【アズールレーン】修羅場発生器   作:そうすけ

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何だこの組み合わせ!?




グラーフ・ツェッペリンVSリットリオ編

「憎んでいる。全てを」

 

「どうしたの、グラーフさん。また発声練習?」

 

「む、卿はまた我を軽視しているな? 書類が時間を殺すならば、いっそ壊してしまえば良いとは思わないか?」

 

「まだ午前の仕事始めてから5分しか経ってないんだけど!?」

 

秘書艦のグラーフさんは机に座ってから腕を組んだまま、微動だにしなかった。飽きるの早すぎない? ラフィーちゃんやルマランちゃんでもやる時はやってくれるのに。やる時は。

 

「卿よ。飯はまだか?」

 

「お姉ちゃん! さっき食べたばかりでしょ!」

 

「お姉ちゃん……か、ふふふ。では作業に取り掛かろうではないか、卿よ。遅れを取るでないぞ?」

 

「早くスタートしてね、グラーフさん!」

 

全く……グラーフさん、全然仕事始めてくれないもん。見た目の印象とギャップありすぎるでしょ。もっと厳しい事言う人かと思ってたよ。

 

「ところで卿よ。二週間後の食堂のメニューなんだが───」

 

グラーフさんの話を遮るように、執務室のドアがノックされる。二週間後のメニューと聞いて凄い寒気がしたのは気のせいかな。とんでもない重いメニューとか出されないよね?

 

「ボンジョルノ! 聞きたいことがあるんだが────── 君は席を外してくれないか?」

 

ズバーン! とも効果音が来そうなスタイリッシュな登場人物、リットリオさんが執務室に来る。こんな平和な午前中に来客とは珍しい。大鳳さんやベルファストさんなどの献身的な人達は、窓から入ってきたり、天井から登場したりするけども特別な用事は無く、『何か』すると帰っていく。

 

何やらリットリオさんは聞かれたくない用事があるようなので、僕は席を立つ。

 

「……? どこに行くんだ、指揮官?」

 

リットリオさんに心底、不思議そうな顔をされてしまった。そんな質問されて不思議なのはこっちなんだけれども……。

 

「え、だって───」

 

「私が言っているのはそちらの人だよ」

 

リットリオさんが鼻で指示する方向の人は、グラーフさんだった。

 

「何……? 我に何用か。執務中の妨げをするのは看過できないな」

 

さっきまで遊んでいたじゃないか……というツッコミは無しにしておいて。グラーフさんも流石に穏やかな雰囲気ではない。

 

「執務の妨げ? 鉄血はジョークが面白いが、時と場所を弁え給え。さっきまで時間を殺していた、の間違いだろ?」

 

ピリピリし始める二人。鉄血とサディアは反りが合わないのだろうか。てかリットリオさん、グラーフさんがサボってた(?)事知ってるの?

 

「流石に私もいきなり入るほどの無礼者ではないよ。あらかじめドアの隙間から執務室の様子を見させて貰ったからな」

 

僕の考えを読み取ったようにリットリオさんは説明してくれた。

 

「ふん……覗き見だとは趣味が悪い。人を口説く為ならば【ならず者】にもなる所は褒めてやろう」

 

「何だと?」  

 

さっきまでうにうにしていたグラーフさんとは別人のように、鋭い目つきで来客を睨む。

 

 

 

 

修羅場発生器が発動します!

 

 

グラーフツェッペリンと

 

リットリオが

 

修羅場を起こします!

