仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer   作:ホシボシ

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第8話

『ファイナルベント』

 

サバイブ相手に長期戦は不利だ。

ゾルダは決着をつけるためにマグナギガを呼び出すが──気づいていない。

ガイが爆発した時、王蛇のしなる剣がカードを絡めとっていたことに。

 

『コンファインベント』

 

鏡が砕けるように、マグナギガが消滅する。

 

【ファイナルベント】

 

ミラーモンスターが一瞬でバイクに変形し、疾走。

ゾルダに命中すると、通り過ぎていく。

一方で攻撃が当たったゾルダはまるで蛇に睨まれた蛙のように動きを止めていた。

毒が体を支配する。自由が奪われる。

そうしている間にも王蛇が目の前に滑り込んできた。

 

「判決は人間には決められないさ。それは傲慢という話だ」

 

腹部を貫く剣。

爆発するゾルダ。王蛇は舞い落ちるカードを掴み取り、笑っていた。

 

「俺は死神に委ねることにしたよ」

 

立ち去ろうとして、止まる。

 

「やるか?」

 

「………」

 

「気づいてる」

 

返事はない。

だって、ハッタリの可能性もある。だから仮面ライダーアビスは物陰に隠れたままだった。

漁夫の利を狙っていたが、サバイブがあったとなれば話は別だ。

せめてゾルダたちのカードくらいは奪い取っておきたかったが、近づかないほうが正解なのかもしれない。

 

「ふっ、ふふ」

 

王者は笑った。

 

「まあ、そう気を張るな。適当にやれよ。お前みたいなヤツにはお似合いだ」

 

「……ッ」

 

クールに去るべきだ。

だが、アビスは逃げつつも、声を上げる。

 

「何がわかんだよ。アンタも適当だろうが」

 

「何がわかるって……そりゃ、見ればだよ」

 

背中にその声を受けて、アビスは聞こえないくらいの舌打ちをしてみた。

勝ち残ったらアイをどうするかは、まだ、決まってない。

 

 

 

 

「危ないところだったな」

 

「ごめんレンさん。助かったよ」

 

「彼は一体……何者ですか?」

 

ディケイドから助けてくれたのは仮面ライダーナイト、羽黒レンだった。

Atashiジャーナルにシンジたちは逃げ込んでおり、現在、それぞれスマホの画面を覗いている。

そこにはユダが映っており、逆にユダからは参加者たちの顔が13個、鏡を模したモニタに映し出されていた。

 

「仮面ライダーディケイドです。あなた達とは少し違う仮面ライダーです」

 

『どういうことだ。意味がわからない』

 

王慈の発言は尤もだ。

仮面ライダーを管理する運営が、ディケイドを知らないという。

なのにディケイドはしっかりとライダー裁判参加者の一覧に名前があるので、正式に14人目の仮面ライダーとして登録されているわけだ。

 

「こちらとしても不明な点はありますが、ディケイドを参加者として認めることにしました」

 

『馬鹿な。そんなおかしな話があるか!』

 

「落ち着いてください湯川検事。どの道あなたはもう脱落した身でしょう? 元々の参加者だった王蛇にやられたのであれば、それは正当な敗北です」

 

『そんな話じゃない! こんな後出しが許されていいのかっていう話だ!』

 

「その点を踏まえて、この裁判に向き合っていただきたいところです」

 

空気が変わる。

 

『まさか、そのディケイド……別世界から来たとか言わないよな?』

 

『ぴえぇ! なにそれ本当!? だったらピーチュ、コラボしたいなぁ!』

 

「さあ。どうでしょうか。わかりません。少なくとも折原アイは知らないと言っています」

 

ユダはディケイドと話だけはしたらしい。

どこから来たのか? という質問には答えなかったが、ライダー裁判に参加する意思はあるようだ。

 

「………」

 

シンジは俯き、考える。

別世界の来訪者、かつて仮面ライダーアビスに変身していた鎌田が思い出される。

 

