仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer 作:ホシボシ
「悪魔」
奇しくも、同じことを呟いたものがいた。
ユダだ。テミスの鏡がある部屋で、彼女は椅子から立ち上がる。
目の前にあるモニタには参加者の現状が表示されているが、13しかない枠に突如として一つの枠が生まれ、そこにディケイドが表示されたではないか。
ユダは何もしていない。世界が、ライダー裁判にディケイドの存在を容認させたのだ。
「来ましたか、ディケイド……!」
一方で、場面は辰巳シンジに戻る。
「ヵ」
全身が割れるように痛い。
息を吸うだけで、どこかが少しずつ砕けていくのではないか。そんな錯覚に陥る。
目の前には地面に落ちたカードデッキがある。どうやらディケイドの回し蹴りでVバックルが破損し、カードデッキが外れてしまったようだ。
拾わなければ。手を伸ばすが、それよりも先にディケイドがデッキを拾い上げた。
「誰なんだ……?」
痛みを堪えて問う。しかし返事はない。
カブトのカメンライドを解除していたディケイドは右手でデッキを握りつぶした。
バキン! と、音がして、破片が地に落ちていく。
「何が目的だ……ッ! まさかッ、ライダー裁判に参加するのか……!?」
ディケイドは無言だ。
「折原アイを、どうするつもりなんだッ!」
「判決はない」
そこで、ディケイドが答えた。
確信する。声が違う。
門矢士ではない。
(士になにかあったのか?)
いや、そんなことを考えている余裕などなかった。
「破壊こそが、俺の答えだ」
ライドブッカーの銃口は、シンジに向けられている。
「!」
破裂音のようなものが聞こえる。
シンジは一瞬撃たれたのかと思ったが、違う。
ディケイドの体から火花が上がっている。
見えたのは無数に輝く、金色の羽。
「うわぁああ!」
ゴルトフェニックスに肩を掴まれた。
一瞬でディケイドから引きはがされるものだから、シンジからは情けない声が漏れる。
一方、ディケイドは目の前にいるオーディンを睨んでいた。
「……ッ!?」
オーディンは、予想外の展開に怯んでいた。
完璧で完全な奇襲であると思っていた。ディケイドの背後にワープで現れ、右手に持っていたゴルトセイバーを振るう。
しかしディケイドの『右手』がその体や頭よりも早く、まるで腕だけが意思を持ったように動き、ゴルトセイバーの刃を掴んだのだ。
人間の反応速度ではないように思えた。
なにより、凄まじい力だ。
オーディンのスペックをもってしてもビクともしない。
すぐにワープを繰り返し、ディケイドの周囲で出現と消失を繰り返した。
翻弄させるのが目的だが、ディケイドは右手にライドブッカーを持ち、引き金をひく。
それらはすべて出現したばかりのオーディンに命中した。
「あッ、う――ッ!」
「湖白さん!」
オーディンが膝をつく。
変身者は美岬湖白のようだ。
オーディンのデッキは、その事件において『最も勝利するに相応しいと思った人間』に与えられるとされている。
今回は彼女が選ばれたようだが──
「シンジさん! 逃げて!」『ファイナルベント』
エターナルカオスを発動するため、ゴルトフェニックスがオーディンの頭上に現れる。
『カメンライド』『ファイズ!』
だが、紅い光が金色を塗りつぶす。
『フォームライド』『ファイズ・アクセル!』
腕時計を操作した。
『Start Up』
ファイズが、消えた。
『ファイナルアタックライド』
オーディンの周囲に無数に展開される円錐状のエネルギー。
オーディンはすぐに逃げ出そうとして、気づく。
なぜかワープができなくなっている。このエネルギーにより固定され、ロックオンされているのだ。
『ファファファファイズ!』
アクセルクリムゾンスマッシュ。
オーディンの悲鳴が聞こえる。
φの紋章が浮かび上がり、直後黄金の鎧が砂のように崩れ落ちていった。
だが最強のライダーたるところなのか、まだデッキは破壊されていない。
再びそれを拾い上げて、Vバックルを出現させれば再変身は可能に思えた。
「あ」
もちろん、それは拾えればの話だが。
ライドブッカーの弾丸が一発、デッキの端に命中。
衝撃でデッキが弾かれて湖白から離れる。
直後ディケイドがオーロラに包まれて消失した。再びオーロラが現れたのはデッキの前、瞬間移動のようにしてディケイドは移動すると、剣でデッキを貫く。
