【ギルド管理協会】第三会議室。普段は仕事量の多さに心の中で呪詛を吐きながら黙々と書類を整理するギルド職員だが、この時の彼らは違った。
「はい、今年も国民の皆様が愛する、ランドソル収穫祭が開始される運びとなりました。それに付随して、酒祭りも開催されます」
「はぁ……結局今年も開催されるのですか、酒祭り。もう別にするより収穫祭のブース配置でいいじゃないですか」
面倒くさそうに発現するのは、【ギルド管理協会】が誇るドラゴンスレイヤー(ソロ)であるヒロト(恋人募集中)だ。昨年開催された酒祭りでは、3日間ほぼ酒祭り会場に張り付いて一滴も飲めなかったので今年はやりたくないというのが本音である。
「ランドソルの酒造関係のギルドが、うちの酒が一番であることを証明したい。つきましてはヒロト殿には今年もよろしくお願いしますと指名依頼が入っています」
依頼書を目に通して結構いいルピ払いしてきたなと思うが、非番時以外の依頼というのは詰まるところ職務であって、自分の給料にはあまり反映されない。刺激が欲しい彼は、金銭にはそれほどこだわらないが、酔っ払いしかいない風景の中での仕事はモチベーションが上がらないのだ。有体に言えば、彼はぶらぶらしたいがために反対しているのである。
「いやマジで俺じゃなくてもいいでしょ。何なら次席に頼めばいいじゃないですか。あの人ならドソルの問題児全員と顔通じているし」
「次席は運営委員として王宮とか商業ギルドとの折衝担当ですね。大丈夫です。さすがに今年は一年中張り付けるなんてしませんから。ちゃんと1日は非番が設けられますから、その日は思う存分お祭りを楽しんでください」
「おお、気が利くなカリン。しょうがない、今年も一肌脱ぐとするか」
「楽しみですねお祭り」
職員は思った。ヒロト、その日はお前一日中逢引だぞ。
独身者は思った、バカップルが爆発しろ。
既婚者は思った、気を付けないと1年後には素敵な仲間が増えるな。
そんな同僚の思い(妬み)など知る由もないヒロトはルンルン気分で参加することになった。
「……前々から思っていたのだが、ユカリが無尽蔵に酒を飲めるのは、回復魔法で強制的に肝臓機能を高めているのではないだろうか」
久しぶりに馴染みのミフユと世間話という名の情報交換を装ったただの飲み会に興じているヒロトは、ふと彼女の同僚であり、自分も顔なじみであるユカリはなぜあそこまで飲めるのかについて思っていた自説を披露した。
「それは興味深い説ね。確かに彼女、悪酔いはするのだけど、戻したりトイレが近かったりするのを見たことがないわ」
「俺も職業柄、病院系ギルドにも顔が利くのでアルコール中毒とか麻薬中毒患者の治療についても話すんだが、所謂アルコール患者より飲んでいるユカリが、中毒者に見られる諸症状が全くでないというのはつまりそういうことなのではと思うわけだ。場合によっては回復というか臓器の欠損とか、脳に与えるダメージまで再生している可能性がある」
回復魔法はあくまでケガの治りを促進する魔法であり、失われた手足や、臓器を元に戻す魔法ではない。(諸説ありますcvユニ博士)
「そういわれると、とてもすごいことをしているように見えるけど、実際にやっているのは麦シュワを気持ちよく飲むための行為……」
「これから設立するギルドがそういうのを主体としているなら研究した方がいいが、基本的にはアキノのお嬢がユカリに求めているのはあくまで戦える財務だろ。だからその可能性がある程度を頭にとどめておいてくれ」
まあ、単に人体の不思議かもしれないがとおどけつつ、ランドソルの星のお湯割りを飲む。
「酒なんてものは旨い食事か、仲間と呑むのが楽しいのであって、一人で無尽蔵に飲むってのが俺には理解できないがな」
「ヒロトは昔からそういう人よね。あーあ、手が付いてないならちょっといいかなと思うのに……」
「いや、俺フリーなんだけど。え? 何カリンのこと言ってるの。アレは手のかかる姉みたいなもんだよ。3日早く生まれただけで年上扱いしろって言われるんだから」
ミフユは思った。こいつ全然分かってない。彼女が学生時代から悪い虫がつかないように鉄壁のガードを張り続けていたことも、もう味の嗜好が作り替えられていることも。女性の体型評価はしても、好みの性格は彼女が基準になっていることも。乙女心を全く分かっていない。でも、だからこそ。
「ヒロト、今幸せ?」
「クソ忙しいけど、悪くないな」
それは重畳と、ワイングラスを掲げ、ヒロトもグラスを重ねる。男女に友情は成立するかは不明だが、思いを共有することはできるのだ。
なお、翌日カリンの機嫌が良くなかったヒロトは思うのだ。すなわち「解せぬ」と。
これはギルド職員のサイドストーリーなので、「ランドソル収穫祭」の詳細は原作のストーリーイベントで確認してくれ(ない)
ユカリ姉さんがいくら飲んで無事なのは、まあゲームの中だからというのもあるのですが、mimiを経由して脳内で酒を飲んでると脳に送り続けているわけで。
無事に脱出した後に、中毒末期の綾瀬ゆかりさんがいるかもしれませんが、多分大丈夫です。