彼はあまりにも当たり前のように、それでいて常識ではありえない超トリックで編集長を殺害した。

殺すことが当たり前であるという考えを持った侵略者。

であれば、折原アイが言う殺人が合法である世界があってもなんらおかしくはない。

鎌田と似たような存在がやって来た。それだけの話だ。

それを証明するようにまたディケイドがいる。

 

『ディケイドか……彼が示した判決は?』

 

シンジが問う。

 

「破壊だそうです」

 

ユダは、そう答えた。

 

 

 

 

「あぁ、こっちこっち」

 

温泉旅館・桧葉和荘。

花京院ミユキが手を振ったので、シンジも曖昧に手を挙げる。

 

「汚くて狭いロビーだけど椅子はいいでしょ」

 

「失礼なことを……」

 

「本当のことじゃない。椅子は私がプレゼントしたのよ」

 

「なんでわざわざボクをここに呼び出したんですか?」

 

「そりゃあもちろん、泊まってもらうためよ」

 

「はぁ?」

 

「安心してよね、お金は出してあげるから。記者の仕事だって裁判中はいろいろ融通きくでしょ? Wi-Fiも通ってるから」

 

「いやそういう問題じゃ……」

 

なにやら、視線を感じる。

どうやら物陰から見張っていたのか、シンジが椅子に座るやいなや小さなシルエットがトトトトと駆けてきた。

 

「こんにちは。ようこそおいでくださいました」

 

「ああ、こんにち……」

 

桧葉つむぎを見て、いつだったか、バーでした花京院との会話を思い出して複雑な気持ちになる。

 

「花京院様からお話は伺っています。お飲み物をお持ちしますので……少々お待ちください」

 

「うん。ありがとう。お願いします」

 

なぜだろうか、やたらつむぎがチラチラと見てくるような。

 

「ふふ」

 

「?」

 

「カメラマンだから目はいいって聞いたわ」

 

「まあ」

 

「観察眼もね」

 

そう言って花京院は立ち上がり、カウンターでお茶を淹れているつむぎのもとへ歩いていく。

 

「大丈夫? つむぎちゃん。手伝おうか?」

 

「ありがとうございます。でもだいじょうぶですよ。これくらい、いつもやってますから」

 

花京院は微笑むと、唇をつむぎの耳元に持っていき、吐息を吹きかけた。

 

「あう……」

 

「ふふふ」

 

「い、いたずらはやめてください」

 

「どうして記者さんをチラチラ見てたの? ん?」

 

「それは……その」

 

「あの人と私がどんな関係か気になるのね」

 

「そんなことは、べつに……」

 

「彼氏よ」

 

あまりにも、わかりやすく、つむぎの表情が曇った。

 

「ごめんごめん。うそうそ」

 

「はぁ、だと思ってました」

 

「あら、ほんと?」

 

「にやにやしてましたし」

 

「本当は夫なの。あの人と結婚してるの」

 

「……え?」

 

またわかりやすく悲しそうな顔になるのだが、それを見ていると花京院は胸の奥が熱くなってくるのを感じた。

また耳元に近づく。つむぎは息を吹きかけられると体を強張らせていたが、耳に入って来たのは吐息ではなく囁きだった。

 

「今夜また、私の部屋に来てね」

 

「え? あ……はい。もちろんです」

 

「前にプレゼントしたヤツ、着てきてね」

 

「あ、あのスケスケの……?」

 

「そう、大切な場所がなんにも隠れてないヤツ。ほぼ裸のヤツ」

 

その後も何かをしきりに囁き、つむぎは真っ赤になって走り去ってしまった。

 

「――やっぱりアンタは逮捕されるべきだ」

 

「わ! やだ! 驚かさないでよ」

 

シンジがうんざりしたような顔で花京院を見る。

 

「なんなんですか、あれは」

 

「通報する?」

 

「いずれ。今は折原さんの事件が先だ」

 

花京院はニヤリと笑った。

 