『タイムベント』
そんな"未来"を視た。
だからもっと早く助けに行かないと。
オーディンはワープで龍騎の前に現れ、カブトにカメンライドしていたディケイドの回し蹴りを片手で止めた。
さらに足を弾くと、両手を突き出して掌底を胴体にヒットさせる。
その時、掌が爆発し、ディケイドはすさまじい勢いで地面を転がっていった。
「大丈夫ですか! シンジさん!」
「こ、湖白さん!? なにがどうなって──」
「そこで休んでいてください! 私がこの仮面ライダーが何者なのかを確かめます!」
ゴルトバイザーを出現させる。
ディケイドもバックルを開き、カードを装填した。
『ファイナルフォームライド』『リュリュリュリュウキ!』
オーディンの悲鳴が聞こえた。
背中が爆発し、すぐに振り返ると龍騎がいた場所にドラグレッダーがいて、口からは煙が出ていた。
龍騎がドラグレッダーに変形して、火球でオーディンの背を撃ったのだ。
「ど、どうして……ッ!」
『ち、違うんだ! 体が思い通りに動かなくて!』
抵抗しているようで手や頭はわずかに震えているが、ディケイドが右手をかざすとドラグレッダーはオーディンに食らいかかろうと飛来する。
操られていると理解しているためオーディンは回避に徹するが、対処法を考えている間に電子音が聞こえた。
カメンライド、フォームライド、そしてオーロラが生まれる音。
「これは……ッ!?」
オーディンの周囲に無数のオーロラが浮かび上がった。
それはまるで壁のように幾重も設置され、オーディンの動きを制限する。
通っていいのか? 触れていいのか? どこにワープしてもオーロラが近くにある状況だ。
どこだ、どこからくる? しきりに体を動かすが──わからない。
(ガードベントを!)
そこで気づいた。
ゴルトバイザーがない。
リュウキドラグレッダ―の攻撃を受けた際に、手放してしまったようだが、これではカードが発動できない。
というのも、かつてはリタイアしていないライダーーたとえば龍騎が持っているソードベントのカードをゴルトバイザーに入れた場合、ドラグセイバーは龍騎の手元にやって来た。
しかし現在は仕様が変更されて、使用バイザーによって発動カードの効果が適応されるようになっているのだ。
龍騎のソードベントをゴルトバイザーに入れた場合、オーディンの武器として手元にやってくるのである。
しかしゴルトバイザーは念じれば手元にくるはずなのに、どうしてこないのか。
その答えは"別の武器に変換されてしまった"からである。
『ファイナルアタックライド』『ククククウガ!』
音声が聞こえたほうに体を向けてしまった。
だからオーロラから伸びたドラゴンロッドが、ピンポイントにカードデッキを打ち突く。
『ファイナルアタックライド――リュリュリュリュウキ!』
リュウキドラグレッダ―が咆哮を上げ、ディケイドの周りを旋回する。
大技がくることを察し、オーディンは姿を消した。
ディケイドはまだ、動かない。
待っているのだ。クウガの力が効いてくるのを。
「うぁあ……ッ!」
オーディンが姿を見せた。
膝をついて苦しげに呻き、デッキを押さえている。
デッキには亀裂が走っており、中央にはクウガの紋章が浮かび上がっていた。
「フッ!」
カメンライドを解除すると同時に、ディケイドは地面を蹴った。
リュウキドラグレッダ―が追尾し、空中を旋回しながら右足を突き出す。
「ハァアアアアアア!」
ディケイドドラグーン。
燃え滾るライダーキックがオーディンに直撃。
爆発を起こし、湖白が現実世界へ排出される。
『湖白さん! クソッ!』
龍騎は必死に力を込めるが、体が言うことを聞かない。
そうしている間にディケイドは響鬼へカメンライド。
当然、ファイナルアタックライドを発動し、音撃鼓をリュウキドラグレッダーに押し当てる。
「ハッッ!」
『グアァアアア!』
太鼓を連打。そして二つの音撃棒を同時に叩き込んだ。
爆発が起き、シンジは地面を転がる。
見えたのは砕け散った龍騎のカードデッキだった。
『ナスティベント』
音波が脳を揺らす。
ディケイドは頭を押さえて俯いた。
僅かな時間ではあったが、顔を上げると湖白やシンジが消えていた。
「………」
ディケイドは特に追いかけるでもなく、オーロラを出現させて中のほうへと消えていった。
