扉の木材がすきま風により音を立てて軋む。その扉は金髪のエルフによって弾かれたように勢いよく開かれる。肩で息をする彼女の瞳は一筋の光も携えていない。暗く染まった目で大部屋を見据え、随分とやつれた自分の主神ーーアストレアの元へと向かう。その足取りは鉛のように重く、床の木版がギシリギシリと嫌な音を立てている。
アストレアの目の前に立ち止まり、苦虫を噛み潰したような顔をして数瞬躊躇ったあと、ようやく口を開いた。が、その口は空を食むようにして動くだけ。
アストレアが肩に手を置くと少し落ち着いたように深呼吸をして、言葉を丁寧に1つずつ紡いでいった。
「今回の襲撃の全貌が……分かりました」
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今回の襲撃の当事者。いや、被害者であるにも関わらず、アストレアファミリアは蚊帳の外で事件の究明が行われた。主導したのはガネーシャ・ファミリア。団長のシャクティと応援としてヘルメス・ファミリアの副団長ファルガーが主軸となって捜査に当たった。
捜査は難航した。なぜなら襲撃の痕跡を
しかし、意外なところで捜査は進展を見せた。というか、黒幕が出てきたのだ。罪に耐えかねたのか、目の焦点が合っていなかったことからも誰かしらに狂わされていたのだろうか。しかし、今となっては闇の中だ。
今回の首謀者はソーマファミリア元団長、ザニス。酒に呑まれ、全てを狂わされた男の復讐劇。
しかし、当初その話に耳を傾ける者は誰一人としていなかったそうだ。というのも、それは当たり前の話。生産系ファミリアの団長など、強さもたかが知れてる。それに動機も余りに稚拙だ。
だが、その幼稚極まる話に乗った神がいた。名はイシュタル。紛うことなき美を司る神。理由は何か、それは様々な思惑が絡まりあっての事だった。
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「お、おい。俺の話に乗るっての、嘘じゃあねえだろうな」
白髪に頬が
その何者かは煙管を片手に足を組み、目の前にいる男ーーザニスを無言で睨みつける。
彼女の名はイシュタル。美を司る神の1柱にして、オラリオ内にある夜の街を牛耳る者。
男の背筋に冷たいものが走り、黙る。そうして起きる不気味な【間】は、小心者のザニスを屈服させるのには十分すぎた。
「乗ってやる。お前には利用価値があると判断した。私達もお前も、向いている方向は同じだ。敵は同じなのさ。だから乗る。しかし、貴様のような弱者が音頭を取れるわけが無い。全てはこちらの主導で行う。それでいいな?」
「し、しかしそれではっ!」
「いいな?」
神の言葉に硬直し、目を伏せ肯定するザニス。イシュタルは傲岸不遜に席を立つと、熱を持った煙管をザニスの目の前へ持ってゆく。
その行動に怯えるザニスに一言。
「なに、悪いようにはしない。
「だがっ、あいつらからは門前払いを食らって」
「ふっ、案ずるな。お前はただ私の掌で踊っているように振る舞えばいい」
そう言い、煌びやかな
「余計なことはするな」
そう言い残して……
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「そこからはどうなったの?」
アストレアは紅茶を入れつつリューに尋ねる。一時の昂りが過ぎ、多少落ち着いたリューは出された紅茶を啜って一息つくと、歯切れよく話し始める。
「アストレア様に恨みを持っていた双方の思惑が合致し、機を狙って攻撃を仕掛けました。その機会とはロキファミリアの遠征。大規模な戦闘とあれば彼らが出るのは必然が故に、遠征を狙えば虚を突けて動揺したところを一気に潰せる。そういう算段だったようです。しかし、相手は虎の尾を踏んでしまった。まさかの結末にザニスは怖気付き、出頭。ことのあらましを話してくれました。ですが……」
「まだ何かあるの?」
「おかしいんです。ロキファミリアの遠征は2週間。しかし既に3日はオーバーしています。遠征は日程が命。上手く進まないと待っているのは飢えによる死です。さらに今回は
「そして、笑ったんです。不気味に、ニヤリと口角を上げて」
会話が途切れる。嫌な空気が流れ始めたところに、病院に爆音が1つ鳴り響く。
「おい!
その声は切羽詰まったがなり声。聞き間違えるはずがない、ベート・ローガの声だった。