 

 

 

 

「遅いなぁ……」

 

「「!?」」

 

頭の中でメッセージが刻まれる。もう修羅場っぽいのが始まった後なんだよ! もっと早めに出してよ! その遅さに僕はボソッと呟いた。

 

「し、指揮官。すまない、二週間後のメニューについてなんだが───」

 

リットリオさんは焦ったように即座に説明を始める。

 

「今度焼きおにぎりを作る予定なんだが、指揮官の手のひらの大きさに合わせて作りたいと思っていてね。ちょっと手を握っても良いか?」

 

うん、と返事して僕は手を広げてリットリオさんに差し出す。

 

「───!?」

 

「……」

 

するとリットリオさんはねっとりと、濃厚に、僕と自分のの指を絡め出す。何だかくすぐったいし、ヘンな気持ちになる……。

 

「ふむ……指揮官の指は綺麗でしなやかだな。ふふふ……」

 

「リットリオさん……ダメだよ……なんか、くすぐったいよぉ……」

 

「───! なるほど。アナタはそういうタイプか。ますます燃えてくる……!」

 

カッと目を見開いたリットリオさんの瞳には、スイッチが入ったように溢れるモノが見えた。絶妙にくすぐったい所を刺激してくるため、僕は情けない声が出るのを必死に堪えている。

 

「そこまでだ。卿に触れる時間としては長すぎだ。充分に手の形は測れただろう?」

 

「───っ、そうはうまくは行かないか」

 

グラーフさんがやや強引にリットリオさんを突き飛ばす事で、触覚の快楽から逃れることができた。それでもリットリオさんは毅然とした態度をとる。

 

「用は済んだであろう? 黒山羊の遠笛が鳴いている。ここが墓にならぬ前に立ち去れ」

 

「まぁ良い。収穫はあったしな。【お仕事】の邪魔をして悪かったな?」

 

お仕事、というワードを強調して、言われた通りリットリオさんは高笑いしながら執務室を退出した。

 

「憎んでいる、全てを」

 

動かされるドアを見つめたまま、グラーフさんはいつものセリフを言う。挨拶みたいなもの?

 

「グラーフさん?」 

 

「全く……狼の中の羊は気が気で無い。卿は卿である自覚を持ち給え。我が止めなければ、今頃食べられている」

 

「僕食べられちゃうの!?」

 

「愛宕や加賀を隣に眠りに付く事が出来るか?」

 

「あ、無理ですね」

 

「即答する程の自覚はあるのだな……」

 

「だって、隣どころか秘書艦にしてるとフェロモンみたいな香りが執務室に充満するんだもん……」

 

「口呼吸はお勧めしないが、そのような理由ならば……その限りではないな……卿からも似たような香りがするが」

 

「えっ!? 僕、そんなに匂う!?」

 

慌てて自分の両脇を嗅いでみるが、自分の匂いは自分の物なので匂いが不快か判断しにくいや。

 

「それに僕、胸元開けたり、ズボン下ろしたりしていないよ?」

 

「愛宕や加賀には鉄血の指導が必要だな……」

 

「あはは……じゃあ仕事に戻ろうか」

 

「今度はちゃんとするからな?」

 

「今度はちゃんとするからな?」

 

「全てを憎んでもいいけど、ね?」

 

「む、我にかかれば書類如き破壊してくれる」

 

「破いたり、鼻かんだりしないでね!?」

 

「する訳……無かろう」

 

頼むよ。グラーフさんにはデイリー任務の報告書で鼻かんだ前科があるからね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふう……少し一息つこうか」

 

「待ってたぞ」

 

午前の仕事を始めて小1時間、ここの母港では昼ごはんまでの中休みということで10分程の休憩を取ることにしている。グラーフさんはここぞというばかりに、椅子から立ち上がる。仕事してたか確かめてみるか。

 

「ちゃんと書類に目を通した?」

 

「もちろん」

 

「本当〜? この仕分けされたのも───!?」

 

即答するので、仕分けされた見るべき書類と任務の書類を見てみたら、しっかりと仕分けされていた。何ということだろうか! 普段、うたた寝したり紙飛行機作ってたりするグラーフさんなのに!

