静寂を纏う白兎の狂奏曲   作:あルプ

38 / 40
いつの間にか1000いいね……本当にありがとうございます!
950辺りで停滞してたのに、一気に伸びて正直戸惑ってます笑
これからも見てくださる方たちのためにスローペースですが執筆していこうと思うので応援よろしくお願いします!


現実

「っ…その………」

 

いつも通りの無機質な声ではなかった。淡々とした、人形みたいな表情でもなかった。眉間に皺を寄せて俯き、目元は影で隠れている。その表情は紛れもなく人間で、にわかに激情家とも言われている一端を覗かせていた。その辛そうな顔が、より一層この後の言葉を暗示させるようで……

 

私は見ていられなくなり、目をアミッド(現実)から背けた。

 

だが、目を背けたところで声は聞こえてくる。現実から逃れる術はないと、透き通った声が逃げる私を縛り付けてくる。

 

絶望の鐘の音が、鐘楼から鳴り響いた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベルさんは、、、アルフィアさんと似て非なる病気です。それも後天性の……不治の病です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「不治の病……」

 

ベルの口から出てくる、悲しみを帯びた声。私は反射的にアミッドの胸元に迫っていた。

 

「治るのか」

 

「えっ……」

 

「治るのかと聞いているんだ!」

 

「だから、その………不治の病なので「お前の力では何とかならないのかっ!私の症状が改善したように、この子も!なんとかっ、ならないのか………

 

 

 

 

 

訪れる静寂。しかし、これは私の愛した静寂では無かった。

 

私はこれでもかと瞳を見開き、地獄の底(現実)に垂らされている蜘蛛の糸に少しでも、惨めにみっともなく取り縋る。そこに希望が、救いがあると信じて……

 

「ごめんっ…なさい………」

 

そう、そんなもの(蜘蛛の糸)など私の幻想でしか無かった。確かに見えた()()は、辛すぎる宣告と共にプツリ、絶たれた。背後ではベルが顔を枕に埋めてすすり泣いている。

 

「症状を、どんなことが契機となるのか。教えてくれないか……?」

 

ベルにはあまりにも酷な話だと言うので、場所を変える提案を受け入れる。

別室に入ってすぐ、私は伏せがちの頭を上げてどんな病気なのかを事細かに聞いた。どうにか未来に繋がるものを見出したかった。

 

「では……アルフィアさん。魔法を使う上で、魔力暴発したらどうなりますか?」

 

「大抵は爆発、威力や系統にもよるものの、どれも下手をしたら死に至るが…」

 

「はい。それが、息子さんの体内で起こっているんです」

 

「……は?」

 

「息子さんの体の中で起きている魔力暴発が、彼のスキルのブーストになっている、ということです。私はおろか、ディアンケヒト様ですら知らないようなものです」

 

「だ、だが、それはスキルの副作用…」

 

「いいえ、これは残念ながら、、れっきとした病気なんです。発症は恐らく息子さんがそのスキルを……いえ、魔法を発現した時でしょう」

 

「まさか、考えられない」

 

「兆候はあったはずです。何か、他の方との明らかな相違点が」

 

「そんなもの、あの子には……」

 

その時、嫌な汗が背中を、頬を伝った。ある、あるのだ。明らかな相違点が。長年連れ添った私にしか分からない、残酷な現実が。

 

「あの子は………背が、全く伸びない。魔法が発現した時よりも少し前からだったかな、柱に刻む線がピタリと上へ行かなくなってしまった。些末なことだと思っていたが、まさか、それが……」

 

 

「はい…、恐らく、それです。魔力による成長への干渉です。人は潜在的に魔力を持っていますが、彼は他とは違う、魔力構造をしている可能性があります」

 

「詳しく、、教えてくれないか」

 

「はい。まず、彼は貴方のように無尽蔵な魔力がある訳ではありません。むしろ魔力の総量は少ないです。だからこそ特定の状況に陥った時、潜在的な力を引き出すためスキルによって、制御装置が解除されて魔力の暴発が体内で起こります。そして彼の特殊な魔力構造により、レベルを超えるほどに大きな、瞬間的で爆発的な力を得ることが出来ます。しかし、その代償は寿()()と、それに付随する成長、これらのっ……あまりにも大きすぎるもの……なんです」

 

「成長とっ、じ、寿命だと…!?」

 

