「ここは…?」
神ヘルメスに連れてこられた場所は、一見すると普通の家屋。赤い屋根に白い壁といったオーソドックスな色合いで少し大きめの家と言った感じであり、地方の貴族とかが住んでそうな屋敷を少し小さくしたらイメージ通りかもしれない。そんな家だった。
「ここが君たちのホームとなる場所さ。なに、話は付けているよ。にしても、改めて見るとちゃっちいなぁ……前はもっと大きかったんだが、如何せん7年前にあんなことがあったからなあ」
7年前と言えば、僕にとっても曰く付きの年だ。やはり、何かがあったのだろう。このオラリオを揺るがす、決定的な何かが。
でも、その事を僕は知らない。歴史に葬られた僕の英雄が、オラリオで一体どんな事をしたのか。あの【悪】に堕ちるという言葉の意味を、真意を、僕はまだ知らない。
「7年前に何があったんですか…?」
「いっ、いやあ!?何でもないよ!?うん、なぁ、アスフィ!」
「えっ、ええ…そ、そうですね」
僕が聞くと、目に見えて動揺して、おどけた口調で返される。そんな2人に言い返そうとした次の瞬間、目の前の家から女神様が現れた。
「やっと来たのね!待ち侘びたわよ。さあ、中へいらっしゃい」
淡い赤銅色の長い髪に透き通るような白い肌。硝子細工のように細く脆そうな細い身体のライン。誰もが1度は振り返るようなその美貌は、若干のあどけなさを残している。僕は、その柔らかな雰囲気にお母さんに似た者を感じた。
「流石は女神というか…女である私でも見とれてしまうな」
普段は女の人に見とれたらゲンコツなのだが、どうやらお母さんも見とれてしまったらしく、ゲンコツは無かった。とは言えやはり女神様、侮れない。
ともかく、促されるままに扉を開けて中に入る。
その先の光景に、僕は顔どころか全身が真っ赤になった。何故なのか、それは…
2人の女性が着替えている真っ最中だったからだ。
1人は、まさかのまさか。昨日ギルドで見とれていたエルフのお姉さんだった。きめ細やかな、腰まで伸びている金髪にエルフ、そしてその中でも一際目立つ絶世の美人。まさに僕の好みのど真ん中を狙い撃ちするためにいるような人だ。瞳は鈍色と深緑の中間と言った感じだと思う。均整のとれた無駄のない身体付きの一部が、少しだけ顕になっている。
これだけでも赤面案件だが、これはまだ可愛い方だった。
もう1人の
薄桃色の突起が見えたところで、僕は意識を失った。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
「ふにゃ…」
「あっ!アルフィアさん、リオン、アストレア様!ベルが起きたわよ!」
元気ハツラツと言った感じの声が頭上から聞こえてくる。頭の下には程よい柔らかさの何かがあって、寝心地が凄く良い。あ、ここにだきまくらもある…
「ひゃっ!?ちょっ、ちょっと!???」
「むぅ〜」
「ど、どうしようアル…フィアさん!この子また寝、ちゃったわ!」
「いや、問題はそこじゃないでしょう…」
「もう仲良くなったのね。羨ましいわ」
「アス、トレア様もほのぼ、のしてない…で!」
「悪いが、我慢してくれ。ベルには後できつく言っておく。その状態になると自分からしか起きることは無いからな…」
「だっ…て、ベルっ、凄くっ…ひゃん!ダメなとこに…」
ベルは今、赤髪の少女に膝枕をされている。そしてベルは先程寝ぼけていた。義母親だと思ったのであろう、いつものように抱き枕代わりに少女の細い腰に抱きついている。
災難なことは、ベルがその体制になると何時間も寝てしまうということ。そして、不可抗力ではあるが少女の敏感なところに触れてしまっていることだろう。
だが、アルフィアは何故か動かない。
それもそのはず、本当にこの状態になるとベルは全く起きないのだ。誰よりも寂しがり屋で、誰よりも普段から肩肘張ってるベルだからこそ、だろう。意識が朦朧とすると甘えが全面に出る。人間、一定の状態で安心しきると中々それを止めないものだ。
「どうしてこうなったんでしたっけ…」
「それは…だな」
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
「えっ、えっ、えっ??」
「アストレア様…これはどういうことなのですか?と言うか、その方達は…」
知らぬ女性と少年が主神と共に目の前に現れたこと、その少年が鼻血を噴水のように出してぶっ倒れたことなどで少女達は整理が追いつかない様子。
「2人ともごめんなさいね。まさかそんな所で着替えてるなんて思わなくって」
「いえ…それは良いのですが」
「そうね、この子の紹介をしないとね。って言っても気絶してるけど」
目の前の白髪の少年はまだ鼻血を出して意識を失っている。それを少年の姉?のような人が介抱している。
「この子はベル・クラネル。私たちの新しい家族よ」