◆
銃声が響く。
工場ではガイとゾルダ、王蛇が戦闘中だった。
刑事のガイと、検事のゾルダが手を組んで王蛇を狙っているのはいくつか理由がある。
一番は深水タケシという男のライダー裁判記録である。
「コイントスやダイスロールで死刑や無罪を決める……か。メチャクチャだな。今回はどうするか決まったのか?」
そう言ってゾルダは銃を撃った。
「ああ」
王者は鉄の柱に身を隠し、それを防御する。
「無期懲役だ」
「決めたおもちゃはなんだ? あみだくじか?」
「おしい。おみくじだよ。神社で引いた結果で決めた。末吉だったからな。凶だったら死刑にしてた。ん? あれ? なあ、小吉と末吉ってどっちが上なんだっけ? まあいいか……」
ただ、勘違いをしないでほしいと王蛇はいう。
「俺ァなにも悪戯に判決を下してるわけじゃない。あんなのはちょっとした神の真似事さ」
「?」
「ユダも言ってたろ? 雷に打たれて死んだのと同じなんだ。手に余るからそうするしかない」
凄まじい音がした。
メタルゲラスが積み上げられたドラム缶をなぎ倒して突進してくる。
王蛇はサイドステップでそれを回避するが、直後背中に衝撃を感じた。
正体はガイのタックルだ。どうやらメタルゲラスは囮だったらしい。
「直売所で金を払わずにキュウリを盗って食った大学生グループの一人を死刑にした。重すぎるとネットでは言われたが、そのキュウリは旦那さんが亡くなった奥さんが残した畑で必死に育てたものだ。それくらいの価値はきっとあるはずだ」
「ッ? なんの話だ?」
ガイは王蛇を抱えて壁に叩きつけようとする。
王蛇は両足を伸ばし、先に壁に足を突いた。
壁を踏みしめて抵抗するが、ガイのパワーには押し負けてしまい、壁に叩きつけられ、そのまま壁をぶち破って外に出る。
「次は女性タレントの顔に屁を吹きかけた芸人を死刑にした」
おふざけですやん! 芸人は泣きながら叫んだ。
俺もだよ。深水は笑って答えた。
「でもその女性タレントは精神的ショックで結構まいっちまったみたいだ。きっと俺たちが思っているよりも傷は深い」
わりと、どうでもいいけれど。
地面を転がりながら王蛇は笑う。
「とまあこのように……たった一人が神の視点を持つことはできないと俺は思ったわけだ。誰しも、生きてれば積み重ねる善と悪がある。いちいち罪がどれくらいの重さかを考えてたらキリがないし手に余る。だから神の真似事をするのさ。ライダー裁判は人類が一歩先に進んだ場所にある儀式だ。科学が発達した今の世において、じゃあそれはなんだって言ったら……死が一番近いと俺は思うんだ」
王蛇の中にいる深水の胸には、"翼を広げた青年"のタトゥーがある。
それは死の神・タナトスを模しているらしい。
「意外とお喋りだな」『シュートベント』
ゾルダがギガキャノンを装備する。
「ああ。言葉は嫌いじゃない」
王蛇は笑う。
「飛行機事故があって、俺だけが生き残った。俺の左にいた母親は首がなかったし、右にいた親父は皮膚が剥がれてて頭蓋が突き出て、口も裂けてた。でも俺は無傷だった。俺の前にいたやつは野生動物に喰われてた。でも俺は生きていた」
ゾルダがキャノン砲を発射した。爆発が起きる。
「俺たちは奇跡的でドラマチックな偶然を神と名付けた」
煙の中に浮かび上がる、一つのシルエット。
「あるいは希望と絶望とも言う。まあ楽しいけどね。死ぬと思ってなかったヤツが死ぬとわかったときの顔を見るのは」【サバイブ】
「なにッ!?」
爆煙を振り払う王蛇サバイブ。
ユダが『勝つ資格あり』と認めた人物へ与える強化形態だ。
「なぜ俺が選ばれたと思う?」
なんとなく、王蛇は理解した。そしてそれはゾルダもだ。
「まさか、本当に異世界があるって言うのか……?」
「手に余るよ。あの女は。だから今まで通り奇跡に委ねればいい」【アドベント】
強化形態となったベノスネーカーが背後に現れる。
頚部左右にある車輪が回転し、ミスト状の毒液が噴射され、霧のように漂う。
ガイの装甲や、ゾルダの武器が煙を上げ始めた。
「これは祭りだよ」
「があァッ!」
ベノバイザーツバイから展開された刃は、蛇腹剣だ。
伸び、くねり、脆くなったガイの胸部アーマーに突き刺さり、心臓を一撃で貫いた。
「神に捧げるどんちゃん騒ぎさ」
剣先が離れたと同時にガイが爆発し、加賀は現実世界へ送られる。