「まだ確定ではありません。神々が授ける恩恵(ファルナ)は未知数なことが多いので、気を落とさないよう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後のことは覚えていない。ただ、茫然自失で時間だけが過ぎていき、気が付けば新しい(ホーム)の部屋にいた。

部屋の外を出ると作り置きが床板に寂しく鎮座していた。盛り付け方からアリーゼだろう、赤い食材を前面に押し出したもの。

私はそれを有難く受け取り、部屋の机に置く。山奥の家から持ってきた丸机に1人。向かい側にも、隣にも人がいないことはベルと生活してきて以来初めてのことだった。

 

「独りがこんなに寂しいものだとは…私も老けたものだな」

 

以前は妹がいなければファミリアでは孤高の存在として君臨していたので、よく1人で行動していた。だが、ベルと暮らし始めてからは1人になることは無かった。山奥での二人きりの生活、ベルは反抗期と呼ばれるものも特に来ることがなく、家出も無かった。オラリオに来ても、誰かは隣にいた。アストレア、アリーゼ、リオン、アーディ……

 

「いや、歳などは関係無いか……」

 

呟くその声は部屋に木霊するでもなく霧散する。そして、無意識に私は誰かいないかと部屋を見渡す。だが、今は誰もいない。孤独だ。私は嫌に胸が締め付けられ、心に巣食う辛さを紛らわすために本棚から無造作に一冊、いやに馴染みのある感触の冊子を手に取る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな時に、よりにもよって………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

手にした少し厚めの冊子は灰色の表紙に彩られたもの。表紙の上には「お母さんへ」と丸く可愛らしい文字で書いてあり、その下には3人と1柱の絵が。

そう、これはベルが幼い頃から今まで描いてきた絵や手紙の数々。それを誕生日プレゼントとして冊子に束ねたものだった。中にはゴミ箱に突っ込まれていた絵を私が拾って冊子に綴じたものもある。だから、少し厚めに、不格好になっている。

 

もう黄ばんできてしまっている表紙を開く。1枚、そしてまた1枚。何度も、何度も繰り返す。

 

もうすっかり渇ききった紙の一枚一枚にいくつもの雫が零れ落ちる。

 

ポツリ、ポツリとどこからか。砂漠に埋もれた記憶(思い出)の中にオアシスが作られるように。

 

長年【才禍の怪物】として孤高に君臨し、突如としてとある怪物に脆くも仲間ごと滅ぼされた。

その後、未来への礎として奈落へと身を落とす寸前に、小さな掌によって引き上げられた。

その掌の主に、どれだけの笑顔を貰ったか。どれだけの夢を貰ったか。徐々に大きくなっていく掌を、いつまで隣で握っていられるのだろうと不安で眠れなかったことがあることなんて誰も知らないだろう。ベル…出会ったばかりのお前のあどけない寝顔を見て、いつまでもこの平穏を護ろうと誓ったあの夜の私の気持ち、お前はもちろん覚えても無いだろうな。

 

童話の英雄(アルゴノゥト)に憧れて私を守れるようになるなんて言い出した時、私は怖かったよ。お前は誰よりも弱く誰よりも幼い。猫からパンチを受けてえんえんと泣いているお前が、季節の変わり目になるとすぐに熱を出して寝込むような子が、真っ暗な深夜の道を1人で歩けない、ただのひ弱で何にも代えられない大切な息子が、自ら死地に赴こうとするなんて私は耐え難いほどにどうしようもなく怖かった。

 

 

 

 

 

 

でも、それでも私はどこか嬉しかったんだ。なによりこの子が、女手1つで育ててきた割に男としてしっかり成長しているということが嬉しかった。将来は私より大きく育ってくれるものだとばかり思っていた。背丈も、器も、その背中でさえも。

英雄になるというのも、私の世界に彩りを与えてくれた子ならひょっとすると、なんて親バカみたいに期待した。

 

そして何より、これからこの掌が、こんなに小さくてぷにぷにしているものが、硬く、大きく成長していくものだとばかり……思って、いた。はずなのに………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女が冊子を閉じた時には、既に辺り一面に夜の帳が降りていた

 

 

彼女の涙を隠すように、彼女の慟哭をかき消すように、彼女の気持ちを代弁するかのように雨が降り注いでくる

 

 

しかし、そんな儚げな空を仰ぎ見ることなく、彼女は自らの掌で顔を覆って泣き続ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何事かを告げる鐘楼の鐘の音が鳴り響いても、青く冷たい雨は止むことはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。