半鬼半人闘技録   作:ハチミツりんご

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昔々のお話

 

 

 ある王様が言いました。「可愛い娘の夫に迎えるべきは、この子を守れる実力ある男だ」と。

 

 あるお姫様が言いました。「私を守ってくれる、強い殿方と結ばれたいわ」と。

 

 

 

 

 そして国中、いや国外にも大々的にお触れを出しました。

 

 

【姫の婚約者を決める闘技大会を開く。身分、経歴、一切問わず】

 

 

 大切なお姫様の結婚相手、まさかそれが身分も問わず、経歴すら問わず。例えならず者であっても、指名手配を受けるような極悪人であろうと、闘技大会を勝ち上がれば一国の王になれると言うのです。

 

 

 これには国中がてんわやんわ。美しく、民に優しいことで知られていたお姫様と結婚出来るかもしれない。平民が王になるかもしれない。

 

 

 

 これは一大イベントだ。そう感じた民衆は、闘技大会が開かれる闘技場の観戦権をこぞって求めました。

 それを見ていた商人達は、金儲けの良い機会だとすぐさま露店を開き、飲み物や食べ物、観戦権の売買を一手に仕切り、闘技大会当日には立派な店が立ち並びました。

 

 

 当然国の貴族達も黙ってはいません。麗しの姫様と結婚出来る、自分がこの国を背負って立つ。そう決意した彼らは武芸を鍛え、装備を整え、来たる闘技大会に向けて万全の準備を整えました。

 

 

 

 

 そして、闘技大会当日。姫様と結婚したいと願う猛者達が、国内外から山のようにやって来ました。

 

 ある者はこの国の騎士団長。

 ある者は貴族家の中でも武闘派と名高い嫡男。

 ある者は世間でも有名な傭兵。

 ある者はとある組織でも指折りの暗殺者。

 ある者は修行の旅を続けてきた拳闘士。

 ある者は魔術に優れた魔道士。

 ある者は他国で武勇を轟かせた英雄。

 

 

 ある者は、ある者は、ある者は………皆が皆、腕に覚えのあるものたちが集まりました。

 

 

 闘技大会の死闘は何日も続きました。人死が出ないように万全に整えられた医療設備が揃う闘技場では、それでも再起不能になるもの、死んでしまう者が現れるほどに白熱した試合が続きました。

 

 

 そして全ての試合が終了した後。姫様と結婚出来る栄誉を勝ち取ったのは、騎士団長でも、貴族でも、英雄でもなく。

 

 

 ………なんと無名の平民でした。

 

 

 

 魔法の武具に身を固めた他の闘技者達を押し退けて優勝した平民に、皆は驚きました。まさかあんな男が勝つだなんて。

 誰もが信じられませんでしたが、王様と姫様は互いに目を輝かせ、護衛の騎士たちが止めるのも聞かずに闘技場へと降りていきました。

 

 

 

 

 近くにやってきた王族達に、慌てて平民の男は跪きました。

 先程まで勇猛果敢に戦っていた男が、姫様を見た途端まるで小童のように顔を赤くする様子を見て、姫様はおかしってクスクスと笑みをこぼしておりました。

 

 

 

『誠あっぱれな戦いであった。貴殿こそ、ワシに代わりこの国を統べるに相応しい武人じゃ』

 

 

 

 王様からの言葉に、平民の男は恐縮しっぱなしです。

 そんな彼に向けて、姫様がふと思ったことを訪ねました。

 

 

 

『闘技大会には沢山の猛者達が集っていました。実力も武具も、全てが一級の武人達でした。貴方は彼らと戦うことが怖くなかったのですか?』

 

 

 平民の男は少し驚きながらも、照れ臭そうにこう答えました。

 

 

 

『一目惚れだった貴方様の横に立てるかもしれないと思ったら、身体が勝手に動いておりました。誰にもこの人を渡したくないと』

 

 

 

 帰ってきた言葉に目を丸くした姫様のお顔は、やがて真っ赤に染まりました。

 そして同時に、自分が何を言ったのかを理解した平民の男の顔も真っ赤に染まりました。

 

 

 そんな娘と未来の息子に、王様は豪快な笑い声をあげました。

 それに合わせて、見守っていた民衆たちも立ち上がり、大きな拍手と声援で彼を讃えました。

 

 

 

 

 ______新王様万歳!

 

 ______王妃様万歳!

 

 

 

 こうして闘技大会は幕を閉じ、新王の政治の元、平和な時代が築かれました。

 そんな新王の傍には常に王妃様が寄り添い、いつまでも幸せに暮らしました。自分たちの子供が産まれたら、婚約者を闘技大会で決めようという伝統を残して______。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………それも、今は昔々のお話。

 

 

 

 今でも闘技大会は、王女様の婚約者を決めるために開かれています。民衆も、この闘技大会を楽しみにしています。

 

 

 しかし。当時は武芸を鍛え己で挑んでいた貴族達は、いつしか代理人に依頼をして、己は戦わずに闘技大会を勝ち抜こうとしておりました。

 

 それだけではなく、自分たちのライバルになりそうな闘技大会参加者を事前に闇討ちしたり、参加出来なくしてしまう……そういった、本来闘技大会にあるまじき行いが平然と横行するようになりました。

 

 

 王になる可能性を高めること。副賞の金銭や珍しい魔法の道具を手に入れるのが目的で、王女様との結婚は二の次三の次。

 

 

 

 歯車が狂ってしまった闘技大会。それでも伝統に則って、今でも闘いは開かれています。

 

 

 

 

 そして、一人。姫様と結婚したい………訳ではなく。『お金が欲しい』という至極単純な願いを胸に秘めて、闘技大会に足を踏み入れる【女の子】がおりました。

 

 

 これは、とても………とても単純なお話。

 

 記念すべき、第50回王国主催闘技大会。その闘いを紡いだ、ただそれだけの話だ______。

 

 

 

 

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