静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

35 / 40
狂い酒・避け・狂い咲け 5

扉の木材がすきま風により音を立てて軋む。その扉は金髪のエルフによって弾かれたように勢いよく開かれる。肩で息をする彼女の瞳は一筋の光も携えていない。暗く染まった目で大部屋を見据え、随分とやつれた自分の主神ーーアストレアの元へと向かう。その足取りは鉛のように重く、床の木版がギシリギシリと嫌な音を立てている。

アストレアの目の前に立ち止まり、苦虫を噛み潰したような顔をして数瞬躊躇ったあと、ようやく口を開いた。が、その口は空を食むようにして動くだけ。

アストレアが肩に手を置くと少し落ち着いたように深呼吸をして、言葉を丁寧に1つずつ紡いでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今回の襲撃の全貌が……分かりました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

今回の襲撃の当事者。いや、被害者であるにも関わらず、アストレアファミリアは蚊帳の外で事件の究明が行われた。主導したのはガネーシャ・ファミリア。団長のシャクティと応援としてヘルメス・ファミリアの副団長ファルガーが主軸となって捜査に当たった。

捜査は難航した。なぜなら襲撃の痕跡を()()()()()()()()の彼の手で消し炭にしてしまっていたからだ。

 

しかし、意外なところで捜査は進展を見せた。というか、黒幕が出てきたのだ。罪に耐えかねたのか、目の焦点が合っていなかったことからも誰かしらに狂わされていたのだろうか。しかし、今となっては闇の中だ。

 

今回の首謀者はソーマファミリア元団長、ザニス。酒に呑まれ、全てを狂わされた男の復讐劇。

しかし、当初その話に耳を傾ける者は誰一人としていなかったそうだ。というのも、それは当たり前の話。生産系ファミリアの団長など、強さもたかが知れてる。それに動機も余りに稚拙だ。

 

だが、その幼稚極まる話に乗った神がいた。名はイシュタル。紛うことなき美を司る神。理由は何か、それは様々な思惑が絡まりあっての事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「お、おい。俺の話に乗るっての、嘘じゃあねえだろうな」

 

白髪に頬が()け、目下のクマはあまりにも不気味に深く深く刻まれている薄汚い白いローブを羽織った男は、目の前にいる何者かに食いいるように身を乗り出す。

その何者かは煙管を片手に足を組み、目の前にいる男ーーザニスを無言で睨みつける。

彼女の名はイシュタル。美を司る神の1柱にして、オラリオ内にある夜の街を牛耳る者。

男の背筋に冷たいものが走り、黙る。そうして起きる不気味な【間】は、小心者のザニスを屈服させるのには十分すぎた。

 

「乗ってやる。お前には利用価値があると判断した。私達もお前も、向いている方向は同じだ。敵は同じなのさ。だから乗る。しかし、貴様のような弱者が音頭を取れるわけが無い。全てはこちらの主導で行う。それでいいな?」

 

「し、しかしそれではっ!」

 

「いいな?」

 

神の言葉に硬直し、目を伏せ肯定するザニス。イシュタルは傲岸不遜に席を立つと、熱を持った煙管をザニスの目の前へ持ってゆく。

その行動に怯えるザニスに一言。

 

「なに、悪いようにはしない。闇派閥(イヴィルス)との接触はしたのだろう?なら話は早い」

 

「だがっ、あいつらからは門前払いを食らって」

 

「ふっ、案ずるな。お前はただ私の掌で踊っているように振る舞えばいい」

 

そう言い、煌びやかな真珠(パール)のドレスを靡かせて暗室から出ていった。

 

「余計なことはするな」

 

そう言い残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※

 

「そこからはどうなったの?」

 

アストレアは紅茶を入れつつリューに尋ねる。一時の昂りが過ぎ、多少落ち着いたリューは出された紅茶を啜って一息つくと、歯切れよく話し始める。

 

「アストレア様に恨みを持っていた双方の思惑が合致し、機を狙って攻撃を仕掛けました。その機会とはロキファミリアの遠征。大規模な戦闘とあれば彼らが出るのは必然が故に、遠征を狙えば虚を突けて動揺したところを一気に潰せる。そういう算段だったようです。しかし、相手は虎の尾を踏んでしまった。まさかの結末にザニスは怖気付き、出頭。ことのあらましを話してくれました。ですが……」

 

「まだ何かあるの?」

 

「おかしいんです。ロキファミリアの遠征は2週間。しかし既に3日はオーバーしています。遠征は日程が命。上手く進まないと待っているのは飢えによる死です。さらに今回は勇者(ブレイバー)九魔姫(ナインヘル)豪傑(エルガルム)などが総出での深層攻略に乗り出している。過去から見ても日程がブレることなどそうそう無い。そして気になる闇派閥(イヴィルス)の動向。ザニスは彼らについては何も話さなかった」

 

「そして、笑ったんです。不気味に、ニヤリと口角を上げて」

 

会話が途切れる。嫌な空気が流れ始めたところに、病院に爆音が1つ鳴り響く。

 

「おい!戦場の聖女(ディア・セイント)を呼んでくれ!」

 

その声は切羽詰まったがなり声。聞き間違えるはずがない、ベート・ローガの声だった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。