 

「ふっ、我を見くびるでない。【アイツに無能と言われるのは癪に障る……】少し我に付き合って貰おう。卿も食堂に来たまえ」

 

ちょいとボソッと言われた所は聞こえなかったけど───という訳でグラーフさんと食堂に向かうことになる。けども……。

 

「腕まで組む必要ある?」

 

正直、グラーフさんの方が背が高いから僕の肘、水平を保てなくて肩凝りそう。

 

「我をみくびった刑を償って貰おうではないか。ふふふ……」

 

どうやら僕は罪人のようである。その割に声が弾む所が不思議だ。普段から憎しみや破壊と言っているだけの貫禄はある。

 

「───さて、もう食堂か。卿にはもう少し償って貰うべきだが、まぁいい。少し待っててくれ」

 

食堂に案内されて座ったままでは暇なので、まだ仕込み中の厨房へと入っていったグラーフさんの背中を目で追っていた。何しに行ってるんだろう。煮込んでいるのかな、全てを。

 

「同志よ! 同志も昼飯前の仕込み酒か!? あはははは!」

 

横から酒くさい臭いが伝わると同時に勢いのあるガングートさんに体に絡まれた。勢いがあるのはいつもか(?)

 

「仕込むほどお酒飲めないよ……」

 

「同志ちゃん、グラーフと楽しそうに食堂に来たわね。ひょっとして付き合ってるの?」

 

騒がしいガングートさんの後ろからひょっこり出てきたタシュケントちゃんに聞かれる。中学生くらいの恋バナかな?

 

「ちょっとした罪を貰ってね……それだけだよ」

 

「ふ〜ん、あっそ……」

 

「よかったな! タシュケント!」

 

「ちょ、ちょっと!? 別に安心しただなんて───」

 

「まぁ、同志なら何しても許す! あははははは!」

 

「同志ちゃん、気を付けないと色んな人にボコられちゃうよ」

 

「うん、ありがとうね」

 

「待たせたな。卿に味見を───!?」

 

ガングートさんとタシュケントちゃんとの入れ替わりでグラーフさんが小さな小皿を2枚ほどお盆に載せて戻ってきた。と思ったらビックリしたような表情でキョロキョロ左右を見渡した。

 

「……今、我のドッペルゲンガーがいなかったか? 北方連合のタシュケントといた気がするのだが……!?」

 

「本気で言ってる?」

 

「我が巫山戯るとでも? ……何故笑う」

 

グラーフさんの面白いところって狙っていない本物のボケなんだよね。巷の噂ではグラーフさんとガングートさんがよく見間違えると聞くけど、本人からそんなボケかまされたら笑うしかないもん。

 

「ご、ごめん。笑いの不意打ちを食らって……」

 

「……まぁいい。卿の笑った顔を見ると我も──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おやぁ? こんな所で楽しそうに時間を潰すなんて秘書艦は有意義なものだなぁ。【仕事中にも関わらず】」

 

 

 

 

 

 

 

 

「り、リットリオさん。今は───」

 

「それに──────」

 

リットリオさんはグラーフさんが持ってきた小皿を手に取り、味見をすると、

 

「あなたは仕事だけでなく、人様に出す料理も蔑ろにする気か?」

 

「……何だと?」

 

リットリオさんは口にした物を自分のハンカチにペッと吐き出す。

 

「憎むのは自分の料理の腕前だけにしてもらいたい。料理を舐めないでくれ。ましてや指揮官に【こんな物】を出すなんて、暗殺でも企んでいるのか」

 

食堂にいる、あのエイジャックスさんやネプチューンさんですらこの騒ぎに不安の表情でこちらを見ていた。そんなに口に出来ない物なのかな。

 

ここの厨房で料理を提供するには条件があって、味見とはいえ、鳳翔さんや饅頭さんが合格を出さなければ料理は提供できない仕組みなのである。だから、そんなに不味い訳無いだろう。そう思ってもう一つの小皿に手を伸ばすと───。

 

「そんな物に手を出すのはよせ。下水道の方がマシだ──────っ!」

 