「カメラマンならわかるでしょ? 被写体の感情が」

 

「グラビアは専門外ですよ」

 

「あら、ジャーナリズムは人で成り立つものでしょ?」

 

「まあ……」

 

つむぎは恥ずかしそうにしていたが、時折、本当に素晴らしい笑顔を見せる。

思わず撮りたいと思ってしまった。

シンジは聖人君子ではない。あんな表情を引き出せる花京院との関係性を今は尊重しようと思ったまでだ。

 

「それは、貴女にも言えることだ」

 

「え?」

 

限りなく黒に近いグレーゾーンを歩く疑惑の『花京院ミユキ』の話題がここ最近あがらないと加賀からは聞いている。

ちょうど、彼女がこの旅館に入り浸りはじめたくらいのことだ。

 

「ロマンス詐欺はお休みですか?」

 

「あら失敬ね。そんなことしたことなんて一回もないわよ。みんな望んでプレゼントをくれてるだけ」

 

「そのプレゼントをくれる人が、最近は現れていないのはどうしてですか?」

 

「………」

 

「おすすめはしませんけどね。彼女はまだ幼いから判断できてないだけだと……」

 

「はぁ、つまんないセリフ」

 

花京院は懐から電子タバコを取り出した。吸い込み、煙を吐く。

 

「禁煙って書いてあるだろ」

 

「電子シーシャよコレ。ニコチンタールゼロのフルーツフレーバー。タバコはやめたわ。あれはどうやっても息が臭くなっちゃう」

 

言い終わるときには笑い混じりだった。

下品な話をしたことに一つ。

そしてもう一つは小学生の女の子にそんな気を遣っていることに一つ。

 

「笑えるわね。多くの男を騙した女詐欺師が、小学生にガチ恋しちゃうだなんて」

 

「どうして、また」

 

「んー……言葉にするのはなかなか難しいわね」

 

フムと唸って、花京院は指を二回鳴らす。

 

「?」

 

シンジが不思議に思っていると、揉み手をしながらお爺さんがやって来た。

 

「お呼びですかね! 花京院様!」

 

「つむぎちゃんのお爺ちゃん。ここのご主人」

 

シンジが挨拶をしようとしたら、それよりも早く花京院が口を開く。

 

「四つ這いになって尻を突き出して肛門を晒しながら回転しながらワンと鳴けばチップをあげるわよ」

 

シンジは──美しいものが見たくなった。

美しいものを撮りたくなった。

むしろ、緑茶の美しさに気づいた。こんなに美しいライムグリーンの液体が存在することに奇跡を感じた。若々しい緑にありがとうと叫びたくなった。静岡県にお礼が言いたかった。

お茶だけじゃない。ありとあらゆるものが美しく見えた。

ジジイの肛門を見た後だからだろうか?

 

「よくできました。ご褒美よ」

 

花京院は札束を投げる。

ピン札の100万を見て、ご主人は嬉しそうに尻を振っていた。

 

「ワオォオオン!」

 

「ほらお行きなさい。また用があれば呼ぶわ」

 

「へっへっへっ! ワン!」

 

つむぎのお爺ちゃんは札束を咥え、ハイハイしながら廊下の向こうに消えていった。

 

「金はいいわよね。絶対に裏切らないんだから」

 

「絶対あの子に見せるなよ!」

 

「なのに、つむぎちゃんはね、お金なんていらないって言うのよ。なんだかそれが当たり前のようで……胸にきたの」

 

いつ、つむぎの目の色が変わるのか? 知りたくなった。

それとも、いつまでも変わらないでいてくれるのか。

 

『そんなものより、花京院様と一緒にいたいです』

 

そんなことを涙目で言われた過去を想いながら、煙を吐いた。

 

「記者さん貴方だってわかるんじゃない? 今回オーディンになってた湖白だっけ? あの子と仲がいいんでしょ?」

 

「……まあ、意味はわかりますよ。ボクも彼女の純粋なところに興味を抱いた」

 

