仮面ライダー龍騎 Bloo-dy Answer 作:ホシボシ
当時、高校生だったピリカは、学校でいじめにあっており、コンビニで酒を万引きしてくれば許してやると命じられた。
ピリカはそれに従い鞄に酒を入れて店を出たが、店長に見つかって追いかけられた。
ピリカは全力で走り、赤信号だった横断歩道を無視して渡った。
店長もそれを追いかけ、車に轢かれて死亡した。
この『窃盗』事件の決着をライダー裁判でつけることとなり、裁判員に選ばれたミズキが勝利したというわけだ。
「無罪」
ミズキはピリカに向かってほほ笑んだ。
「だって、この人、なんにもわるいことしてないし」
そして間髪入れずにミズキにとって九回目のライダー裁判が始まった。
それは『教唆犯』についての裁判、ピリカに万引きを命じたものたちの裁判で合った。
ミラーモンスターは罪を食べる。
極上のご馳走を前に、ユダも無意識に舌なめずりを行っていた。
ピリカは戦った。いじめッ子たちに罰を与えるために。
周りもピリカを応援し、味方をした。店長の家族や、ドライバーの家族たちと協力して。
そして、ミズキも戦った。
彼女はピリカ以外を狙い、倒していった。
最後の最後、残ったのはミズキとピリカだ。
ミズキは変身を解除し、ピリカにデッキを手渡した。
にこりと、微笑んで。
「………」
とても、長い時間、沈黙があった。
「無罪で!」
ピリカがそう告げて、その裁判は終わった。
それが過去の話だ。
「なんで無罪にしたんだろう……?」
イツカはマヌケな表情で寝息を立てている二人を見ていた。
ピリカが辛いだろうと気を遣って当時のことは聞かないでいるのだが、当然ミズキの判断やピリカの答えには批判の声も上がったという。
「SNSがわかりやすくしてくれただけで昔からそうだったのかもね。敵を作らないなんてことは不可能だったんだよ。ねえイツカ、アタシずっと思ってたんだけどさ……」
「え? うん」
「仮面ライダーってヒーローっぽいよね」
「んー、まあ。色味とか体はご当地ヒーローっぽいよね。仮面がちょっとキモいけど」
「でもベルデとかかっこいいよ、V字のスリットをうまく隠してる感じとか」
「でも緑なのがなぁ、ゾルダとかぶっちゃってるから」
「あー、じゃあそういう意味で言うと主人公は──」
「待って。一緒に言おう? せーの」
「「龍騎!」」
だよねぇ、そう言ってイツカが笑う。
赤いし、それにドラゴンだしね、そう言ってレンカが笑う。
「緑ってどう? あんまりパッとしない位置だよね」
「そんなことはないと思うけど。でも……じゃあさ」
「うん?」
「龍騎を選んでたら、イツカは今、何か変わってたと思う?」
「ど、どうだろう? それは……えっと……」
「もっと正直に生きてもいいのかも」
「え?」
「誰も傷つけないなんてことはありえないんだから。もっと素直に、愚直に、自分に正直に生きてもいいのかも。イツカはさ、あの取材記録を見てどう思ったの?」
「どう思った? えーっと……なんていうか」
「言葉を選ばないでよ。アタシたちしかいない」
「……かわいそうだなって、思った」
「じゃあ、それが答えなんじゃないの?」
「かもね。でも、やっぱり──」
「大丈夫、アタシたちがついてる。どんだけ燃えても炎の中に手を突っ込んで引っ張り出してあげるから」
「………」
「いつかミズキが変身していた龍騎は今、あの記者さんが変身してる。ベルデも龍騎もただの鎧。ヒーローってのは誰が変身してるかなの」
「………」
「ヒーローっぽいならさ、どうせなら本当のヒーローみたいにやりたくない? 宿命さえもぶっとばしてみたくならない?」
「……かっこいいね、どうしたのさ、レンカ」
「ダウナーキャラやってる手前あんま言えないんだけど、アタシ結構、熱いの好きなんだよね。それにさ、かっこいい女を見るの、アタシ大好きなの」
それがレンカがアイドルをやっている理由だった。
他のアイドルを身近に見える場所に立ちたかった。
同じような境遇であれば、もっと凄さがわかる。
たとえば、ダンスの振り付けを覚える難しさ。
たとえば、歌詞に感情を乗せる難しさ。
「かっこいいヤツ、いっぱいいるよ」
ミズキを見た。
たとえば、判決を下す難しさ。
「知るのが怖いの」
イツカは弱弱しく俯く。
「暴くのが怖いの。話さないのは隠すからでしょ? 受け止めきれるかなって思っちゃって……」
「イツカはいろいろ気を遣う性格だから。そういうことだろうと思った」
「でもね、やっぱり記者さんに言われたよ」
喫茶店で、同じことをぶつけてみた。
そしたら、シンジも気持ちはわかると。
そしてそれでいいと言われた。それが人間だ。
完璧なジャッジは神にしか下せない。それくらいの気持ちでもべつにいい。シンジもそうやって来たと。
『ボクも、いつだって信じたいものを信じてきた』
だからこそ落とし穴にはまったことがある。
人間は真実を口にしない。それを美徳とするか、哀れとするか。