リットリオさんにパシッと手を払われ、言葉を遮る乾いた音がもう一度。

 

 

 

 

 

 

 

「私が指揮官への思いを込めて作った料理を蔑ろにするな!」

 

 

 

 

 

 

 

グラーフさんが感情的に怒るのは珍しかった。というか初めて見た。息を荒げたグラーフさんと朱くなった頬を覆うリットリオさんは睨み合っている。

 

「ついに手を出したな……! くくく……あははははは! 普段の冷酷なる表情は見掛け倒しだったようだな! あーあ! 鉄血の根幹に携わる者がこんな手を上げる幼稚な人物だったとはなぁ! そうだよな、グラーフツェッペリン!」

 

食堂にはぞろぞろ人が入って来て、すぐに大勢のギャラリーが出来上がってしまった。

 

「グラーフが手を上げた!?」 「何があったの!?」 「本当に憎んでいたの!?」 「やりますねぇ!」

 

耳を傾けてみると、グラーフさんに懐疑的な目を向ける意見の方が多い。

 

「……まぁ、今のところは許してあげても良い。だが、アドバイスとして。この環境で人が口に出来ない料理を提供するのは最悪の選択肢だと思い給え」

 

リットリオさんの一言でギャラリーはシンと静まり、人の塊は徐々に分裂を始め、あっという間に消えて無くなった。リットリオさんの去り際に口元がニヤついていたのは気のせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッパー姉さん、私の味覚おかしい? これダシが良く出てて美味しいんだけど」

 

「私も美味しいの感想しか出ないわ。何なのアイツ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「憎んでいる……全てを……」

 

何だかんだの揉め事でお昼の時間になってしまったので、そのまま昼食を摂っている。グラーフさんは複雑な感情を込めた表情をしながらご飯を食べる。一応、それはお決まりのセリフなのね?

 

「あら、下水道用の料理を作るKAN-SENがいるけど、退役推薦書の手続きでも調べておいたほうが良いかしら?」

 

「あんな主力KAN-SENと出撃なんて、私も運の無い子ね……」

 

明らかに僕たちに聞こえるような音量の雑談が聞こえる。ちょこっと良くない雰囲気の空気が漂う。この声だとアルジェリーさんと最上さんかな? 多分先程のリットリオさんの大きな声が聞こえて、噂をそのまま事実と飲み込んでしまったのだろう。振り返ると食堂の入り口辺りでその二人を見つけた。 

 

「あら、指揮官。こんにちは。指揮官はお昼何食べたの?」

 

「……どうも、指揮官。会えたなら……運は悪くないわね……」

 

「こんにちは、二人とも。あの、グラーフさんは鳳翔さんや饅頭さんの合格を貰って厨房に立たせて貰ってるから、品質は問題ないよ」

 

「「えっと……何の話かしら?」」

 

二人は顔を見合わせてポカンとしている。明らかに嘘をついている様子ではなかった。てか声似てるな。双子かと思った。

 

「さっき二人でグラーフさんの事、話してなかった?」

 

「グラーフ? 鉄血の? さっきは何だか噂が立ってたみたいだけど、そんなの鵜呑みにするほどじゃないわ」

 

「私が他人の悪口を言うほど嫌なヤツに見えたのかしら……はぁ……しかも寮長にお世話になってるから尚更、文句なんて無いわよ……」

 

二人とも違うようだ。単なる気のせい? しかし、僕とグラーフさんも聞こえたはず。どういう事だ。原因が分からなくて仕方ないので、席に戻るとグラーフさんを囲むように駆逐艦の子達が何かを言っている。

 

 

「ぐ、グラーフさん! どうしてそんな事するんですか!? さいてーですよ!」

 

「寮長ぉ……うぇぇぇぇぇん………」

 

「いや、我は……」

 

睦月ちゃんと如月ちゃんを筆頭にグラーフさんに不満をぶつけていた。

 

 