ただそれはむしろ人としてで、男女としてはそれほど特別なものはないような気がする。

なんとなく話があって、容姿も好みに合って、一緒にいて不快じゃないから一緒にいる。

そこらへんにいる男女と何も変わらない。マッチングアプリで続いている連中とさほど相違はない。

 

「それが絶望なのよ。私にとっては」

 

「?」

 

「金があれば物欲が満たされた。だから次は金で手に入らないものが欲しくなる。でもそれってとっても貴重なものなのよ」

 

「それで小児性愛ですか? 最悪だ」

 

「違うわよ。や、違わないかもしれないけど、違うの。言葉のプロでしょ? もっと考えて」

 

「そういうのはレンさんの仕事ですよ」

 

「相棒って聞いたわ。記事くらい読んでるでしょ?」

 

なんだってこんな話に付き合わなければならないんだ。

うんざりしながらも、オブラートを探してみる。

 

「……白馬に跨った王子様をあの子に見てるってことですか?」

 

「合格。あるいは王子様になりたいのかも。どちらにせよ面白いでしょ?」

 

「人を見過ぎたんだ貴女は。だから普通に飽きがきた。幻想の象徴に彼女を選んだみたいだけど、そんな重荷を背負わせるのは可愛そうだ」

 

「それでも、つむぎは新鮮で特別なの。だから私はあの子のことが世界で一番大切なの。だから、ここにあなたを呼んだってわけ」

 

「どういうことですか?」

 

「協力しましょう。あのディケイドってやつ、とってもヤバいわ」

 

「ッ、わかるんですか?」

 

「なんとなく。そして同じ質問を返したいわね」

 

ユダとの通話では他の参加者の画面も確認できた。

花京院は人を見るのが得意だ。あの会話の中で唯一、シンジだけが驚いていなかった。

 

「前々から知ってたんでしょ、あのディケイドを」

 

「ああ。一緒に戦ったことがある」

 

「本当に? オーマジオウとは関係あるの?」

 

「どうしてそれを! あのゴージャスな人に会ったんですか?」

 

「ゴージャス? さあ、それはわからないけど……夢で視るのよ」

 

いろいろな夢だ。あまりにもいろいろな夢のため言語化するのは非常に時間がかかるのでやめておく。

それに情報の洪水でもあるから、ほとんど内容は覚えちゃいない。

 

「不思議な夢。そこでの私は男で占い師、私も詐欺の手口で占いは何度か使うけど。ふふふ」

 

それがただの夢ではないことはシンジにもわかった。

 

「そこは仮面ライダーもいて、裁判……ん? 裁判なのかしら? それともあれ? 本当に殺し合って……んー、まあ忘れたわ。とにかくそんな夢が断続的にあって、その中であの悪魔を見たことがあるの」

 

「悪魔……仮面ライダーディケイド」

 

「そう。もしも私の夢が現実になってしまうようなことがあれば、文字通り終わりなの」

 

世界が滅びる。淡々と、わかりやすく花京院は告げる。

 

「だからアイツは止めないと絶対にダメ」

 

「それは同感だけど、いくつかの問題があるんだ。まず単純な話としてディケイドは強い」

 

シンジはディケイドと戦ったときのことを語った。

 

「手も足も出なかった上に、ファイナルフォームライドで逆に利用されてしまう。以前、士と共に仮面ライダーアビスと戦った時は、自分の意思で動けたのに」

 

「まあでもそれは貴方だけに効く力なんでしょう?」

 

花京院は自分の考えを語る。

もっと仲間を集め、そして奇襲を織り交ぜることができれば、あるいは。

 

「あとは、もう一つ……」

 

花京院は夢の一つを語った。

つい最近見た夢だ。だから覚えている。

この夢が明晰夢となれば、脱落したシンジがディケイドに一泡吹かせる可能性があるのかもしれないと言う。

 

「わかった」

 

シンジは強く頷いた。

 

「今回は、ボク達がチームだ」

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