そこは、"大破局"以来、外との繋がりを失った名もなき村。
その村は、不思議なことに蛮族や魔物が襲ってくることもなく、平穏な営みが続いていました。
そこには、一人だけ変わった少女がいました。
周りの子供達より白い肌。体のところどころに見られる痣。そして額にある2本の小さな角。彼女はナイトメアでした。
多くの知識が失伝していたため、少女が生まれた際、大人達はとても驚きました。
そして閉鎖的な村社会が功を奏したのか、少女は多くのナイトメアの様に迫害されることなく、優しい両親と兄に囲まれてすくすくと育ちました。
そうして、少女が10歳を迎えようかという頃のことです。
村に、1人の男が訪れました。
その男は真っ黒な服を着て、黒革に金の装丁が施された大きな本を脇に抱えていました。
記録に残っている限り初めてだった外からの来訪者に村は大騒ぎになりましたが、村の外の話を聞きたいという子供達の主張もあって、その男を歓迎することにしました。
男は、昼は村のはずれに家を建て、夜は家が出来るまでの間、毎日違う家に泊めてもらうお礼に、その家の子供達に物語を聞かせました。
これが子供達にとても好評で、子供達は次の日は是非うちに、と誘うようになりました。
そうして、男は少女の家にも来ました。
男が語ったのは、遥か昔に存在した三本の剣と、それを巡る神々の争い、そして神々の滅亡の物語でした。
初めて聞く物語に夢中で聞き入っているうちに、やがて少女は眠りにつきました。
それからどれくらいたったでしょう。
皆が寝静まっているであろう頃、少女は不思議な音が聞こえて目が覚めました。
そして両親の部屋から、不気味な光が漏れていることに気が付きます。
耳を澄ますと、男ともう一人の誰かが
その瞬間、光が一際強まり、男と、言葉で言い表せないナニカの影が、壁に一瞬だけ写し出されました。
そうして光が収まった後、足音がこちらに向かってくることに気付き、少女は咄嗟に背を向けて寝たふりをしました。
男とナニカは部屋に入ると、未だ寝たままである少女の兄の方へ向かいました。
そして暫く話していると、男の気配が変わるのを、少女は肌で感じました。
男が紡ぐ言葉は、おぞましい響きを帯びながらも、何故だかよく知っている気がしたのです。
それと同時、少女の兄は苦し気に呻き始めました。
少女は、男が何かしていることを確信しましたが、何もすることが出来ずにいました。
男が立ち去った後も、少女は目が冴えてしまい、そのまま朝まで起きていました。
それから半年程でしょうか、男はあっという間に村の人達と打ち解け、村一番の人気者になっていました。
男の家には毎日子供達が物語を聞きに行き、日頃のお礼にと村の人達が作物を分けるので、男は一日中家にいました。
少女はあの日以来、男と会うことを不自然に思われない程度に避けていましたが、ある日のことです。
男に家に呼ばれたのでした。
どうして呼ばれたのだろう、と不安に思いながら家に向かうと、男は笑顔で男を出迎えました。
男が言うには、少女には才能があるので、自分が持つ知識と技術を教えたいということのようでした。
少女は、それがあの日の男の行動を知る手掛かりになると思い、その申し出を受け入れました。
すると、男は道具箱の様なものを漁り出し、しばらくして真っ黒な塗料を見せながら手の甲を出すように言いました。
少女が左の手の甲を差し出すと、男はそこに塗料で紋様を書き始めました。
手の甲から嫌な感覚が広がっていくのを感じましたが、少女はそれをじっと耐え続けました。
それから1時間くらい経ち、少女はようやく開放されました。
帰り道、男に他の人には見せないようにと手袋を嵌められた左手を見ながら、そこにに刻まれた紋様を思い浮かべていました。
それからというもの、少女は男の家で勉強をしていました。まず最初にあの日に男が話していた言葉、次に男が聞かせた物語に使われていた文字、といった感じに、少女はみるみる知識を吸収しました。
最初はおっかなびっくり男の家に向かっていましたが、知識を得る何とも言えない達成感のうちに、段々と忌避感がなくなっていきました。
この語り手誰なんだ……………
あとこの「少女」ですが、何故だか生まれた時に異貌化していません。例外があったっていいよね、今後の展開にも関係しますし