「え……グラーフの噂って本当だったの?」 「はぁ……寮長にはがっかりだわ……」

 

また聞こえる。アルジェリーさんと最上さんの声。周りを見渡すとその二人はいない。だが、その代わりリットリオさんが立っていた。露骨にニヤッとした表情で。

 

「グラーフが困っているようだな。どれ、私が止めにいってあげよう! ははは!」

 

いつもの堂々としたリットリオさん。先程あんなに揉めていたのに? そんな違和感を僕は感じていた。

 

「チャオ! 重桜のお嬢さん達!」

 

「あっ! パスタのお姉ちゃんだ!」

 

「リットリオさぁん……」

 

「よしよし。ご飯を楽しみにしていたのだろう? それは悲しいよなぁ」

 

リットリオさんは本当に悲しそうに睦月ちゃんの頭を撫でる。

 

「如月たち……悪いことしちゃったのぉ……? うぇぇぇぇん……」

 

「ううん。君たちは悪くない。悪いのはこの人だから。だって、私の事を引っ叩いたんだから。そうだよなぁ? グラーフツェッペリン?」

 

「……」

 

わざわざねっとりとグラーフさんの名前を大声で呼ぶ。過程はどうあれ、引っ叩いたのは事実なのでグラーフさんは何も言えない。

 

「えぇ!? グラーフさん、ほんとうにさいてーな人だったんだ! 如月ちゃん! もうこの人の料理食べるのやめよう!」

 

「うぅ……うん……」

 

「グラーフさんの料理の方が美味しかったけど、もうリットリオさんのにしようよ!」

 

「あはは、それは嬉しいよ。いつでもおいで」

 

睦月ちゃんと如月ちゃんに続いてリットリオさんの周りに駆逐艦の子達が集まった。それとは対照的にグラーフさんには冷ややかな視線が向けられる。

 

 

 

「ねぇ、グラーフが引っ叩いたのって何か理由があるんじゃないの?」

 

 

 

その空気に割り込むタシュケントちゃんはリットリオさんに尋ねる。

 

「うん? 君は北方連合の……」

 

「いつもニコニコで料理を仕込むグラーフが手を上げるって相当な事なんだけど?」

 

たしかにグラーフさんって見た目怖いけど、結構慕われてる事が多い。料理なんかもグラーフさんの料理の高評価も良く耳にする。

 

「人は見た目では分からない程、鬱憤やストレスを溜め込むものだよ。些細な事で感情が爆発することもある」

 

「そ、そうだよ! タシュケントちゃん!」

 

睦月ちゃんはリットリオさんに便乗する。完全に味方についてしまっているようだ。このまま僕は指を咥えることしかないのか? 僕に出来ること──────そういえばまだ味見をしていなかった。グラーフさんの料理を。

 

「ねぇ、グラーフさん。どの鍋で料理した?」

 

「……卿か。我が使った鍋はあの【虹色の鍋】だ」

 

「分かった。ありがとう!」

 

虹色の鍋って何だよ!? 随分と個性的な鍋があるんだなぁ……。

 

「変だと思うでしょ、同志ちゃん──────ってどこ行くのよ?」

 

「これで指揮官も私の料理を食べてくれる気に──────ん……?」

 

「ごめんね! ちょっと用事がね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、饅頭。そこを通して貰えないかしら? 仲間が大変なの」

 

「そこを通しなさいっての! 料理しないんだから消毒でも何でもするわよ!」

 

厨房入り口の前でアドミラルヒッパー級の二人が穏やかではない状況だ。う〜ん、僕もそこの奥に進みたいんだけども……。

 

「どうしたの? ちょっと通っても良いかな?」

 

「あ、アンタ!」

 

「ねぇ、指揮官。ひょっとしてグラーフが絡んでいたり?」

 

「うん。真相を確かめたくて」

 

「ほら、饅頭! 今仲間がピンチなのよ! 早く通しなさいって!」

 