「私はこの子の母親だ。正確には妹の息子だが」
「」
「」
「ええーーーー!!!!!!!!!!!!!!!!!!????????」
刹那の静寂。その後に甲高い絶叫が響き渡った。
「どっ、どうしてですかアストレア様!」
「今まで新しい子も全部断ってたじゃないの!今更なんで!?」
「それに1人は男の子なんですよ!?」
「あっ、それは問題ないわ」
「アリーぜ!?」
アリーゼと呼ばれた赤髪の少女にスパンとハシゴを外されて戸惑うエルフ。その動揺する表情がツボにハマったのか、アリーゼはケラケラ笑い出す。
「なっ、なんで笑うのですか!」
「だって、リオンが、いきなり捨てられた子猫みたいな、アハハハッ!!無理、耐えられないわ!」
「〜!」
「ほらほら2人とも。早く着替えなさい。いつまでそうしているの」
「すまないが、早くしてくれないか。この子を早く寝かしたい」
アルフィアはお姫様抱っこされている少年を見やりながらお願いをする。
その時、アリーゼが「はいはいはーいっ!」と手を挙げて謎の立候補をする。
「どうしたのアリーゼ?」
「多分気絶しちゃったのって私が原因だと思うの。だからお詫びも兼ねて膝枕してあげるわ!」
やたらと自分に自信のある物言いだが、アルフィアは少し逡巡した後に少し笑ってベルを渡す。
「では、頼むとしよう。
「か、覚悟…?」
アリーゼの額から嫌な汗が顔を伝って、無機質な木板にポトリと流れ落ちた。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
「アルフィアさんが言ってた覚悟はこういう事だったのですね」
「ああ…正直私も初めての時はしてやられた。無意識な分責めることも出来ないからな。困りものだ」
「ちょっ…そこっ、たっ、助けヒッ!てぇ…」
アリーゼが限界に達しようと言う時、パチッと少年が目を開けた。
「べ、ベル…?起きた?」
「お、おはよう?ございますぅ…」
ベルは起き上がって現状を確認する。
僕が枕にしてたのは赤髪のお姉さんの膝。抱き着いていたのはお姉さんの細い腰だろう。そして当のお姉さんは蕩けきった顔で息を荒くしている。
「えっあっ、そ、その」
「ごめんなさああぁぁぁい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
今、机を挟んで向かい合うは、アストレアを主神とするアストレア・ファミリアの3人。1人は澄ましていて、1人は顔が真っ赤。アストレア様はやけににこやかな表情をしている。
こちら側は私と、私の後ろで縮こまっているベルの2人。
「遅くなっちゃったけど、自己紹介を始めましょう!」
アストレア様の一声で各々の自己紹介が始まる。
「まずは私からね。言わなくてもわかるかもだけど、私はアストレア。アストレア・ファミリアの主神よ」
アストレア様の次は金髪のエルフが少し前に出る。
「私はリュー・リオン。種族はエルフで、レベルは5です。これからどうぞよろしくお願い致します」
なるほど、エルフらしい生真面目で面白味のない挨拶だ。
次は未だに顔を赤らめている
「わっ、私はアリーゼ・ローヴェル。アリーゼで良いわ。レベルは5。これからよろしくお願いね!」
なるほど。先程から見ていて何となく察していたが、この娘は何か闇を抱えている。過去に何があったかは知らないが、その辺りはベルと通ずるものがありそうだ。
アストレア様のアイコンタクトを合図に、私とベルも自己紹介を始める。
「私はアルフィア。元冒険者だったが、今はこの子の母親としてオラリオへ再びやって来た。言うなれば保護者として、だ。これから厄介になるが、よろしく頼む」
未だに背中に隠れているベルを引っ張って前に出し、次はお前の番だと促す。
「ぼ、僕はベル・クラネルです。英雄になるためにオラリオへ来ました!どうか、これからずっとよろしくお願いします!」
「よろしく!」
「よろしくお願いしますね」
「よろしくね。じゃあ早速
「えっ、あ、はいっ!」
横になって、と言われて素直に寝転ぶベル。もう少し警戒心を持って欲しいのだが。1度信頼したら裏切ることは無いと思っているのだろうか?
「じゃあ、失礼して………あらあら、これは凄いわね」
ベルへ恩恵を与えた後、2枚の紙に写す。一つをベルの方へ、もう一つを私に渡す。
アルフィアは受け取った一枚の紙切れを、天使のような微笑みで嬉しそうに眺めていた。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
ベル・クラネル Lv1
力:0
耐久:0
器用:0
俊敏:0
魔力:0
魔法
エルピス・ヴェーリオン 詠唱式【
スキル
【
対象が存在する限り成長補正(大)
対象との誓いを諦めない限り成長補正(大)
補足ですが、ベルの身長はだいたい147cmくらいです。