしていたのだろう。張り詰めた糸がプツリと切れるように眠りに落ちた。

 

それと同時に扉が勢いよく開かれた。

美しい金糸で編んだ髪は汚れでくすみ、切れ長の瞳には生気がない。所々破れた服とそれに伴いゼェハァと肩を上下させる姿は、痛々しささえ感じられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の襲撃……全貌が分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

乾いた薄桃色の唇の奥から発せられた言葉は、一連の事件を終幕へと。

 

そして、次の()()へ導くものだった。

 

 

 

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