ヒッパーさんは饅頭さんをぐわんぐわん揺らす。だけどそれでも厨房には指一本立ち入らせない。

 

「仕方ない。饅頭さん、鳳翔さんを呼んでもらえる?」

 

「やりたく無かったけど、それしか無いわよね……」

 

饅頭さんはササッと持ち場に戻り、鳳翔さんを呼びに行ってくれた。まぁ、やりたくなかったのは忙しい時間だったからね。

 

「はいは〜い、旦那様〜。あら? 皆さん穏やかな顔では無いですね〜?」

 

「忙しい時にありがとうね。さっきグラーフさんが料理をしていたと思うんだけど、その虹色の鍋を持ってきて欲しいんだけども……」

 

「あぁ〜、グラーフさんのですね〜。構いませんけど、一つ条件があります〜」

 

「うん、何かな──────!?」

 

 

 

「はぁっ!? 重桜の空母、何してんのよ!?」

 

「これは私達への宣戦布告かしら?」

 

「うふふ〜、やはり旦那様の味は最高の調味料です〜。鍋はしばしお待ちを〜」

 

とててーっと厨房に戻り、鍋を持ってきてくれるみたいだ。ヨシ! 安心だな!

 

「ヨシ! 後は鍋を受け取るだけだ!」

 

「ヨシ! じゃないわよ! 何き、キスされといてヨシなのよ!? このバカ!」

 

「今は事態が事態だから見逃すけど、私達からも覚悟しておいてね? うふふ……」

 

ヒッパーさんには肘打ちをされて、オイゲンさんはハイライトの無い瞳でうふふと笑ってクソ怖い。

 

「旦那様〜持ってきましたよ〜。はいどうぞ〜」

 

僕の要望通り、虹色の鍋を持ってきてくれた。こんな目がチカチカするような鍋初めて見たよ……。

 

「───!? 指揮官、避けて!」

 

「───え?」

 

 

 

 

 

「させるかあぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

振り返ると、気迫迫った叫びと僕の首目掛けて伸びる手。警戒心もなく鍋を受け取ろうとしたので、自分の足を引っ掛けて転んでしまった。

 

「ど、どうしたの!? リットリオさん!」

 

「アンタねぇ! グラーフを貶してどう言うつもりよ!」

 

「君達には関係ないし、その中身は味見をさせない! させてたまるもんか!」

 

「サディアの伊達女には悪いけど、仲間を蹴落とすようなヤツを安易と通す訳にいかないのよね……!」

 

リットリオさんはどうしても鍋の中身を味見させてくれないようだ。何の理由かは分からないけど、ちょっと今はその要望は聞けない……。

 

「戦艦が重巡二人如きに敵う訳ないだろ!」

 

「ぐっ……鉄血は防御がウリなのに……! このままじゃ……」

 

ヒッパーさんとオイゲンさんが必死にリットリオさんをブロックしているが、ジリジリと押されている。とてつもないパワーなのか図太い執念なのか。

 

「指揮官! ここはもう10秒ももたないわ! 早く!」

 

「でも道が……!」

 

人一人は通れる幅なんだけど、リットリオさんが手を伸ばして充分に掴める範囲にあるため、どうやっても捕まってしまう。その上、ヒッパーさんとオイゲンさんの壁を突破されるのは秒読みだ。ここで詰んでしまうのか………!

 

「指揮官! よく聞きなさい! 厨房の中に出入り口がもう一つあるわ! そこから周ってグラーフ達の所へ!」

 

ヒッパーさんは踏ん張りながらも解決策を教えてくれた。でも厨房って入っちゃいけないのでは?