『だからこそ、知りたいんだ』
かつて門矢士が世界にやってきた時、シンジは慕っていたレンのことを殺人犯だと誤解したままになるところだった。
今にして思えばゾッとする話だが、あのとき本当にレンが犯人だったという可能性もあった。
そして本当に犯人だったということもありえただろう。
だが知らぬよりも、知って受け止めるほうがいいと思っている。
『信じたいものを信じたい。だから知らなきゃいけない。それがきっと──』
あえて、抽象的に言ってみる。
『仮面ライダーなんだ』
イツカが目を開けると、ニヤリと笑っているレンカが見えた。
「なに? どうしたのニヤニヤして」
「こうやって話してたらさ、イツカのカッコいいとこすっごく見たくなっちゃった」
「あはは、何それ……」
「だめ?」
「ううん。しゃーなしね。ファンの期待に応えるのが、最高のアイドルだからさ」
だからイツカは翌日、深水の前に立っていた。
「貴方は、事件を調べたんですか?」
「いや、必要ない」
深水はタナトスのタトゥーがある場所に触れる。
「神が決めることだ」
「納得いかねぇな」
深水の後ろに円土が立っていた。
「俺たちは判決を下すその一瞬、アンタの言う
「誇る? おかしなことを言う」
深水は笑っていたが、逆に円土は舌打ちをして不快感を滲ませる。
「責任と命を背負いながら生きていく。それが人間じゃねぇのか」
「そんな高尚な生き物じゃないだろ。俺たちはただ生きて死ぬ、そこに理由なんて必要ない。虫が潰されて死ぬように、道路の脇で毛むくじゃらが臓物零して死んでるみたいに」
求めたがるのが人間の悪いところだという。
悲劇的な死があったとしても、そこにはなんのメッセージもない。
たとえば事故で一人だけ生き残ったとしても、そこには特別なメッセージ性なんてものはなにもない筈なんだ。
「ただ、たまたま生き残っただけ。殺人も一緒だ。餌として喰われただけ」
「同じなわけねぇ」
「法律を破ったから罰せられるだけで、行動そのものは自然の摂理の一環みたいなもんだ。死と同じだよ。逃れられない」
「本気で言ってんのか? アホかアンタは」
「フフフフ、フハハハ」
深水は笑うが、円土の苛立ちは加速する。
「本気で笑ってんのか? 俺にはビビってるように見えるぜ」
「当たりだ。怖いさ、だって太陽に近づきすぎたイカロスは翼が溶けて死んだんだ」
「アンタが本当に怖いのは太陽に近づくことじゃなくて、太陽を掴むことができるイカロスが出てくることだろ」
円土としては雰囲気だけで言ってみたわけだが、どうやらそれなりに深水には刺さったらしい。
「………」
深水は笑った。
事故で一人だけ生き残ったとき、何を思ったのか。
家族が死んで悲しい? 違う。
周りが死んで怖い? 違う。
生きてて嬉しい? 少し違う。
「死は、素晴らしい」
今、例にあげた感情をすべて得ることができる。
それらは偽りではない。死は嘘が嫌いだ。
だから死の前では多くの嘘が暴かれ、真実がさらけ出される。
そして同時に、ほんの少し先に歩めば、すべてを失う。
深水はそれを芸術的だと思った。
死は最上級の存在だ。罰であれ、褒美であれ、絆であれ。
何にでも形を変える。
それはつまり、何にでもなれるということだ。
「地獄の鬼も罪人を殺そうとしているだけだ。天国は死ななきゃ行くことができない」
魅了されている。わかりやすく言えば。
多くの死が歴史を生み出した。
多くの死が感動を、活力を、希望を生み出した。
「国も、人が死ななきゃ動かない」
「……っ」
「俺はもっと死刑にするぜ」
深水は鏡を取り出し、それを投げた。
「
鏡が割れて破片が散る。
「あの日からずっと時間が止まってる。俺はまだ、あの飛行機のなかだ」
でも死を感じたときだけ、動き出す。深水はカードデッキをかざした。
それを見て、円土もデッキをかざした。
「ごちゃごちゃわけわかんねー、死なんて結局ただの無だろ。気に入らねぇよ、そんなもん」
「……ふっ」
深水は笑う。そしてイツカを見た。
「そこのアンタはどう思う?」
「これは、ライダー裁判だよ」
イツカは震える声を自覚し、大きく咳ばらいを行った。
「あなたなら本当はわかるでしょ? 折原さんだって、死に触れてでも叶えたい何かがあったんだよ」
装着されるVバックル。
「それはないがしろにするべきじゃないと……思うッ!」
イツカは指を鳴らし、デッキをセットした。
「変身!」
鏡像が収束し、仮面ライダーベルデとなる。
「変身ッ!」
円土もデッキをセットし、仮面ライダーアビスへ。
「変身」
深水は仮面ライダー王蛇に変身を遂げた。
「……うん?」
動き出そうというところで、王蛇はゆっくりと首を曲げる。
右に気配を感じた。
もう一人、歩いてくる。腰にはVバックルがあった。
「変身……!」
仮面ライダータイガがいた。
蛇と虎がしばし、見つめ合う。
「なるほどな。まあいい、俺には関係ないことだ」
王蛇はそう言って、デッキからカードを抜いた。