 

「よく分からない事情ですけど、裏口から出る分には構いませんよ〜。その前に消毒スプレーかけますね〜」

 

鳳翔さんは僕に鍋を渡して、アルコールスプレーを僕の全身に掛けた。あっ、鍋の蓋閉めてないけど、まぁ大丈夫でしょう。

 

「指揮官、急いで!」

 

「うん!」

 

僕は鍋にしては神妙すぎる色の鍋を抱えて一目散に走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「た、タシュケントちゃん! そんな人の味方するの!? やめなよ!」

 

「ま、マズイ料理ぃ……うぅ……」

 

「だーかーらー、味見をしなきゃ分からないでしょ……って、同志ちゃん! うげ……何そのセンスない鍋?」

 

「それは……我のだ」

 

「えっ!?」

 

何とか回り込み、食堂に戻ってきたが、走ってきたので中身が跳ねて自分の服にかかってしまった。まぁそんな事はいいや。睦月ちゃん達と大勢の駆逐艦はグラーフさんの見方をしているタシュケントちゃんら二人を囲んで、ブーイングのように野次を飛ばしている。そこまで状況が悪化していたか。さっさと事を済ませよう。

 

 

 

 

 

 

 

「みんな! これはグラーフさんが作った料理だよ! 今から僕が味見をする! よーく見てて!」

 

 

 

 

 

 

 

 

出来るだけ大声を出して、駆逐艦達の注目を集める。何故か重桜のお姉さん方、大鳳さんや愛宕さんまで凄い凝視されてしまった。

 

「しゅ、しゅきかん!? ダメだよぉ! 病気になっちゃうよ!?」

 

「卿……」

 

「同志ちゃん! やれー! ウラーーーーー!」

 

鍋の色とは対照的に美味しそうな色をしたスープ出汁をスプーンでひとすくい。

 

「うっま……!」

 

「「「え……?」」」

 

タシュケントちゃん以外の駆逐艦の子達は唖然としていた。

 

「お金取れるレベルだよ、これ!」

 

「卿よ……食券を買うからお金は取るのだが」

 

グラーフさんの天然ツッコミは置いておいて、睦月ちゃんや如月ちゃんは困惑している。これなら彼女達にも味見をさせても大丈夫だろう。

 

「やっぱりね……タシュケントもおかしいと思ってたわ。同志ちゃん、一口貰うわよ。そのスプーン貸して」

 

「あ、でも……」

 

関節キスになってしまうよ、と言い終わる前にスプーンを奪われた。

 

「うー、流石ね。ウォッカと合うわ──────うん……?」

 

「タシュケントちゃん?」

 

美味しくて笑顔になっているが、何か疑問があるのか首を傾げている。……うん? タシュケントちゃん、二人もいたっけ? μ兵装バージョンの子も来てたのかな?

 

 

 

 

 

 

「遅かったか……! くっ……!」

 

 

 

 

 

「リットリオさん……どう言う事?」

 

「サディアの……説明をしたまえ。我の料理に難癖を付けた理由を!」

 

先程のヒッパーさんとオイゲンさんとのスクランブルでダメージを受けて、息を途切れとぎれしているリットリオさんは次第に話始めた。

 

 

「……単純な事だよ。愛する人に再び手料理を食べて貰いたかった」

 

「そんな事で……と言う訳にはいかないが、難癖まで付ける事か?」

 

「そりゃあ、そんな事はしないさ。あなたが指揮官に料理を振るうまでは」

 

「……ふむ」

 

「───ぐっ!?」

 

グラーフさんは納得したように深く頷くと、リットリオさんの頬めがけて拳を放つ。

 

「憎んでいる。過去のリットリオを……」

 

「……前言撤回するよ。あなたは鉄血の重要人物に相応しい」

 

二人は納得したように握手をする。……何だか視界がぼやける。眠いのかな……?

 

「卿よ……たまにはリットリオの手料理も食べ給え。それが今回の原因だ」

 

「あいたっ」

 

軽くだが、おでこにデコピンをされた。はずなのに……僕は尻餅をついた。

 

「……卿よ。そんなに強くはやってない。早く立ち上がれ」

 

「う、うん……」

 

中々足に力が入らない。何とかヨロヨロと起きあがった。

 

「む、睦月も食べる!」

 

「きさらぎもぉ〜……」

 

「しゅきかん、食べさせて!」

 

「私も!」 「指揮官!」 「お姉さんにも!」 「大鳳にも下さいまし〜」 「鈴谷と関節キス!? あぁん!」

 

小さな駆逐艦の列の後に大きなお姉さん方も並び始めた。お姉さん方は配るの手伝う方じゃないかな……? ああ……凄く眠い。

 

「はぁ……はぁ……あのサディアのヤツ。結局はグラーフに嫉妬してただけじゃないの! 私もぶん殴ってやる!」

 

「まぁまぁ、ヒッパー姉さん。グラーフが許してるから私達は何もしないのが道理ってモノよ……何で指揮官、あんなに顔赤いのかしら? 何か眠そうだし」

 

「それに何かアルコール臭くない? ちょ、ちょっと!? 駆逐艦達!? どうしたの!?」

 

「あ、ヒッパー」

 

「タシュケント。どういうことかしら?」

 

「この料理、アルコール入ってるわ。鍋の周りにも付いてる」

 

「アルコール……? あぁ! さっき、指揮官が鍋を持ってる時に鳳翔が消毒スプレーを掛けてたわ! あのバカ! ちゃんと蓋をしなかったのね!」

 

「それより姉さん。グラーフも。この食堂で眠っている子達を運ぶの手伝ってくれない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気持ちの良い、雲の上にいるような、背泳ぎで浮いてる感覚だ。寝心地が良い割に、目の前には黒い北半球か南半球がある。とうとう僕は地球を超えた存在になってしまったのだろうか。それの記念として触り心地でも確かめてみたいものだ。その触り心地次第では、未踏の地にたどり着いた存在になれるかもしれない。よし、如何なものか!

 

「───!? ぁんっ…………卿よ、起きたか」

 

「うん……? けい? あ、グラーフさん?」

 

「如何にも。豪胆な目覚めな事だ……まだ酒が抜けてないのか?」

 

豪胆? 僕、何かした?

 

「酒!? 僕飲んだ記憶無いんだけど!?」

 

「正確には酒同等の物を口にした、というのが正しいであろう。まさか我の料理にスピリタスが混入しているとは……」

 

「はぁ!? スピリタス!?」

 

そんなお酒強くない人が飲んだら、記憶どころか肝臓が吹き飛んじゃう! 

 

「リットリオが止めるのも納得が行く。むしろ我が謝罪に行かなければ」

 

「い、いや! 待って! 多分、それ僕が原因でもあるから!」

 

「何……? 卿は共謀して我を陥れようと!? 我は屈しないぞ!」

 

グラーフさんには珍しく顔を赤らめ、スカートを押さえて艶かしく足をうねらせる。グラーフさんこそ、酔ってるのでは。

 

「ならば卿には罪を償って貰おう。歯を食いしばれ」

 

リットリオさんを殴った時と同じように、殺意ある拳を構える。歯を力強く噛ませて、緊張を高める。

 

「………? ───!?」

 

「……正直、怖かった。駆逐艦の子達から信頼を失くすのは───事故であっても。でも、卿は最後まで信じてくれて……その、嬉しかった」

 

硬い衝撃に備えたつもりが、グラーフさんは僕を包み込むような柔らかい感触で抱きしめた。

 

「あの後、駆逐艦の子達が我の部屋に尋ねて来てな。覚悟を決めて出ると、泣きながら謝りに来てくれた。そして、また我の料理を食べたいと言ってくれた。それが何よりも嬉しかった」

 

「そうなんだ……」

 

「だが、料理の味見を最初に、卿にして貰いたかった……今から味見をして貰おうか」

 

「え? どこにあるの──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「憎んでいるぞ。味見をしてくれなかった事を♡」

 

グラーフさんのキスの味は柔らかい、僕の心を掴むのには充分なスパイスだった。




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